さあ始めようか
魔物の討伐をしてから訓練と日常生活を通し数日、勇夜達は通常通り学園へ登校していた。
勇夜達いつもの4人とトールとリースが珍しく登校時間がかぶり、一緒にクラスへ向かっていた。会話は世間話や昨日の戦闘について各々感じたことを話ながら歩いていた。扉を開けると数日前よりも数の減ったクラスの現状を目の当たりにした。
「また居なくなったんだな…」
勇夜はふと思ったことを口に出していた。他の皆も同じように感じているようだ
「フン! 気概も責任感も無い奴等だ。どこぞの貴族と欠陥の方が余程ましだと思うことになるとは」
トールは鼻を鳴らしてやれやれといった表情で言葉を発し、チラッと勇夜を見た。それを見た勇夜は苦笑し、どこぞの貴族と呼ばれたヴィルとセリエはいつものように不機嫌な雰囲気を出していた。
「でもしょうがないのかもね。誰でも辛いこと、苦しいことから目をそらして……死にたくないから逃げようとして……結局どこに逃げたとしても何も変わらないのにね」
そう口に出したのはアリサだった。アリサがそんな事を言うと思わなかったヴィルとセリエは驚き、勇夜は時折見せるアリサの抱える何かを思う時の雰囲気と似ていたことから言い表せない不安と、触れてはいけないような感情を抱き、どうしようもないアリサとの距離を感じていた。勇夜達はそれ以上の会話をすることなく、それぞれの席へ移動する。
席についた勇夜は、後ろに座るアリサのことが気になっていた。
"アリサとは少なくとも出会った頃と比べればよく話すようになったし、俺自身距離が縮まったように思っていた。でもアリサ自身は必要以上の関係性から距離を保っているように思う"
勇夜は心の中で今までの事を振り返り、今回も含めてそう感じることは少なくなかった。
"俺に何が出来るだろうか……寧ろ何かをしたいと思うのはおこがましい事なんじゃないだろうか……友人を傷つけ、まだ向き合うことも出来てない俺が、誰かのためになんて思ってはいけないことなのかもしれない……でも……
それでも俺はアリサの笑顔に…言葉に助けられた。アリサが居てくれたから今こんなに暖かい感情を知ることが出来た。だからもし、アリサが俺に向ける笑顔も言葉も偽りだったとしても、俺はアリサの力になりたい。俺のこの感情がこれからどんな意味をもつかわからない。けど……俺は初めて誰かを守りたいと願った。アリサを守れる力が欲しいと思った。リベラリムと戦ったあの時から……"
勇夜は始めから意識してなかった訳じゃなかったが、気が付けばアリサを意識していた。剣騎祭の時、馬車の時、村の櫓の時、病院の時、公園の時…思い返せば色んな想いが勇夜の頭を巡る。まだ整理の出来ていなかった気持ちが…感情が形になっていく……
"……俺は……俺は"
「……"好きなんだな"……」
「勇夜君?」
小さく呟いていた勇夜は、急に呼ばれたことで漫然としていた意識が覚醒する。そして右側から呼ばれた声に顔を向けるとすぐ目の前にアリサの顔が映った。
「…………………………っ!ふぇあ?!」
段々と冷静になっていく頭が今の現状を理解し始め、勇夜の頭全体が急に沸騰したかのように温度を上げて真っ赤になり、変な声を上げて後ろに下がろうと体が反射的に動いてしまった。勇夜は今椅子に座っている。そんな状況で体が急に動けばバランスを崩して落ちてしまうが、案の定椅子は傾き勇夜の体は床にお尻から落ちていく。
だが勇夜は咄嗟に左手を固定された机に伸ばして掴み、可笑しな体勢でなんとか踏ん張っていた。
「だ…大丈夫?」
驚きながら心配するアリサの声が聞こえた。
「大丈夫大丈夫!」
今の自分の格好の恥ずかしさと頭の中の混乱から勇夜はすぐに立ち上がり、左手で顔を半分隠しながら口に出した。呼吸を整えて周りを見ると、殆どのクラスメートがおらず、勇夜が視界をアリサに向けるとその後ろには笑いをこらえるヴィルとセリエが立っていた。
「くふっ! まあ反応しなかった勇夜が悪いんだから自業自得だよな。俺も声かけたんだが駄目だったし」
「ね! 最近勇夜はボーッとしてること多いし、今度からアリサに声かけて貰えばいいんじゃない? 今も反応したんだから」
小さく笑いなからそう言うヴィルとセリエ。
"確かに考え事をして漫然としている俺が悪いのだけどさ、今回のような事が次も起きるとなると心臓に悪すぎる。ただでさえ今も沸騰しそうなほど恥ずかしくて、しかもアリサの事を考えてたってのに。一刻も早くこの状況から逃げたいと本気で思ってるのに何言ってんだよ!"
心の中で葛藤している勇夜。そんな事を言う2人ある種怒りが込み上げる。
「2人とも意地悪したら駄目だよ。それに遅れるといけないから移動しないと。 勇夜君、一応だけどこれから他のクラスの人達と合同で授業らしいから訓練場に行かないといけないの。だから皆行こ」
こんな状況でもアリサは変わらぬ態度で、勇夜が聞いていなかった事を伝えてくれた。自分だけドキドキしていたのかと思うと恥ずかしさを通り越して、寧ろ自分に呆れてしまう。故に勇夜は自分でもびっくりするくらい直ぐに冷静になったが、そうこうしている間にも時間は過ぎる。なのでとりあえず移動しようと言い、勇夜達は少し急ぎ目に移動を始めるのだった。
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~第一訓練場~
勇夜達が到着した頃、既に30人程の生徒がクラスごとに纏まっていた。見れば顔の知っている騎士科の生徒やグローザとエアルの姿も確認できることから、一学年だけということでは無いようだ。しかしラルク教官から聞いていたとはいえ、騎士科と特騎科の人数は本当に少なくなっていた。ソル達のクラスにいたっては10人も居なかった。
「全員揃ったな~、……じゃあ進めるが、とりあえず一年特騎科担当教官のラルクだ。今回通常の授業を変更して集まって貰ったのは、現在一年の特騎科と騎士科の生徒数が減った。理由は言わなくても分かってくれてるだろうが、この状況から通常の授業を行うのはキツイので、二年特騎科のオラス教官との話し合いで二年特騎科の生徒と合同実技を行いたいと思う。具体的に決まった内容は無いが、試合でも良し、話し合いで教育してもらうも良しだ。基本的には一年は二年に教わる形であれば何でもいい。試合するときは俺か、オラス教官に報告すること。まあ自習みたいなもんだから気楽にやってくれ、俺からは以上」
ラルク教官は質問を受け付けないようにするためか、足早にその場を離れオラス教官のいる場所に戻っていった。
勇夜達一年はどうすればいいか殆どの生徒は困惑していた。とはいえ今や全員で20人に満たない人数だ。時間も経たないうちに二年の先輩達が動きだし、他の一年生徒に声をかけて各々グループを作り始めていた。
「俺達はどうする?」
「そうだな。とりあえず俺達はトール達と合流して出来るだけ部隊として動いた方が良いとは思うんだが
勇夜はどう動くかとりあえず話し出す。こういう場合は出来るだけ部隊同士で固まった方が効率が良いとヴィルは言い、それに対して"それもそうだな"と勇夜達は肯定した。幸いにもトールやリース、ソルは直ぐ目の前にいた。そして同じように考えていたのかその少し後ろからエアルとグローザも此方に気付き向かってきていた。先にトール達を呼び、エアル達を待つ。
「集まってんなぁ。まあこの状況じゃ仕方ないか。どうするよ? 試合でもするか? てかアゼルはどうしたんだよ」
着いたと同時にグローザが右手を首に回しながら話し始める。
「アゼルの事は聞いていないんすけど、今日は見てないっすね。でも前に言ってたのが居ないときはギルドに用があるらしいっすよ」
ヴィルはグローザにそう答える。ギルド関係なのは間違いないだろう。勇夜と靖耶はアゼル・ベルライト という人物の正体を知っている。だから何かあったとしても納得も理解も出来るのだ。
「ちっ! そうかよ。ったく肝心な時に居やがらねぇな」
グローザは舌打ちしながらそう言うが、その言葉からアゼルを認め、必要としていると感じた。
「あの、エアル先輩」
勇夜達はどう動くか暫し考えていると、遠慮がちにセリエがエアルに声をかけていた。
「どうしたの? というかエルでいいのよ、セリエちゃん」
「っ! えっとじゃあエル先輩、よかったら私と試合してくれませんか? 去年の剣騎祭を見てて、エル先輩の剣技が凄く印象に残ってて、ずっと試合してみたかったんです。今はそんな状況じゃないからずっと言えなかったんですけど」
エアルは普段の凛々しい表情から柔らかい表情でセリエに話し掛ける。セリエはそれに対して少し戸惑いながら用件を伝える。
「いいよ。私も貴方とは戦ってみたかったし、サレリアさんの妹さんだから気になっていたの」
「そうなんですか?! 良かった。というかエル先輩は姉様と知り合いなんですか?」
エアルの返答にセリエの顔は明るい笑顔になり、嬉しさを表現していた。そうして先程の会話で自身の姉について話が出ていたので聞いていた。
「知り合いとは違うんだけどね。私にとってサレリアさんは憧れなんだ。騎士を束ねる凛とした姿、剣技も女性騎士の中で群を抜いている。何度か騎士団にお邪魔した時も話したり訓練をしてもらったりして…」
「あぁあ……エルのたちの悪いとこが出てやがる。長いぞ、この話」
エアルは話を始めてから徐々に目を輝かせるように語り始め、サレリアの凄い所等をどんどん話し始める。まるで誰かの追っかけをしているかのように興奮しているエアルを見たグローザは"またか"というように呆れ、どうにもなら無いと俺達に言った。
「………… エル先輩………わかります! 姉様は本当に格好良くて! 凄いですよね!」
暫し黙って聞いていたセリエは、不意にエアルを呼びエアルの手を掴んで、同じように目を輝かせて話し出した。セリエも興奮している様子で、同じ趣味と知った友人と語り合うように互いにサレリアについて語り出したのだ。
「ああ…こりゃセリも変なスイッチ入ったかもな。まあたまに俺の時もこうなったりするけど、今回はまさかのエル先輩も同じ感じだから終わんないかもな」
ヴィルは苦笑しながらそう言うと残った勇夜達も今の2人を見てそう思った。ただこのまま何もしないというのも注意されそうなので、とりあえず興奮する2人を除き、残る7人でどうするか話し始める。
「"ーーーーーーーーーーー!!"」
何の前触れもなく耳に大きな音が流れ、まるで頭が割れるようなノイズが走り勇夜は頭を抑えた。状況を確認しようと周囲を見れば今の現象は俺だけでなくこの場にいる全員が頭を抑え、苦悶の表情をしていた。
「何だよ急に!」
誰かがそう言っていた次の瞬間、急に空に現れた黒い何かがまるで口を開けるように大きな円を描く。
「"多くの人界の皆様初めまして、私は魔界を統べる王に仕えるリベラリムと申します。以後お見知りおきを"」
勇夜達が少し前に聞いた声と姿、勇夜達の視界には……この場にいる全員が………いや……全ての人族が見詰める先に、リベラリムが映っていた




