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召集


~翌日 カルディーク皇国ギルド前の集合場所~


現在は、集合予定より30分前の時間である。今集合場所には思ったより早く着いてしまった勇夜と、何の偶然か同じくらいに着いたアリサの2人が居た。昨日の事があったからかどうかわからないが、挨拶を済ませると会話がなく、無意識に2人の立ち位置が少しだけ離れていた。アリサはどうかわからないが、勇夜はアリサの事を少し気にしていた。


そんな様子を建物の角から息を潜めて見守る2つの影があった。


「"ちょっと何あれ? 2人の雰囲気おかしくない?!"」


「"みたいだな……昨日勇夜がアリサとどっか行ったのが原因か? というか行きづれぇ"」

セリエとヴィルは少し離れた場所からひそひそと会話をしていた。誰がどう見てもいつもと違う雰囲気を出す集合場所に居る2人を見て、どうすべきか悩みに悩んでいた。


「あ"っ?! 何やってんだお前ら」

不意に後ろから声が掛けられ、セリエはビクッと肩を震わせ、ヴィルは誰かが近付いていることに気づいてはいたので驚くことは無かったが、2人は勢いよく振り向き後ろにいるポケットに左手を入れたグローザとそのすぐ後ろに立つエアルと目があった。


「あぁ…えっとぉ、……グローザさんエル先輩こんにちは」

セリエは始めに目を泳がせながらどう答えるか考えたが、とりあえず挨拶をすることにした。それに乗じてヴィルもお辞儀する。


「? こんにちは……集合場所ここじゃないよね? 何でここにいるの?」

エアルとグローザの位置から向こう側は見えず、エアルの疑問はごもっともである。


「まあいいか。何だかしんねぇが先行くぞ」


「ちょっ?! グローザさん、まっ」

セリエはグローザが気にせずに角から出ようとしたので、慌てて止めようとするが間に合わず、グローザの体が集合場所から見えそうになる。


「……ぐぇっ!」

グローザが前に歩を進めようとした時、首の後ろの襟を強く引っ張られる。引っ張ったのはエアルであり、エアルの身長がグローザより低い為必然的に下方向へ引っ張る力が強くなり、 グローザは警戒していなかったので尻餅をついてしまった。


「セリエちゃんがまだ話してるんだから聞いてあげれば?」

グローザは咳き込みながら後ろのエアルを睨み付け悪態をつこうとするが、見下ろすエアルの顔と声質が脅すような印象を受け、グローザは開こうとした口を閉じた。


「それで? まだ時間もあるし、どういう状況か教えてくれる?」

エアルの雰囲気に引きつった笑みを浮かべていたセリエとヴィルは少し固まっていたが、エアルの問いに何故今の現状に至るか説明を始めた。


「別にこんなとこ居なくても行きゃいいじゃねぇか。んな事でこっちが悩んでても仕方ねぇだろ。俺は行くぞ」

グローザは話を聞いて溜め息を吐くと、言いたいことを言ってそのまま歩を進めた。そんなグローザを今度はエアルも止めようとせずに否定も肯定もしなかったが、ここに留まることは否定的なようだ。


「そうだね。今回はグローザの言う事が正しいかな。言い方はともかくここにいても仕方ないと思うよ」

エアルはセリエとヴィルにそう言うと、グローザの後に続き角から移動を始めた。

セリエとヴィルはそんな2人を見て、お互いに顔を見合わせて"なるようになれ"と2人の後に続くように早足で集合場所へ向かった。


「早いなお前ら」

グローザは勇夜達に近付いていくと勇夜が気づいて目があったので、グローザは今来た風を装って普通に会話する。それに対して勇夜とアリサは先に挨拶をしていた。


「グローザさんは皆と来たんですね」


「ん?あぁ…そこの角でこいつらと会ったからな。で?お前らはなんでそんな離れてんだ?」

勇夜は何気ない会話をするがグローザは普通に返し、そして爆弾を落とす。特に前触れなく出されたその言葉は後ろに居た者達を驚愕させた。


「あぁ…いや、特には…」

濁すような言い方をする勇夜にグローザは眉を寄せる。そして何かを言う前にエアルが動いた。


「ごぉっ?!」

エアルはグローザの左脇腹を右の肘鉄砲を食らわせ、グローザは脇腹を抑えながら膝をつき、悶絶していた。


「デリカシー無さすぎ」

悶絶するグローザを上から冷めた目で見下ろしたエアルは、低い声でそう言った。

セリエとヴィルはそんなグローザを見てエアルの言うことを肯定するように頷き、それを見た勇夜は少し驚くが、対してアリサはただ首をかしげて疑問に思うだけのようだ。


「あれ? 俺が最後ですか? 皆早いな」

いつの間にか近くまで来ていたソルが、今の状況を知らないためか普段通りに声を掛けてきた。


「そういえば靖耶さんがまだ来てないな」

ソルが来たことで少しだけ気まずさが緩和された事で、周りを見たヴィルはそう気付いた。とはいえまだ時間としてはまだ10分程の余裕がある。ソルも別に遅れてきたわけではないのだが、他の面々が早く来すぎたという事だ。

とりあえず靖耶が来るまで各々自由に待っていようということになったようだが、そんな中でセリエはアリサに、ヴィルは勇夜に近付いて行った。


「"というか結局何かあったのか? 昨日2人で帰ってたみたいだし、相談なら乗るぞ。正直端から見ててアリサとの…………"」

勇夜の肩に肘をのせて、声を潜めながら話し出すヴィル。2人の関係を心配しての発言ではあったが、途中で言葉が止まる。


"いやいや、アリサとの距離が前より離れてるって言ってどうするよ。アリサは正直どう感じてるかわからないけど、どう見ても勇夜はアリサを気にしてるっていうか、少なくても好意は持ってるだろうし……好意を持ってる人との距離が離れたって言ったら落ち込むだろ"

ヴィルは暫し考える。このまま言葉を続けてしまえば自分の友人が傷ついてしまうのではないか、心の中で冷静にどうすべきかを考えていた。

時間にすれば数秒たらずではあるが、急に話が止まったヴィルに勇夜は疑問に思いながらも、その先に言おうとしていた言葉が何なのか予想…というよりかは自覚していた。


「すまない、事務作業に手間取って遅れた」

気まずい雰囲気が流れたこの場所に、制服姿の靖耶が現れた。因みに全員制服姿である。


「事務作業? という事は会長は学園に行ったんですか? 確か学園は閉じてるはずじゃ」

靖耶の言葉に反応したエアルは、事務作業というワードに疑問を示した。


「ああ、確かに殆ど誰も居なかったけどな。一応俺の仕事も残ってたし、それに……」

靖耶はエアルの疑問に答え始めるが、少し間が空く。


「……もし戦争に勝ったとして、俺が生きてる保証も無いしな。学園がまた始まったときに纏める奴が居ないと困るから、引き継げるようにしておいたんだ」

靖耶は何気なく話していたのだが、この言葉は周囲の空気を重くした。この場に居た全員が気づきながらも考えないようにしていた…口に出さずにいた…

敗北はおろか、勝利したときに自分が生きていないかもしれないという事実。それを実感してしまった。


「っ! すまない…気が利かなかったな。軽率な発言だった」

靖耶は重い雰囲気を瞬時に感じ謝罪をした。全員わかっていた。靖耶が謝罪する必要がなく、ただその事実を述べただけだということも……だが、誰も何も言うことが出来なかった。




「そろそろいいかい。あまり時間を掛けすぎると間に合わなくなるんだが、この不毛な状況はいつまで続くのかな?」


「わっ?! なっ!何よ!居たのならさっさと出てきなさいよ!」

静かな雰囲気漂うこの状況で後ろ……正確には集合場所になっていた所のすぐ後ろのテラスに座っていたトールが不意に話し掛けてきた。それに驚いたセリエは変に高い声を出してトールの方を向いた。


「何を驚いている。そこの君の婚約者は俺達に気付いて居たようだぞ。それに始めに来たのは俺達だ。まあ、あまりに遅いので少しばかり寝てしまったが」

トールは"やれやれ"といった呆れた表情で話し出す。トールの目の前に座るリースは時折小さく頷いていた。そしてヴィルの事が出たことで、セリエはヴィルに向き直り、どういうことか問いただす。


「いや、皆気付いてると思ったんだよ。それに靖耶さんが来てないなって言っただろ? そう言う事だよ。 ………悪かった、悪かったって」

ヴィルの話しにセリエと靖耶を除く全員が"そういえば"、と思いだし頷いた。そんな中でセリエだけは頬を膨らまし、ヴィルを下から見上げた。ヴィルは頭を掻きながらセリエに謝り、頭を撫でた。

セリエは"その手には乗るか"といつものような雰囲気を出さずにそっぽを向き、そんなセリエを見たヴィルは苦笑する。


「とりあえず兄さんも来て全員揃ったから、時間もちょうどいいしギルドに行こう」

勇夜は近くにある時計を見て、ギルド到着までの時間を考えて移動しようと口に出した。ここで勇夜が切り出したのも、何一つ解決しない話題から抜け出そうと考えた結果かもしれない。そして勇夜達一行はギルドへ歩を進めるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


ギルド内部 受付


宣戦布告からまだ翌日、ギルドでは街中以上にあわただしく隊員達が動き回っていた。


「ユノさん、こちらの書類作成終わりました」


「ならこの書類と纏めておいて、後でマスターに私が持っていきます。次は近隣の国への情報共有の申請をお願い。貴女は現状出払っている高ランクの隊員の状況と帰還の指示を。それから…………私は一度マスターと蒼帝様の所に行きます。とりあえず今の仕事をしていてください」

勇夜達がギルドに入ると、慌ただしい中で1人職員が受付の中心に居るユノルと話し、ユノルは淡々と指示を出し、他の職員にも対応していた。ユノルは話の途中で勇夜達に気が付くと、一旦話を止めてから指示を出して書類を持って勇夜達に近付いて行った。


「待ってました。早速マスターの所に連れていきますね」


「離れて大丈夫何ですか? 」

額に少し汗を滲ませたユノルが近付き、直ぐにこの場を離れようとする。そんな状況を見て、靖耶が代表してユノルへ話し出した。


「ええ、マスターに用があるのは事実ですし、それに貴方達が来たら優先で通すように言われてるの。今この状況であまり時間を潰すのは良くないから行きましょう」

ユノルは靖耶の問いに怒ることもなく、小さな笑みを浮かべて答えた。確かにここで変な時間を使う方が迷惑になってしまうのかもしれない。そう思った全員は"はい"と返事をし、ユノルの後へ付いていく。



「ユノル・フローア です。特殊編成部隊の方をお連れ致しました」

勇夜と靖耶は一度来たことのある扉をユノルはノックし、中に居る人物へ用を伝える。"どうぞ"という声がした後に扉を開けて勇夜達は中に入っていった。中には大量に積まれた書類を確認するノイルとその前で同じ様にしている蒼帝の姿があった。


「マスター、こちらに頼まれていた書類を纏めておきます」


「ありがとう。それとこれ、確認済みの書類ね。担当に渡しておいてね」

ノイルは先ず勇夜達ではなくユノルの対応をし、それぞれ用件を済ませるとユノルは"失礼します"と部屋から出ていった。扉の所にどうすればいいか立っていた勇夜達だが、ノイルに座るよう促されて近くの並べられた椅子に各々座りだした。


「改めて全員揃って頂きありがとうございます。時間も惜しいので本題に入ります。皆さんもご存知の通り、私達は魔族からの宣戦布告を受けました。それにともないギルドでは可能な限りの戦力補強と準備を行っています。騎士団側も同様です。既に一週間という限りない時間が決まった中で私達に出来ることは………というよりは万全を期すための時間も準備もありません。全力や健闘と言っておきながら中々狡猾なやり方です」

蒼帝は全員が席に座ったのを見計らい、話を始めた。その話を静かに勇夜達は聞き、蒼帝は一度話を止めて息を吐く。


「現状私達が出した結論として、魔族そのものを動かしているのはリベラリムという魔族で間違いないと踏んでいます。故に王であるギルヴァスを倒すのは私達にとっての勝利条件であることは変わらない事実ですが、その前にリベラリムを倒すことで少なからず此方にとって有利に運ぶでしょう。それが如何に難しい事であると理解している上ですが………」

蒼帝は話を続け、また話を止める。少しの沈黙の後に仮面で覆われた蒼帝の瞳が勇夜の方を向いていた。無論勇夜は蒼帝を見ていたために目が合い、何故この時に自分を見るのか疑問に思っていた。そうして蒼帝は再び口を開いた。


「以前君達がリベラリムと相対し、その状況の報告を受けました。そしてギルヴァス襲撃の際に奴が現れた時、私と相対した時にほんの一瞬だけある者に感情が向いていました。それは………如月 勇夜君、君でした」

蒼帝の話は同じリベラリムの内容であっても、関係があるのかよく分からない話しに他の者は感じていた。だがその後半に出された言葉は数人の勘が良い者達をどういうことか気付かされた。名前を出された勇夜自身も……そして勇夜はその意味を知りながらも狼狽えずに蒼帝に目を向けた。


「今ので察されるとは……ですがその意味を知りながらもそんな目をするんですね。………私が何を言いたかったのか、それはリベラリムが勇夜君を狙うのではないか、ということです」

蒼帝の続く言葉に気付かなかった者もその意味を知った。そして勇夜は足の上に置く拳を強く握る。


「なら私達の部隊に魔装騎士様の誰かが居れば良いんじゃないですか?」

次に発したのはセリエだった。セリエの意見は最もだろう。勇夜をリベラリムが狙うのだとしたら、その相手は魔装騎士がしなければいけない。それに来るとわかっていれば迎え撃つことも可能だろう。しかし蒼帝は首を振った。


「それは出来ません。何故ならあくまでそれは可能性だからです。確実ではない事に戦力を割く余裕は私達にはありません。私達の得ている魔族の情報は僅かだと思っていいでしょう。それに比べて魔族側は私達人界の情報をどういう経緯かわかりませんが、かなり得ていると私達は考えています。魔族がどの程度居るのかわからないのです。敵はリベラリムだけではありません。確かに魔装騎士である私達が魔族の相手をするのは変わりありませんが、かもしれないでは守れない物もあるんですよ」

出来ないと言われた言葉に反論しようとしたセリエもその後に続く言葉で何も言う事が出来なかった。


「ですがもし、リベラリムが貴方達の前に現れた時の為にこれを渡します。これは私に直接伝わる伝晶機で、魔力を込めて使用すれば念が伝わります。可能な限り早く救援に行きますが、間に合うかどうかは………」

続く話しの中で勇夜達の前に、手の平に収まる位の青空のように綺麗な結晶が置かれる。それがなんなのか…そしてその後どうなるかを話し出す。


「耐えます」

蒼帝の非情に思えるような言葉が紡がれる前に、勇夜が話の途中でそう切り出す。その言葉にその場に居るノイル、伝えなければいけないと話していた蒼帝、そしてトールと靖耶、ヴィルを除く部隊全員が勇夜に驚きの視線を向けた。


「必ず生きて、生き残って、救援が来るまで耐えて見せます」

多くの視線に晒されながらも、勇夜は力強い瞳とその言葉で答える。強がりではない必ずやり遂げると決意を持って。そんな勇夜を見て靖耶は頷き、ヴィルは歯を見せて笑い、トールは誰にも気付かれないくらいに少しだけ口角を上げていた。それをみた他の部隊の者達も各々覚悟を決めたように頷く。


「つくづく貴方達を選んで良かったと心から思っています。これからの残り時間、私達が貴方達に出来ることは多くありません。どう過ごすかもその判断は任せます。ですがこれだけは伝えさせていただきます。貴方達は私達にとって欠かせない力であり、人界の希望の一つであることを………また改めて召集をさせて頂くとは思いますが、全員で出来うることをしていきましょう」

蒼帝は胸に手を置き、安堵したように息を吐いた。そして己の思いを彼らに伝える。


恐らく次に集まるときは本格的に戦争に携わる時、そして戦場に立つ時なのだと全員が理解し、そして各々の覚悟と決意を胸に抱くのだった。


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