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雨は降らず小さな花が散り、炎が消し去る


その部屋の中は、トントンという包丁の音が響き、鍋からはいい匂いが漂っていた。どうやら朝食の準備をしているようだ。


"ふぅ、こんなに張り切るのはいつぶりだろう"

その部屋にいる人物 マリーナは息を吐き、ふと昔のことを思い出していた。


ーーーーーーーーーーーー


この宿屋は、私と夫がまだサチとサトルがまだ産まれていない頃に始めました。その時は今ほど村は発展しておらず、旅の方や行商人の方が近くに来た際に休むような場所でした。当時は2人だけで切り盛りしていて、大変な時もあったけど、とても幸せで充実していたと思います。そして少しずつ常連のお客様も増えてきて、懇意にしてくださる商人さんが出来ました。

私のお腹が少し大きくなったある時に、その商人さんがこの村に来るという連絡が私達に入り、他の方も連れて来るというので私達は張り切って準備をしていました。ですが、商人さんの通る街と村の道には、最近盗賊らしき集団がいるという噂がたっていました。当時はまだ治安維持がそこまで進んでおらず、大きな街からの対策は出来ていませんでした。それもあって私の夫は、商人さんを途中まで迎えに行くと言い、村を後にしました。私は"大丈夫、必ず帰ってくる"そう信じ、心配しながらも帰りを待っていました。日が変わるまでは……


連絡が来たのは次の日の夕刻でした。私は探しにいくといって出ようとしているところを近くの住人に止められている時でした。この村で唯一手紙や荷物等を運ぶ所謂飛脚の仕事をする男性がこちらに慌てて走ってきたのです。それを見て胸騒ぎがしました。男性は汗をかき、荒い息をしながら私に伝えることがあると言ってきました。それは道中で此方に向かっていた商人達が盗賊に襲われたということ、そして………それに抵抗した夫が……夫が商人と共に殺されたということだった。私は真っ白になった頭と音の無くなった世界で1人立ち竦んでいた。理解出来なかった、周りの人は私に声を掛けているが何を言っているのかわからない。少しずつ、少しずつ私の頭が無意識に理解してきたのか、次第に目から大粒の涙が溢れていました。急に足に力がなくなり、へたり込んでしまいました。近所の仲の良い女性が私に抱き付いて来ました。私はその女性にしがみつきました。まるでこれが現実かどうかを確かめるように、涙は止まらず私は叫びました。声が枯れるほどに………

それから数日経ち、私はなんとか持ちこたえていました。お腹には夫と私の子供がいたから、この子の為に私は生きなければいけなかったから…それから直ぐに盗賊の討伐が受理され、それを受けてくださったのはカルディーク皇国の方達でした。討伐隊がこの村を通るとき、私は彼らに願いました。


「お願いします! 夫の…夫の仇をうってください! お願いします…お願いします」

声を張った私の声は次第に濡れていき、その場に座り込み、祈るように頭を下げた。その願いを聞き入れてくれたのか、恐らくその隊を指揮すると思われる人物から小さく一言了承と思われる言葉を頂き、私は何度も頭を下げ感謝しました。私はその時に、ふと目に入る人物がいました。討伐隊の中心にいるのは背丈や顔立ちからまだ年が10かそこらの青色の髪をした少年がいたのです。私がその少年を見た時に目が合いました。その目には感情を感じられませんでした。疑問は有りましたが、討伐隊の方々は村を抜け、盗賊の元へ向かいました。

討伐隊の方々が戻られたのはその日の夕刻でした。村の広場で彼らは私達に盗賊を討伐したと報告し、私達は皆感謝を言葉にしました。ただ私は気掛かりが一つありました。それは村を通ったときより人が数人ほど居なくなっていること、そしてあの時の少年が居ないことでした。私は彼らにその事を聞くと教えてはくれませんでした。ですが、死んだわけではないということだけは教えて下さいました。私は感謝を伝えてくださいと伝え、彼らから受け取った夫の遺品を手に自宅に戻り、夫を思いながら祈りを捧げました。


ーーーーーーーーーーーー

私は鍋の吹き零れそうな音でハッとし、火を止めた。こんなことを考えるのは恐らく明日が夫の命日だからかもしれない。そして宿屋の入口の扉が開く音が聞こえ、私は向かった。


「お帰りなさい。お疲れ様でした。朝食が出来たら呼びますから待ってて下さいね」

私は見廻りから戻った少年と少女に明るく笑顔で声を掛け、台所へ戻った。そして改めて決意する。夫の残してくれたこの場所を"大切な宝物"を必ず守り抜くと。


ーーーーーーーーーーーー


勇夜達は宿屋に戻り、制服に着替えをしてから全員で食事についた。

因みに何故任務の際も制服なのかというと、この学園の制服は使用している材質から丈夫で動きやすく、学園の方で最低限の温度調節魔法と防御魔法が掛けられているので下手な戦闘服を着るよりは安全なのである。

この場で今日の行動について話し合い、食事後に準備を整え遅くとも昼前に村から出て、任務を行う事となった。勇夜達は各自動き、準備を終えて村の門へ集合した。


「各自準備はいいな。これから行うのは訓練じゃない、どんな相手であれ紛れもない実戦だ。少しの油断が自分を危険にし、それは仲間をも危険にする行為だと肝に命じておけ」

勇夜達はヘイズの話を聞き、改めて自分達の踏み込む場所がどのような場所なのかを認識した。そして全員がヘイズに向け頷いた。その時…


「「おにぃちゃん、おねぇちゃん」」

勇夜達に向け発せられたと思われる幼い声に振り返った。

そこには朝食を一緒に取らずに、今日殆ど顔を見せなかったサチとサトル、それに付き添うようにマリーナが勇夜達の所へ向かっていた。


「ごめんなさい。この子達がどうしても出掛ける前に渡したい物があるらしくて」

マリーナはそう言うと"ほら"と言って子供達の背中を押し、勇夜達の前にサトルがセリエとアリサの前にはサチが立った。


「えっとね。せりおねぇちゃん、ありさおねぇちゃん…これおうちのおはなでつくったの」

サチが小さな手から見せたのは白色をした小さな花飾りであった。


「この花は、以前旅商人から頂いたクチナシという花で、喜びや幸せの意味があるらしいの。この子が頑張って作ったんですよ」

マリーナはサチの言葉に補足するように話し、セリエとアリサはニッコリと笑いながらサチから受け取った。


「ありがとう、凄く綺麗だね。大事にするね」


「私もありがとう! 元気でたよ。絶対に悪い狼さん倒してくるからね!」

アリサの感謝に続き、セリエも言葉を続け、セリエはサチをぎゅっと抱き締めた。 サチも最初は心配そうな表情をしていたが、2人の言葉で明るい笑顔になり、"うん!"と大きく声を出した。アリサは胸ポケットに、セリエは腰の魔装帯に引っ掛けた。


「おにぃちゃんたちも、これ…」

サトルが取り出したのは、簡素な紐の中心に色味がかかった石が着いているネックレスのようなものだった。


「此方も商人がいらした時に、売り物にならないからと幾つか譲っていただけて、この子が大切に持っていたものなんですよ」

所々石が混じったそれは丸みはなかったが、角が削られており刺々しい印象はなかった。それをトール、ヴィル、勇夜の順に渡していった。


「ありがたく頂くよ」

トールには青みのある石が渡され、それを左腕に巻き付けた。


「ありがとな!」

ヴィルには白い石を渡され、紐を結び首に掛け、サトルの頭を撫でる。


「ありがとう、大事にする」

勇夜には黒く透き通った石が渡され、腰のベルトに取れないように引っ掛けた。サトルも喜んでもらったことを理解すると、歯を出して笑っていた。


「それじゃあ、行くぞ」

ヘイズはその光景を見届けた後に、勇夜達に声を掛け出発を促した。それに頷いた勇夜達は歩きだす。サチとサトルが手を振っていたので、それぞれがそれに返し、気持ちを改めて切り替え森に向かい動き出した。


ーーーーーーーーーーーー

「さて、これからは何が起こってもおかしくない場所だ。何かあればフォローはするが基本的にはグラッドの指示で動いてもらう。一つだけ言わせてもらうと、焦るな。不確定な状況では如何に冷静さを保てるかが重要だからな」

ヘイズはそう言うと今までいた最前列から後ろに下がっていった。


「ふぅ… よし! 打ち合わせ通りの陣形を組んでくれ」

ヴィルは一呼吸すると指示を出し、勇夜達は従い陣形を組んだ。


~陣形~

前衛 勇夜・セリエ


中衛 トール


後衛 アリサ・ヴィル


"よしこれで大丈夫なはずだ。前衛は勇夜とセリエの近接戦、中衛のトールは近距離も中距離も対応できるし、チームの中では一番スピードがあるから遊撃としても対応できる。 後衛のアリサはサポートも出来るし、万が一後ろから攻められても大丈夫だ。俺は常に風を使って周辺の状況を見つつ指示をだし、戦闘も対応できる"

ヴィルは心の中で、この陣形の意味を改めて思い出していた。

まずは調査からという事で足跡や痕跡を捜しだし、警戒しつつ行動を始めた。そこから少休憩を挟みながら二時間ほど時刻が過ぎた。その途中には黒狼とは遭遇することはなかったが、岩蜘蛛(いわぐも)と呼ばれるゴツゴツした体表を持つ1m程の魔物や鋼蟻(はがねあり)という体が固く鏡面のように輝く同じく1m程の魔物と遭遇し戦闘を行ったが、出会ったものはどちらも1.2体と少なく脅威度も高くない魔物だったので、連携を確認しつつ攻撃し、無傷での勝利をおさめていた。

それから一時間が経ち昼時の時間となり、休憩をしようとしていたときに森を反響するような狼の遠吠えが響いた。


「っ! 各自警戒! 戦闘準備!」

ヴィルは直ぐに指示を出し、自身も周辺確認のために魔法を発動する。周辺は、風が吹き草木の擦れる音がこだまし静寂が支配する。その中で徐々に複数の足音とガサガサという音が近づいてくる。


「セリ! 前方斜め右、反応2! 勇夜!左前方1!」


「「了解」」

ヴィルの指示に勇夜とセリエは構え、戦闘に備える。そしてセリエ側に先ず一体飛び出し、少し後に二体目が飛び出した。


「すぅ… はぁっ!!」

"攻型 初之型(こうけい しょのかた) 一雫(ひとしずく)"

セリエは中段の構えから流れるように黒狼を横薙ぎに一閃、一体を一撃でしとめる。そのまま二体目に目を向けると、危険を察知したのか黒狼はセリエから離れ回り込むように動いた。


「ふっ!」

"如月流 拳闘術 空掌連脚(くうしょうれんきゃく)昇火(しょうか)"

勇夜に近づいてくた黒狼は少し前で飛び、勇夜に牙を向き攻撃した。それに対し、勇夜は飛びかかってきた黒狼の顎下を左の掌底で打ち上げ、打ち上がった所に右の上段蹴りで頭を攻撃した。その際に踵付近を爆発させた為に威力が底上げされ、黒狼は勢いそのままに気に叩きつけられ絶命した。


「やれやれ、俺に向かってくるとは」

先程セリエから逃れた黒狼は回り込み少し後ろにいたトールに襲いかかろうとし、その鋭利な牙で攻撃した。だがその場にトールはおらず、攻撃した黒狼も何が起こったのかわからずに動きが一瞬止まった。次の瞬間、黒狼の上空からトールが剣を突き刺し、腹部を貫きそのまま地面へ潰した。


「あまりなめるなよ、駄犬! "獅刺雷哮(ししらいこう)"!」

トールが突き刺した剣から雷が漏れ、黒狼から雷が吹き出し、その命を絶った。

これで三体黒狼を倒した訳だが、黒狼の襲撃はこれで終わることはなかった。先程の遠吠えがまた響き、今度はすぐ近くからそれが聞こえた。そして現れたのは威嚇しながら現れた10頭の黒狼とその中心に一回りかそれ以上の体躯をした黒狼と思われる魔物が茂みからその体を出した。

ヴィルは、いや、その場にいた全員が理解した。ギルドでユノから聞いた稀に発生する群れのリーダーだと。そいつの放つ雰囲気は恐らく他の黒狼の比ではないだろう。ヴィルは一度ヘイズの方を向くが、ヘイズからの指示はない。ヴィルは警戒しながら一度大きく呼吸をし、目の前の敵を見据えた。そして仲間の方を向くと既に戦闘体制となり、直ぐに動けるように構えていた。その光景にヴィルは小さく笑う。ヴィルは戦闘開始の合図として指示を出そうと口を開けたが、その場の雰囲気が急に変わった。周辺にいた黒狼がキョロキョロし出し、リーダーの黒狼がスンと呼吸を行い、そして大きな鳴き声が発せられた。次の瞬間黒狼が一目散にその場から逃げていったのだ。まるで何かに怯えるように…


勇夜達はこれからどうすべきか少しの間止まっていたが、微かに本当に意識しなければ気づかない程に、何かが燃えるような匂いが感じられた。その時


「全員急いで村に戻るぞ!」

ヘイズが此方に近づきながら叫ぶ。


「どうしたんですか?」


「詳しい事は解らないが、あそこを見ろ」

ヴィルの疑問にヘイズは、ある方向に指を指しながら話す。今勇夜達のいる場所は森の中心、木々が生い茂っており視界が悪かったが、木々のの隙間から見えるものは空高く昇る黒煙であった。そしてそれは村のある方向から見えていた。


「この場所からじゃどうなってるかわからん。周辺の警戒を怠らず、最短で森を抜けるぞ」

黒煙を見た勇夜達は直ぐに動くことが出来ずにいたが、ヘイズの指示を受け行動に移した。各々あの村が無事であることを祈りながら走った。

全速で走ったことから森に入るときよりも速く抜けることができた。そんな勇夜達の目に映るのは…………………





「なに………これ……」

数時間前には自分達がこの場所にいて、たった1日だけど過ごした村が……村が青色の炎に焼かれ、建物は崩れ、そして………道には黒い"ナニ"かが、人のような形をしたオブジェのような"ナニ"かが大量にその場にあった。

何が起きているのか理解出来なかった。動けなかった。声が出せなかった。勇夜もヴィルもトールもセリエもアリサも…


「チッ! 全員この場で待機してろ! 絶対に動くな! 俺が指示したら直ぐにこの場から離れる事が出来るようにだけしていろ!これは命令だ!」

ヘイズは緊迫した表情から指示を勇夜達に伝え、ヘイズは村の方へ向かっていった。

勇夜達は体こそ動かなかったが視線はあらゆる場所を映し出した。そして見てしまった。いや…見えてしまったというのが正しいのかもしれない。


「あっ…」

セリエが短く声を出し、全員がセリエの視線の先を見た。

そこは村の入口正門の場所だった。そこにも黒い"ナニ"かが何個かあったが、丁度門の場所に何かに覆い被さるような形をした"黒"があった。それの下から小さく、飛び出している物は、少し焦げた恐らく小さな手……そしてそれが握っている半分以上黒く焼けた白いぬいぐるみだった。あれは…あれは確かあの少女がとても大事にしていつも抱いていたぬいぐるみにとても似ているように見えた。


「っ! たす…けに……っ助けにいかなきゃ…」

セリエは虚ろになった瞳で、力ない足取りで歩を進めようとした。だが、それを止める者がいた。


「ダメだよセリエ……行ったらダメ」

アリサは右手でセリエの左手を掴み、歩を止めさせた。その声は端から見れば冷静な行動と声に聞こえただろう。


「っ!! なんでよ! 何で止めるのよ! まだ…まだ助けられるかもしれないんだよ! まだ救えるかもしれないんだよ! アリサは…アリサは何で…………っ!」

セリエはギリッと歯を食い縛り、小さな雫を目から溢しながら、感情を露に叫ぶ。そして睨みながらアリサに振り返ると、アリサは涙こそ流していなかったが目は潤み、辛そうな表情をしていた。セリエはアリサを見つめ、力の無くなった表情で今度は後ろにいる勇夜達を順に見た。勇夜達もそれぞれ感情を表に出さないようにしているようだったが、歯を食い縛ったり眉を寄せたりと、平気な者など誰もいなかった。だが助けに行くことはできない。ヘイズの指示ということもあるが、この状況を作った、村をこのようにした誰かが、敵がいるということだ。迂闊な行動をすればそれだけ危険が伴うのだ。


「うっ…うぅ~、こんなのって…こんなのってないよぉ」

アリサはセリエの手を離し、セリエは力がなくなったように膝をつき、大粒の涙を流し始めた。それを見たヴィルは、ゆっくりとセリエに近づいていった。


アリサは今なにを考えているのだろうか、勇夜は側に行って話をしたい、側にいたい…そんな気持ちが芽生えていた。けど何を言えばいいのか勇夜にはわからず、勇夜はただ…ただ立ち尽くすことしか出来なかった。

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