全ては知らぬうちに…
葬儀の日から更に一週間が経ち、国内がまだ落ち着きを取り戻せていない中、学園の生徒達は通学路を歩いていた。実に数週間ぶりの登校であるが、見知った顔を見つけても楽しそうな会話は無く、静かな登校となっていた。
街の通りや広場を見渡しても、以前と比べてしまうと圧倒的に人通りが少なくなり、巡回する騎士達の足音が響き渡るだけ……
俺は数週間ぶりに学園に続く道を歩いていた。学園に通っていたのが随分前に思える。実地任務研修から色んな事が起きた…初めての実戦で魔族と遭遇し、恐怖を味わい、死に目にあったこと……そして父さんの死……他にも色んな出来事が起きた。正直己の身一つで抱えるには重すぎる事だ……でも
俺は胸に手を当てて自分の心臓の鼓動を静かに聞き、託された想いと生を確かめる。
「……や……い…うや!……勇夜!」
どのくらいそうしていたか分からないが、俺の名前を呼ぶ声が聞こえ、ハッとするように意識が戻った。
「勇夜、大丈夫か?!」
声を掛けていたのはヴィルだった。俺の意識が戻り、ヴィルと目が合うとヴィルは安堵したように息を吐き出し、心配するように話し掛けてきた。
「ごめん……大丈夫、少しボーッとしてただけだから」
俺は心配をしていたヴィルを安心させるために、笑顔を作りながら答える。
「……なら良いんだが、胸に手を当ててたから気分でも悪いのかって思ってな。気分も体調も良くないなら直ぐに言えよ」
ヴィルは顔色を探るように俺を見詰め、疑り深くなりながらも優しく話し出す。その言葉に俺は、変わらずに接してくれる友人が居てくれることに胸が暖かくなるのを感じた。そしてもう1人、ヴィルの影に隠れながらもこちらを心配そうに見ているセリエが居た。
「………本当に大丈夫なの?」
セリエは少しの間の後に、何かを言いずらそうにしながら俺に声を掛けてきた。
「セリエも心配してくれてありがとう。本当に大丈夫だから」
「そう……なんだ。………うん! なら良かった。それに私も友達なんだから心配して当然!」
セリエは下を向きながら声を出し、一呼吸置いてから顔を上げていつものように明るく話し出す。暫し3人で笑っていたが、セリエが何かを言おうとしていた。
「えっとね……勇夜……その……勇夜のお父さんの事……」
セリエの話し出した言葉に少し驚く。セリエもヴィルも何か引いた接し方や言いづらそうにしているのはこの事だったんだと気づく。
"2人は優しいな……いつも2人の優しさに助けられてたんだって今更ながら気付いたよ……2人と友達になれて本当に良かった"
俺は2人の優しさに感謝しながらセリエとヴィルへ向き、セリエの言葉を止める。
「セリエ…ヴィル、本当にありがとう。まだ俺自身も整理出来てない所があるから気安く大丈夫何て言えないけど……でも大丈夫…父さんの想いを俺は知った。だから父さんの想いは俺の心に繋がってる。そう思えるようになったから」
俺自身何て言えばいいのか、上手く伝えていれないかもしれない。それでも目の前の2人は優しく微笑みかけてくれた。
「そうか、勇夜が言うならそうなんだろうな。ならもう俺達は何も言わない。でも俺達は友達だ。だからもし出来ることがあれば絶対に言ってくれよ。必ず助けになるから。それともう俺達も助けられるだけの存在じゃない!。これからは絶対にお前と一緒に戦う。その為に力を付けてるからな!覚えとけよ!」
ヴィルは俺の肩を叩きながら、ニカッと笑いながら話し出す。セリエも"私もだからね"と言っていた。
「ああ、よろしくな!」
俺は2人に答えるように笑い、答えた。始業までの時間はまだ少しあるが、俺達は歩を進め始めた。
~カルディーク剣騎学園~
「はよーっす!」
クラスに着くとヴィルは扉を開けて挨拶をする。それに反応する生徒は少ないようでポツポツと挨拶が返された。見ればまだ半分と少し位の生徒しかまだ居ないようだ。俺達は比較的遅めの登校となったが、それでもまだ居ない生徒がいるというのは少し気になった。とりあえず各自の席に行き荷物を下ろす。
「皆静かだね」
セリエがそう言うが、会話が少なく静かなのは、恐らく少し前の出来事が関係しているのだろう。当事者や被害者関係でなくとも、自分達が住む国の街中で襲撃があったのだ。気にするなというのが無理な話だ。
クラス全体を見渡すと、俺達から見て右端の席に座るトールと目が合う。トールはこちらを見て呆れるように息を吐くと、顎に右手をつき正面に視線を戻した。側に居るのはリースのみでケイメンの姿は見えなかった。俺達は何だか気になり、3人でトールの所へ移動する。
「随分元気が無いじゃないか、ケイメンも居ないようだがどうしたんだ?」
俺達が近づいて来るのが見え、トールはあからさまに嫌そうな顔をするが、ヴィルが気にせずに話しかける。
「別に君達には関係無い事だ。話す義理もないだろう? それともなにか?君達は俺の事を根掘り葉掘り聞きたいほど仲が良いのかい? 随分と暇なんだね」
トールはこちらを見ずに話し出す。それは挑発するような口調ではあるが、いつものように威圧するような物言いではなかった。
トールの調子がいつも通りではないことがわかったが、セリエは話をしようと口を開けるが
「…私が……言う……ケイメンは暫く……戻らないって言ってた………理由は私達も知らない……ご当主様から…聞かされた」
セリエが話し出す前に、直ぐ近くに居たリースが歩みより訳を話し出す。その内容で合っているのか、トールは鼻をならしそっぽを向く。
ケイメンが居ないのは何か理由があるようだ。だがそれでトールの覇気が無くなるとは思わないが、トールにも何か思うところがあるのだろう。俺はそう思っていたが、そっぽを向いていた筈のトールが、今度は俺と目があった。
「それにしても、こちらを気にするほど余裕があるとは思わなかったよ。欠陥、君の方こそ大変だったようだが」
トールは俺の心配をするような言葉を掛けてきた。もしかしたらただの興味本位だったのかもしれないが、俺は少し驚きつつも感謝した。
「そうだな……でも大丈夫だ。ありがとう」
「………別に感謝される謂れはない。ただそう思っただけだ。勘違いするなよ」
トールは俺の言葉に答える。いつもと違う俺達のやり取りに周りはどう思ったのか、何故か感心するような声がちらほら聞こえてきた。
「へぇ、 何々?随分丸くなったね。トールが心配するなんてびっくり! いつの間に仲良くなったの?」
セリエはトールの反応に驚きを隠せないようで、ニヤニヤしながらトールに詰め寄るように話し出す。
「いい加減にしろ! そんなつもりは無いと言った筈だ。それにそこの欠陥と仲良くなったつもりもなるつもりもない!」
いつものトールが戻ったように威圧するような言葉になる。突然出された大きな声に周囲は静かになるが、セリエに続きヴィルも小さく笑い出した。
「えっと………皆おはよう」
不意に後ろから挨拶され、振り向くとそこにはアリサが居た。セリエはビクッと驚いて振り向くが、アリサだとわかると安堵したように胸を撫で下ろした。
「おはよアリサ! 来たときにいなかったからどうしたのかと思ったけど、会えて良かった!」
セリエは先程びっくりしたのを無かったようにするような明るいテンションで、アリサに話し出す。
「うん、少し準備に手間取っちゃって……間に合って良かった。それにしてもケネデリス君の所に集まってどうしたの?」
アリサは平常を装っているが、どこか元気の無いように見えていた。アリサはその視線に気付いたのか違う話題を切り出していた。
「実はトールがねぇ……」
セリエがそう口に出したときに、始業の鐘がなり、それとほぼ同時に扉が開く。
「朝礼やるぞ、全員席につけよ」
クラスに入ってきたラルク教官がそう言うと、俺達を含め立ち上がっていた生徒も自分達の席へ戻る。いつものように疲れているのか、少しだけ目の下に隈が見える。
「それじゃあ始めるぞ、まずは……」
「教官、まだ全員来てないんですけど他の人は休みなんですか?」
1人生徒が手を上げ、ラルク教官がどうしたのか聞くと、その生徒は話し出した。その話に一度溜め息を吐いた教官は、それに続けて話し出す。
「そうだな……とりあえずそこから話すか。……ここにいる全員何かしらで知っていると思うが、この国で襲撃があり、死者も多数いる。以前から安全性について対応している所なんだが、疑問に思っている者もいた。そんな中で起きてしまったからな。貴族やその関係者らは義務や元々この国で住んでるっていうことで変わらないが、国外からうちに入ってきたり、それ以外の住人は危ないからって自国に強制的に帰国させられたり、別の街に引っ越したりしてるわけだ。うちのクラスも騎士科の方も居ない生徒はそういうことだ。おかげでここ数日は徹夜だよ……」
ラルク教官は話終えると大きく溜め息を吐き、教壇に突っ伏し出したときていた。それを聞いたクラスの皆も、一部を除きざわついていた。
「まあ急な事だからな。知らされなかったお前達もショックだろうが、そいつらの家庭の事情というやつだ。それに俺自身書面で知ったのが殆どだったよ。それでも数人は挨拶に来たが、残りたがってる奴もいたし、ショックなのはお互い様だ。理解してやれよ」
ラルク教官は付け加えるようにそう言うと、ざわついていたクラスは静かになる。
「とまあそんなとこだ。とりあえず時間かけたから少し巻きで始めるぞ。まずは……」
ラルク教官は気を取り直して話を進める。
何気ない日常……変わらない日々……そんな安寧を望みながらも世界はそれを拒み、更に変化をもたらそうとする。変わらないことはない。だがそれは絶望への道ではない、希望に満ちた道を誰しも歩みたいと思っている筈だ。それが例え、辛く苦しく後悔するような道であっても……いつか辿り着くその時まで戦い抜く。それが唯一俺達に残された道だとしても………
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最初の授業が終わり休憩に入ると、勇夜達はまたトールの所に集まっていた。トールはあからさまに嫌な顔をしていたが、特に何も言ってこなかったので、朝の続きを話そうとしていた。そこにもう1人違う者が近付いてきた。
「やあ、皆元気そうだね」
「何の用? というか居たんだ」
声を掛けてきたのはアゼルであった。セリエは嫌そうな顔を隠すこともなく声を出す。
「ひどいなぁ、朝から居たんですけどね」
アゼルは笑いながらそう返す。そんなアゼルを見て、勇夜1人だけ何故か緊張し、固まっていた。そんな勇夜を見てアゼルがニコッとするが、勇夜は引きつった笑みをしていた。
「どうした勇夜? もしかして何かあったのか?」
「いや大丈夫。そういう訳じゃないんだ」
ヴィルは勇夜の変化から何かを感じたようで、心配しながらもアゼルを睨み付ける。勇夜はそんなヴィルも見て慌てて弁解するが、他の者もどうしたのかと疑問になっていた。
「まああまり時間もありませんし、用事を伝えます。今日の授業が終わりましたら、第一訓練場の第一会議室へ貴方達6人全員来て下さい。これは拒否出来ません。……………これはギルドからの要請、もとい命令ですので必ず来て下さい」
アゼルは俺達だけにわかるような声で話し出し、そして最後に小声で付け加えるように念を押す。その声から拒否出来ないように威圧を込めていたため、その場の全員が本能的に息を呑んでいた。それを見届けたアゼルは笑顔に戻り、手を振りながら席へ戻って行った。威圧から解放された勇夜達は大きく息を吐き、一筋の冷や汗を流していた。彼が何者なのか、そんな話をする暇もなく休憩が終わりを告げ、勇夜以外の5人は何か心にモヤモヤを残しながら戻るしかなかった。
これから起きる事が彼らに何をもたらしていくのか、全てはここから始まるのだ。いや………既に知らぬうちに始まっているのだ。彼らの望む道とは別の道が………
遂に一章後編スタートです。
頑張って行きますのでよろしくお願いします!




