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兄のけじめ、弟の答え


扉をノックする音が聞こえる。勇夜が軽く返事をすると"失礼します"という言葉から扉が開き女性が現れる。その人は見覚えがあった顔であった。実地任務研修で話を聞いたことのある、確か ユノル という名前だったと勇夜は思う。


「準備が出来たそうなので、今からギルドマスターの部屋へご案内致します。よろしいでしょうか?」

ユノルは物腰柔らかく話し始め、最後にこちらの準備は大丈夫かを聞いてくる。勇夜達は軽く頷くとその場から立ち上がり、ユノルの後ろを付いていった。

暫くすると少しだけ装飾の付いた焦げ茶色の扉の前に着いた。ユノルは扉の左側の壁に付いた四角い突起物に手を置く。そうすると魔方陣が浮かび上がる。


「ユノル・フローア です。お連れ致しました」

ユノルは名前と用件を伝えると、扉のドアノブから何か膜のような物が消え去り、それと同時に回って扉がこちら側へ開く。

後で聞いた話だが、ギルドの重要な場所は結界が張られ、魔力による認証と許可がなければ入れないようになっているらしい。因みに壁の突起物は個人の魔力認証と中に音声が伝わるようになっている。


中に入ると机に山積み書類が一列乗った場所に座るギルドマスターのノイル・フィーロス がおり、そして中央のソファの前にある椅子に座る蒼帝が居た。


「散らかってしまってすみませんね。どうぞそちらのソファにお座りください。直ぐに準備を終わらせるので待っててくださいね」

そう言うとノイルは数枚の書類に手早く記入を始め、その後に書類をユノルに渡した。それを受け取ったユノルはお辞儀して、部屋から出ていった。勇夜達もソファへ座る。前に蒼帝がいる状況で変に緊張しないのは、面と向かって会うのが二回目ということもあるのだろう。相変わらず仮面を被ったその表情はわからないが、蒼帝も書類を纏めているようで、勇夜達に話しかけることはまだなかった。


「蒼帝、此方は準備ができましたが、そちらも問題はありませんかね?」


「ええ、今しがた必要な物は纏めました。いつでもどうぞ」

ノイルと蒼帝は軽く言葉を交わすと、勇夜達の前の椅子に腰掛けてそちらを向いた。


「まずはご足労頂きありがとうございます。まずはこちらをあなた方に見ていただきたいのです。本来公にされることのない物になりますが、これは剣鬼に関する書類になります」

蒼帝はノイルの書類を受け取り、自身の書類とまとめた後に話し始め、長方形のテーブルに細かく分けて提示してきた。

そこにはこの大陸で起きた戦争での情報から、この国に来てからの行動と功績等が時期を細かく詳細に記されていた。一個人の情報をここまで記すものなのかと思ったが、魔装騎士という力のある者が国や世界に影響を及ぼすことを考えれば、仕方のないことなのだそうだ。


勇夜達はその書類を見詰め、自身の父親の行ってきたことを知ろうと集中していた。その事を考えてか、ノイルや蒼帝は口を出さずに勇夜達の成り行きを見守ってくれていた。剣鬼としての父親の情報は文面でしかわからないが、断片的でもどんな想いだったかを知ったことで、その光景が浮かぶほどだった。初めての戦争で母親である晴香の為に戦ったこと、この国に来てから何のために戦ってきたかということ、この文面からはそれが読み取れた。終わりに差し掛かると、最終任務と書かれた場所がある。そこには詳細は書かれていなかったが、重要な人物の保護とだけ記されていた。だがそれ以上に気になったのは年数を見ても最後と言うにはあまりにも早いと感じたからだ。


……だがその疑問は、次の書類を見た瞬間に理解した。

勇夜と靖耶はほぼ同時に目を見開いた。そこに書かれていた除隊申請は、今から八年前………


そう……勇夜にとっての罪であり、一生背負わなくてはいけない罰の時であるからだ……勇夜は急に胸が締め付けられるような感覚に陥り、顔を歪めながら胸を抑える。

"忘れた訳じゃない……忘れてはいけないことなんだ……"

しかし勇夜は改めてこの日の事を思うと平常心ではいられなかった。勇夜は過呼吸になり、不自然な程に血の気がなくなり、体が冷えていくのを感じていた。そんな勇夜を見て、晴香は背中を擦ってくれていた。勇夜が見れば晴香は悲しさと後悔が顔に出ていた。勇夜はあのような事を起こしたのに気遣ってくれる晴香に申し訳なく思ってしまった。それは隣にいる靖耶にもだが、靖耶はこの事に対して冷静であると勇夜は勝手に思っていたが、その表情は悔しさと後悔、そして別の何かが感じ取れるような表情だった。

何故そんな顔をするのか勇夜には理解できなかった。


"あの日、兄さんは何も関わっていなかった筈だ。俺達が勝手に決めて、俺が起こしてしまった事なのだから…"


もし何かの感情があるとすれば、それはこんな事をした弟を持ったことの後悔か、それかもっと別な感情であると勇夜は思っていた。


「私はこの時まだ、ギルドに所属していたわけでは無いので詳しい事は分かりませんし、マスターも当時は一隊員だったので、その時のギルドマスターが何故魔装騎士である彼を除隊させたのか、理由は残されていません」

蒼帝は、暫く待ってから話を始める。何かを問いただす訳でもないが、心当たりは無いのか、それを聞きたそうだった。


「蒼帝様、ギルドマスター様、申し訳ございませんが、この事はあまり触れないで頂けますでしょうか? それにそれを知ることと今回私共を集めた理由は違うのではありませんか?」

晴香は普段の柔らかな雰囲気が一変、真剣であり、威圧的な雰囲気を出していた。それを感じ取ったのか蒼帝とノイルは目を交わし、互いに頷く。


「申し訳ありませんね。少し配慮足りなかったようですね。確かに本筋からは外れておりました。ですがあなた方の家族がどのように過ごしてきたか、それを知って頂きたかったのも事実ですので」

その答えに納得したかはわからないが、晴香は息を吐き頷いていた。勇夜は少しだけ気持ちが落ち着いてきたので、晴香に"大丈夫"だと伝えた。それを見てノイルは話を続けた。


「それでは今回の本題に入らせていただきますね。まずはこの話を"まだ"口外しないことを誓ってください。それと少し失礼な言い方をしてしまうかもしれませんが、理解してくださいね」

勇夜達は頷き、話を聞く体制になる。


「では、今回剣鬼が相対した敵は、魔界の王であること、そして蒼帝が聞いた内容と現在この世界で起きていることを踏まえて、恐らく戦争が始まるということ。それがこの話の肝となりますね」

勇夜はその話に唾を飲み込んだ。驚きと戦争の根元である魔族の王がこの国に直接攻めてきたという恐怖から、冷や汗が流れた。あの黒い結界が壊れたときに視界に見えたのは、リベラリム………勇夜にとって最悪の存在……だがその隣に居たのは更に最悪だったということに気付いた。


「これはまだごく一部が知る内容ですが、近々公表し、それに備え戦力を整える必要があります。ですが今回の剣鬼が亡くなったことで戦力が大幅に落ちることになりました。彼の力はそれほどのものだからです。現存するこれで魔装騎士は8人、魔界の王が出現したことで、次の戦争はこれまでと比になら無いほどの戦禍となるでしょう。現在も他国に要請はしておりますが、戦力としては期待できないでしょう……この大陸で、まともな戦力はここカルディークとセルン王国位です。有象無象が増えたところで魔族相手では無力ですし、精々魔物の相手をする程です。別大陸である東大陸の"大和"の国は戦力は強大ですが、恐らく応じてはくれないでしょう。過去に応じてくれたのは剣鬼の時だけでした。それに自国の戦力を落としてまで応援に来ること事態危険です。もし戦力を割いて自国にも攻められたら意味がありませんからね」

ノイルの長い話からは、国家間のやり取りの難しさが伺えた。勇夜は外の世界をよく知らない。戦力を整えなければいけないこの状況でどうするのか、勇夜達はこの後に続く言葉を待った。ノイルは一呼吸置いて話し始める。


「いつどこで始まっても、おかしくはない状況です。他国の協力もそうですが、自国で才能ある者を優先的に鍛え、戦力を強化する方が確実なんですね」

ノイルは話の後に蒼帝様へ目配せし、続いて蒼帝が話を始めた。その話が本題なのだろうと勇夜はその雰囲気から感じた。


「ここまでの話で恐らく勘づいているかもしれませんが、私達は勝たなければ次はないでしょう。故に戦争における特殊編成部隊の設立を決行することになりました。編成にはカルディーク皇国 剣騎学園の生徒から選抜します。如月 靖耶さん そして勇夜さん 貴方方にはその部隊へ入ってもらいます。他にも候補はもう上がっているので、これからそちらにも伝えますが、これはお願いではなく、命令です。拒否は不可能なので理解してください」

その話に反論したのは、勇夜でも靖耶でもなく晴香だった。テーブルを叩き立ち上がった晴香の顔は、怒りに満ちていた


「貴方方は、何を言っているのかわかってるんですか?! この子達は! ……いえ貴方方が言われている部隊は、子供達を戦争へ駆り出す事なんですよ!」

晴香の言葉は強く、そして正論であった。しかし目の前にいる2人は冷静だった。


「理解はしています。ですがそれほど剣鬼の抜けた穴は大きいのです。それに剣鬼も戦争に出たのは彼らと同じくらいの歳だったはずです」


「っ! あの時とは状況が違います! あの人は少なくとも力がありました。それに当時は魔装騎士があの人を含めて5人でしたが、今は8人、そして蒼帝様がいるのでしょう? 無理に子供達を戦わせる必要はないはずです!!」

片や凄まじい剣幕で声をだし、片や冷静に言葉を交わす者、勇夜はどうすべきか迷い靖耶の方を向くが、靖耶は別の何かを考えるように黙りこみ介入をしないつもりのようだった。


「そうであれば我々もこのような判断をしませんでした。ですがそうも言っていられないのです。魔界の王ギルヴァスは少なくとも私だけでは勝てないかもしれません。恐らく我々魔装騎士の全てで戦わなければ行けません。他の魔族も同様です。勇夜さんが遭遇した魔族……我々が呼称する上位魔族の可能性が高いです。雷皇及び光姫の報告通りであれば、その相手に魔装騎士が2人必要だと考えています。それがこれまでの戦いでは2人……もしかすればそれ以上存在するかもしれません。そうなれば勝つために我々が下手に戦力を分散させるわけにいかないんです。だからこそ信頼足り得る戦力が欲しい。それが特殊編成部隊なのです」

その長い説明には、確かな理由と苦渋の決断であったこともその雰囲気から感じ取れた。だがまだ晴香は納得仕切れておらず、蒼帝は一息ついて話を続けた。


「何故彼らなのか……恐らくその点が納得できないかもしれません。ですが戦力足り得る根拠はあります。それはこの中の数人は魔族と遭遇、戦闘を経験し、生き延びたこと…そしてそれでもなお戦う意思を見せたことです。力のないものが強者と出会い、死の恐怖を味わえば戦う意思を持つのは厳しいです。それを戦い、肌で感じた者は今まで例外なくそうでした。いえ……生きて帰ってこなかった……という方が正しいでしょう。たがらこそなんです! そして他の者達もそれに準ずる強さと意思があると我々は…私は思っています」

晴香は唇を噛み、2人睨み付けていたが、どうやっても覆りそうにないこの話に一度深呼吸をして、大人しく座り直した。


「………納得できない気持ちは理解はできます。ですがこれだけは分かってください。恐らく今回の戦争が最終決戦となり、負ければ全てが終わるということです。………では、靖耶さんと勇夜さんにはこれからの話を………」

蒼帝がそう切り出したときに、その言葉を止める人がいた。


「お話の途中ですみません。どうかこの話を少しだけ待ってくれませんか? 否定や拒否のつもりはありません。ですがこの話を進める前にどうしても成さなくてはいけない"けじめ"があるのです。俺が継いだ如月家の当主として、そして1人男として、兄として………どうしても私自身が前に進むために必要なんです」

それは先程まで冷静に話を聞き、そして何かを考えていた靖耶だった。


「それは一体何ですかね?」

その言葉にノイルは問いかける。


「すぅ……はぁぁ……俺の……勇夜とのけじめです」

口に出した言葉を聞き勇夜は驚く。靖耶の話は勇夜にも関わることなのだそうだ。だが勇夜自身には靖耶との間に身に覚えはなく。ただその言葉に勇夜は首をかしげていた。靖耶のその瞳には普段の優しさはなく、覚悟の色が伺えていた。

ここ何部かは、更新が遅れ気味で申し訳ありません。

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