表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/77

望まぬ再会と戦い


互いに邪魔にならない距離を保ったまま、周囲を警戒していた勇夜達の耳に此方に近付く足音が聞こえてきた。それはいつ、何処から現れたのか、その音の発信源たる男 リベラリム が勇夜達の十メートル程先で立ち止まった。


「いやはや、中々見事な戦いぶりでしたね。よくぞここまで成長したものです。まだ大した時も経っていないというのに見違えてしまいました」

執事のように清楚な服装をしたリベラリムは何の含みもなく、ただ純粋に称賛をしていた。敵意も殺意も感じない。しかし勇夜達は黙ったまま戦闘態勢を取った。


「いい緊張感です。恐怖を感じながらも立ち止まらない姿勢、やはり私が殺すに値する存在です」

いつでも動けるような態勢でいる勇夜達と違い、一向に戦おうとする気配のないリベラリムに何とも言えない違和感と不気味さを感じていた。そしてそんな中でも唯一視線を向けられていた勇夜は以前蒼帝に言われていた事を思い出す。


「これはお前の仕業か?」

勇夜はただ一言リベラリムに聞く。


「ええそうです。私の目的を果たすために可能な限り他に干渉してほしくありませんので」

リベラリムは勇夜の問いに答える。"目的を果たす" この言葉と何故自分達の前に現れたのかを考え、全員が理解する。


「さあユウヤ、あの時の続きを致しましょう。力を見せてください。抵抗してください。強き貴方を私の力で殺すことで、私を更に高めてください。さあ…さあさあサアッ!」

リベラリムは勇夜以外を意に介さずに勇夜だけに威圧する。以前と違う殺気を纏った圧倒的なその雰囲気に、勇夜は"自分がやらなければいけない"という意識に変えられていた。まるで引っ張られるように前へ進もうと体が動こうとするが、その前に後ろから勇夜の左肩を抑える力が加わり、勇夜はリベラリムに向き掛けていた意識から戻り、後ろを向いた。そこには手を勇夜の肩に乗せるヴィルが居た。


「勇夜、俺達がいる、一緒に戦える。1人で背負おうとするな。全員で生きて帰るだろ」

ヴィルは笑顔を見せながら勇夜にそう言った。決して余裕があるわけじゃない。肩に乗せられたヴィルの手は微かに震えていた。

勇夜はそんなヴィルと他の皆に視線を向けた。ヴィルだけじゃない、皆が余裕を持てないながらも戦おうと立ち向かう姿勢を見せていた。そしてヴィルの手には蒼帝に渡されていた結晶が握られており、少しながら希望も見えた。


「…ああ、ありがとう」

勇夜は小さく笑みを浮かべて感謝する。それは声を掛けてくれたヴィルとそれぞれ戦おうとする皆に向けて…


「そうですか……それでは致し方ありません。そうせざるを得ないようにいたぶって差し上げましょう」

リベラリムは息を吐くと、全体を威圧しながらそう告げた。いつ始まってもおかしくない緊張感が流れる中で、不意にリベラリムが何かを思い出したかのように威圧を解く。


「忘れてしまう所でした。貴方方に是非会わせたい"モノ"が居たのでした」

急に解かれた威圧にリベラリムへの困惑が生まれる。こんな状況で会わせたい"モノ"という言葉に疑問を浮かべていた勇夜達はその時を待った。


「さあ感動の再会です」

リベラリムが右手を広げ、正面に魔法陣が発生した。そこから徐々に人影?が出現し、1人の男がその場に現れた。


「っ!」

勇夜達から息を呑む音が聞こえ、数人がその正体を見て驚きを隠せずにいた。

その男の風貌でまず眼を引くのは、リベラリムや他の魔族と同じ血のように赤い瞳、首辺りまで伸び、眼にかかるくらいの白い髪と白い肌、背中に生えた黒い一対の羽とゴツゴツとした手と鋭い爪、誰が見ても人ではなく魔族だと言うだろう。驚いた数人を除いて……


「何故貴様があいつと同じ顔をしている! 答えろ!」

トールは怒りにも似た表情で現れた者に言葉を放つ。だが虚ろな瞳で生きているのかも怪しく感じる佇まいからは何も言葉は生まれず、動くこともなかった。


「無駄ですよ。今の彼に思考も感情も何もかもが残されていません。あるのは魔族として"戻った"戦うだけの人形としての本能だけ。それに貴方の言おうとしていること思っていることは正解ですよ トール・ケネデリス君」

リベラリムは後ろに右手を回し話を始める。徐々に口元が緩みだし、笑みを浮かべていた。その笑みは馬鹿にするようなものではなくどう反応するか楽しみにしているような笑みであった。


「貴様に名乗った覚えは無いはずだが」

トールはあえてリベラリムの確信をつくような内容ではなく、名乗った筈もないのにさも当然のように名前を呼ばれたことを指摘する。


「ええそうですよ。貴方から直接名を聞いたわけではありません。簡単なことですよ。貴方が大切にしているこの"人形の記憶"を奪ったときに色濃く残っていたのは貴方とそこの少女の記憶でしたので。貴方もそこまで確信を持ったような目をしているのですから気付いているのでしょう? それでもそらそうとするのでしたら私が教えて差し上げましょう」

話し始めたリベラリムはトールと突然指を指されたリースに答える。それがどんな意味をしているのか理解したトールは、歯を食い縛りながら怒りの感情をリベラリムにぶつけた。だがリベラリムは"その反応を待っていた"とでも言うように笑う。


「これは貴方方のよく知る ケイメン・オカダ であり、我ら魔界で作られた人形。つまりは人の形をした偽物、これまで人として過ごした思い出も感情も姿も何一つ本物ではない。これが本当の正体! いずれ使えるかもしれないと人界に送ったただの諜報要員。そしてこれから大切な仲間であった筈の貴方方をその手で殺す。それだけの存在なのです!」

リベラリムは高らかに宣言するようにこの場の全員に語る。それを聞いたことで理解できずにいた会ったことのないエアルとグローザ、ソル、そして半信半疑だったトール、リース以外の全員が事の重大さを完全に理解した。


「私の目的はユウヤだけ、ですので数人はこの"魔形偽人"に殺してもらいましょう。さあ行きなさい」

リベラリムはあくまで勇夜を狙うと伝え、魔形偽人と呼ばれ、ケイメンであった者に指示をだし、何も言わずに羽を広げて凄まじい速度突っ込んで来た魔形偽人に勇夜達は反応が遅れてしまう。実戦に開始の合図などない、その少しの判断ミスが彼らを危険にさらしてしまう。




しかし魔形偽人は突如何かに飛ばされるように真横へ勢いよく吹き飛ぶ。だが防御していたのか、数十m程で羽を広げて何事もなかったように着地し、その無表情の顔で飛ばされた原因を見ていた。


「悪いがアイツの相手は俺がする」

勇夜達とリベラリムの間に立ち、そう言ったのはトールだ。どうやら目にも止まらぬ速度で接近し、魔形偽人に蹴りを食らわせたようだ。そしてそのトールはいつもと違う雰囲気と少しばかり髪が上を向き、体が発光しているかのように雷を纏っていた。それは以前リベラリムに使用した物と酷似していたが、あの時程の大出力ではない。しかしトールのそれは以前よりも強く感じられた。


「トール! 1人で相手するのはヤバい!何人かで時間を稼いだ方が…」

ヴィルはトールに話す。姿はケイメンに似てはいてもその力は魔族と何ら変わりない。いずれ応援が来る、それを理解しているからこその指示だった。


「何人か割いて戦える相手かアイツは? どのみちまともにやって勝てるわけじゃない。貴様の考えは理解するがこちらの方が効率的だ。それに姿形が変わろうと俺の事を忘れていようと、アイツが誰の物なのか思い出させてやらなければいけないからな」


「っ!」

ヴィルはその言葉に止まってしまう。


"こうなった以上俺達に出来ることは全力で時間を稼ぐこと。相手は実力が上の2人、同時に相手するのは不可能、これが最も最適に近い。だが最善なのか? "

ヴィルは指揮をとる者として悩んでいた。悩む時点で危険な行為ではあるが、リベラリムが興味深そうにどう動くかこちらの動きを観察していたことで戦闘が止まっていたことで時間が生まれていた。


「私も……行く。」

リースはそう言うと周りに名前を呼ばれるのを無視して、足早にトールの元へ行く。


「リース、お前が相手する必要は無いぞ」


「ううん……私も…家族……私だって…アイツ…許せ…ないけど…ケイメン…を…助けたい」

トールはあくまで冷静にリースを戦わせまいとしていた。だがリースは首を振り、トールと一緒に助けようとする意思を見せ、それを聞いたトールは小さく笑みを浮かべた。


「ケイメンの相手は俺とリースでする。貴様らはあの魔族をやれ。目的は理解しているだろうが、奴の相手を譲ってやるんだ。抜かるなよ欠陥!」

トールは勇夜達にそう言った。その言葉から覚悟を受け取った勇夜とヴィル達は視線をリベラリムに向けた。そしてそれを合図と受けたリベラリムは魔形偽人に指示を出し、自身も右腕に大きく鋭利な刃を発生させて背中から羽を出す。


「ああ! ここで死ぬ気はない。お前も負けるなよ!」


「当然だ!」

勇夜は最後にトールに言葉を放つ。トールもそれに答え、互いに動き始めようとする相手に構える。

そして同じ場所で二つの戦いが始まる。




「さあ貴方方の足掻きを私にお見せください!」

リベラリムは一対の黒い羽を広げ、右腕の刃を向けながら勇夜達に迫る。


そして鈍い金属音を立てて始まりの衝突が起こる。


「俺が前で防ぐ限り、すきにさせねぇ!」

始めに相対したのはソルだ。左手の盾でリベラリムの力を受け流し、初撃を防ぐ。


「ほぉ、様子見ではありますが上手く防ぎますね。ではこのくらいではいかがでしょう」

リベラリムは防がれたことによる驚きというよりは、感心をしていた。どのくらい戦えるのか試しているように初撃よりも力を込め、速さも増す。


「ふっ!」

ソルはリベラリムの動きを出来る限りの見極め、力で直接防ぎに行かずに受け流すことを第一に動いていた。


"これでまだまだお試し段階かよ。本当に親父様様だ。先祖の魔族との戦争で対峙した経験を教わっといてよかった。今はともかくこれより上げてこられたら直接力で防げば盾が持たねぇ。反撃を念頭に置かなきゃまだいける"

ソルは目の前で対峙するリベラリムの圧力に冷や汗をかきながらも何とか立ち回っていた。


「ふむ…中々ですがそれだけしか芸が無いのでしたら、もう退場していただいて構いませんよ」

リベラリムは急に興味が無くなったように言葉を発すると、刃に薄く青い炎を纏い、大振りで上から袈裟に切り下ろす。ソルは先程とは違う攻撃に瞬時に防ぎ切れないと察するが、その顔は絶望ではなく口角を上げて笑みを浮かべていた。


「嘗めんなっ!」

ソルは盾を上に向け、受け流すのではなく直接防ぎに行く。リベラリムの刃が触れるが、ぶつかるような金属音はせずにいとも容易く切り口が出来る。このままでは数秒持たずに盾は切り裂かれるだろう。


「ッオオオォ!」

しかし切り口が広がり始めた辺りでソルは盾を払い、リベラリムの刃を弾く。これはソルの盾の力である相手の衝撃を貯めて打ち出す技だ。ソルはリベラリムに隙を作るための力を貯めるまで、受け流しながらそれを待っていたのだ。


「まだだ! 盾式 拘束術 "砂粒縛(さりゅうばく)"」

ソルは盾をそのまま地面に突き立てる。するとリベラリムの立っていた地面が小さな蟻地獄のように浅く崩れ、リベラリムの両足を鎖のように砂が縛る。


「行くぞ!」

その靖耶の声と共に、靖耶とグローザがソルの両脇からリベラリムに迫る。


「ハアァッ!」

"如月流 剣術 廻旋月雅裂(かいせんつきがさ)"


「オラァァァ! "雷蹂堕唸(らいじゅうだてん)"」

ほぼ同時に左右から攻撃が繰り出される。リベラリムの右から靖耶が左に回転しながら右脇腹目掛けて刀を振り、左上からはグローザが頭部に向けて唸るような雷を纏わせた鎚を打ち下ろしていた。直撃は免れず、本来であれば防ぐ行動すら難しい連携と攻撃。しかしリベラリムは冷静だった。

数秒の狂いの無い同時攻撃、しかしほんの僅か直撃は靖耶の攻撃が早かった。それを瞬時に見抜いたリベラリムは右足に絡み付く砂を微量の青い炎で吹き飛ばし、打ち上げられていた筈の右腕の肘と右膝で靖耶の刀を挟む。それをグローザの鎚が届く前に行い、次に左上から迫る鎚を額に張った結界で頭突きをした。


「「なっ?!」」

抜け目の無い攻撃をしたつもりであった2人は、その防ぎ方に同時に驚く。そしてリベラリムは前にいる3人とまだ左足に絡み付く砂を視認しづらい魔力の衝撃波を放ち吹き飛ばす。


「せぁっ!」

"水輪渦"

3人が飛ばされると同時に間髪いれず、入れ替わりにセリエが剣に勢いがある水を纏わせリベラリムに技を繰り出し、リベラリムはそれを刃で受ける。


「ぐぅぅ!」

セリエは歯を食い縛り押し負けないように力を込めるがリベラリムは苦もなくそれを切り払い、態勢を崩したセリエに刃を向ける。セリエは態勢を崩しながらも迫る刃を避けようと動くがそれでも間に合わない。直撃かと思われたリベラリムの刃は間一髪、セリエの脇を掠めただけで当たることはなかった。


「さがれセリ!!」

後方でヴィルがセリエに向けて両手を突き出しながら叫ぶ。リベラリムとセリエの間に不自然な風が流れたことで、逸れた攻撃はヴィルの"旋逸"による物だとセリエは理解し、直ぐ様リベラリムから距離をとる。


「ん?」

セリエが離れた時にリベラリムの周囲を黒い魔法陣が囲うように発生した。


「"針闇"」

これはアリサの闇魔法による攻撃だった。全方位から闇の刺がリベラリムを襲う。だがリベラリムは顔色一つ変えずに自身の周囲を丸く透明な青い結界で囲い防ぎ、アリサの魔法はそれに触れたと同時に崩れ去る。


「まあまあでしょうか、ですが……」

リベラリムは息を吐くと言葉を発するが何かに気付くと言葉を止める。


「まだ終わりじゃない」

"掌底重練煌波"

いつの間にかリベラリムの背後に付き、右手をリベラリムの背中に突き出した勇夜が、振り返る前に技を発動させて勢いのある爆破が起きる。リベラリムの周囲は一時的に砂塵と煙が広がるが、ヴィルは周囲の風読で砂塵や煙の影響を消し、全員が態勢を整えてヴィルの近くに戻り、構え直していた。

勇夜は少なからず手応えは感じていたが、倒すことは勿論、手傷を与えているとも思っていなかった。あわよくば多少ダメージが入っていればまだ希望は持てるが、やはりあまくないと改めて理解することになった。


「少々私自身、貴方方を過小評価し過ぎていたようです。ユウヤのあの状態を見るまで退屈しのぎになればと思っていましたが……もう少し上げても問題無さそうですね。結果は変わらずとも貴方方は私を楽しませてくれるようです。では参りましょうか」

視界の晴れた場所でリベラリムは右手で服を叩く。少しだけ上着の裾が焦げ、肘と膝の部分の服に切り口があったが、その白い肌と黒い髪に汚れはなく、直接的なダメージは感じることが出来なかった。リベラリムは始めより楽しそうな笑みを浮かべているものの、纏った雰囲気は更に威圧感を増し、それは勇夜達を身震いさせた。リベラリムは話を終えると右腕の肘から指先、両足の膝から爪先、そして頭部を青い炎が包む。数秒経たずに炎が飛散し、露になったのは先程のように人のような見た目ではなく、右腕は肘まで頑丈で黒い鎧のような物で覆われ、太い一つの線が脈打つように青い炎が光り、同様に両足も膝まで同じ様に変わっていた。そして頭部は左に大きな角が生え、赤く光る瞳の周囲を青いラインが囲う。その姿を見た誰しもが、あまりの変わりように恐怖を感じずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ