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広がる暗き黒に二つの光が空を照らす


勇夜とギルヴァスの戦いが始まる。勇夜はその力によって何か特別な事はしていなかった。いつものように戦うだけ、だが今の勇夜の底上げされた力は先程までのアゼルとギルヴァスの戦いを上回る程のものとなっていた。それに加えギルヴァスにとって勇夜のような自らの肉体を使った戦闘スタイルと戦ったことがなく、力にさほど違いはなくとも速度や戦い方で防戦一方となっていた。

しかしギルヴァスは焦る事も悪態をつくこともない。ただ純粋にまた強い者と戦う事が出来た事に興奮していたのだから。


("奴はまだ力を出し切れてない! 攻めるなら今! 短期決戦だよ勇夜君。反撃の隙も時間も与えちゃ駄目だ")


"わかってます! アゼルでも押されてたならここで決めるしかない!"

イオは今の状況こそが最大の攻め時だと勇夜に伝え、勇夜自身もそれを理解していた。様子見や時間稼ぎ等悠長な事を言える状況では決してない。アゼルが居なくとも自身の手で終わらせる勢いでなければ、ギルヴァスと渡り合うことすら叶わないとそう直感していた。


"如月流 拳闘術 三ツ覇撃(みつはげき)"

勇夜はギルヴァスの懐に踏み込みながら入り込み。左拳で脇腹を、間髪いれずに右拳で顔面を打ち抜き、更に腹部に拳を叩き込む。ここで初めてギルヴァスが苦悶の表情を見せた。だがまだ勇夜は止まらない。


"尖空昇砕牙(せんくうしょうさいが)"

ギルヴァスの顎を鋭い蹴りで打ち上げ勇夜は空中で一回転し、結界の足場で勢いをつけてそのまま顔面を打ち抜いた。勇夜は止まらず連撃を打ち込み、隙を見て拳を引き大きく溜めを作った。


「ハァッ!!」

"如月流 拳闘術 旋渦崩拳(せんかほうけん)!"

溜めを作った腰を回転し、力を纏わせ引いた右拳を螺旋回転させながら凄まじい勢いでギルヴァスの体を打つ。ギルヴァスは攻撃を受けて後ろに飛ばされた。


「っ! まだだ!」

勇夜は目の前に、接近するための足場として結界を数枚張り、結界を蹴って速度を上げる。ギルヴァスは空中で体勢を素早く整え、迫る勇夜に剣を振るが勇夜は体を捻り紙一重で避け、そのままギルヴァスを通りすぎてしまう。

しかしその交差の後、瞬きする間もなくギルヴァスの背中に勇夜の攻撃が直撃し、更に次々と四方八方から攻撃が繰り返された。見ればギルヴァスを中心に多くの結界が張り巡らされ、逃げ場の無い球体のようになっていた。

これは勇夜達がリベラリムと戦った際に使用した攻撃と類似していた。しかしその使い方は全くの別物だった。リベラリムの時は速度を上げながら逃げ、最大の一撃をくらわせることを重点にしていたが、今回は不規則に対応出来ないよう攻撃しながら速度を上げる事、そして勇夜自身の今の力は通常の魔装騎士を越えるものなのだ。


「ぬぅ…やる、ではないか」

ギルヴァスは防戦一方となりながらも視線は常に勇夜を捉えていた。一方的にすら思えていた勇夜の攻撃に、ギルヴァスは偶然か剣を軽く振って勇夜の攻撃に合わせ火花を散らして逸らした。


「っ!」

勇夜は現状出来る限りの最速で動き回り攻撃していた。それだけでも神経を使い、最善手を打っていると思っていた。だがギルヴァスは一度合わせ始めた攻撃を次々といなし出し、不規則な筈の攻撃を防いでいた。


("対応が早すぎる! これでまだ底が見えないなんて")

勇夜に聞こえるイオの言葉には焦りが見え始めていた。勇夜は焦りとはいかないが、徐々にタイミングを合わせるギルヴァスの剣閃を避けることで更に神経を磨り減らしていた。そんな中で遂にギルヴァスの剣が勇夜を掠る。


「くそ!」

"なら"

勇夜は一度攻撃を止めて動き回り、別の事をしようとしていた。


「"捕えろ"」

勇夜の発した言葉で数枚の結界から鎖が伸び、ギルヴァス四肢に巻き付いた。どうやら移動している間に結界に仕込んだようで、それが発動したようだ。


「"放て"」

もう一度勇夜が言うと、今度は全方位の結界から魔力の弾が一斉にギルヴァスに向けて放たれた。それはただの魔力の塊ではなく、全て複合された力で出来ていた。


「むっ?!」

ギルヴァスは自身に迫る魔力弾に気付く。手足は縛られ身動きが取れない筈、しかしギルヴァスの体を黒い力が全身に纏わりつくと簡単に鎖が破壊され、四方八方から迫る魔力弾に対してたったの一振り剣を薙いだだけでその全てが爆発した。ギルヴァスの周囲は煙で覆われ内も外も視界が奪われる。そんな中でギルヴァスは上を見上げ、徐に剣を構えて振ろうとしていた。


「ハァァァァァァ!」

煙に突然穴が空いたように一気に晴れ、ギルヴァスの目の前には既に勇夜が右拳に力を纏い振っていた。だがギルヴァスは元から分かっていたようにそれに合わせ剣を振り、勇夜の右拳とギルヴァスの剣が火花を散らしながら競り合っていた。


「どうしたどうした?! こんなものではないだろう?」

端から見れば挑発、しかしギルヴァスにとってはただ純粋な疑問でしかなかった。2人の競り合いは空気を震わせ、その凄まじさを物語る。


"今のありったけを全力で打ち込む!"


「でぇぇりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

"流星(りゅうせい)矛奏堕撃(むそうだげき)!"

勇夜の拳は眩く光り、力と勢いが増して激しく唸る。そして手甲の後ろからまるでグローザとエアルが見せた技のように雷と風が合わさり甲高い音をたて、それと同時に炎を爆破させて複合された力が勢いよく噴射する。次第に勇夜の拳がギルヴァスの剣を押し出し、そして遂に剣を押し退けてその拳はギルヴァスに突き刺さり、凄まじい速度でギルヴァスは地面に吸い込まれ、激突すると同時に轟音をたてて大きなクレーターを作った。


「ハァ…ハァ…っ!」

勇夜は結界に乗り息を整えるが、一瞬走る鋭い痛みに顔が歪む。


("集中を切らさないで勇夜君。多分まだ終わってない")


「大丈夫、まだやれます!」

勇夜はギルヴァスのいるであろう煙がたつ地上を見て直ぐに動けるように構える。勇夜はただ待つのではなく力を練り上げ複合し、いつでも放てるように準備をしていた。

突如煙が一瞬にして晴れ、勇夜のいる場所に地上から視界を覆う程の黒い波動が放たれた。


「ハァッ!」

勇夜は目に入った瞬間、ほんの少し遅れるが自身も溜めていた力を波動に向けて放った。


「ぐぅぅっ!」

二つの力は暫し均衡を保っていたが、地上から更に重ねられた力が加わり勇夜の攻撃が掻き消されてしまう。


「っ! くそ!」

自身の攻撃が消され、勇夜は瞬時に回避行動に移った。直撃とまではいかなかったが波動が体を掠め、凄まじい威力の為その余波も計り知れないものであり、全身の守りを強化した勇夜でさえ軽くない衝撃とダメージを受けてしまう。勇夜は衝撃に押され体の制御が効かず、地上へと落ちていった。

だが勇夜は地面に当たる前に何とか体勢を戻し、最小限の衝撃で地上に降り立つことが出来た。しかし一時的とはいえ集中が途切れたことによる勇夜への身体的ダメージは小さくなく、直ぐに立ち上がれずに膝をついて血の塊が口から吐き出された。


「ハハッアハハハ! いいぞいいぞォォォ!これこそが殺し合い!これこそが我の望む戦い!これこそが我が求め!我が焦がれた全てを叶えてくれる強者との死を謳歌し我の疼きを止めてくれる戦いィ! さぁもっとだ!もっともっと!この生を!死を実感出来るまで殺し合おうぞォォォ!!」

ギルヴァスは興奮し、それに応じるかのように力が比にならない程高ぶり、人に近い見た目だったその姿は異形の者へと変わっていった。鋭く伸びた手足に魔物のような甲殻が体を覆い、体の所々が赤黒く光り、一対の羽は二対になっていた。これはリベラリムと同じ"魔煌化"と呼ばれるものだが、ギルヴァスのそれはリベラリムが可愛く見えるほどにその絶望的な力を辺りに見せつけていた。頭上の空は恐怖するようにその色を変え、力の渦はギルヴァスを中心に広がり続け、勇夜を…戦場に居る全ての者を巻き込もうとしていた。


「っ! 冗談キツいな! ……でも俺がやらなきゃいけないんだ! こんなところで俺は負けれないんだよ!」

口から血が垂れながら、それでも立ち上がり真っ向から力の渦に向かおうとする勇夜。勇夜の気持ちも瞳も体も諦める選択は無かった。ギルヴァスの高笑いが響くなかで、圧倒的な力に立ち向かうために勇夜は一歩踏み出す。


「"人を導く神の恵みよ"」

不意に勇夜の耳に声が聞こえる。後ろを振り返れば、近くには誰も居ない。しかし少し離れた場所で蒼い光りがその中心に流れるように集まり、ギルヴァスの黒い渦に対抗するかのように空を蒼く染め、同じ様に広がっていた。


「"我が身に宿る蒼き力は 人々を導き全てを守る蒼天の光 我はその命尽きる時まで全てを救い 世界の為 決して負けず己を信じ 救世の訪れを我が力でもたらすと神に誓おう "我が身に宿れ 我が身を纏え 人器纏 蒼駆(そうく)の|天鎧(てんがい)"」

アゼルの声が言葉が戦場にいる全ての者に聞こえた。唱える度に蒼き光りは広がり、ギルヴァスの力とぶつかり拮抗する。そしてアゼルの詠唱が終わると同時に力が膨張し、ギルヴァスとアゼルの拮抗していた力が共に飛散した。

アゼルは澄み渡った空に祝福されるように照らされ、纏った力は神々しさも感じられる程だった。


「ありがとう勇夜君。ここまで保ってくれて。でも申し訳ないけど一緒に戦ってくれるかな? 正直これでも勝てるか分からないんだ」

アゼルは蒼い翼を一度羽ばたかせると勇夜の隣に一瞬で移動した。そしてアゼルは感謝を述べるが、それに続く言葉に勇夜はきょとんとし、今更か…というように溜め息を吐いた。


「当たり前だ。今更逃げる選択は俺に無いんだよ。俺を気遣うくらいならさっさと勝つぞ。それとこんだけ待たせたんだ。終わったら後で何か奢れよ」

勇夜は垂れた血を拭い、先程までの辛そうな表情が消えアゼルを見てそう言い、最後に笑って拳を突き出した。勇夜の言葉はその場の言葉だけじゃない。必ず勝って未来を作ろうとする気持ちが込められていた。


「…ああ、約束だ。俺は世界を救う。勝ってその未来の約束を果たそう」

アゼルは勇夜の拳に自身の拳を当て、言い聞かせるように口に出す。


「ああ、俺は俺の大切な人を守るために戦う。生きてまた一緒に居るために!」

勇夜とアゼルは共に見据える…己の望む未来の為に戦う目の前の敵を……


ギルヴァスは見る…己の欲を叶えるための存在を狂喜が見えるその表情で……


「「「いくぞォォ!」」」

戦いを告げる鐘はない。だがそれぞれが感じ取った空気がそうさせるように、最後の戦いが……終わるためか、それとも始まるためか、全てを掛けた戦いが始まった。

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