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明るい日差しは、影も濃く映る


「皆さんの住んでいる場所と比べて、何もないところでしょう」

案内役の男性が歩きながら話し始めた。


「そうでもないですよ。言い方は良くないかもしれないですけど、村と聞いていたので住居とかしかないのかなと思ったんですが、お店や人通りもありますし、過ごしやすそうです」

勇夜はヘイズとヴィルがこれからについて話し合っていたので、男性と話し出した。


「そうですか、ありがとうございます。ラットアフェクトは、海もそこまで遠くないですし、商人の皆さんがよく立ち寄ってくださいますので、道も舗装出来て、我々も商売や生活といった面ではとても助かっているんですよ」

頷きながら勇夜は男性と話を続け、この村について聞いていった。そうこうしていると目的地に着いたようだ。


「ここが村長がいる場所になります。私はこのまま失礼させていただきますので、何かあれば近場の住人にお声掛け下さい」

男性は一礼すると立ち去っていった。勇夜達は建物の扉をノックし、返事があったので扉を開け、建物の中に入っていった。中にいる女性に案内され、奥へ移動すると、女性が扉の前に立ち三回ノックした後に扉を開ける。手で入室を促されたので、勇夜達はその中へ入った。そこには座りながらお辞儀をする男性がいた。見た感じは初老を迎えていそうだが、体を鍛えているようで若く見えていた。男性は勇夜達を迎え、今回の任務詳細について話し始める。

どうやら依頼を出してからは実害はないが、柵を攻撃したり周りを彷徨っていたりと頻繁に行動するようになっているそうだ。話を聞き終え、これからの行動についてヘイズが語り出す。


「本日は周辺の見廻りと調査のみ行います。情報通りであれば、森の中が奴等の根城で間違いないでしょう。明日の朝に出立し、調査と可能であれば討伐を実施します。 因みに宿はありますか?」

ヘイズの言葉に改めて村長はお辞儀をし、それでは…と宿泊する場所を伝える。勇夜達は一礼し、伝えられた宿へ足を向けた。通りを進みながら宿の名前を探していると少し開けた広場のような場所から楽しそうな話し声が聞こえていた。聞き覚えのある声に勇夜達はそちらへ歩を進めた。


「あ! ヴィル、勇夜、それにヘイズさんも。話しは終わったの?」

セリエは近付く勇夜達に気づき、手を振りながら話し掛けてくる。


「ああ、こっちは大丈夫だ。結構楽しそうでなによりだよ。そうだ、宿なんだが…」

ヴィルは返答し、この近くにあるらしい宿について話そうとすると


「えっとね。宿なんだけどこの子達の家が宿らしくて、目の前にあるとこなんだけど、そこに泊まらない?」

ヴィルの話を遮り、セリエがお願いするように話を始めた。目の前にあるという宿に勇夜達は目を向けると、そこにある建物の壁に付いている看板には"ラットガマリー"と書かれた小綺麗な宿が建っていた。


「ここって確か、村長から聞いた場所だよな?」

先程村長から聞いた宿の名前を勇夜は思いだしたようで、ヴィルの方を向く。


「だな、何て言うかこの子達とはなんか縁を感じるな!」


「勇夜君達はマリーナさんの宿を紹介されたんだね」

いつの間にか近くに寄ってきていたアリサがそう話した。


「マリーナさん?」

聞きなれない名前を勇夜は疑問に思うと扉が開き、先程子供達の母親である女性が出て来た。


「皆さん到着されたのね。村長から宿泊があるかもしれないから準備しといてとは言われてたんだけど、詳しいことを聞いてなくて、案内出来ずごめんなさい。改めて、宿屋ラットガマリーの店主 マリーナ です。大したおもてなしはできないけど、寛げるように頑張るわね」

宿屋の店主マリーナは、ニコッと柔らかい笑みを浮かべ、丁寧にお辞儀をする。アリサに続き、セリエと子供達も近くに来ていた。トールは居ないが先に宿に入ろうと全員で頷いていた。


「「よろしくお願いします」」

せーので全員で挨拶をした。時刻は日が傾き、夕暮れになりかけていたことから思ったよりも時間が経っていたようだ。マリーナに案内され、宿に入る。部屋は三部屋で二人ずつ泊まることになった。部屋割りは、ヴィルとヘイズ これからの話をしたりする為だそうだ。次にセリエとアリサ これは妥当だろう。 そして トールと勇夜 ……… トールはまだ着いていないが、勇夜が気まずさで止まっているとヴィルが肩を叩いてきた。"…諦めよう"そう想思った勇夜。そして各自部屋へ移動し、着替えをした。勇夜は少しボーっとしていると、料理の匂いが仄かに香り、次の瞬間部屋の扉がノックされる。


「ゆうにぃちゃんごはんだから、おりてきてだって!」

扉の前で元気な声が出された。恐らくサトルという男の子の声だろう。その声に勇夜が短く返事をするとトテトテと元気のいい足音をたてて走っていったようだ。伸びをし、勇夜は座っていたベッドから降りると、扉を出て下へ降りていった。事前に聞いていた食事の場所へ移動すると、セリエとサチ、サトル、トールが制服のまま席に座っていた。セリエは子供達と話しに夢中のようだ。とりあえず空いてる席に勇夜は座る。

因みに席は、長テーブルに向かい合わせで四つの椅子が有り、合計八つだ。窓側にサトル、サチ、セリエ、空椅子 向かい側が空椅子、トール、空椅子、勇夜 となっている。

テーブルにはいくつかの料理がすでに用意され湯気がたち、とても美味しそうだ。


「サチちゃんは、ずっとそのぬいぐるみを抱いてるんだね。お名前はあるの?」


「うん! えっとね、あろちゃんっていうの! おかぁさんにもらったの! 大好きなの!」

セリエの問いにサチはぎゅうっとぬいぐるみを抱きながらニパァという明るい笑顔で答える。


「かわいいね。私もお姉ちゃんに貰った大事なぬいぐるみがあって、寝るときはいつもぎゅうっと抱いて眠るんだ~」

そんなサチを見ながらセリエもニヒヒと笑いながらサチの方を向いた。そして、少しするとアリサと何かを話ながら入ってくるヴィルとヘイズが来た。


「皆さん揃ったのね。料理もこれで揃ったから、食べてくださいね」

全員が席に座った頃に、料理を片手にマリーナさんが入ってきた。テーブルに持っていた料理を置くと食事を促し、自身はまたキッチンへと戻っていった。勇夜達は各自いただきますと声をだし、食事に手をつけた。料理の味に全員が頬を緩ませ、会話も弾んでいた。

少し時間がたち、マリーナさんが人数分の飲み物を持ってきたようだ。


「どうぞ、これはここで作られてる果実酒で、お酒と言っても子供も飲めるものだから飲んでみて。あとこれはトール君が作ってる場所から貰ってきてくれたから、お礼は言ってね」

マリーナさんの説明で、へぇーと思って聞いていたが、トールが貰ってきたということを聞き、勇夜達はトールの方を向いた。


「別に君達のために貰った訳じゃないさ、体を動かしていたらそこの人に話しかけられ貰っただけだ。まあ試しに飲ませてもらって気に入ったから、我が家に卸して貰えるように交渉はしてきたがな」

フッという笑みを浮かべ、トールが得意気に話す、よっぽど気に入ったようで機嫌が良いようだ。各自飲み物を口につけ、飲み始めた。


「ん~っ ほんとに美味しい! 私の家にも貰えるように出来ないかな~」

セリエが声に出し、美味しさを表現した。アリサやヴィルも美味しいと飲み進め、そして勇夜自身もこの果実酒をとても美味しいと感じていた。


「他の場所にも卸しているそうだから、君の所は厳しいんじゃないかな? どうしてもというなら、我が家に卸して貰ったときは少しなら恵んでやっても構わないが」

トールは上から目線でセリエに挑発的な発言をしていた。


「むぅ~、いいもん! 私も明日直接話してくるから!」

セリエは頬を膨らまし、拗ねたようにプイッと横を向いた、


「というか、勝手に決めるとセリの家の人は怒るんじゃないか?」

ヴィルはセリエを現実に戻すような発言をし、セリエはハッとしたような表情をする。


「うぅ… ヴィルぅ~」

セリエはヴィルを潤んだ瞳で懇願するように見ていた。それを見たヴィルは、暫し考えるように唸り、結局諦めたように息を吐いた。どうあってもセリエにお願いされるとヴィルは断れないのだ。


「帰ったらおじさん達に一緒にお願いしようか」

ヴィルがそう言うとセリエはパァッと明るい笑顔になり、"うん"と頷いた。因みにヴィルの言ったおじさん達とは、セリエの父と母であり、婚約しているとはいえヴィルもまだ、おじさんおばさんと呼んでいるようだ。


「ん"ん"っ そろそろ話をしたいんだがいいかな?」

会話が一段落したところでヘイズが喉をならし、全員を注目させた。


「これからの予定についてだが、9時の時刻から見廻りをする。2人一組で三時間の交代、睡眠時間が六時間だ。まず始めに俺とグラッドで周辺の確認と村の中心にある物見櫓で時間まで見張っている。次にシュバルとケネデリス、最後に如月とフェルムで行動してもらう。後の二組は物見櫓での周辺確認だけで大丈夫だ。この時期だからといって夜間は冷える。持ってきた荷物に人数分のマントを用意してある。見廻りの時は持っていくように」

先程の賑やかな雰囲気から真剣な表情に変わり、ヘイズの説明を聞いていた。セリエはゲッと言うような顔をしトールを見たが、少なくとも反論すべきではないと思ったのか、特に言葉にはしなかったようだ。

食事を終えた勇夜達は、時間まで各自の準備や会話をしていた。時間が近づくとセリエとアリサは部屋へ戻り、勇夜とトールもその後に部屋へ移動した。部屋に入るとトールは自分の荷物を整理し、そのままベッドに入り、静かな寝息をたて眠りについたようだ。相変わらず肝が太いというかなんというか、眠りに入るまでがスムーズ過ぎて、寧ろ勇夜は称賛しそうになった。このまま起きていても仕方ないので、勇夜は備え付きの照明を消し、目を閉じた。これからのこと明日のことを頭で考え始め、眠りにつけるか心配だったが意識はいつの間にか落ちていた。


「おい、起きろ」

"誰かの声がする。夢だろうか"


「ちっ! いつまで寝ているつもりだ」

苛つく声になった瞬間勇夜の左脇腹に衝撃が走り、意識が覚醒した。


「っ!」

目を開けた勇夜の前には、眉間に皺の寄ったトールが見下ろしていた。上半身を起き上がらせ、勇夜は脇腹を抑える。痛みはさほどないが、心臓の鼓動が激しく脈打っていた。


「次はお前達だ。フェルムはもう行ってるぞ。さっさと準備して行ったらどうだ」

その言葉に慌てて時間を見ると、見廻りの時間になるギリギリの時間となっていた。準備を考えると明らかに寝坊だった。勇夜は直ぐに動きやすい服装に着替え、マントを羽織り外へ出た。物見櫓へ着くと既にアリサが見張りをしていた。


「ごめん、遅れた」


「ううん、大丈夫。そんなに時間経ってないし、それに… フフッ、そんなに慌てなくてもよかったのに」

勇夜はアリサに謝罪するとアリサはこちらを向き問題ないと言うが、途中で笑っていた。何故かわからないので疑問に思っている勇夜に、アリサが頭、詳しくは髪を指差した。アリサは鏡を取り出し勇夜に見せると、そこに映る髪型がいつも以上に大変なことになっていた。恥ずかしさから、何とか戻そうと四苦八苦するが、勇夜の髪は元々少し癖っ毛のある髪なので元には戻らなかった。


「勇夜君、ここに座って」

アリサに手招きされ、櫓の中心に勇夜は座った。櫓自体そこまでガッチリとした作りではないので、座りながらでも周辺は見渡せるようだ。そう思っていると急に勇夜の頭を撫でられる感触があり、ビックリして後ろを振り向いた。


「あっごめんなさい、急だったね。少し整えてあげようと思ったんだけど」

どうやらアリサが勇夜の髪を直そうとしてくれていたようだ。


「こっちこそ、ごめん。ビックリして…ありがとう。でもいいのか?」

アリサに確認すると、"勇夜君が良ければ"と言い、勇夜自身も特に嫌というわけでもないようでお願いした。アリサは勇夜の頭に手を乗せ、撫で始める。少々くすぐったく感じる勇夜だが、同時に顔を中心に体温が上がっていくのを感じていた。


「勇夜君の髪って結構柔らかいんだね。ふわふわしてる」

勇夜は撫でられ、夜風と共に香るアリサの柔らかい香りに恥ずかしさと心地よさから湯気が出るのではないかと思うほどになっていた。


「ありがとう。でもアリサの髪は綺麗で、俺は凄くす……………素敵だと思うよ!」

"俺は今何を言おうとしたんだ。反撃しようと言葉にした言葉で自爆するところだった"


「あ、ありがとう」

アリサは手を止め、感謝を述べていた。前を向いていた勇夜にはアリサの表情は見えなかったが、どんな表情をしているのか気になった勇夜は後ろを向こうとした。だが振り向くことは出来ず、変わりに背中にトンと軽い衝撃があり、今の状況としては、アリサと背中を合わせた状態で座りあっていた。いきなりの行動に心臓が高鳴っていた勇夜は、アリサに聞こえないか心配になったが、背中合わせでも感じるアリサの雰囲気に少しずつ気持ちが落ち着いていった。


「ねぇ」


「ん?」

アリサが不意に何かを話し出した。勇夜はそれに反応した。


「勇夜君はさ、強くなったらどうなりたいとかってあるの?」

勇夜はその問いに暫し考えた。それは自身がよく考えることであり、まだ答えの出ていない事だからだ。ただこの質問は小さい頃に誰かに同じ質問をされたような気が勇夜はしていた。"確かその時は……"


「昔さ、小さい頃に誰かに同じ質問をされたんだ」


「そう…なんだ。その時勇夜君はなんて答えたの?」

アリサは静かな声で話し、勇夜の言葉を待った。勇夜はその時の情景を思い浮かべながら話す。


「"強くなったら、どこにいても困っている人を助けられる英雄みたいな剣士になりたい" って言ってたと思うんだ。今思うと自分には到底出来ないことなんだろうなって気づいたけど…」


「そんなことないと思うよ。勇夜君はどんどん強くなってるし、いつかなれるよ。 そういえばその人はその時なにか言ってなかったの?」

小さい頃に考えた夢のようなことをアリサは真剣に向き合ってくれた。


「全部は覚えてないんだけど、確か"どんなに強くなっても、どんなに誰かを助けたいと思っても、自分の手が届かない人を助けることは出来ないんだよ"って言ってて、その後に何かを言われたと思うんだけど思い出せないんだよな」

"ただ、今ならよく分かる。何故その言葉を伝えられたのか。今でも考える強さとは何かということを"


「そうなんだ。凄い人だねその人。………私はね。どんなにちっぽけでも運命に逆らえる強さが欲しいの。運命ってさ、時々理不尽なんだよね。急に訪れて自分がいかに無力で何も出来ない存在で、逆らいたいのに抗えなくて………だから私は運命なんていう理不尽が嫌い! だから!……だから」

少しずつ言葉が強くなっているアリサの口調から、意志の強さと何かを感じた。その何かはわからないけど、とても悲しげで苦しげで、勇夜は胸が苦しくなっていた。


「ごめんなさい。つまらない話だったね。よし! 時間まできちんと見てないとね」

アリサは急に立ち上がる。アリサの顔はどんな表情だったのか。時間がくるまでアリサが勇夜の方を向くことはなく、その表情を見ることはなかった。

ただ……ずっと勇夜の胸が締め付けられるような苦しみの意味だけは、今の勇夜に理解することは出来なかった。

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