やがて空のように蒼く
……あれからどのくらい経ったのかな……何も変わらない内に何も思わなくなった…苦しくも怖くもなくなって、ただ張り付けたような笑みだけ浮かべてるだけで、殴られても罵倒されても僕の表情は変わらない……少しずつそんな僕を見て何をしても反応しなくなったのに飽きたのか気色悪くなったのか分からないけど、僕の事を無視するようになって、殴ったりすることも殆ど無くなってた。ただその時には僕達に食料もくれなくなって……保存してた食料で何とか繋いできたけど、お母さんは日に日に痩せこけて……既に限界になりかけた頃、僕自身も忘れてた僕の7回目の誕生日になった。
決められたようにいつもと同じ事をしていたら、ゆっくりふらつきながら僕の後ろに近付く人がいた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
所々掠れた奇声のような叫びが突然聞こえて僕は振り向いた。そこにはお母さんが立ってて、振り返った僕の左目の所が何かで殴られてた。僕の体は近くの棚にぶつかって、何がなんだから分からなかったけど、前を見たら刃物を逆手に持って、僕を刺そうとお母さんが見たことない顔をしながら僕の目の前で刃物振り下ろそうとしてた。僕は咄嗟に左腕を出したら、刃物が入ってくる感覚とその後に襲ってくる熱さと痛みが消した筈の感情を呼び覚ました。お母さんは刃物を僕の腕から抜いてもう一回振り上げたら、僕は無意識に逃げようとして横に飛んで転がった。
「っ!」
転がった時に腕の傷が当たって痛くて叫びそうになったけど我慢してお母さんを見た。お母さんは勢い余って躓いて倒れてた。それでも僕を見てた目は赤く血走ってて、本当にお母さんなのか分からなかった。僕がそんなお母さんから感じれたのは村の人達とは違う本当に僕を殺そうとする感情だった。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」
まともな動きじゃないお母さんは僕しか目に入ってないみたいで、物を倒したりしながら僕に向かって走ってきた。
「イヤだ……」
忘れていた怖いっていう感情が僕の中で溢れだして、そしてお母さんが僕を殺そうと感情を剥き出しにしていたことが怖くて、僕は刃物を何とか避けて家の外に走り出した。
「待てぇぇぇぇぇぇぇ!」
後ろでお母さんが倒れる音がしたけど振り返れなくて、お母さんの叫ぶ声が響いてきて、動かない左腕を垂らしながら僕は走った。走って走って走って……だけど村の広場で躓いて転んだ。直ぐに立ちたかったのに足が震えて上手く立てなかった。村の人達も突然のことに無視をしないで僕の事を見てた。
「その化け物を殺せぇぇ!」
後から走ってきたお母さんが僕を見たらそう叫んだ。本当なら村の人達がそうする筈無いけど、最早僕の事を人として見ていない皆にとってそれを拒む理由はなかった。動けなくなってた僕が逃げないように押さえ込もうと、皆が僕に近付いてきた。
「そこまでだ!」
既に囲まれてどうすることも出来ないと思った時、人の合間を縫って小さな剣?が僕の足元に刺さって、僕を囲うように薄く赤黒い膜みたいのが張られた。突然のことで皆驚いたみたいで僕から離れてった。僕も驚いたけど声のした方を見たら、顔を隠して馬に乗った人が近付いてきて僕の近くに降りた。その人が触ると膜が消えて僕の方をじっと見てた。屈んだその人の腕が僕に伸びてきて、僕の体が勝手にビクッてなったけど、次に来たのは頭に乗せられた手の感触だった。
「……よく頑張ったな」
その人が言ってることの意味が分からなかったけど、ただ……ただ僕に向けられたその声が優しくて…乗せられた手が温かくて…僕の目から涙が溢れて止まらなかった。その人は何も言わずに僕を抱き抱えてそのまま馬に股がった。
「剣鬼! 対象は無事か?!」
「ああ、だが怪我も酷い。それに酷く衰弱してるみたいだ。森の入り口にいる隊に一刻も早く連れて行かないと」
もう1人違う人の声が聞こえてきて、何かを話してた。僕はお父さんに抱えられているような気持ちになって安心したみたいに急に眠くなった。閉じそうになる意識の中で、ボヤけながら聞こえるのはお母さんや皆と言い争ってる声だった。
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目が空いたら明るくて、僕は知らない大きなベットで眠ってたみたい。体が軽く感じて体を見たら傷が無くて、自分の体じゃないみたい。
ボーっとしてたらノックされて、知らない女の人が入ってきた。僕が起きているのを見て、よく分からないけどお辞儀された。ご飯を用意したみたいで案内してくれるみたい。ご飯って聞いたら急にお腹がなって気まずかったけど、女の人は特に気にしてないみたいだった。部屋を出たら凄く大きな廊下に出てビックリした。まるでお城にいるのかなって思っちゃった。
少し歩いて大きな扉の部屋に入ったら、たくさんの美味しそうな料理がいっぱい並んでて、僕はまたビックリしてた。椅子に座るように呼んだ女の人の言った通りの場所に座るとその人は少し離れた。僕はどうしていいか分からなくてキョロキョロしてたら
「食べていいんですよ」
そう言われた。僕は今までお母さんより先に食べることも無くて、自分を後回しにしてたからこの状況がまだちゃんと分かってなかった。でも食べていいんだって分かったから一口近くの料理を口に入れた。
「?」
僕は首を傾げてた。とても美味しそうな見た目をしてるのに味がしない。どうしてだろうって思ったけど他の料理も食べてみる。…………おんなじだ。何の味もしない。甘くもしょっぱくもない。でもいつからだっけご飯に何も感じなくなったのは………
僕が途中から変な動きをしたり考え込んでるのをみて、女の人は心配してくれたみたいで、どうしたのか聞いてくれた。僕はそんな心配そうな顔をみて
「ごめんなさい」
不意に謝ってしまった。女の人はますます僕の変化に心配をさせてしまったみたいで、僕は笑って大丈夫だと言いたかった。……だけど
"あれ? 僕ってどう笑ってたっけ? 笑うのってどうやるんだっけ? どうしてだろう……"
我慢するために笑って、お母さんに心配してほしくなくて笑って……ずっと笑ってた筈なのに僕は誰かに向ける笑顔が何なのか、どうすればいいのか分からなくなってた。僕を見る人の目が戸惑っているのを感じて何とかしなくちゃと思ってたら、ドアが開いて誰かが入ってきたんだ。
「王剣様 …どうされたのですか?」
女の人が入ってきた人にお辞儀をしてた。その人は僕を見たら近付いてきた。
「お前が報告にあった村から連れてきた者か。確かに強い力を感じる」
僕は観察するみたいに見られて、どうすればいいか戸惑ってた。それとこのおじさんから言われた"村から"っていう言葉に、僕は今更だけどどうなったのか気になった。
「お母さんは……」
恐る恐る僕が目の前のおじさんに聞いてみると
「知らん。俺は報告を受けただけだからな。だが最後までお前の母親はお前を殺そうとしていたそうだ。死んではいないらしいが、愚かな奴だ。お前の親は」
僕はあんなことがあったけどお母さんの心配をしてた。無事だと聞いて安心したけど、その次の言葉に僕は反応してしまった。
「お母さんを悪く言うな! お母さんは僕のせいで…」
僕の感情が高ぶったと同時に、無意識に僕から光が出て近くの物を吹き飛ばす。近くにいた女の人は尻餅をついたけど、おじさんは何も変わらない顔でそこにいた。
「甘ったれるな! お前の母親はどうあれお前を殺そうとした! それから逃げるな! お前は力を授かった。それがお前の運命で既に決められた事だ。先ずはその意味を、その力の使い方を教えてやる」
おじさんの目が急に変わって、僕は急に来た何かに飛ばされて床にお尻をぶつけた。何がなんだが分からなかったけど、おじさんの体から僕みたいな光が…でも僕とは全然違う金色の光が出てた。僕は立ち上がろうとしたけど足が震えて動けなかった。
「王剣様、この子はまだ起きたばかりで万全ではありません。回復を待って後日でも……」
女の人が僕を庇うようにおじさんに向かって話し出した。でもおじさんはその女の人を睨んで話を止めてた。
「っ! 失礼致しました。出過ぎた発言をお許しください」
「…まあいい、だが傷は完治したのだろう? それに先程も言ったがこの小僧が"恵み"を受けた以上、運命も選択も何もかも決められた。それと小僧の身柄は我が騎士団の預かりとなった。異論はあるまい」
女の人は後ろに下がって俯いた。おじさんが何を言いたいのか僕には分からない。でも今の僕にそれを拒むことも許してくれそうにもなくて……
「……はぁ… では明日の早朝にまた来る。起きて準備をしておけ」
おじさんは僕がなにも言えずにいたら、そう言って部屋から出ていった。僕を助けてくれなかった力が、僕の大切なお父さんお母さんを傷付けた力が、望んだ訳じゃ無い力が意味のあるものだと言うおじさんの言葉を僕は考えてた。でもその前に用意してくれたご飯を食べなきゃいけないって思って、椅子に座り直して味のしない料理を僕は女の人に見守られながら食べた。
次の日からおじさんの言った通り僕の力の使い方を教わる特訓が始まった。始めはただ自分の意思で発動させること、そして次が相手に向かって放つことからだった。おじさんを相手に毎日毎日同じ事を繰り返して、僕は押し潰すような力の使い方を覚えた。おじさんは厳しくて辛いことも言ってきたけど、でも僕を見捨てることはなくて、辛くても村のおじさん達から叩かれたりすることに比べたら全然平気だった。僕が力を放つ事が出来るようになったら、次は実戦だって言われた。僕は初めて今自分が居る所がどんな所か知った。実戦は外に出て魔物?っていうのを倒すってことだった。この時おじさんとは違う人が付き添いで、ここがカルディークっていう国で凄く大きくていっぱい人が居て、色んなのがいっぱいあるんだって教えてくれたんだ。
それでギルド?って所に寄って、外に出て魔物がいるところまで一緒に馬に乗ったんだ。少ししたら止まって、僕にこのまま進んだら魔物の巣があるからそこで力を使うように言われた。僕は特に何も考えなくて言われた通りに歩いて進んだら、大きな横穴とその前に変な形の生き物が立ってた。隠れないで進んだら叫んで飛びかかってきたから、力を使って押し潰した。そしたら破裂して地面にシミが出来たみたいになってた。
この時僕は初めて感じる感情に何故か胸が高鳴ってたんだ。それで穴からいっぱい変なのが出て来て、僕はどんどん力を使って倒し続けた。始めはただ胸の高鳴りを感じてただけだけど、僕は力を使う度に笑ってて、思う存分力を使って倒すっていうことが楽しくなってたんだ。
「ハハッ! アハハハハ! 何これ? どんどん僕の力でいなくなってくよ!」
どれだけ倒したのか全然分かんなかったけど、穴から何も出なくなってた。
「もう終わり? じゃあもういいや」
僕はすらすらと言ったこともない口調が出て、そのまま穴に向かって力任せに押し潰すように力を放った。加減もしないで力を使ったから、凄い音をたてて穴のあったところが大きな口を開けたみたいになってた。それを見た僕は力に対して怖いと感じなくて、むしろ僕の力でこんなことが出来るんだってワクワクしてたんだ。それから僕は同じような事を何度も繰り返して魔物を倒すこと、命を奪う事に何も感じず、ただの作業をこなすようになってた。そんな日が数ヶ月位経ったころ、僕に一つの任務を受けるように騎士団から依頼が来た。僕は詳しく聞いてなかったけど、どうやら離れた村で盗賊が出て、その討伐任務が舞い込んで来たみたいだ。相手は魔物と違って人、初めてだったけど僕は何も考えずに準備して、いつもより多い騎士団の人達に囲まれて出発した。
「止まれ!」
任務の村に着いて、前にいた人が僕達に指示を出す。見れば村の偉い人か分からないけど指示を出してた人に話をしてるみたいだった。いつもと何も変わらない…そんな風に思っていると、1人の女の人が走って何かを叫んでたみたいだった。僕には何を言ってたのか聞き取れなかったけどその感情が伝わってきた。それは怒り、憎しみ、悲しみ、そのどれも僕自身に何度も向けられた事の有る感情だった。僕には何でそんな感情が出来るのか何一つ分からなかったけど、これから倒す人達が悪い人達だってことは理解できた。僕達は村を出て道に進んでいくと、脇にそれて何かをしながら騒いでいる人達が居た。近くの騎士が僕に耳打ちして、あれが対象何だって分かった。僕が全てを終わらせる。それがいつもの事だった。大勢の騎士が現れて驚いてたけど、それが離れて僕だけ近付いてきたからその人達は笑いながら手に持った武器を僕に向けてきた。
「何だこのガキは?! お使いでも頼まれたか?」
笑い続けるこの人達に僕はよく分からないけど苛ついてたと思う。いつもと同じようにすればいいだけなのに……だから僕は何の話しもせず、話しも聞かずに力を発動して、十数人居た盗賊を一度に力を使って破裂させた。僕の力で盗賊達は全てを撒き散らし、血の雨を降らせ、まるで熟れた果実のようにその地面を赤く彩った。
僕は感情のままに力を使った。でも魔物と違って何が違った。僕の体は近くに居たからあの人達血をかぶって赤くなってて、地面を見た僕の目に映ったのは、何かナニかナニカ……どんどん僕の胸の音が大きくなって、僕は…僕の体は…僕の心は理解した。僕は僕と同じ人を殺したんだって……
「う…あ……あああ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕の両手が真っ赤な血でべっとりついてて、それを見たら凄く怖くて震えて、僕は力を全力で使ってここから逃げ出した……
僕は走り続けて、息が苦しくなって止まったときには知らない場所に居た。そこは木がいっぱいあってとても静かな場所だった。胸の音がずっとうるさくて胸を抑えながら歩き続けたら広い場所に出て、そこには綺麗な湖が広がってた。初めて見た場所なのに僕は少しだけ懐かしくなって、さっきより落ち着いてきたと思う。
「誰?」
急に近くで女の人の声がした。僕は声の方を向いたら、その人は驚いて僕に近寄ってきた。
「どうしたの?! どこか怪我をしたの? …………これは返り血? どうして? …ちょっと待ってね」
慌てて僕の心配をした女の人は僕の状態を見て、直ぐに何なのか気付いた。そしたら湖の水を使って僕の体を包んで体に付いた血を洗い流してくれた。僕はどうしたらいいのか分からなくて立ってたけど、女の人は僕の顔をみて大丈夫なのを確認したら笑ってた。
「綺麗な髪と瞳だね……君、名前は?」
「あっ……え……」
僕は僕の髪も目も好きになったことはなかった。でもこの人はそれを綺麗だって言った。そして名前を聞かれて僕は言おうとしたけど言えなかった。いつからか僕は自分の名前を言わなくなってた。それは僕の名前なのに何でか言うことが出来なくなってた。その理由は僕にも分からなかった。
「そういえば私は言ってなかったね。私は ラナ、ラナ・ラキスよ。これでも近くに有るカルディークって国のギルドマスターなんだよ。じゃあ次は君の事を教えて欲しいな」
女の人はラナさんって言うみたい。ラナさんは凄く自然に笑ってて、その雰囲気がとても安心するような温かさを感じて、僕はゆっくりと今までの事を話始めた。始めはさっきの事から、そして国に来たこと、ラナさんは真剣に耳を傾けて何も言わずに聞いてくれて、ラナさんの雰囲気とそしてこの場所が懐かしく感じたからかもしれない…僕が6歳になってからの事を自然と口に出して、吐き出すように話出した。途中から僕の声が震えて何故か涙も流してて、叫ぶみたいに強い口調だったのに、僕は精一杯ただ強がってるみたいだった。
「………君は優しい子だね。誰よりも辛いことあったのに誰かの為になんて………それに強い子だ……でもね、確かに力はあっても君であることに変わりはないんだ。誰かの為じゃない。誰かを助けたいって思うのも、生きたいって思うのも全部君自身が選んでいいんだよ。誰かに言われたからそうするなんていうのは間違ってる。他でもない君の命で力なんだから」
ラナさんは僕を優しく抱き締めながら、僕に語りかける。僕はそれをちゃんと理解出来なくて、何も言えなくて、でもその温かさに救われたみたいに僕の胸が押し潰されそうな感覚がいつの間にか無くなってた。
「そうね。急に知らない人からこんなこと言われても分からないよね。だからこれから君は アゼル、アゼル・ベルライト を名乗りなさい。空みたいに蒼くて綺麗な髪と瞳、そして自分の意思で本当に誰かを助けたいって思えるようになったときに皆を導く希望の光になれるように、この名前を私は君に上げる。いつか本当の名前を言える時が来たら、そしたら私に教えてね。あと君の事は今後ギルドが面倒見ます。騎士団に任せておけるものですか」
ラナさんは困ったような僕の顔を見て眉を下げて笑った後に、僕の運命を変えるような言葉を僕に向けて話し出した。ラナさんは僕に名前をくれ、そして違う居場所を用意するって言った。それに僕は上手く答えることも考えることも出来なかったけど、僕は一度だけ頷いて、そしてそれから僕の全部が変わることになった。
それからは決まってたみたいにどんどん話が進んでった。まず騎士団からギルドに移動するときも王剣のおじさんは反対しなくて、僕の目を見た後に何も言わずに見送ってくれた。そこからの僕は訓練は欠かさず、元々いろんな所に旅をしようとしてたラナさんといっしょに多くの街や村、国にいって多くのものを見て聞いて、学んだ。あれから数年経って、ラナさんは病気で倒れて亡くなった。
後から聞いた話だとラナさんは僕と会った時には既に治らない病気だったみたいで、残りの時間で多くの場所に旅することにしたところだったそうだ。僕は最後までラナさんにちゃんとお礼出来なくて、ラナさんにもらってばかりだった。ラナさんが居てくれたから僕はいつの日か笑うことが出来て多くの感情を知ることが出来て、凄く喜んでくれた。僕にとってもう1人のお母さんのような存在になっててラナさんもそう呼ばれたかったのを僕は知ってた。でも僕を受け入れてくれた人を傷付けることが怖くて伝えられなくて、結局後悔した。それでも僕はこの日まで生きて来ることが出来て本当に良かったって思ってる。
だから……だから目の前の俺は自分が生きてることが嫌で、自分が居るから皆を不幸にしてるんだって思って、それを受け入れた。
でも違う。俺は生きてていいんだって言ってくれた人がいた。俺に命をくれた人がいた。だから今ならはっきりと言える。自分と向き合うために、誰かを救うための力を与えてくれてことに。
"俺は……俺は生まれてきて良かった。 俺を生んでくれてありがとう…俺を育ててくれてありがとう…俺と一緒に居てくれて、大切な事を教えてくれてありがとう……"
俺は目の前での自分と向き合って、そして笑う。
「確かに今、辛くて苦しくて…嫌なことばかりかもしれない。もしかしたらずっとそれが変わらないのかもしれない……でもきっといつか…いつか必ず笑えるときが来るから…大切な人達に会えるから……だから進もう…皆と迎える明日を救うために」
俺は僕に、かつて自分を助けてくれた手のように自分の手を差し出す。僕はゆっくりと手を伸ばし、俺はそれを強く握りしめる。
「「さあ行こう」」
声が重なって力が噴き出し暗い空間がひび割れて明るい景色を映し出す。
「夢の時間はもう終わった。だから……」
目の前にはリエンが立ち、諦めるように何もしなかった。俺は躊躇せず、一刀の元にその首を両断した。リエンの体は消え、その場は静かな空間となった。
「………行ってきます」
ただ一言そう呟き、蒼を纏って飛ぶ。




