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繋ぐ思いは冷たい雨に打たれて…

~カルディーク皇国 広場~


事が起きてから30分近く経ち、広場は落ち着きを取り戻しつつあった。まだ抗議する者やどうにかしようと動きを見せる者もいるが、それをなんとか現場の騎士達で抑えることができていた。だが焦りや不安が先行しているなかで時間の進みはとても遅く感じていた。それは国民もそして騎士達にも言えることだった。いつ痺れを切らしてしまうか…そんな空気が流れ始めた。そして一つの影が建物の屋根から飛び、結界と騎士達の間、サレリアの近くに着地する。


「なっ!何者だ!」

極度の緊張の中で、不意に来た謎の人物に付近の騎士達は剣を抜き警戒する、


「っ!剣を降ろせ!」

しかしサレリアはその人物を見ると直ぐ様声を上げ、騎士達に命令する。


「騎士団の者が失礼致しました。私はカルディーク皇国騎士団所属 サレリア・シュバルです」

サレリアは片膝を突くと目上の者に向ける姿勢で謝罪をした。


「いい、今は緊急事態だ。報告を」


「了解致しました。"蒼帝様"」

その言葉を聞き、周囲の騎士達は全員膝を突く。目の前にいる人物は、騎士団の大騎士長と同じ立場でありながら、実力は更に上であり、人族の希望である蒼帝なのだ。公の場ではいつもマントのフードで頭部を隠しているのだが、フードはしておらず顔を覆う仮面と、まるで空のように青い髪が特徴的であった。普段顔を見せない蒼帝を何故サレリアがいち早く気づいたのか、それは蒼帝の着用するマントにあった。魔装騎士のマントにはそれぞれ個人の紋章と名を示すプレートが縫い付けられている。それは使用者が許可しない限り本人以外には着用出来ないのだ。

サレリアはこの結界がどういうものなのか、発生からの時間等を蒼帝に伝える。


"30分も経っているのか、時間が掛かりすぎだな…ここに来るまで第一封印迄は解除したが、それでも破壊するには足りないな。第二を解除するしかないが、この場で解除するには周りに影響が出過ぎるか… なら"

蒼帝が危惧しているのは、自身の膨大な魔力を一度に解放することは、周囲の者に少なからず影響が出る。耐性の無いものが諸に受けてしまえば体調を崩し、最悪魔力神経に負担がかかってしまうからだ。


「サレリア・シュバル、これから結界を破壊する術式を発動する。付近の住人をもっと離れさせ、それを守るように結界を騎士達で張れ」

サレリアに指示を出し、承諾したことを見届けると、蒼帝は自身の解除をしようとした。


「ヴィル!セリエ!」

少しばかりざわつく人混みで、声が響く。


「? っ!勇夜!アリサ!無事だったのか。それに如月会長まで」

ヴィル達に掛けられた言葉を発したのは左脇に松葉杖を担ぐ勇夜であった。その後ろにはアリサと靖耶がその後を着いてくるように歩いていた。


「俺はさっき勇夜達とすれ違って、それで一緒に来たんだが、君達も無事でよかったよ」

靖耶は勇夜達と一緒にいる理由を話し、勇夜達の言葉を代弁する発言をした。それに同意するように勇夜は頷く。ヴィルは友人の安否にほっとし、笑顔になるが、ふとセリエを見ると顔が伏せられ、肩が震えていたので大丈夫かとヴィルが聞く。するとセリエは近くに寄ってきたアリサに抱き付いた。


「セリエ?!」

アリサが突然の事に驚き、セリエの名を呼ぶが、アリサは自身の右肩に何か暖かいものが落ちたのを感じ、セリエの背中にそっと手を触れた。


「よかっ…よかったよぉ…2人共無事でぇ…何か…あったらって…おもったら……っ心配したんだからぁ」

セリエは顔を上げると涙を流しながら、言葉を続けた。その姿に勇夜とヴィルは安堵の笑みを浮かべていた。そしてそんなセリエをアリサは優しく頭を撫でる。


「セリエ…」

サレリアは指示を出しながらセリエ達を視界に入れ、セリエの友人が無事であり、セリエの悲しい顔を見ないで済むことに安堵した。

そんな中で動きがあった。外部からまだ何もしていないはずなのに、結界の頂上付近から突如ヒビが発生し、少しずつ広がり始めていた。


"っ!何が起きた? いや今は好機と見るべきだ。まだ解除は終わっていないが、今の状態なら問題ない"

蒼帝は、発動しかけた術式を止め、その右手には深い青色と刃が薄く透けた白い両刃の剣が握られていた。


「この場から出来るだけ離れろ!」

蒼帝は近くにいるサレリアにそういうと、蒼い力を体に纏い、高く飛んでヒビの中心に着地する。そのまま剣を突き刺し、そこから力を解放する。結界から黒い何かが蒼帝を攻撃しようとするが、たどり着く前に蒼い力によって消滅していく。


「はぁっ!」

蒼帝は更に力を強め、少しずつ広がっていたヒビは、凄まじい速度で全体へ行き渡る。そしてついに…


広場を囲んでいた黒い結界は頂上付近から崩壊を始めた。蒼帝は結界より少し上の方で宙に浮いていた。どうやって浮いているのかは分からないが、よく見ると背中に薄く青い翼のような物が生えているようだった。順調に崩壊する結界だったが、不意にそれは来た。

崩壊を始めてから内から見えない何かがその周辺へ漏れだしたのだ。それは表現するのであれば死の匂い、この場に居るものは一部を除き、膝や尻餅をつく。肩を抱え震える者も居れば、その気持ち悪さに耐えきれず嘔吐する者、皆平常では居られなくなっていた。結界の中が見える頃には更に酷い濃さとなっていた。

蒼帝は上から状況を見て、何かを見つけたようで急降下を始めた。そして、なんとかこの空気に耐えていた勇夜達は、辛そうな表情をしながらあらわになった結界の内部を見る。そこには2人の姿があった。一つは立って剣を振り下ろしている姿と、もう一つは膝をつき、顔を上げてそれを見ている姿だった。1人が振り下ろした剣はもう1人を切り裂き、血が吹き出す。前のりに倒れるその人物はこちらを向き、勇夜と靖耶の2人と目が合い、笑みを浮かべていた。


「とう…さん」

俺は不意にその言葉を口にしていた。何故、どうして、そんなことばかり頭をぐるぐると巡っていた。だが間違いなく、あの場で切りつけられた人物は…あそこにいるのは俺の…俺達の父親なんだと。


「ん?」

ギルヴァスは何かに気づいたように後ろに下がると、自身の居た場所に剣を振る蒼帝が現れた。


「お前は誰だ!」

蒼帝がそう言うとギルヴァスはとても興味深そうに蒼帝を見詰め、やがて口元を吊り上げ笑いだした。


「これはまた良い! まだ戦いたかったところなのだ! 貴様はそこの剣鬼より強そうだな! ああ、そういえば名だったな。我は……」


「ギルヴァス様!! 何を勝手になさっているんです!」

ギルヴァスが名乗ろうとしたとき突如足元が光り、男が現れた。


「むぅリベラリム…もう来たのか」


「もう来たのかではないでしょう! あれほど勝手はなさらぬように釘を指したのに!全く帰りますよ」

その男、リベラリムはギルヴァスの手を掴み、足元に魔法陣が浮かび上がる。だがその瞬間金属同士が当たる音が響く。蒼帝が一種で距離を詰め、振り下ろした剣をリベラリムが右腕に現れた刃で受け止めたのだ。


「貴方は蒼帝ですね。なんとも素晴らしい闘気だ。ですが今貴方を相手に戦うのは分が悪いので引かせてもらいます」


「これだけのことをして、逃がすか」

リベラリムは蒼帝の剣を弾き防ぐが、直ぐに蒼帝が近づく。だがリベラリム達との間に結界が張られ、剣が阻まれる。


「心配せずとも直ぐに再開できますよ。戦場で…近々こちらから宣戦布告させてもらいますのでそれまでお待ちを……ではまた」


「待て!」

蒼帝は結界を切り裂き、直ぐ様剣を振るが遅く。既にリベラリム達はこの場から消え去っていた。


「っ!」

蒼帝は歯を食い縛った。その時…

「あなた…あなたぁ!」


「「父さん!」」

後ろと横から声が響き、少し離れた場所から3人が倒れている人物へ向かっていた。

蒼帝も近寄ろうとするがその前に頭に直接声が流れてきた。


("大きくなられましたね。蒼帝様")

それは念話と呼ばれる魔装騎士のように特異な力を持つ者だけがある程度の距離であれば直接脳内に意思を伝えることが出来る魔法の事だ。


("貴方は一体")

蒼帝自身は目の前にいる人物とは初対面の筈なのだ。しかし念話が出来ている以上魔装騎士であることには違いない、そう思っていた。


("私はあの村から貴方を迎えにいった隊の中に居たのです。だから貴方の事を知っているのです")

鋼誠は荒い呼吸の中で念話を続ける。念話は意思を伝えるだけなので会話はスムーズに出来るが、この状態が長く続けば確実に死に瀕してしまうだろう。そして蒼帝からすれば今の内容に驚きを隠せなかった。思い返せばこの人を知っている気がするのだ。死んでいる者と大差なかったあの時の自分に差し伸べられた手を…


("っ! 蒼帝様、お願いがございます。私の時間はもうありません。本来ならこの時間は奴の…魔界の王 ギルヴァスに関して伝えなくては行けませんが、私の残り時間を家族の為に使いたいのです")

その言葉に見れば、妻と思われる人物に抱えられ、そして勇夜と靖耶が彼の姿に悲痛な表情を見せていた。


("許可する")


("感謝を…")

その言葉を最後に念話が切れる。きっと人の未来を考えるなら無理にでも聞き出すべきである。だが結局何も出来なかった自分が、一度は自分を助けてくれた手を救えなかった自分が…その命をとして戦った男の望む願いを無下にすることは出来なかった。

魔装騎士の力は致命傷の傷ではない限り、その特異な力で死なない程度に治癒を自分の意思とは関係なくするのだ。それは戦い続けることを強要するかの力のようである。だが今はその力が致命傷の傷を負った鋼誠の命を少しながら留めているのだった


「すま…ない…結局約束守れなかった…な」

鋼誠は時折来る痛みに顔を歪めながら、なんとか笑顔を作り、晴香にそう伝える。


「あなたと共に生きると決めた日から覚悟はしてました。後は私に任せてください。だから…だか…ら」

晴香は始めは堪え、話し始めるが次第に声が濡れ、鋼誠の頬に涙の粒が落ちる。


「…っ…私はっ!! 私の人生はあなたが居たから幸せでした。私と一緒に居てくれたこと!私を救ってくれたこと!私の為に戦ってくれたこと!その全てが私の幸せでした…あなたと共に生きたことが私の全てでした…私はっ!あなたのことをいつでもどんな時でも…あ…いして…いますぅ…鋼誠さん…」


「俺も…いつも君を想うよ」

晴香はその言葉を聞くとどんどん溢れてくる涙を拭うことが出来ず、だが泣き叫ぶことだけは耐えていた。


「靖耶…」

鋼誠は次に靖耶の顔を見て話を始めた。


「はいっ!」


「これからの如月はお前が背負え、お前が当主として継いでくれ。辛いこと苦しいこと沢山有るだろうが、きっとやれるさ。お前は俺の息子だ…そして俺を越える剣士になってくれ」


「はい…はいっ!」

靖耶何度も頷き、鋼誠の言葉を守ることを心に誓った。


「勇夜…」

最後に勇夜を見た鋼誠の顔は他の2人と違い、優しくそして少しの後悔が混じっているようだった。


「…っ!」


「お前には辛い想いをさせた。俺はきっと良い父親ではなかっただろう… すまなかった。お前は如月に捕らわれなくていい、好きに生きていいんだ。真っ直ぐ自分の信じた道を…決意したことを守れる男になれ…救世主にならなくていい…だが手の届く大切な人は必ず守りきれ…ただそれだけでいいんだ」

俺は父さんの言葉で靄が掛かっていたような記憶がはっきりと見えた。俺が目指す強さ…誓い…それは誰が教えてくれたのか、あの時の優しい父親の顔を何故忘れていたんだろう。だか理由はわかっている。それを乗り越えなくてはいけないことも…


「ああっ!…わかった」


鋼誠は伝えるべき事を伝え、それが通じたことに小さく笑みを浮かべていた。鋼誠を囲む3人の声が響くが、鋼誠は既に体の感覚がなくなっており、目も見えなくなっていた。


「これからの事…たのん…だぞ」

力なく自分の右手を上に上げる。それを勇夜と靖耶は答えるように強く…強く握りしめた。鋼誠は感覚の無くなった手に確かな意思が込められた温かさを感じ、笑みを浮かべた。それと同時に切り裂かれた傷口を覆う鋼誠の力は徐々に消え始め、生々しい傷口だけが残っていた。


"ああ…これで最後になるというのに、とても満足している。未練がないと言えば嘘になるが、ああ…俺は……俺は今…とても幸せだ"


鋼誠の体は力なく落ち、同時に命が消えていった。安らかなとても幸せそうな笑みを浮かべて…


この日、ただの数十分で数十人の命が失われた。だがこの日この場でそれを理解し、涙を流した者は殆どいなかった。何故ならそれは…分からないからなのだ。確かに結界に閉じ込められた筈だ。しかしそこには、人はおろか身体の一部も身に付けていた物さえ何一つその場には無かった。まるで始めから無かったかのように…故にその場にいた人は、その現実から逃げようと…望みを繋げようとする。本当は閉じ込められずにどこか離れたところに居るのではないか…いつの間にかはぐれて、既に家に戻って居るのではないか…そんな儚い望みを殆どの者が考えていた…だが直ぐに気付いてしまうだろう。自分達の大切な人達は既に存在しないことを…親も子供も恋人も友人も、帰りを待つ筈の人も、帰りを待ってくれる筈の人も…もうこの世に居ないのだから…



そんな人々の気持ちを知ってか知らずか、まるで世界が代わりに悲しみ、涙を流すかのように降り始めた雨は、とても冷たい……冷雨だった…


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