夕陽に消える想いを
今回区切りで短めです。
46部の内容を変えて、47部に含めています。
勇夜達はクラスに戻ると待ちくたびれたような顔をするラルクが教壇に肘をつきながら待っていた。席につくとラルクは話し始める。その内容は明日より自由行動とし、各々やるべき事、やらなければいけない事、為すべき事、それをよく考えて過ごす事、ラルクは伝えるべき事を伝え、息を吐きながら言葉を続けた。
「お前達とはまだ数ヶ月しか過ごしてない。だが俺はこのクラスを請け負って良かったと思ってる。俺はめんどくさがりだし、お前達も色々思う事があるだろうな……俺は最後までお前達の面倒をみたい、めんどくさいがそれが教官ってもんなんだよ。………俺のクラスにもこれから戦わなきゃいけない奴等がいる。だから俺も出来ることをするつもりだ。お前達も悔いを残すなよ。後悔するのは全部やってからにしろ。そうして全力でやって、また皆で会おうぜ!」
ラルクは時折寂しそうな表情をしながら話続け、最後は見たことのないニカッとした笑顔で締めくくった。生徒達はその姿を見て席を立ち、各々お辞儀をして返事をした。
ラルクの話が終わり、残った生徒達は軽く挨拶を交わしてクラスから出ていった。彼らとまた会えるかどうか、それはわからない……いずれにしても生き残るには勝利以外の道がないのだ……
「行ったか………後はお前達だけだな。寄り道しないで帰れよって言いたいんだが、その前にさっきギルドから学園に連絡があった……随分早い対応だったがそれだけ緊迫しているんだろうよ。とりあえずお前達部隊の奴等は今日はギルドに来なくていいそうだ。あっちもあっちで手一杯らしい、明日の昼前に全員でギルドに集合してくれとのことだ。……………悪いな。結局のところ俺じゃ何の助けも出来なかった………戦争をするんだ。無理するななんて無理な話なのもわかってるし、そんな言葉に意味も無いのもわかってる……だから………必ず生き残れ! もし勝利してもお前達が居なくなったら意味がないからな」
ラルクは勇夜達を除く生徒達が居なくなると勇夜達に向けて話し出す。先ずはギルド側から有ったらしい用件を伝え、その後眉を寄せながら自身の未熟さを悔しがるように、今の気持ちを語り出した。勇夜達は改めて色んな人達の想いを感じていた。どんなに戦いたい、助けたい、助けになりたい、そんな想いがあったとしても力がなければ足手まといになる。それを知ってるからこそ悔しくて苦しいのだと。
ラルクや勇夜達はその後クラスを後にし、それぞれの帰路についた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ごめん、ここまで付いてきてもらって」
「大丈夫だよ。でもここってこの間の公園だよね」
勇夜は皆と別れた後にアリサと一緒に歩き、目的地に到着した。来る途中はお互いに口数が少なく、到着するのはそんなに時間はかからなかったが、もうすぐ夕暮れの為か空が少しだけ赤みを帯びていた。勇夜達は公園にある3人位が座れる長さのベンチに座った。
「来たのは私は2回目だけど、やっぱりここの景色は良いね」
アリサは少し吹く風になびく髪を手で抑えながら呟く。アリサから運ばれてくる香りが鼻をくすぐった。あの時の事を話さない辺り気を使わせているのかもしれない。考えすぎかもしれないが、アリサの雰囲気からそう勇夜は感じていた。
「それで私に何か用があったんだよね? どうしたの?」
アリサは横で見ていた俺勇夜向きながらそう聞いてきた。
"そう……俺はアリサに伝えたいことがあってここまで来た"
勇夜自身にとっての誓いを聞いてもらいたくて。
「そう……だな」
勇夜は少しだけ言葉を濁しながら答え、ゆっくりとした呼吸と心の中で落ち着けと唱えた。そんな勇夜をアリサは急がせずに待っていた。
「ラットアフェクトで一緒に櫓で話したこと覚えてる?」
覚えてるというのはもしかしたら良くない言い方だったかもしれない。あの時の出来事は誰にとっても悲しく、辛い事だったから。
「覚えてるよ。色んな事があったから……それに勇夜君の寝癖の事もね」
アリサは勇夜の問いに一瞬顔を曇らせた後に話し出す。最後は小さく笑いながら勇夜にとって恥ずかしい事を言われた。
「っ! あれはっ! その………ごめん…」
思い返せば恥ずかしい事だが、寝過ごした俺が悪いと勇夜は頬を掻く。そして勇夜は様々な意味にもとれる謝罪をした。
"違う違うそうじゃなくて"
勇夜は首を横に振り頭を切り替える。
「強くなったらどうなりたいかって話の事なんだ」
アリサは微笑んでいたが、勇夜の話が始まると聞く体制に変わった。そしてこの話にアリサは頷いた。
「俺は思い出したんだ。あの時何て言って、何て言われたのか……"俺は強くなってどこにいても誰でも助けられる英雄みたいな剣士になりたい"って言った。でもどれだけ強くなっても手の届かない人を助けられないって言われた……そう言ったのは俺の父さんだったんだ……」
勇夜は気持ちを整理しながらゆっくりと話し、アリサは何も言わずに静かに聞いてくれていた。
「笑ってしまうよな。自分にとって大切にしていた誓いを誰から教わったのか忘れて、最後になって思い出すなんてな……」
「………笑わないよ…私は笑わない。自分にとって大切なことは人それぞれだけど、その想いも願いも誓いも…勇夜君自身がそれをずっと大切にしていた。それを忘れないでいたことが大切なんだと私は思うよ」
勇夜の話に、アリサは勇夜の顔を見詰めながらそう言った。何かを求めた訳では無かったが、その言葉に勇夜は優しさを感じずにはいられなかった。はにかんだ笑いをして勇夜は感謝をした。
「それで、その続きがあったんだ。……それは"手の届く大切な人は必ず守りきる人になれ"って……俺はそれを守る。その誓いを胸に強くなる。俺の大切な人を必ず守れるように、助けられるように……」
勇夜はアリサと向き合い、目を見詰めてそう伝える。
「そうだね。勇夜君にとっての大切な人が助けられるのなら、それはとても凄いことだと思うよ」
勇夜の話にアリサは素直な感想を述べているようにそう言った。
「ああ……俺にとって大切だって気付いた……気付くことが出来た人を守れるなら、それは俺の何にかえても大事な事なんだ」
勇夜は話の後に一呼吸おいて覚悟を決める。
「……………俺にとっての大切な人は……アリサなんだ。俺はアリサを守りたいと思った、助けたいって思った。俺はこの気持ちに気付くことができた。こんなにも温かい気持ちがあるんだって気付いた。俺にはアリサが何を抱えているのかわからない……本当のアリサの事を知らない……それでもここから始めたいんだ……一緒に………だからっ!」
勇夜は正直な気持ちを伝えていた。話し始めでアリサは目を見開き、端から見ても驚いているのがわかった。アリサが本当にどう思っているのか、どんな答えが待っているのかわからない……それでも正直にこの気持ちの全てを伝えようと思った。それが正しいと思っていたから………
アリサは話の途中で前を向き、目を伏せた。そして勇夜の言葉が強くなる頃に徐に立ち上がる。その為勇夜は言葉を止めてしまった。
「………そっか……………勇夜君の気持ちは伝わったよ……」
一歩…また一歩と前に進むアリサは一言、そして数歩先で止まり前を向いたままのアリサは伝わったと話し出す。勇夜は伝わったと言われたことで鼓動が自分でもわかるくらい速くなり、自然と体温が上がっていった。少しの間が空き、アリサがゆっくりと振り向いた。
「でもね……もう………………………………………」
振り返ったアリサの口から語られる言葉は、何の悪戯か急に吹く強い風にかき消され届かなかった。
「……………ごめん…聞こえなかった」
「………ううん何でもない………とりあえず今日はもう暗くなるから帰ろ」
勇夜は聞こえなかったと伝えるとアリサは一瞬止まり、無理に作った笑顔をしながら帰ることを促した。素直にそれを認め、何事を無かったように勇夜達は帰路につき始めた。
"そう………俺は聞こえなかった………いや……聞こえなかったふりをした。
それは何故か………アリサの言葉にどう言えばいいのかわからなかったから、認めたくないから、逃げたいから、色んな理由があるのかもしれない………だけど俺の今の気持ちはそのどれでもない……アリサから放たれる言葉とその表情があまりにも俺の言葉を続けさせてくれなかったから……"
アリサのあの時の言葉は…………
"でもね……もう二度と私を守るなんて言わないで"
そうしてその言葉が紡がれるアリサの表情は、辛く悲しく……そして無理に作った作り笑顔だったから……




