表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/77

きっと誰もが誰かを守りたくて ①


"さようなら……如月君"


「っ! …ハァ…ハァ…いっ!」

目覚めの悪い夢でも見たように勇夜は飛び起き、大きく脈打つ鼓動と荒い呼吸、そして腹部からの痛みで勇夜の意識は覚醒した。頭に違和感があり、勇夜が手で触れると額に包帯が巻かれていた。


「何処だ?」

外の風景は既に暗く、仄かに灯る光を出す結晶だけが部屋を照らしていた。何処かで見覚えある部屋を見渡しながら何故ここにいるか整理していると、扉がゆっくりと開いた。


「あら、目が覚めたのね」

勇夜を見た人物は結晶に手を置き光を強め、先程より部屋を明るく光らせた。勇夜はその女性に見覚えがあり、思い返して見ると以前剣騎祭の時に会った学園の保健医であった。


「少し前まで貴方の友人が付き添ってたけど、暗くなったから帰らせたわ」

保健医は勇夜の状態とこれまでの事を話す。おそらく友人というのはヴィル達の事だろう。


「アリサは?!」

勇夜は徐々に何があったのか思い出し、そして声を荒げて聞いた。


「あの紫髪の子ね。残念だけど私には分からないわ。ここに運ばれたのは貴方だけ。それに関しては貴方の友人から聞いた方が良いわ。話によれば彼らの家に報告して捜索しているそうだから。見つかったらこちらに連絡が来ることになっているのだけど……」

保健医は勇夜の問いに淡々と答える。そして見つかったらという話の時、扉に目を向けたことから、望む結果ではないことは勇夜にも理解できた。


"やっぱりアリサは…"

勇夜は思い出した記憶が真実であると本当の意味で理解し、悔しさから拳を強く握り締めた。


「ともかく貴方の目が覚めて良かったわ。まだ痛むかもしれないけど、家に帰ってゆっくりと休みなさい」

保健医は一度勇夜の状態を見て問題無いとし、帰って休むように促した。勇夜は短く返事と感謝をし、冷静になれない頭と胸にモヤモヤを抱えたままその日は帰路についた、


ーーーーーーーーーーーーーーー


~翌日~


普段より早く目が覚めた勇夜は、身支度を手早く済まし足早に学園へと向かっていた。どうやらそう考えていたのは勇夜だけではなくヴィルとセリエも同様だったようで、向かう途中で3人は顔を会わせた。


「勇夜! もう大丈夫なのか?」

出会って早々ヴィルは心配そうにそう聞き、勇夜は頷く。セリエも落ち着かないようでこちらを見ていた。


「何があったの?!」

セリエは焦りからか、少し強い口調で口に出す。


「後で話す。それよりもアリサは?」

そう言った勇夜にヴィルとセリエは落ち込んだ顔で首を横に振った。


「やっぱりか……」


「やっぱりって何?! 見つからないの知ってたの?! 昨日何かあったんでしょ?! 朝早くまでお父様達が捜してくれたのに急に中断されて、諦めなさいって言うし!」

セリエは抑えられない感情が言葉となってどんどん溢れ出す。ヴィルはセリエを宥めるが、ヴィルも同じだったようで理由を聞こうとしていた。勇夜は正直に言っていい事なのか悩んでいた。何があったのかを話すことは問題無い。勇夜が悩んでいるのはアリサの事だった。自分自身覆しようのない事だとしても、まだ認めたくない気持ちもあったのだ。ただ現実はいくら望んでも変わることはない。まだ時間はある、勇夜はセリエとヴィルに昨日の事を隠さずに話す。


「……何よそれ」

ヴィルとセリエは驚く表情を隠せず信じられないと思ったが、勇夜が嘘をつく事が無いと分かっていた。だからこそ勇夜と同じ様に認めたくない気持ちが出ていた。


「ならそれが原因で親父達が引いたってことか? アリサがセルン王国の処刑された筈の姫で、罪王の子供だから……それが本当なら理解はするが…」


「ヴィル達の……騎士団の人達が中断した理由は分からない。けどあいつは言った。"明日になればこの国は手出しが出来ない"って……」

ヴィルと勇夜は端から見れば冷静な会話に見えていた。


「っ!2人共なんでそんなに冷静なのよ! アリサの正体なんて関係ない! 友達が連れ去られた、なら私達が助けないと! 私、お父様にもう一度話してくる!」

セリエはそのまま来た道を戻ろうとするが、ヴィルに腕を掴まれて止められる。


「セリ、待て。まだ分からない事が多い以上、俺達に本当の事を教えてくれるとは限らない。俺も…勇夜だって同じ気持ちなんだ。焦っても何も解決しないぞ」


「ならどうしろって言うの?! 友達の為に何もしなかったら私は私を許せない!」

いつもならヴィルの言葉に耳を傾けるセリエも、今回は抑えがきかなかった。その顔には悔しさが滲む。


「取り敢えず学園に行こう。時間も経っているし、それに親父が言ったんだ。学園に行くことが理解することだって。始めは分からなかったが、もしかしたらアリサについて分かるかもしれない。一つずつでもやれることをしよう」

ヴィルはセリエに話し出す。落ち着かせるためにゆっくりと優しく言い聞かせるように。セリエの強張った体から力が抜けるのを感じ、ヴィルは掴んでいた手を離す。セリエは一度頷くと前を向き、早歩きで前を進み始める。


「2人共早く行くよ!」

セリエは振り返り、勇夜とヴィルに催促する。ヴィルは返事をし、そして勇夜の背中を叩く。


「後悔は消えない。けど自分が本当はどうしたいのか見失うなよ」

ヴィルはそう言うと歩き始める。勇夜はそんなヴィルとセリエを見て未だ答えも出せぬまま、悩んだまま2人の後を追う。


ーーーーーーーーーーーーーーー


~剣騎学園 校門前~


勇夜達が学園に着く頃、校門周辺には数人の騎士が見回り、教官達が登校した生徒達に何かを話していた。その中にはラルクの姿も居り、勇夜達を見つけると声をかけて呼んだ。


「教官どうしたんすか?」

呼ばれたことでヴィルがラルクに聞くとダルそうに頭を掻く。


「ああ…お前らもクラスに行かずに集会場に行け。学園長から生徒及び教官全員に重要な話があるらしいが……」

ラルクは用件を伝えるが、少しだけ残念な顔をして勇夜達を見る。たがそれ以上は何も言わずにいつもの気だるさに戻り、さっさと行けと促した。釈然としないヴィルとセリエだがそれに従う。勇夜は……いや他の2人も嫌な予感が頭をよぎるがその考えを振り払い向かう。


集会場に着いた勇夜達が指定された場所の椅子に座り、暫くすると生徒が全員集まったようで教官達もこの場に来ていた。以前より学園にいる生徒の数は次第に戻り始めているのは目に見える程だ。生徒達の話し声が所々で交わされ、久々に話す者も居るようで互いに安堵するような会話も聞こえる。その中で壇上に向かう学園長 ルミルスの姿が見えた頃には統率されたように一つの声も無く静かになった。


「生徒の皆さんおはようございます」

ルミルスの声は静かな空間で凛と響き、挨拶に生徒達は答える。


「先ずはこれから皆さんに話すことは皇王様からの直々の言葉となります。そしてこの言葉は同時刻全国民に伝わる事となります。心して聞き、必ず従って下さい」

ルミルスの雰囲気は鬼気迫る物であり、静寂の中で誰か息を飲む音さえも良く聞こえた。


「本日皇王様宛に書状が届きました。セルン王国 国王様からの正式な物です。……カルディーク皇国より死んでいたとされた罪王アルス・リ・フォーセルンの子 アルセリア・リ・フォーセルンが潜伏し生きながらえていた。我々は独自に調査し、貴国の国民がそうであると確信を得た。その者の名はアリサ・フェルム、故に我々は昨日その者を確保した。貴国が我が国の罪人の正体を知っていながらも保護していた訳ではないと我が国も信じているが、何者かの関与を疑ってもいる。罪人の対処が終わるまで貴国には我が国への関与を控えて頂きたい。貴国にとっても罪人が居たという事実は汚点となるだろう。しかし初めから居なかったとすればその事実は無くなる。貴国にとっての懸命な判断と互いの良好な関係をこれからも築いていけるよう願っている……」

ルミルスは言い終えると少しの間沈黙する。生徒達はあまりの事に何も言えず、ついていけずにただ唖然としていた。


「これがセルン王国からの書状に書かれた主な事です。この学園の生徒であったアリサ・フェルムは、セルン王国罪王の娘でした。セルン王国は現国王様の手腕で今でこそその地をいかした巨大な貿易国家となりましたが、その昔は大陸一の騎士団と呼ばれる程の力を持っていました。一度解体されたとはいえその力は大きいです。故に皇王様はこれを受けて絶対遵守の命令を下しました。それを皆さんに伝えます。一つ、これを聞いたその時よりアリサ・フェルムがカルディーク皇国に居た事実を抹消し、その存在を口にする事を禁じ、記録全てを消去する事。二つ、いついかなる状況、用件であっても別命あるまでカルディーク皇国からセルン王国へ関与することを禁ずる。三つ、アリサ・フェルムの救出及びそれに準ずる行動をした者は処罰の対象とする。これは王命です。皆さんも理解していると思いますが、皇王様の言葉は絶対です。カルディーク皇国の国民である以上その立場をわきまえ、そして……懸命な行動をすることを私からも念を押します」

ルミルスの言葉はただ淡々とその全てをこの場にいる者へ伝わる。ざわつく事もなく、一言すら話すこと無く、その言葉一つ一つその命令を素直に聞く。誰もがそうだろう…国の王の言葉なのだ、逆らう事も受け入れない事も出来ない。それが当たり前だから……ただ一部を除いて……だからこそルミルスの最後の言葉は全員ではなくその一部、勇夜達を威圧しながら伝えられた。そうさせないように……

解散を命じられた生徒達は集会場を後にする。話さず足早にクラスへ戻る生徒達の中で勇夜達3人はゆっくり誰も居なくなった廊下を歩く。


「何よあれ! あんなの見殺しにしろって事じゃない!」

痺れを切らしたセリエが後ろを向き、その憤怒を隠さずに口に出す。


「セリ……そこまでにしとけ」

ヴィルはセリエに賛同するわけでなく、ただ静かにセリエを止める。


「こんなの無理に決まってるじゃない! だってそうでしょ?! なのに認めろっての?! 勇夜もそうでしょ?!」

ヴィルの言葉も聞かずセリエは続ける。そしてそれは勇夜に向けられた。


「俺は……俺にはどうしようもない……」

その瞬間乾いた音が響く。セリエが勇夜の頬を潤んだ瞳で叩いていた。


「っ! 勇夜にとってアリサは何なのよ! 好きなんじゃないの?!大切じゃないの?! 見損なったよ勇夜! 勇夜なら!……」


「止めろセリ!!」

セリエの言葉が続くが、それはセリエに向けて言ったとは思えない程の剣幕で放たれたヴィルの声で、セリエはビクッと震え止まる。


「これは皇王様からの命令だ! 俺達はこの国の貴族でそれを守る義務がある! ただの私情で口を出して良い事じゃない事ぐらい分かれ! ……はぁ…誰が聞いてるか分からないんだ。もうこの話はするな。少なくてもここでは止めろ」


「うっ……ヴィルの馬鹿!」

ヴィルはあくまでセリエを止めるために強い口調で話す。終わりは息を吐いて普通に戻していたがセリエは唇を噛み締め、その瞳からは涙を流していた。そしてセリエは走り、この場から居なくなる。


「……悪いな勇夜。セリエも分かってる筈なんだが、こればっかりはな」


「大丈夫。分かってるから…」

ヴィルは頭を掻き、勇夜を見て謝った。勇夜は下を向き、力無くただどうしようもないと思いながら答える。そんな勇夜を見てヴィルはもう一度息を吐いて勇夜の前に立った。


「勇夜、少し付き合え」

そう言ったヴィルの顔を勇夜は見ると、いつものような笑顔だった。


「サボろうぜ!」

ヴィルは勇夜の返事を待たずに腕を引いて何処かに向かおうとした。勇夜はそれに逆らわず、ただヴィルに付いていくだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ