踏み出す覚悟、血の決意
~ヘイズ視点~
ヘイズは勇夜達に指示を出した後に村の少し手前で止まり、周辺の確認をしていた。
「どういうことだ? 恐らく何者かに襲撃されたと思っていたが、敵の気配はない。それに規模がそれなりにある村をこの状況にするにはかなりの敵が進行するかしないと説明が……この青い炎はなんだ? どこかで聞いた気がする。どこで………、っ!」
ヘイズは何かを思い出したように驚愕の表情をし、その場を後に勇夜達のもとへ急ぎ戻り始めた。
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ヴィルはセリエの近くまで歩き、勇夜がアリサの所に行こうと決心したときに、ヘイズが此方へ焦りながら走ってくるのが見えた。
「全員今すぐここから離れるぞ! ここに来る途中にあった関所まで全力で向かう。理由は行きながら話すから動き出せ!」
ヘイズは走りながら大声で此方に指示した。ヘイズはその後に一度止まり、四角い結晶の付いた機器を取り出した。それは伝晶機と呼ばれる物で、ギルド、騎士団で配布されている。長距離通信が可能な物だ。
"伝晶機は、各地に点在している専用の結晶に通信することが可能である。しかし各個人に直接通信することは、受け取った本人に多大な負担がかかるために、その伝晶機に登録されている結晶にしか通信ができない。通信はギルドにある専用の結晶に直接報告され、そこにいる職員へ結晶から報告される仕組みとなっている。例外としては魔装騎士は魔力に対しての耐性があるので、直接通信することが可能である"
「カルディーク皇国ギルドへ、此方カルディーク皇国ギルド所属 ランクC
ヘイズ・ロンド二ル 現在任務中の地区にて緊急事態発生、魔族による襲撃の可能性大! 至急応援を要請する。しきゅっ…………………」
ヘイズはギルドへ応援を要請したようだ。しかしその言葉が最後まで発することはできなかった。何故なら…
「おや? この程度の攻撃も避けられないとは、これは私の方は外れですかね」
ヘイズの首から上が失くなっていたからである。
そしてその場にいた人物?は、右手に付いた血を払いながら、呆れたように言葉を発した。
目の前で起きた突然の状況に勇夜達は悲鳴はおろか、指先一つ動かすことが出来なかった。いや…目の前にいる存在に恐怖し動けなかった。絶対的強者の存在、連想するのは死だけ。
「ん? 人の子が5人? これはどういうことでしょうか」
その存在は勇夜達に目を向けると、右手を顎に当て考え始めた。
「ふむ、どうやら私は勘違いをしていたようですね。確かにここを襲撃してから応援が来るまでの到着が早いとは思っていましたが、貴方方は偶然この場に居合わせただけのようですね。さてどういたしましょうか」
「そうですね。では仕方ないですが全員殺しますか。この場所にいた人族を全て殺しておきながら偶然居合わせたとはいえ、貴方方だけ生かすのは不平等というものですから」
考え込んでいた男は信じられない言葉を発し、勇夜達に意識を向けた。
「運がなかったと諦めて下さい。まあ痛みの無いようには殺して差し上げますが、そうですね。一度に全員殺すのは簡単ですが、本命迄は時間が掛かるでしょうし、時間潰しで一人ずつ殺しますか。ではさよなら、名も知らぬ人の子よ」
勇夜達は速まる鼓動に冷や汗をかき、どうにかしようと考えるが、体がいうことを利かずに動くことが出来ない。男は右手を前に出し、光が放たれた。それは一番前にいたセリエに向かっていたが、その場にいた誰一人動くことはできなかった。
ただ1人を除いて……………
「セリぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
手を伸ばせば届く距離にいたヴィルは、セリエをなんとか突き飛ばし、男の光から逃した。ヴィルは動けないながらも周囲に魔力を張り警戒をしていた。そしてその行動故にセリエへの攻撃に反応し、ただ大切な人を助けるために動けないはずの体を動かして救うことができた。しかしその代償にヴィルに光が直撃、背中から腹部を貫通し、その勢いで少し吹き飛び地面に倒れた。ヴィルの腹部からは血が流れ、口からも吐血した。
「いや…いやあぁぁぁぁぁぁ!! ヴィルぅぅぅぅぅ」
セリエはヴィルの所へ走り、自らが血に濡れるのも構わずに抱き抱えた。
「やだ…やだやだやだやだやだ! 止まってよ…」
ヴィルの傷口に布を当て、抑えるが血は止まらずに溢れ出てくる。
「ほう、まさか動ける者がいるとは」
男はヴィルの行動に感心するような素振りを見せる。
「ちっ!」
次に行動したのはトールであった、わざとかそうでないかは定かではないが男の威圧が収まり、トールは属性強化で距離を詰め、攻撃し始める。
「アリサ…アリサぁ! 治癒を… ヴィルに早く治癒を!!」
セリエは収まることのないヴィルの傷口から溢れる血に真っ青になりながら、この場で頼ることのできる唯一の友人に助けを求めた。アリサは自身に向けられた言葉で我にかえり、急いで向かい治癒を始めた。
「セ…リ…怪我は…ない…か?」
「うん…うん! 大丈夫だよ! だから…お願いだから、しゃべらないで!!」
「よか…た……ッ! ごめ…な」
ヴィルは薄く笑みを浮かべ、直ぐに痛みに顔を歪めた。その顔はどんどん血の気がなくなっていった、
"傷口が大きい、私の治癒じゃこんな傷……"
アリサは自分の無力さを呪うが、考えを振り払うように首を振り、今出せる全力の治癒魔法を発動する。
「あや…謝らないでよ!! 死なないでよ!! 私を置いてかないでよ…」
セリエの悲痛な叫びが辺りに木霊した。
"ヴィルがやられたのか…なんだよ、どうなってるんだよ"
この場でただ1人動くことの出来なかった勇夜は考えていた。
"トールも何であいつと戦ってるんだ。あんな奴に勝てるはずが無いのになんでだ?…"
"っ! んなこと決まってるじゃないか、つまんねぇこと考えてるんじゃねぇぞクソが! トールもアリサもやれることをやってるのに、俺だけびびって動けないなんてただのクズだ! 動けよ俺の体っ! 今動けないで、今誰のかの為に戦えないで、いつ前に進めるんだよ!"
勇夜は心の中で悪態をつき、自分が今やらなければいけないことのために、動こうとしていた。そして勇夜はただ一歩、しかし確かな覚悟の一歩を踏み出すことができた。勇夜はそのまま"瞬火"で移動し
"掌底煌破"
目の前の敵に接近、技が直撃してトールの隣に立つ。
「欠陥にしては随分来るのに時間がかかったじゃないか。休憩でもしてたのかい?」
トールは爆煙で見えなくなった相手を見つつ、勇夜に話しかける。
「すまない」
勇夜は一言謝罪するとトールは鼻をならす。
「まあいいさ。戦う気になったということは、俺達の勝利条件は言わずともわかっているだろうな」
勇夜は小さく頷いた。トールの言葉を要約すると、勝利の条件は相手に勝つことではなく時間稼ぎだと勇夜もわかっていた。ヘイズの要請は恐らく届いているはず、でなければ終わりだろう。勇夜達ができることはギルドからの応援が来るまでの時間稼ぎ、少なくとも背中を見せて逃げることより確実だろう。相手は理由が分からないが戦うという選択については、試しているような感じがある。始めに感じた雰囲気もそこまで感じなくなったことと、一瞬で殺せるはずなのに一向に攻撃する姿勢を見せないからだ。
「なら、手を出せ」
勇夜はトールを見て疑問の顔をするが、 トールが早くしろという顔をしたので、トールに右手を向けた。するとトールの拳を握った左手を勇夜の右手に当て、そして魔力が流れてきていた。
「癪だが、今回は俺の力を貸してやる。喜べ欠陥。だから」
「ああ」
勇夜にはトールの思いが魔力と共に流れてくるような気がした。だから答えた。
「「2人でやるぞ」」
まるで打合せしたかのように合わさった言葉で、勇達は2人で口元を緩めた。
「ふむ、なかなかいい攻撃ではありましたが、ですがまだこの程度ではあの方に伝える程ではありませんね。しかし臆せず私と戦うことを選択したあなた方は評価に値します。故に私は自身の名を名乗らぬのは失礼に当たりましょう。 私は魔軍総括であり、魔界を統べる王に仕えし者、リベラリム と申します。 あなた方の名は必要ありません。相応の実力が見られた場合はお聞きしましょう」
男は軽く服装を叩くと、物腰静かに言葉を連ねる。そして自らを リベラリム と名乗り、まるで貴族のお付きのような丁寧なお辞儀をした。明らかに勇夜達を試す言葉を発したリベラリムは話終えると、構えることはなかったが何処からでもどうぞと言うような雰囲気を出す。勇夜達は自身を落ち着けるために深呼吸をし、合図なしに同時に攻撃を仕掛けた。
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「ヴィルぅ」
勇夜とトールが戦い始めたころに少し離れた場所にいる3人には少しも余裕は無かった。大切な人の名前を呼ぶセリエの声にヴィルは答えることは出来なかった。今も続く激しい痛みに顔を歪め荒い息を繰り返すだけだった。
"傷が塞がらない。血も止まらない。どうすればいいの? 結局私には誰かを救うことなんて出来ないの? 何のために私は…"
アリサは焦り、そしていくらやっても変わらない現状に涙を溜め、泣きそうになっていた。
"っ! "私は"泣いちゃダメだ。今苦しいのはヴィル君、辛くて泣いてるのはセリエなんだ! 私が…今私が逃げちゃダメなんだ。私が求めたのはこんな理不尽に抗うための強さ…セリエが大切な人をなくして悲しむことは絶対にさせたくない! だから私は出来る全てでヴィル君を助ける!"
アリサの周りに黒い力が纏われ、アリサは光の治癒魔法に重ね複合を試みる。治癒を複合させるのは初めてであったが、アリサの覚悟に答えるように治癒の光が強く輝き始める。
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「ふっ!!」
「ハァッ!!」
トールと勇夜は、2人で初めて連携するにも関わらず息の合った攻撃を繰り出していた。それは少なからず互いを意識し、手の内や次の行動を考えることが出来ていたからだった。速度は言わずもながら、自身の出せる技を繰り出しながら、窮地に立たされた状況であっても、調子は悪くなく寧ろ良いコンディションで戦えているようだ。しかし、勇夜の初撃以降リベラリムに直撃はおろか、かする事さえ出来ずに表情の変わらず、一切攻撃のしてこないリベラリムを追い込む事が出来ずにいた。
勇夜とトールは攻撃を続けたが、不意にリベラリムが殺気を放ち2人は後ろに下がってしまう。
「「ハァッハァッ」」
2人は息を荒げ、リベラリムを見る。リベラリムの息は上がっておらず、寧ろため息をついていた。
「ふぅ……これが全力ですか? もう何もなければそろそろ殺して差し上げようと思いますが」
リベラリムは先程まで抑えていた。威圧と殺気を徐々に強めていく。
"くそっ 何か…何かないか…今までの全部出して、何も通用しないなんてありかよ…でもトールは諦めてない。俺だって諦めるわけにはいかないんだ! なんとかあいつを止められる強さが欲しい… っ!ある、俺には強くなるための選択があるじゃないか! リスクはある…けどビビるな!助けるんだろ!守るんだろ! 今俺がどうなったっていい、誰も助けられず何も出来ず死ぬくらいなら俺は…"
「トール! 少しだけでいい、1人で頼む。俺に時間をくれ」
時間が惜しいと勇夜はトールにそう告げるとその場から離れ、後方の3人の所へ移動する。
「敵前逃亡とは、やはりここまでですか…少しばかり期待していたのですが、本命の方に期待いたしましょう」
リベラリムは初めて構え、まずはトールを殺そうと動こうとしていた。
「クハッハハハハハ」
トールは突然笑いだし、それを見たリベラリムはおかしな物を見るような表情になる。
「お仲間に見捨てられ、己の死を前におかしくなりましたか?」
「いやなに、あまりにも可笑しくてな、まさか俺が奴に頼み事をされるとは夢にも思わなくてな。………まあ頼まれるまでもないが、任されたからには上に立つ者として相応の対応を見せないとな。それに今までも本気じゃなかったわけでもないが、動けなくなる可能性もあったからね。ただこれから見せるのが俺の…全力だ」
トールの話の後半になるにつれて、トールの周りで雷が走り始める。そしてそれは徐々に太くなり、話の最後には、腕ぐらいの太い雷がトールの周りをうねり、まるで生き物のように纏わりつく。
「さっきまでと同じと侮ると…… 痺れ焦がすぞ」
少し間をおいた言葉を発した次の瞬間、床を鞭で叩いたような甲高い音をたて、トールはリベラリムを攻撃した。攻撃は防がれたが避けることはなく、攻撃を受けた腕部分の服がほんの少しだけ焼け焦げていた。
その攻撃に先程まで諦めかけていた表情をしていたリベラリムは、感心したような態度を取り、トールを見据えた。第2ラウンドの開始だ。
「セリエ! アリサ!」
勇夜は、3人のいる場所に移動していた。セリエは泣き腫らした顔を弱々しく此方に向け、アリサはヴィルの治癒を集中しながらも反応する。見ればヴィルの傷口は塞がりきろうとしており、血は完全に止まっているようだった。しかし流した血の量はおびただしく、ヴィルの顔は青白くなりかけ、弱った呼吸と表情はあまりにも痛々しく感じた。勇夜は友人の状態を見て歯を食い縛るが、直ぐにここに来た目的の為に言葉を発した。
「俺に魔力をくれ。このままじゃ全員死ぬ。だから生き残る為に俺に力を貸してくれ」
その言葉にセリエはうつむき、アリサは俺に顔を向けた。
「何を言ってるのか分かってるの? 勇夜君のその力がどのくらい耐えられるのか分からないけど、ケネデリス君の魔力も使って私達のも使ったら五属性の複合になるんだよ! それがどれだけの負担になるか、もしかしたら死んじゃうかもしれないんだよ! それを分かってるの?!」
アリサが俺を見る目は、心配というよりは怒りにも似た感情に見えた。
その顔に勇夜は止まってしまうが、覚悟を決めたことを話そうと口を開こうとする。その時、
「ゆう…や、おれ…のちからも…つかえ」
ヴィルが弱々しい表情を見せながらも俺の目を見て、言葉を発した。
「何言ってるの…ヴィル、今無理したら本当に…」
セリエは小さい声で心配をしたが、ヴィルはゆっくり首を振る。
「ゆうや…が…かくご…きめ…たんだ。だから…それ…に、みんなで…いきて…だろ?ゆうや…」
ヴィルは言葉を紡ぎ、そして力を振り絞って俺に拳を作った右手を突き出した。そしてヴィルの言葉とその行動にセリエは唇を噛み、アリサは眉を寄せたが2人は何も言わず、ヴィルの右手に手を添えた。
「ああ、皆で生きて帰る! ヴィルも皆も絶対に死なせない」
勇夜は突き出された手に右手を当て、魔力を吸収する。"陸真"に魔力が流れるのを感じる。勇夜は手を離すとヴィルの口元が少しだけ笑い、力がなくなったように手が落ちる。セリエはヴィルの名を呼ぶが反応はなく、先程よりも呼吸が小さくなっていた。あまり時間が残されていないのは明白だった。そして勇夜は陸真の魔力を自身に取り込んだ。
「っ!あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
魔力を取り込んだ瞬間、心臓が大きく脈打ち、血液の流れが速く、そして内からはち切れそうな感覚と今まで味わったことのない痛みが勇夜を襲った。いや…契約の時に似ているように感じる。勇夜は意識が飛びそうになるが、唇を力強く噛み、なんとか留まる。数分にも感じられる中で陸真が淡く光出す。その時
("我………約者……汝…壊…………朽ち……時………力……与え……")
頭の中にノイズの入ったような言葉が浮かび出す。陸真の光が徐々に俺を包み始め、全身を覆う。俺に絡みつく鎖がほどけるような不思議な感覚がし、それと同時にある記憶が呼び覚まされた。それはアリサと話した求める強さの話し
「"勇夜は、強くなったらどんな人になりたいんだ?"」
「"えっとね。ぼくはどこにいても、こまっているひとをたすけられるつよいけんしになりたい!"」
「"そうかそうか、凄い目標だな"」
「"えへへ~"」
「"でもな、どんなに強くなっても、どんなに誰かを助けたいと思っても手の届かない人を助けることは出来ないんだよ"」
隣の男性は上を向きながら何かを思い出したように話す。
「"?"」
「"まだわからないよな。なら一つ大事な約束をしようか。勇夜、お前は世界を救う救世主にならなくていい、ただ目の前にいる大切な人は必ず助けられる人になりなさい。それだけでいい"」
首を傾げる勇夜を撫でながら、男性は真っ直ぐ目を見つめて、勇夜に言葉を授けた。
その瞬間確かに勇夜の中で魔力が混ざり合い、一つの力となった。その力は体を包み神秘的な淡い光を放っていた。体の痛みが引いたわけではないが、自然と前を見据え、落ち着くことが出来ていた。
勇夜が後ろを軽く振り返ると、アリサが驚いた表情で此方を見つめていた。そして勇夜は改めて前を向く。
「行ってくる」
一言だけ勇夜は発し、体の力を込め、自分の立つべき場所へ向かった。




