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目覚める時は意外と冷静で

~カルディーク剣騎学園 特騎科~


集会とアゼルの転入から数日が経とうとしていた。研修の中止で騒がしかった学園も今は落ち着きを取り戻しており、今まで通りとはいかないが平穏の日々をおくっていた。数日経った今でもアゼルに対する興味は薄れること無く。今でも数人の集まりが出来ていた。だが今日の日常は少し違っていた。それはアゼルがトールとセリエ、アリサの3人を呼び出したのである。そして授業終了後、集合場所である申請しなければ使えない生徒専用の会議室へ場所が移る。


「すみません。本来ならもう少し早く話すべきだったんですが、思ったより落ち着かなかったので」

この場に集まった4人の内、アゼルは笑顔でそう話し始める。


「ふん、そんな薄っぺらい嘘の笑顔なんぞ必要ない。貴様の目的はなんだ? ただ友人になりたいなんていう下らない事を言うために集めた訳ではないだろう?」

トールは鼻をならし、アゼルを威圧しながら、この場に呼び出した訳を聞いた。言い方は良くないが、他の2人もこの内容は聞きたいようだ。


「薄っぺらいっていうのは中々酷い言われようですね。まあ嘘というのは否定しないですけど… では、今回集まってもらったのは皆さんに聞きたいことがあるからです。取り敢えず俺が何者かというのはギルド所属の隊員でここに来たのは任務の為です。その他にも目的はありますが、今回のことはその目的の一つだと思ってもらえばいいかと」

アゼルは先程の笑顔と違う無表情で、淡々と話し始める。丁寧な言葉遣いではあるが、それは目上に対して使うような感情ではなく、ただの社交辞令のような雰囲気を出していた。トールは眉尻を上げていたが、話を遮ることはせずに聞く姿勢を取っていた。


「皆さんはつい一週間前に魔族と対峙し、本当の戦いというものを肌で感じたはずです。その上で、まずはセリエ・シュバルさん。強者という存在を前に君は何を感じましたか?」

アゼルは突然セリエの方を向き質問をする。セリエは"私?"という多少困惑した表情をしたが、その時の事を思い出し眉尻を下げた。


「……怖かった。声も出せなくて体も動かなくて…私に手を向けられた時、ああ…私はここで死ぬんだなって思った。心の中で色んな事を思い出して…でもヴィルが私を助けてくれたとき、相手の事よりヴィルが居なくなっちゃうかもって思ったらその方が怖くて…私には何も出来ないからただ泣く事しか出来なくて」

セリエの瞳は次第に潤みだし、言葉の最後に唇を噛み我慢しているようだった。


「そうですか、では次にアリサ・フェルムさん。君も恐らく同じように感じたと思いますが、同じような状況になったとき君は戦うことを選びますか?それとも目を背け、生きるために逃げますか?」

アゼルの次の質問は正直酷に思えた。どのような意図があるかわからないが、同じ場面があるなら、それはまた味わいたくないことであるのは確かなのだから


「もし同じ事が起こるとして、正直戦わないですむなら、あんな思いは二度としたくはないと思う。逃げれる状況なら逃げた方がいい、生きるためなら…… でもその代わりに誰かが戦って傷ついて、色んな人が犠牲になって…今回私達の目の前でお世話になった人達がいなくなって、辛くて悲しくて…そして私達の代わりに戦ってくれた人がいて、自分が傷ついても戦い続けてボロボロになって… 私は目の前で助けられるかもしれない人を助けないで後悔はしたくない。私が強くなりたいのは運命に抗う為に戦うためなんだ。だから今度は私が…私も一緒に戦うんだ。…それに目の前で大事な人を失くすことだけは…あんな思いはもう誰にも絶対にさせたくないから…」

アゼルに向けたアリサの目に迷いは無く。今回感じた事を必ず次に繋げる、そんな意思が強く感じられた。アリサの最後の言葉にアゼルは何かを感じたようだが、そのまま目を閉じ一度頷いた。


「最後にトール・ケネデリス君 君は誰の為に戦いますか?」

トールに問われた質問は、他の2人とは違っていた。


「誰の為にか… そんなものは既に決まっている。それは誰でもない自分の為にだ。自分の存在を示すため、自分が強者であるために、今度こそ勝つために… 俺の大事な物は俺だけの物だ。俺の守りたい者は俺が決めることだ。誰の指図も受けない。だから俺は戦うことから逃げない、俺は俺の為に最後まで戦うことをやめない。それだけだ」

トールの言うことは端から聞くとまとまりのない、自分勝手な話に聞こえるが、アゼルは口角を上げ少し笑っていた。


「皆さんの想い、言葉、それぞれ違うように聞こえても同じだということがわかりました。これからも戦い続けることを選択した君達は恐怖を乗り越えようとする勇気ある人達です。恐らく後2人も同じでしょうね。」


「結局貴様の質問に答えて此方に何のメリットがあった? 意味のない問答するほど暇ではないんだ。これ以上なければ出させてもらうよ」

トールは不機嫌そうな顔をすると、扉から出ようとする。


「やめた方がいいと思う。多分だけど私達がこの部屋に入ったときから結界が張られてる。少なくても私達じゃないから恐らくベルライト君が」

扉に手を掛けようとしたトールをアリサが止める。アゼルは、"へぇ"と小さく言葉を溢し、アリサを称賛した。アリサが気づいたのも結界魔法が多い光属性を持っているからかもしれない。


「フェルムさんの言うとおり、この部屋には結界を張らせてもらってます。全て外界からの接触を防ぐための遮断結界をね。聞かれるわけにもいかない内容だから、もう少しだけ待ってて貰えると助かるんですが」

アゼルはそう言葉にすると、トールを見て戻るように催促する。反論するかに思われたトールだが扉から離れ、その場でアゼルに向き直った。


「ありがとうございます。話の続きをしますね。まあ本来君達が戦うことから逃げるのならそれはそれで良かったんですが、その意思がないようなので、目的を話させてもらうと、君達には来るべき戦争に参加してもらいます」

アゼルの言葉に空気が一瞬凍ったかのような静けさが漂った。


「誤解しないでもらいたいんですけど、魔族と戦えということではなく。戦力の一つとして君達に出てもらうということです。今の世代で本当の実戦を知るというのは貴重で、更にかなり上位の魔族と出会った事は我々にとってそんな人物を放置するわけにもいかないんですよ。それに戦争が始まるのは確実となりつつあり、恐らくそう遠くない日に魔族の側に変化があるはずです。ただ君達を今の状態で戦いに出せば如何に、恐怖に慣れても意味はありません。なのでこれからは俺が君達を鍛えます。それが俺の一つ目の任務と目的ですから」

アゼルの話を全て理解することは難しく。直ぐに了解の言葉も出ないだろう。しかしこれだけは理解できる。魔族との戦争が起きること、そしてそれは避けることの出来ない事なのであることを…


ーーーーーーーーーーーーーー


"俺は今何処に居るんだろう… 暗い…何も見えない。体も動かせない。

どうして俺はここに居るんだろう…何をして、何があったんだろう… わからない………… いや…俺は戦っていたはず、何と? 何のために…… ヴィル、セリエ、トール、アリサ…… そうだ、俺は皆で生きるために戦ったんだ。なのにアリサにあんな顔をさせた… 戻らないと、俺はまだ生きて皆と一緒に…"

まるで暗闇の中を漂っているかのような状態であった勇夜は、徐々に自身の事を思い出し始める。そして最後に思い出したのは、色を無くし始めた目に映るアリサの顔。勇夜は力を振り絞るように歯を食い縛った。 そんな中で勇夜の頭に何かの声が響く。それは恐らく男性の声、そしてその声は勇夜にこう言った。


「"大丈夫、君はまだ君のままだ。だからもう目覚める時だ"」

勇夜の目の前に小さく光が灯され、その光に吸い込まれそうになる。急激に意識が薄れそうになるほどの衝撃が襲い、勇夜は近付く光に目を瞑った。


「"願わくば、君の結末が僕達と同じにならないことを願って"」

男性の声は最後に言葉を発したが、それが勇夜には聞こえてはいなかった。


ーーーーーーーーーーーーーー

カルディーク皇国 中央の病院


勇夜の目が覚めると眩しい光が目に差し込んできた。視界はボヤけ、目の前に何があるのか、はっきりとわからなかった。ただ誰かが近くに居るようで、忙しなく動き何かを話していた。耳もまるでエコーが掛かったように聞こえ、その話を理解することは出来なかった。その人物は勇夜に何かを話すと直ぐにその場を離れ、この場に誰も居なくなったようだ。だがほんの少し時間が経つと全体的に白い人が勇夜の前に現れた。その人は何かを話すと目の前が急に暗くなった。どうやら手を当てられているようだ。目を瞑り、手を退けられたのを感じる。


「もう目を開けて大丈夫」

そう言われ目を開けると、先程のボヤけが嘘のように無くなり、視界がはっきりとしていた。その上声も聞こえるようになったことから、目の前にいる白いマントを着たこの人に直してもらったんだろう。


「あ"…の" っ」

声を出そうとした勇夜は、声が掠れ思ったように話すことが出来なかった。


「あまり無理はしなくても大丈夫、貴方がここに来て2週間になるところで、傷は直っても貴方自身の疲労は完治してないはずだから、ゆっくりと焦らずに…ね。無理に声を出す必要はないからわかったら頷いて」

目の前の女性の言葉に勇夜は頷く。そして言葉が続いた。


「私はギルド所属の隊員で、貴方に分かりやすく言うと光姫って言えばわかるよね。貴方達の戦いから今まで治療をさせてもらっていたの。 だからまずは無事に目を覚ましてくれて、本当にありがとう。私は貴方を助けるためとはいえ、危険な処置を貴方にしてしまったのですから」


「い"…あ"」

光姫の言葉に勇夜は、否定をする。感謝するのは勇夜自身であって、頭を下げられる事は何一つないと言いたかったようだ


「ありがとう…、取り敢えず今の状況を知りたいだろうから、大まかに説明しますね」

勇夜はその言葉に頷き、光姫は説明を始めた。先ずは勇夜自身の体の状態について、魔力神経の損傷がまだ完治していないので、上手く魔力の発動が出来ないこと。右腕も同じく内部が損傷していること、その為まだ少しの間はギプスを外せないこと。意識が回復したのでリハビリを行いつつ、検査を実施し、問題なければ数日から一週間程で日常生活に戻れること。

自身の状態を理解し、勇夜は頷いた。落ち着き、冷静になりつつあった勇夜は一つの疑問を聞いた。


「みん"な…は?」

それはヴィルの事であり、セリエ、アリサ、トールの事でもあった。


「そうだったね。先ず貴方にはその話をするべきでした。貴方とヴィル・グラッド君以外の3人はほとんどケガもなく今は学園に居るはずです。グラッド君も傷は直って、つい先日に目を覚ましたの。まだ今はここに入院してるけれどね」

勇夜は一息つく。皆無事なんだと、勇夜は助けることが出来たんだと胸に左手を当て、安心した。


「それで貴方に確認したいことがあるのだけれど、貴方の傷は外部からというより内部からの損傷だった。それは敵の力?それとも貴方自身が?」

勇夜はその問いに少し下を向き、その後に自分自身であることを伝えた。


「そう…ですか。貴方の成すべき事のためにその力を使ったのだと思います。自分がそうなると分かっていたかは知りませんが、覚悟の要ることだったと私は思います。ですが、それを二度と使うべきではない。それが誰かを救うことになろうと自分を犠牲にして得る勝利は虚しく、そして貴方を想う多くの人を悲しませます。間に合わなかった私が言うべき事ではないのは百も承知ですが、魔族や戦いは私達に任せてください。貴方は十分誇っていいんです。だから…」

勇夜には、光姫さんが言おうとしていることの理解は出来た。きっと他の人も同じように言うかもしれない。だが勇夜は首を横に振り、言葉を止めさせた。それがどのような意味をもたらすのか、そしてどんな結果を出すのか、知っていながら勇夜はその言葉を拒否した。


「ハァ…… やはり蒼帝の言うとおりになってしまうのですね。………貴方の気持ちも分からないではないです。私も戦う者だから… もう私に言えることはありません。ですがこれだけは約束してください。今の貴方はとても不安定な状態です。私が判断しない限り、無茶な魔力行使や戦闘はしないでください。それだけは守って」

息を吐き、小さな声で話す光姫は少しの間を開け、話したその後に席を立ち、部屋から出ていった。そして部屋の中には勇夜だけとなり、勇夜は再びベットに横になった。窓の外を見つめる勇夜の目には少し日が傾いた空と、遠くで薄暗い雲が少しずつ大きくなっている光景であった。




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