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影はいつもすぐ側に

~魔界 城内~


現在は、皇国襲撃から翌日、大きな広間の禍々しい扉の前である。

物音一つしないこの空間で、ゆっくりと扉が開き出す。


「はぁぁぁぁ…………」

扉から出てきた男、リベラリムは大きな溜め息をつきながら、広間に入る。

その表情は優れず、疲労が貯まっているようだった。


「あらぁ? 随分お疲れねぇ。ギルヴァス様とのお話がとても長かったようだけど、お説教はすんだのかしら?」

広間から音もなく人影が現れ、艶のある声と言葉でリベラリムに近づく者がいた。


「誰のせいだと思ってるんですか……"シャムレシュルム"貴女がしっかりとあの方を見ていれば、こんなことはならなかったんですよ。私が何のためにお願いしてから、離れたと思うんですか……いい加減籠りすぎるのは自重してください」

シャムレシュルムと呼ばれた女性は、首筋まで伸びた真っ白な髪に真っ赤な妖しく光る瞳、白い肌で頬には少量の値が付いていた。胸元を開け、スリットの入った黒いワンピースを身に付け、リベラリムの前に立つ。


「まあいいじゃない、ギルヴァス様も戻られて、随分楽しそうにしていらっしゃったもの。それに私は趣味に夢中になりすぎて部屋から出ないのはいつものことでしょう? だって止められないんですもの、あんなに楽しいこと……ふふっ ああ……楽しかったわぁ、お人形遊び……昨日の子はあんなに必死になって生きようとするんだもの、あの瞬間はいつ見てもゾクゾクするわぁ」

シャムレシュルムは、愉悦に満ちた表情で思い返しているようだ。整った顔立ちで見せるその表情は狂気をはらんでおり、見る者によっては恐怖を感じるだろう。


「………シャムレシュルム…少なくともギルヴァス様の前でそのようなはしたない顔を見せないことです。頬に血が付いたままですよ」

リベラリムは、呆れつつもシャムレシュルムに注意する。彼女は表情を戻すと左手で頬を拭い、手に付いた血を一舐めする。


「それよりも貴女の人形遊びにとやかく言うつもりはありませんが、こちらの準備も抜かりはありませんよね?」

先程の疲れた呆れ声とは違い、リベラリムは威圧感を出しながら話し出す。


「うふふ、問題ないわぁ、それに私のお人形遊びで必死になって生きようとするほどとても良い物が出来上がるの。壊れちゃうことも多いけど、必要な数は揃うはずよ。心配なら新しい人形を持ってきて頂戴」

シャムレシュルムは笑いながら答える。右手を頬に当て、妖艶な笑みを浮かべる。


「であれば私は何も言わないですよ。ギルヴァス様がいらっしゃる以上、私共は勝たなければいけません。次で終わらせるように万全を期さなければ……我々が負けるとは到底思えませんが、今の人族を侮っては思わぬ損害を受けますからね」


「はぁい、じゃあ私はまた部屋に戻るから、あとよろしくねぇ」

リベラリムの言葉にシャムレシュルムは、また遊びにいくかのような雰囲気で手を振りその場を立ち去ろうとする。


「最後に一つお願いさせてもらいますよ。"アレ"をこちら側に持ってきます。調整の準備をしておいてください。貴女の好きな人形遊びのね」

リベラリムは一度呼び止め、用件を伝える。それを聞いたシャムレシュルムは、口角を吊り上げ先程とは違う新しい事を見つけた子供のように喜んだ表情をしていた。そして何も話すことなく暗闇に消えていく。


「ふぅ………全く、何故こうも皆さんは問題ばかり起こすのか……物事の順序を少しは考えてほしいものです。……しかし」

リベラリムは溜め息と疲れた表情から呆れる言葉を吐き始める。だが最後に口元が緩み、そして興奮するように言葉を続ける。


「フフッ! フハハハハ! 生きていた!生きていた生きていた!………そうか生きていたのですかユウヤ……ギルヴァス様を迎えに行った時に見えたその姿、目的を忘れて殺しそうになってしまいました! きっとまた貴方の前に立ちはだかりましょう……そしてその時、私はユウヤ……貴方を殺し、そして私は!」

リベラリムは瞳孔を見開き、何もない左肩を触り、興奮しながら言葉を吐き出す。


「………ですがまだ、その時ではありません。今は準備の段階……貴方と会うのは戦場に致しましょう。……では私はこれから人形の回収に行くと致しましょうか。人族とはなんと脆弱な物なのか、これを見て、貴方方の反応が楽しみです」

リベラリムは自身を落ち着けるようにすると言葉を続け、そしてリベラリム自身もこの場から去る。この会話が、この行動が、これからどのように関わりをもつのか……それは今の人界で知る人はいない。


ーーーーーーーーーーーーーーー


~フェルム家~


場所は変わり、人界での出来事となる。

簡素な部屋の中には1人の少女が椅子に座っていた。その少女、アリサの纏う雰囲気は悲しげで、机に突っ伏しながらゆっくりと息を吐き出していた。


静かな空間で部屋の扉をノックする音が響く。


「アリサちゃん……今日あまりご飯食べなかったから、少しだけお腹に優しいもの作ったの。部屋の扉に置いておくから良かったら食べてね」


「……ありがとうございます。少ししたら頂きます」

アリサは椅子に座ったまま、扉にまだ居るであろう母代わりの人へ声を掛ける。


「…………アリサちゃん、昨日はよく話せなかったけど、大変な事が起きて辛かったよね……私じゃ頼りないかもしれない……話せることがないかもしれない……それでも私は今、貴方の保護者です。もし話したいこと、話せることがあったら話してほしい……1人で抱え込まないで……お願い」

扉の前で紡がれる言葉は悲しそうで、本当に心配していることが顔を会わせなくても伝わってくる。


「ありがとうございます。その時はお願いします。でも私は大丈夫なので心配しないで下さい」


「うん! わかったわ。それじゃあ私は下に居るから何かあったら遠慮しないで呼んでね」

アリサは出来るだけ明るい声で返答をする。それがどういう風に伝わったかわからないが、扉の前の女性は明るく言葉を続け、ゆっくりと部屋から遠ざかっていく。

アリサは近くに誰もいなってから少しすると、机に置いているいつも髪を縛るときに付ける花飾りを両手で優しく取り、それを見つめる。


「……辛いね……」

小さく呟かれたのは誰の事だろうか。自分の事か、それとも他の誰かの事か……


「目の前で大切な人が死ぬ所を見るのはとても辛いよね……何も出来なくて見ていることしか出来なくて……」

そう自分の事のように語り出し、アリサが思い返すのはつい先日の事。倒れた父親に寄り添う少年の姿……

アリサは遠くからその光景見ていた。声を掛けることも近付くことも出来ずにただ見ていた。それを見ていたアリサは自分でも驚くほど動悸が速くなり、呼吸も速く胸を抑えながら、その光景を自分と無意識に重ねていた。


アリサの本当の両親はどちらも亡くなっている。母親は小さい頃に病に倒れ、そのまま亡くなった。そして父親は…………


「お父様……お母様……」

アリサの声は震え、徐々に視界がボヤける。潤み始めた瞳を涙が流れる前に袖で拭う。両手で掴んだ花飾りを優しく胸に近付ける。

花飾りは唯一といっていい、両親の……母親の形見と呼べるもので、思い出の詰まった大切な物………忘れたい…でも忘れることの出来ない過去……忘れてはいけない過去……それなのに大切だった思い出のこの花の名前も……その意味すらも思い出すことが出来ない……母が教えてくれた、明るい笑顔で話してくれたこの花の事が、まるでノイズがはしったように、記憶に鍵が掛かったように思い出すことが出来ない……


「私は………私はどうしたら……」

アリサを覆うような暗い影も……アリサの抱えるこの想いも……それは誰にも伝わらず、誰も理解できず、そして誰も彼女を本当の意味で救うことは出来ない……


まだ彼女の物語は始まりも終わりもせず、この果てない理不尽な世界はまだ続くのだから………


ここで一章中編が終わりとなり、次の部から後編になります。

ここまで時間がかかりすぎた………

頑張ろう(´・ω・`)

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