強く進む為の覚悟を
"翌日"
ラルク教官の授業が始まる。
「昨日の訓練お疲れさん。昨日も言ったが、上手くいったいかないは、これからどうするかだ。まだお前達は成長途中でいくらでも実力を上げることが出来る。だが、出来ないと思い早々に諦めれば、今後お前達の成長はない。この世界で生き残るには、強くなるしかないそう思って日々励むように」
ラルクの激励を含む昨日の話が出る。
「そして、これからのお前達が進む進路や評価に直接結び付いて来る行事が始まるわけだが、1つは、お前達も目標にしているだろう剣騎祭だ。これはあと一月もすれば開催される。騎士団やギルドも見に来る行事だ。場合によってはスカウトなんてこともあるからな。」
"剣騎祭はクラスの代表10名を選抜し、学年ごとのトーナメント戦を行うことである。試合は特騎課、騎士課混合で一対一の戦闘を行い、競うものである"
「そしてもう1つ、剣騎祭の後になるが、実地任務研修というものがあってな。少し前からやるようになったから、知らないものもいるかもしれんから簡単に言うぞ」
"実地任務研修とは、ギルドと騎士団に研修という形で実際に任務を行うことである。一年目は全員ギルドの研修に、二年目は騎士団の研修、三年目はギルドか騎士団を選択し、研修する。三年目の場合騎士団にいくには、試験に合格した者しか研修することはできない。
任務は実戦任務が主となり、比較的低ランクだが魔物の討伐や護衛・警護等を受けることになる。研修は、クラスでチームを組み参加する"
「以上だ」
周囲がガヤガヤしだした。剣騎祭で代表になりたいや実地任務研修で実際にギルドで実戦が出来るから楽しみ等の話が聞こえる。
「静かに! 授業始めるからな」
"昼休憩"
「剣騎祭の後に実地研修ね。今から楽しみだな!」
「討伐任務とかするんでしょ?対魔物なんてやったことないから気にはなるわね」
食事中に、ヴィルとセリエが先程の話について話し出した。
「そうだね。あと剣騎祭は聞いてたけど、代表に選ばれなきゃ行けないんだね。なにか選ばれるきっかけとかはあるの?」
「代表としてでれるかどうか、一番関わってくるのは実技の授業だな。週に3回くらいあって、訓練と違い制限無しで単体と団体戦をやるんだ」
アリサの問いにヴィルが答えた。
「そうなんだ。ありがとう」
特騎課は全員で20人、騎士課は30人の人数になっている。つまりは合計20人のトーナメント戦だ。
「そうだ!剣騎祭に合わせて訓練場も放課後自由に利用出来るようになるらしいし、明日お休みだから今日残って皆で特訓しようよ」
「俺は、構わないぜ」
「私も今日は、少し時間があるから大丈夫」
セリエの提案した居残り特訓に、ヴィルとアリサは同意して、3人で勇夜を見た。
「…わかった俺もやるよ」
この提案は、勇夜自身現時点を知るいい機会だとも思った。決して3人の勢いに飲まれた訳じゃない…勇夜はそう思いつつ席を立つ。
"放課後"
第一訓練場
「お!まだそんなにいないな」
ヴィルの言うようにまだ、利用している生徒は多くなかった。
この学園には、大きく分けて2つの訓練施設がある。1つは昨日訓練した第一訓練場、主に特騎課が使用する。2つ目は第二訓練場で、主に騎士課が使用する所で大きさは、第二の方が大きい。そして、その他にも小規模の模擬戦闘施設があるが、主に上級生の戦闘場所になっている。1〰️3年を含めるとかなりの生徒がいるので、使用時は申請しないと訓練場所が無くなってしまう。
「よし、準備運動して早速始めようぜ」
そして、準備運動が終わり、
「ヴィルは、実技で勇夜と結構組んでるもんね。だから、今日は私が勇夜とでもいいでしょ?ちゃんと戦ってみたかったし」
「俺は、それでいいよ」
「了解、じゃあ俺はフェルムとだな。どうせだし、属性強化と魔弾も有りでやるか。実技の練習も兼ねてな」
各々の組合せが決まり、第一訓練場にある模擬戦闘場に移動する。
「よし、じゃあルールは訓練と同じで結界が壊れたら、終了な」
ヴィルの説明に了承する。
"セリエ・勇夜"
「じゃあ早速行くよ。勇夜!手加減なんてしないからね」
「ハァッ!!」
セリエが剣を構え、まず身体強化で攻めてくる。
セリエの剣術は、基本に忠実で隙の少ない技を使う。手数と正確な狙いで相手を崩し、一撃を見舞う。有り体に言えばオーソドックス故の強さだ。
対して勇夜は拳闘による超近接戦、セリエの速度に全てを捌くことは出来ない、手甲で受けつつ攻撃に転じる。
「へぇー...ちゃんと戦うのは初めてだけど、やっぱり反応してくるんだね。侮ってたわけじゃないけど...なら!!」
勇夜の攻撃を捌き、その勢いで回転し背後に回って横薙ぎにセリエは剣を振るってきた。
勇夜は辛うじて防御姿勢を取ることができた。だが距離が離れてしまう。
「水弾!!」
セリエの手から属性弾が放たれる。
「...っ!」
勇夜は何とか反応し、右に転がり躱す。
「やるわね、でもこれで決めるよ!」
転んだ先にはいつの間にかセリエが迫っていて、剣には属性強化がされていた。セリエの属性は水、多種多様な使い方があるが、持っている剣の周りの魔力は勢いがあり、切れ味が上がっているように見える。体制を整える時間もなく、セリエの剣が迫る。
「しっ」
セリエの剣が壇上に当たり、切り傷を残す。
「避けた?」
剣が振られる瞬間に、勇夜は足に属性強化し魔力を暴発させ、小規模な爆発を起こし移動したのだ。
勇夜の属性は火、昔から勇夜の魔力コントロールは得意のようで、色々使い方を考えたことで編み出した結果このような使い方を編み出したようだ。
だが無理に行ったことで勇夜本人にもダメージがあり、結界にも影響していた。
瞬時に攻勢に転じ、手甲に属性強化して攻撃に移った。
「行くぞ!」
「そっちが決めに来るなら、受けて立ってあげる!」
互いに攻めの姿勢を見せ、動く。
”如月流 拳闘術 攻ノ型 掌底煌破”
「はぁぁぁぁぁ!!」
セリエと勇夜の攻撃がぶつかる。そして勇夜の放った掌底から爆発が起き、セリエの魔力と当たり白煙が上がった。
二つの結界が壊れる音が聞こえる。その勝敗は...
「ふぅ、今回は私の勝ちね!」
そうやってセリエが笑顔で声を上げる。
「そう...みたいだな」
「でも、避けるときの爆発の反動がなかったら、負けてたのわたしだったかもね」
「いや、あのタイミングなら当てられて、それで終わってただろう」
勇夜の表情は何か考えているようだったが、互いに先程の戦闘に関しての感想を言い合っていた。
そうして、もう一方の試合を見ると、まだ戦闘が続いていた。
”アリサ・ヴィル”
互いに、属性強化し打たれては受け、受けては打つの膠着状態になっていた。
「長剣をそんな上手く扱えるなんてな。おまけにまさか光属性で、攻めにくい...な!」
「グラッド君こそ、長物なのに上手く捌いて、認識ずらして内に入っても反応されて決定打を当てれない!」
ヴィルの属性は風、属性強化することで風を感じて攻撃に反応しやすくしたり、切れ味や速度を上げれるというのは、話で聞いたことがある。
アリサが今使っているのは光で、属性強化の基本は認識を少しずらしたり、防御に充てることでかなりのダメージを減らす事ができる。
「行くぜ。風弾!! からの風斬!!」
属性弾の後に、風を纏ったグレイブで鎌鼬のようなものを放ってきた。
アリサは、即座に手を出し前に簡易に結界を張った。ヴィルの攻撃を防いだ瞬間
「くらえ!」
上方より、ヴィルがアリサにグレイブを薙いできた。
アリサは一瞬反応が遅れ、防御を十分に出来なかった。
「くぅぅ...」
何とか持ってるけど、押されてる。
「悪いが、このまま勝たせてもらうぜ」
更に、魔力を込め押し込んでくる。
"このまま…負けるのは嫌!"
アリサの剣が弾かれ、ヴィルの攻撃が当たる瞬間
「あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁ」
アリサの周囲に白と黒の魔力が纏われた。そして剣が振られヴィルの体に当たる。
そして、互いの結界が壊れた。
「ぐはっ!! 痛ってて、マジかよ」
ヴィルが空中から落ち、背中を打ち付ける。アリサを見るが、属性強化は解けており、荒い息を立て座り込んでいた。
「ちょっと、2人とも大丈夫?」
セリエが駆け寄ってくる。
「俺は、背中打っただけだし大丈夫」
「ふぅ...私も大丈夫。ごめん、私もう帰るね」
ヴィルは背中を擦りながら答え、アリサは息を整え答えた後に、急にこの場から出て行った。
「ねぇ、さっきのアリサが出したの属性強化?一瞬でちゃんと見えなかったけど、2色に見えて、もしかして複数持ち?」
「俺は、すぐに攻撃当てられたからよく分からなかったな」
「複数持ちなんて聞いたことないし、もしそうならすごいことなんじゃない?!」
セリエが興奮するのもわかる、属性の複数持ちは聞いた限りいないのだ。もしかしたら、発見されてないだけで存在はしているのかもしれないが。
「だとしても、俺達が気にしても仕方ないことだ。いずれわかるだろうし」
勇夜は会話を切り上げ今日は解散しようと言い、その後少し会話した後に解散となった。
次の日、学園は休日
いつものように目が覚めた勇夜は、如月家で行われる集まり事について考えていた。
今日は、如月家の道場が始まっての20年記念なのだ。その為関係者が集まってくるので居心地が悪く、家を出て以来ほとんど帰ることはなかった。
考えている間にも時間は過ぎていく。とりあえず、家からは出ることにした。実家を出たのは俺が12になった年なので、約4年程顔もまともに見せてはいない。
頭がモヤモヤしながら、昔よく通った道を抜け、きちんと答えを出せないまま着いてしまった。開始は夕方からで今は昼時、つまりは勇夜は早く着きすぎたのだ。
勇夜が門の前で唸っていると
「あら? 誰かもう到着したのかと思って出て来たら、来てくれたのね~勇夜」
門が開いて、ふわふわした話をしながら出てきたのは、雰囲気と同じふわふわした栗色の髪を肩より少し伸ばした 如月 晴香 勇夜の母親だった。
「さ、上がりなさいな。お昼は食べたの?それともお部屋に行く?」
「大丈夫。それより父さんはどこにいる?」
「あら~勇夜は、久しぶりのお母さんを放っておいてもうお父さんのところに行っちゃうの?」
少し刺のある言い方をされ、勇夜は少し静止した。
「ふふ、冗談よ。あの人なら今、道場の掃除でもしてるんじゃないかしら。さっき頼んだから」
「わかった。父さんのところに行ってくる」
晴香の話を聞き、勇夜は道場の方に向かった。
「気を付けてね~ ………ダメね、久しぶりで話したいこといっぱいあるのに… うん!!しっかりしないとね!!」
晴香は、気持ちを入れ直して厨房に向かっていった。
道場の入口に着いた。
「入れ」
引戸に手をかけ、開けようとして声が掛けられた。
「……失礼します」
道場に入ったそこには、掃除用具を持った勇夜の父親がいた。
短髪の黒髪で所々白髪の見え隠れするのは 如月 鋼誠 如月家現当主で、この道場の師範だ。しばし沈黙が続いた。勇夜はこちらから話したいことを伝えようとしたが
「鍛練は、続けているのか?」
話そうとした口を閉じ
「ああ」
「剣の……剣の鍛練は、やってないのか?」
「訓練があるから、体を動かす程度には」
「そう…か」
素っ気ない親子の会話が続く。そうして鋼誠が息を吐き
「構えろ、今どの程度か見てやる」
勇夜は小さく頷き、構えを取る。向こうも剣術ではなく、無手で相手をするようだ。
「こい」
その言葉と共に勇夜が飛び出す、そして……
「強くはなったな、……だがまだこの程度か」
道場には、平然と立っている鋼誠と横たわっている勇夜の姿があった。
「ハァハァ! くそ!!」
荒い息を出し、勇夜は悪態をついた。少し間が空き、聞きたかったことを聞いた。
「父さん…俺は…俺は今より強くなれるのかな?」
その言葉に鋼誠の顔が歪んだ。
「はぁ… はっきりと言うが、確かに今よりは実力は上がるだろう。だがそれだけだ。強者と戦えば為す術も無くやられるだろう。…剣を捨てた今のお前ではな」
冷たく、はっきりと言葉が続いた。
「お前は、戦闘のセンスと魔力コントロールは良いが、魔力量と拳闘術は並み、どんなに努力しても越えられない壁はいくらでもある。自分の過去を乗り越えられないようならお前に先はない。それでもお前は、先へ進むのか?強さを求める覚悟はあるのか?」
話の後に、こちらに聞き直してきた。
「俺は…俺は逃げた。辛くて悲しくて弱かった自分が嫌いで…俺はこれからも如月流の剣術を使わない…自分が許せないから、でも……それでも強くなりたい、いつかあいつと向き合うために、弱いままでいたくないから」
きっとかなり自己中心な言葉だろう。強くなる覚悟があると思えないほど曖昧で、それでも今の勇夜には、これが精一杯の返答だった。
鋼誠は、勇夜の目を見て手を差し出し立たせた。
「付いてこい」
鋼誠は一言口に出し、この場から移動して勇夜もついていった。
案内された場所は、勇夜が小さい頃に入ろうとして怒られた部屋だった。扉を開けて中に入るとそこには、結界がはられ保管されている手甲のような物が置かれていた。
「あれは?」
勇夜が聞くと、鋼誠は近付き、結界を解いた。
「これは、俺達が故郷を離れるときに俺の親父…お前達の祖父に当たる人に渡されたものだ。名前は、"陸真" 真なる6つの力という意味らしい。ふぅ… この武具には、吸収と放出の力がついている。簡単に言えば、相手の魔力を吸収し自らの力とする、武具に溜めた魔力を放出するといったところか」
話が少し途切れた。この先を言うか迷ってるようにも見える。
「俺は、この武具を呪具の類いだと思っている。確かに魔力を吸収し力に出来る、おそらく爆発的な力になるだろう。だが聞こえは良いが他人の魔力を取り込むんだ、どれだけ体に負担が出るかわからない。それに自分の限界を越えた魔力の吸収や調整を失敗すれば、魔神経を壊すか最悪死ぬかもしれん」
重い口を開け、淡々と説明がされる。
「それともう1つこの武具には、デメリットがある。この武具の使用は契約する必要がある。そして、契約と同時に自分の魔力総保有量は増えることはない。これから成長するかもしれないものを無くすんだ。大きな力は、それだけの犠牲もいるということだ。お前は、それでもこれを使うか?」
真剣な目で、勇夜に再度問いかけてくる。強くこれから進むために覚悟はあるのかと。
「俺は、それでも……強くなる道があるなら、それを選ぶ!」
俺は手を伸ばし、武具に触れた。
その瞬間武具が光り勇夜の体に入ってきた。そして左手に小さく紋様のようなものがついた。
「がっ!!あ"あ"あ"ぁぁ」
体が熱い、切り刻まれたかのような痛みが勇夜を襲ってきた。
その光景を鋼誠は、静かに見ていた。本当はもう1つ話していないことがあった。
"やはり認められてしまったのか、願わくは何も反応せずにいてくれればよかったが…通常の魔力であれば反応しない、魔力質が変化していなければ…勇夜もまた、運命に選ばれてしまった"
鋼誠の心境は複雑だった。
少しの時間が過ぎ、勇夜は次第に落ち着いてきた。
「ハァハァ…これで契約出来たのか?」
「ああ、これで正式にお前の武器だ。………少し休め」
勇夜は緊張が解けたのか、糸が切れたように倒れこむ。それを鋼誠は受け止め、そのまま自身の背に乗せる。
「本当に、大きくなったな」
子の成長を改めて感じ、勇夜を部屋の寝室まで運び、横にさせる。
「きっとこれから先、色んな事があるだろうな」
勇夜の頭を撫でながら鋼誠は呟く。
日が傾き、次第に赤みを増す空を見上げ、鋼誠は立ち上がる。外からは話し声が聞こえ、人が集まり始めたのを感じ、自分が行くべき所へと向かった。