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死は永遠の眠りを 想いは永遠の繋がりを


勇夜は今、カルディーク皇国 ギルドの待合室にいた。一緒に居るのは晴香と靖耶だ。明日は国を上げての大規模な葬儀が行われる予定だ。今日はその前日、勇夜達はギルドから呼び出しがあり、こうして足を運んでいる。何故か…時は本日より3日前に遡る。


街では様々な整理がされているなかで、如月家にて如月 鋼誠の葬儀が行われていた。身内のみで行われたこの場には家族や保護下に居る子供を含め、葬儀関係者、ギルドと騎士団からそれぞれ数人程の参列者がいた。ギルドからは仮面を付けた蒼帝様と闇牢様、ギルドマスターのノイルさん、そして恐らく鋼誠と同い歳位の隊員が数名、そして騎士団からは大騎士長と、喪服を着た、セリエとヴィル、そしてトールの父親がいた。確かこの3人は騎士長だったはずだ。勇夜は父親達が知り合いなのはさほど驚かなかったが、ギルドの有力者と大騎士長が知り合いというのは正直驚いていた。


勇夜は昔の鋼誠がどんな人だったのか、何も知らない。知ろうともしなかった。晴香は何か知っているのかと思っているが、驚かずに淡々と動き、冷静に見えていた。いや、そういう風に見せようと我慢していただけなのかもしれない。


勇夜は葬儀が終わるまで泣くことはなかった。本当に最後の別れだというのに…悲しいと思っているはずなのに…勇夜の瞳には涙は溜まることはなかった。子供達が啜り泣くなかで、葬儀は最後まで何もなく終わりを告げられた。その後は鋼誠をどのように見送るかの話となったが、その時に蒼帝から声が上がった。

その内容は、勇夜の父親である鋼誠が元Sランクのギルド隊員だったこと…そして魔装騎士の剣鬼であったこと……勇夜と靖耶は驚いていた。自分の父親が魔装騎士だったという事実に…20年前の戦争で戦い、人族を救った1人だったことを。


その後に続く言葉は、昔から魔装騎士の亡骸は、その力を天へと返し、そしてまた人界へ巡って来るように、その時代の魔装騎士の詠唱と共に火葬するのだそうだ。そうして場所を変え、本当の意味で自身の父親との別れをするときが来た。

勇夜達は少しだけ離れた場所で見守っていた。どうやら蒼帝がその役目を代表するようだ。そして詠唱が始まる。


「“剣鬼”如月 鋼誠よ


貴殿の姿は、強く、逞しく、信念に満ち、己の道を貫いた姿は……皆の憧憬の的であった


我は感謝の意を込め、天の神の元への案内役と成ろう、

我が蒼き炎よ、暖かく優しく、そして巡る運命を導き給え


天導(てんどう)の蒼炎”」



詠唱が終わると同時に、鋼誠を囲う木組みの台から蒼い炎が上がり出す。徐々に炎は中央へ迫り、鋼誠を包もうとしていた。

その光景を静かに見守っていた勇夜は、ただ見詰め、濡れぬ瞳のまま立ち尽くす。


ふと勇夜の頬を柔らかい風が撫でるように感じた。それと同時に炎が鋼誠を包み込む……


「これはっ?」

誰が発したか、それは驚きの声だった。今しがた鋼誠を包んだ蒼い炎は、赤く…いや赤黒い炎へと変貌していた。何が起きたのか、これも魔装騎士を見送るときになる現象なのか…勇夜は少し前に居る彼らに目を向けた。


「闇牢、これは一体?」


「いや…私にも解らない。今まで何度か見送ってきたが、こんな事は初めてだ」

見れば炎を放った蒼帝も、その横に居る闇牢も同じように驚いていた。

これが何なのか、勇夜には分かるはずもなく……だが、その炎から目が離せなくなっていた。


炎は次第に大きくなり、それと同時に風が吹く。

次の瞬間炎が大きく広がり、風に乗った炎が勇夜達に向かってきた。勇夜は身構えるが、自分を包むような炎は不思議と熱さも感じられず、そこにあるのにまるで幻かのようにただ揺らめいていた。ほんの少し吹く風に火の粉が舞い、勇夜の頬を撫でる。それは頭の上にも同様に舞っていた。

勇夜はまるで、頬に触れ、そして頭を撫でられるような感覚がしていた……そんな気がする……それだけ………それだけなのに




勇夜の頬をゆっくりと温かいものが伝っていった。軽く左手で触れると勇夜の目から涙が溢れていた……


「っ…………な……んで」

勇夜の声は震え、上手く声が出せなかった。

"さっきまで悲しい気持ちになっても涙が出なかったのに……どうして今になって、なんで?" そう自分で考えても、その答えはでなかった。ただただ涙がどんどん溢れ、拭っても拭っても止まることはなかった。


勇夜が隣を見れば、靖耶も唇を噛みながら涙を流し、晴香は膝が折れ、子供のように泣き叫んでいた。2人も勇夜と同じように感じたのか、2人がどんな風に感じたのかは判らない……だけど……勇夜の感じたそれは、温かくて……優しくて……勇夜は昔に父親に優しく頭を撫でられた事を思い出していた。いつの事だったのかは思い出せない……だけど大切な思い出だった筈だ。

炎は周囲を漂い、暫くするとまるでお別れの挨拶をしているように 最後に頬を撫で、"もう泣くなと……見守っているからと"勇夜に伝えるかのように、涙を拭われ、勇夜の中に入ってくる気がした。いや……正確には勇夜が身に付けている騎装環に吸い込まれるように入ったように見えていた。だがそれと同時に勇夜の中にも温かい何かを感じていた。


広がっていた炎は徐々に収まり始める、赤黒い炎は最後に大きく飛散し、天高く舞い上がるその光景は、天へと帰る儚くも美しい光となって勇夜の瞳に映っていた。

見上げる勇夜の瞳から流れていた涙はいつの間にか止まっていて、温かい気持ちの残った胸の中を確かめるように、目を瞑り右手を胸に当てた。ゆっくりと呼吸を繰り返し、そして勇夜は目を開け前を見ると、鋼誠がいた場所には何も残っておらず、蒼い炎が今にも消えようとしていた。


「……意思の……想いの力か……」

その言葉が呟かれたのは、闇牢からだった。この場にいる者はその言葉を聞き、闇牢の方を向いた。


「意思と想いの力とは一体?」

蒼帝は、代表するようにその言葉の意味を聞いた。


「いや…俺も聞いただけだ。だが今の現象を見ればそれも真実なのではないかと思う。この答えを知るわけではないが、意思と想いの事を言っていたのは、他でもない剣鬼……如月 鋼誠の言葉なんだ」

闇牢はそう言うと、一呼吸置いて話を続ける。


「昔、初めて私と鋼誠が出会ったとき、それは戦争が始まる前の日だった。俺と同じ、人とは違う力を持った者、正直言えば私はただ戦うことに意味を見出だせなかった。望まない力を持ち、たったそれだけで周囲からは疎まれ、孤立した。そんな奴等のために俺達が命を掛けて戦う事が本当に必要な事なのか……とね」

勇夜達は静かにその話を聞いていた。その話には重みがあった。今も昔も魔装騎士という存在は人の希望であり、唯一魔族と渡り合える存在だ。しかしその存在が尊敬や憧れの物となってから日が浅い。昔は迫害が起きていたと言われている。戦うことも強要されていたのではないのか……人とは違う力を与えられた、それだけで人々から軽蔑や差別の視線を浴び、辛く苦しい日々を過ごしていたのだろうか……

勇夜は授業で知っているだけで、昔本当は何があったのか知らない。もしかしたらここにいる蒼帝、闇牢、それに鋼誠もそんな事があったのだろうかと想像していた。それは勇夜自身がいくら考えても解ることはない、それがどれ程辛く苦しい物だということを……


「そう言ったとき、鋼誠は少し考えて答えてくれたよ。"俺にはそんな気持ちはわからない"とね。その答えに私は最初怒りそうになってしまった。こいつは何も苦しまずに生きてきたのかと…だが違ったんだよ。そもそも私と……いや、その場に居た魔装騎士の誰とも違っていた。何のために戦うのか。その理由さえもね」

闇牢の顔は仮面に覆われている為、口元や表情は分からなかったが、少しだけ笑っているように話し方から感じた。懐かしむかのような柔らかい雰囲気を出しながら……


ーーーーーーーーーーーー


「あいつらは! あいつらは戦いにも出ないで俺達に戦えと! こんな望んでもない力が有るからって、誰とも知らない奴等のために、国のっ!世界のために戦えって言うんだぞ! 今まで俺達がどんな気持ちで……どんな仕打ちを受けたのかも知ってるのに奴等は手の平を返して!」

その場には青年と少年が居た。1人は恐らく20代前後だろうか、声を荒げ年が下に見える10代後半の少年に叫んでいた。


「お前はそんな気持ちも理解できないのか! そんな奴等のために、はいそうですかと!理解したって言うのかよ」

青年の顔は怒りに満ちていたが、対する少年は冷静であった。


「別に……そういう気持ちを否定する気はない。ただあんたと俺とじゃ戦う理由が違う、だから分からないと言ったんだ」


「あ"ァっ?! 何が違うんだよ! お前だって強要されて来たんだろ」


「確かにな」

青年は少年の答えに、"やっぱりな"という態度をとる。


「たが……俺がこの地に来たのは、好きな………大事な女を救うためだ」

青年はその答えに疑問を抱き、問おうとするが少年の話が続く。


「俺の国では、俺ともう1人が呼ばれていた。俺はそいつが戦わないように…戦うことを強要される運命から救うためにここに来た。だから、俺は国でも世界でもない、愛した女のために……それだけのために俺はここに立っている」


「はっ!世迷い言だな。結局俺達が負けたらそれまでだろ。好きだろうが大事だろうが関係なく、全て終わりだ。そうなればお前の大事な女とやらも戦いに駆り出されるわけだ! 結果は何も変わらないだろ……」

青年の口調は馬鹿にするような物であったが、実際は諦めからくる八つ当たりのようなものだった。少なくともこれからくる逃れられない死という運命に


「させないさ……俺がさせない! 俺は絶対に諦めない負けない、必ず生きて、生き残って勝つ!」

少年の言葉には先程と違い、覇気があった。青年は一瞬、本能的に後退るが反論する。


「何が俺がさせないだ! 今まで俺達のような奴等がどんだけ命張っても結局魔族に勝てなかったんだぞ! それが、お前がっ俺達がやっても何も変わらないじゃないか……」

青年の言葉は、徐々に力を失っていった。後悔と悔しさ、未練のような物が見えていた。


「なぁ…俺達のこの力は何だと思う? 何で人と違う力を持ったと思う」

青年は答える気がないのか、ただ俯いていた。


「確かに呪われた力なのかもしれない。苦しくて辛くて悲しくて死にたくなって……だけど俺は、この力が有るから戦える。この力があったから、大事な人を救おうと戦える。だから俺は……この力は自分の意思を…そして想いを繋げる…そんな力だと思っているんだ。だってそうだろ、俺達にはイメージを意思を力にする事が出来るんだ。それが強ければ強い程に力が増す。想いを繋げ、意思を繋げ、それを途切れずに繋ぎ続ければ俺達は絶対に負けない!俺達の意思も想いも無意味じゃないんだ」

そう言ったときの少年の表情は、これから戦争へ赴くとは思えないほどに澄んだ空のように明るい笑顔だった。


ーーーーーーーーーーーー


「まあ正直な所、今でも意思と想いの力というのは理解できずにいるが、それでも先程の光景はそうであったと私は思っている。それがあったからこそ、私も彼もあの時生き残ったんだと、そう思っているよ」

闇牢の声はくぐもった声であったが、とても優しい声だと思え、そして鋼誠の言葉は勇夜の心にその言葉を留めた。


「………あなた方には、お話しするべき事がございます。なので、後日ギルドへお越し下さい。日程は後程、隊員に連絡させますので」

暫くの時間を置いて、蒼帝が口を開いた。どういう用件なのか、それはわからないが勇夜達は頷いた。



それが、3日前に起きた出来事だ。






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