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プロローグ ~再び動き出す運命は…~


~カルディーク剣騎学園 特騎科~


「…………」

事ある毎に勇夜とアリサをチラ見するヴィルとセリエは、いつにも増して周囲から変に思われていた。学園が本格的に再開し出してから数日、勇夜達と別れた日から一週間が経っていた。特に何か大きな変化が有ったわけではなく、寧ろ不自然な程にいつも通りだった。いつも通り会話もすれば一緒に食事もする。ただ2人は勇夜とアリサが隠し事をしているように見えないのにいつも通りを装ってるように見え、違和感を感じているようだ。あの日勇夜が何をしようとしていたかを知っている2人が、今の状況を見て下手に勘繰るのも良くないと分かっていたので聞くに聞けずにいた。そしてヴィルとセリエは休憩時間にクラスを離れて人知れず会議を始めた。


「やっぱり何か変だよ。何日か前だったら、気恥ずかしいのか学園だとそうなのかなって思ってたけど違うみたいだし」


「でもなぁ…下手に俺達が干渉出来ないし、気軽に聞ける事でもないんだよな」

当の本人達はどう思っているのか分からないが、2人は本当に友人の心配をしていた。


「でも何かあったからこうなってるんだよね。じゃないと勇夜のアリサに対する態度も何か遠慮してるようで変だし……正直2人はお互いに好きだと私は思ってたんだけどな~」

腕を組んで納得いかない表情のセリエは少しだけ残念そうな声でそう言った。


「まあ実際2人がどうなったのか分かんない以上、俺達が決めつけんのも良くないからな。………よし! 取り敢えず一肌脱ぎますか」

同じ様に考えるヴィルは何かを思い付きやる気を見せた。そんなヴィルを見てセリエも自然と笑顔になる。


「勇夜!」


「…どうかした?」

自分の椅子に座り外を見ていた勇夜にヴィルが声を掛け、勇夜は答える。


「今日セリとアリサと喫茶店に行く話してんだけど勇夜も行くだろ?」


「えっ? ………俺は構わないけど…」

ヴィルは勇夜の首に腕を回して今日の予定を伝えた。勇夜は少し悩むが肯定し、セリエと話すアリサに視線を向けた。アリサはセリエと話しながら視線に気付いたのか勇夜と目が合い、いつものように小さく笑う。勇夜は反射的に目を逸らしてしまい、何かを気にしているようだ。

因みに元々約束していたような会話をしたヴィルだがそれは作戦で、ヴィルと同じ事をセリエも同じ様にアリサに伝えているのだ。


「じゃあ決まりだな。ただ申し訳ないんだが、俺とセリエ、教官に呼び出されててるから少しだけ遅れるんだよ。だからアリサと先に行っててくれ。場所は前に行ったとこだからわかるだろ?」


「いや、それなら待ってれば良いだろ…」


「いやいや、待たせるのも悪いし、それに2人でただ待ってる方が気まずいだろ?」

ヴィルの話の途中で目を見開く勇夜、ただヴィルも嘘をついてるわけではなく、教官に用があるのは本当だがあえて言うなら対して時間が掛かる事でないということだろう。勇夜はヴィルの話に"どちらにしても気まずい"と思いつつ、こういうヴィルは何を言っても結局は押しきってしまうのだ。それはセリエも同じで、本当にお似合いだと息を吐き諦めて勇夜は頷いた。

勇夜はヴィルのお節介に振り回される事が多いが、それが自身を心配しての事だと言うのは今までの事を踏まえて重々承知していた。今回もそれだろう、だが良くも悪くも勇夜にとってもきっかけが欲しいとは考えていた。あれからいつもを装っていても、何処かぎこちなさを隠せなかったのだ。その点において勇夜はヴィルの行動に感謝をしていた。

そんな勇夜を見てヴィルは笑い、アリサと話すセリエがヴィルに親指を立ててこちらもokだと見せていた。


"本当に敵わないな…"

勇夜は心の中で呟き、いつもの日常に戻ったんだと改めて実感したのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


~剣騎学園 門前~


「それじゃあ行こっか」

入口から出て門までの距離はそう遠くない。そう言うアリサに続き、軽く返事をして勇夜も歩く。学園の敷地には疎らに生徒が居るが、未だに登校した数はやはり少ない。言葉も交わすこと無く歩く2人は門を出て学園を離れる。帰り道を歩くのは2人だけ。道行く人は居らず、普段を知っている者であれば異様な光景だ。だが今それを不思議と思う者は居ないだろう。何故なら復興の為多くの国民がいつもの日常に戻そうと日夜動いているからだ。だからこそ勇夜もアリサも変に思うことはなかった。他の事に気が向いていたという事も理由の一つだった

勇夜はアリサの後ろを付いていくように歩き、少し下を向いていた。その為前に何か合ったとしても気付かず、アリサが急に止まったことでやっと勇夜も前を向いた。


「貴女をお待ちしておりました」


「なん…で」

誰かの声がしてアリサが後退り、勇夜はそんなアリサが驚く顔を見て、その原因たる存在を見た。その男は丁寧なお辞儀をしていたが、その雰囲気は異様だった。男の名は フェーシャ・サングィーズ 、直接会ったことのない勇夜が知らないのは当然だ。


「嬉しいですね。まさか覚えて頂けているとは思いませんでしたので」

フェーシャは明らかな作り笑顔を顔に張り付け、そして音もなく瞬時にアリサの目の前に現れ耳元で何かを囁くと、アリサは突然力が抜けたように地面にへたりこんだ。フェーシャは数歩下がり、アリサを見下ろす。


「アリサに何をした!」

勇夜はそんなアリサを見て、フェーシャに怒りの形相で声を出す。


「アリサ? ああ確かここではそんな名前でしたね。フフ、滑稽ですねぇ。何者なのか知らずに必死になるとは。……教えて差し上げましょうか?そこの少女がいったい何者なのか」

フェーシャはただ反応を楽しむように余裕に満ちた顔で話し出す。


「やめてっ!」

アリサはフェーシャを止めようと声を出すが、フェーシャは笑い出し、そして言葉を続けた。


「元セルン王国の姫にして罪王 アルス・リ・フォーセルンの子 アルセリア・リ・フォーセルン、それがそこの少女の正体ですよ」


「えっ?」

フェーシャの言葉に勇夜は不意打ちを食らったかのように止まった。アルセリア・リ・フォーセルン、そしてセルン王国の罪王、今この世界でその名を知らない者は居ない程の人物の名がフェーシャの口から出された。


「でも! 処刑された筈じゃ…」

勇夜は真実として受け入れることが出来ず、弱々しくも反論する。


「えぇ、確かにその通りだったのですけどね。私もその場に居たのですが、どんな手品を使ったのか解りませんがこうして免れていたようです」

フェーシャの言葉に嘘は見えない。勇夜は最後のたのみにアリサを見るが、アリサは否定せずただ下を向いていた。


「ですのでこれは我々セルン王国の問題、関係の無い貴方は何もせずに立ち去って下さい」


「あっ」

フェーシャは再びアリサに近付き、腕を掴んで無理に立たせようとした。


「っ!やめろ!」

思考が停止していた勇夜は目の前の出来事にハッとし、連れていこうとするフェーシャに掴み掛かろうとした。

だが勇夜はフェーシャを掴むことが出来ず、代わりに襲うのは体が宙に浮く感覚と、地面に叩き付けられた衝撃から来る痛みだった。


"っ!な…にが…"

地面に這いつくばったまま呼吸が上手く出来ず、勇夜は痛みに顔を歪めて苦しむ。何をされたのか分からず不意打ちを食らったためにダメージは大きかった。


「言った筈ですよ。貴方には関係の無いことだと。それにあまり暴れられるとせっかくの人払いの効果が無くなるので大人しくして欲しいのですが」

やはりこの状況を作り出していたのはフェーシャが原因のようだ。フェーシャは再度勇夜に手を出さないよう口に出すが、勇夜は歯を食い縛り、未だ苦しい状態であっても何とか立ち上がろうとしていた。


「はぁ……邪魔をされてしまうと私もそれなりの対応をしなければいけないんですよ。それにまだ"公"にされていない状況で殺すのは些か不味いんです。国家同士に亀裂が出かねませんから。ですがこれ以上時間も割けませんし、それでも邪魔をすると言うのなら…」

フェーシャは本気で止めているようには見えず、あくまで口上で述べているように勇夜へ伝える。だが勇夜は立ち上がり一度深呼吸し、そして"陸真"を喚び出し突っ込む。


「貴方の死を明日の朝まで隠蔽するとしましょう。大丈夫ですよ。明日には既にこの国は手出しが出来なくなります。この少女を連れていけば全てが始まるのですから」


「させない! アリサは連れていかせない! 絶対に助ける!」

勇夜は"瞬火"を使い、最速で攻撃する。しかしその拳はフェーシャには届かず、空中に壁があるかのように何かに阻まれていた。


「助ける? 何からですか? その正体を知ってもなおそんな言葉で出るとは、罪人を庇うことは傲慢な行動ですよ。それにそう言った言葉は実力が伴ってから吐くべきです」

突然阻まれていたような感触が消え去り、次の瞬間勇夜の体が何かに縛られたように自由を奪われ、そのまま付近の木に背中から叩き付けられた。


「ガハッ!」

体から嫌な音が響き、悶絶する勇夜だがこれで終わりではなかった。勇夜が地面に落ちる前にまた体が宙を舞い、地面に叩き付けられ、それを何度も繰り返された。勇夜の抵抗が小さくなったことを見たフェーシャは倒れる勇夜を張り付けたように宙に浮かせ、近付く。


"…い…と?"

勇夜は徐々に消えそうになる意識で自身の四肢を縛る糸のような物が見えた。それは光に当てなければ視認が難しい程の糸だった。そして勇夜が見たもう一つのモノはフェーシャの口角がつり上がった口元。楽しくて仕方無いような表情をしていた。勇夜はこの表情に見覚えがあった。それはリベラリムやギルヴァスのように戦うことに快楽を求めるような顔……だがフェーシャの意味は違った。フェーシャはただ純粋にいたぶる事に快楽を得ているような感情が見えていた、


「フフ…先程も言いましたが、私は貴方を殺す事を望んではいません。ですがこれは貴方自身が犯した事によるいわば罰。さあ貴方は綺麗な血を咲かせてくれますか?!」

フェーシャは左手の装飾品のような物で糸を操り勇夜を動けなくし、右手で鞘から剣を抜き、勇夜の首を向けた。


「やめて!」

いつ切られてもおかしくない状況で叫び声が響く。


「お願い…です…もう…やめて下さい…言うことを聞きますから…付いていきますから…だからお願いします…もうやめて下さい…」

フェーシャが後ろを向くと、アリサが地面に額を当てて頭を下げていた。フェーシャは残念そうに溜め息を溢すと腹部に容赦の無い殴打を一度与え、勇夜は拘束を解かれた後、地面にうつ伏せで倒れ込む。


「本来であれば殺すべきでしょうが、まあ処理にも時間も手間も掛かりますし、万が一見つけられた場合外交問題にもなりかねませんからね。いいでしょう。では人払いも何処までもつか分かりませんし、行きましょうか」

フェーシャは頭を下げるアリサを立たせ、何かの陣が書かれた紙を取り出し地面に置いた。すると地面に魔法陣が発生し光り始める。


「だ…めだ」

勇夜はボヤける視界と気絶しそうになる意識の中でアリサに手を伸ばす。そんな勇夜にアリサは振り返る。


「ごめんね。巻き込んじゃって……でももう大丈夫。もう関係無くなるから…私の事は忘れて、もう会うことはないから……」

勇夜に向けてアリサの言葉が伝えられる。その声に迷いも震えもなく。そして勇夜はただ力の限りもがき手を伸ばす事をやめない。








「さようなら……"如月君"」

その言葉と同時にアリサとフェーシャは光に呑まれ姿を消した。


「アリ…サ」

勇夜は薄れ行く意識の中で弱々しくその名を呼ぶ。



閉じようとする瞼の中で勇夜が見たさよならの言葉が紡がれたその顔は、無理に作った笑顔と、勇夜が初めて見る、アリサの頬を流れた一筋の涙だった…

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