実地任務研修編 ~出会いとは幸か不幸か~
~カルディーク皇国 ギルド前~
「すぅはぁ…よしっ! 全員準備はいいな。行くぞ!」
ヴィルは意気込み、勇夜達を見渡して声を掛ける。ここにいるのはヴィルがリーダーのチームとソロンドがリーダーのチーム、二組が集まっていた。そしてヴィルが意気揚々と一歩踏み出しギルドの扉を開ける。ギルドの内部は広い。入り口正面には、横に広い受付テーブルが四角く壁に付いており、4人いる受付嬢達が忙しなく動き、隊員と思われる人達の対応をしていた。それ以外にも待合用のテーブルと椅子が綺麗に整理され、左にある扉からはガヤガヤとした話し声が聞こえ、扉の上にある標記を見るとどうやら食堂のようだ。全体的に白色がベースで塗られた壁は綺麗な印象を持つ場所であった。
「ここがギルド… 初めて来たけどしっかりしてるところだね。姉さんに昔騎士団の本部を見せてもらったけどやっぱり雰囲気が違う。少し騒がしいけど思ってたより綺麗だね」
セリエが声を発した。勇夜自身は騎士団もギルドも中を見た事があるわけではないのでセリエの言う違いはわからないかった。しかしいずれ自分もここに入ると思うと自然と胸が高鳴っていた。
人通りもあるので入り口から少し逸れてどうしようか悩んでいると、受付にいた1人の女性が勇夜達の元へ寄ってきた。
「皆様はカルディーク剣騎学園の生徒様でよろしいですか?」
明るい茶色と黄色い瞳の女性は、その柔和な顔で勇夜達に微笑みながら確認をしてきた。その返答をヴィルが代表して頷いた。
「カルディーク皇国ギルドへ、ようこそお越し下さいました。ギルドマスターより任務内容とそれに伴うご説明を私が担当させていただきますので、あちらの応接室にお入りください」
女性が手で指し示した扉へ向かい開けると、簡易的ながらも大きめのテーブルと横に長い椅子が置かれており、そこに座るように促された。
「では改めまして、私は今回皆様の任務関係を担当させていただきます、ユノル と申します。ユノと呼んでくださって構いません。皆様は特別任務の研修となりますので、他の生徒の方より1日早く始めさせていただきます。それでは説明させていただきます」
物腰が柔らかく笑顔のまま、丁寧に話すユノという女性は手慣れた手つきで依頼書と思われる物をテーブルの上に広げ始めた。
「まずは、グラッド君の組から任務の説明をしますね。簡単に伝えられたと思いますが、討伐の任務となります。此方の用紙を見て下さい」
勇夜達はユノの指す用紙に目を向ける。
・黒狼の討伐 ランクE~
場所 ラットアフェクト付近、山の近辺
依頼主によると、数日前より黒い狼が数頭近くで発見されているとのこと。被害はまだ出ていないが住人の安全を考慮し、早めに調査及び討伐を依頼したい。情報では5頭前後のようだが、群れの可能性も考慮。…………………………
主にこの内容であった。
「皆様の中で黒狼について知識はごさいますか?」
ユノは全員を見渡し、アリサと目があったようで、そのまま発言を促した。
「たしか単体では行動せず、5~10頭位で行動して主に家畜を襲う魔物だったと思います」
ユノはその言葉に頷き、そのまま話を始めた。
「黒狼の習性はわかってるみたいですね。付け加えるなら、黒狼は個体としては小柄な魔物です、通常であれば積極的に人を襲う訳ではないですが、時には子供を襲うこともあります。力が強いわけでも魔法を使うわけでもないので基本的にはE~Fランク数人で受ける任務ですね。単体の場合は多少戦えるものであれば、誰でも追い払うことは出来ますが、黒狼は必ずといっていいほどまとまって行動します。稀にリーダーと思われる個体が生まれ、その場合厄介な連携をするため注意が必要な魔物でもあります。この任務の期間としては、本日を含めて3日間の期間となります。なのでグラッド君のチームはこの後に任務場所へ移動してもらうことになります。ここまで何か聞きたいことはありますか?」
ユノの説明が終わり質問がないか問いかけてきた。それに対してヴィルが発言をした。
「自分達だけじゃなくて、同伴する方はいるんですか?」
「そうですね。今回の任務に同行する隊員は、既にギルド前の馬車で待っていると思います。任務中の行動等はその隊員から直接聞いたほうがいいかもしれませんね。 あとは皆様も最低限の準備はされてると思いますが、私共の方でも任務に関して必要な物は揃えてありますので、その辺りも隊員にお聞きください。 あとは……大丈夫そうですね。ではグラッド君のチームは先に出てもらいますので、ギルド前にある3713の番号が付いている馬車へ行って下さい。無事の帰還をお待ちしております」
俺達は話が終わると立ち上がり、移動を始める。俺が歩き始めようとした時に不意に服を軽く引っ張られる。
「トール様のこと、おねがい」
それはリースの言葉だった。勇夜は何故伝え蘿れたののかわからなかったが、リースの方を向き、軽く頷く。そして勇夜達はギルドを出て数台ある馬車から伝えられた番号の馬車を探し、1人男性が立っている馬車へたどり着いた。男性は荷物を入れているようだ。とりあえず話しかけようとヴィルが動いた。
「あのすみません。実地任務研修を受ける者なんですが、この馬車にいくように言われたんですけどギルドの方ですか?」
「ん? おぅ、すまない。荷入れをしててな。君らが研修する生徒さんね。ここであってるよ。俺は、ヘイズ ランクはCだ。今回の任務では補助として同行するからよろしくな」
橙色の短髪で、ニカッと笑う人の良さそうな男性はヘイズと言うようだ。ヴィルに手を伸ばし握手をしている。
「よろしくお願いします。俺は一応リーダーになったヴィルです」
それに続き、勇夜達も全員自己紹介をした。
「荷物はちょうど入れ終わったから、準備が終わったら馬車に乗り込んでくれ。目的のラットアフェクトは今ぐらいなら昼過ぎには着くはずだ」
ヘイズの言葉に自分達の荷物を確認し、馬車へ乗り込んだ。
「それじゃあ出発するからな」
ヘイズは後ろを向き、最後の確認をすると馬車を移動させた。まだ街中なのでゆっくりと進む馬車からちょうどギルドから出て来たソロンド達を見つけた。あちらも無事に終えられるように勇夜は祈っておくことにした。
馬車はスムーズに門に着き、遂に国外への道を進み始めた。
「私国外に出るの初めて! なんか知らないところに行くのってワクワクするよね!」
セリエはいつもよりテンションが高く見える。少しソワソワしてるヴィルもおそらく同様だろう。トールはいつも通りに見えるが、馬車に付いている窓をずっと見ている。アリサは雰囲気が何時もより少し暗く見えた。外を見ずに、ただじっと座っていた。不意に勇夜と目が合い、小さく笑っていたが、少しばかり大丈夫なのか勇夜は気になってしまった。
「ねぇ、ヴィルは知ってるけど皆は国外に出たことはあるの?」
セリエから出た質問は確かに聞いてみたい質問だろう。それに反応したのは何故かトールだった。
「くだらない。誰がどこにいこうと勝手だろう。それに何故君に答えなければならない」
「なによ! 聞いたっていいじゃない。それに私は別にトールには聞いてないんだから、いいですよ~だ!」
セリエはトールに話し出し、舌を出した。
「ふん! アリサはあるの?」
最後に鼻をならし、アリサに話を投げた。アリサはビクッと肩を震わせ、どうしようか悩んでいるようだった。
「私は………私も外に出るのは初めてだよ」
話し出した後、少しだけ下を向きすぐに顔を上げ話し出した。セリエは疑問に思った表情をしたが、そっか と言いそのまま勇夜の方を見てきた。勇夜は首を横に振り、自分も無いことを伝えた。
「どういうところなんだろうなぁ」
トールとは反対の窓に左肘を当て物思いにセリエは耽っているようだった。
「全員国外用の馬車は初めてなのか。ならこの機会に慣れとけよ。こっからがこの馬車の本領だからな。昼過ぎに着くって言うのはあくまで本領を発揮した場合だから、とりあえず慣れるまでは何かに捕まってた方が安全だぞ。じゃあ行くぞ!」
会話を聞いていたヘイズが此方に話し掛け、その内容に首をかしげたがとりあえず言われた通りに近くの手すりや椅子を勇夜達は手で掴んだ。次の瞬間馬車を引く馬から身体強化したような魔力が漂い、一鳴きすると先程の速度が嘘のように速く走り出した。セリエとアリサが短く悲鳴を上げ、少しバランスを崩した。勇夜とヴィルは互いに隣り合わせの位置にいたので、咄嗟に手を出し支えた。セリエはヴィルに感謝を伝えていて、ヴィルも大丈夫なことを確認すると手をどけた。勇夜とアリサはというと…
「えっと、大丈夫?」
「う…うん、ありがとう」
今の状態は、アリサの頭が勇夜の左胸に当たり、右手でアリサの左肩を支えていた。アリサはその状態から感謝を伝えると、ゆっくり元の位置に戻り、ほんのり赤くなった顔でしばし下を向いていた。勇夜は自分の顔が熱を帯びていくのを感じ、気恥ずかしさから逆を向いた。きっとヴィルとセリエのことだ。こっちをニヤニヤしながら見ているのだろうと勇夜は思い、そんな事を考えながら自分が落ち着くのを待った。そして…
「おっ! 見えてきたな。 お前ら見えてきたぞ。あれがラットアフェクトだ」
ヘイズが後ろを向き、後ろに声を掛ける。それに反応して勇夜達は外を見た。
そこは決して大きい土地ではないが、住居や様々な建物が建っている村が見えた。その周辺は背丈より少し低い木材で出来た柵で囲われており、その中に牧場があった。そしてそこには家畜とその世話をする人がいる。俺達は少なからず興奮していた。見たことのない土地に来たんだという期待を持って。
村の入口が近付いてくると門の見廻りをしている男性に呼び止められる。
「こんにちは、本日はどのようなご用件でお越しですか?」
言葉は丁寧であったが、警戒の色も伺えた。
「私達は、カルディーク皇国ギルドの者です。此方が証明書と私のギルドカードになります」
ヘイズは馬車を降り、男性に任務内容の書いてある書類と自身の身分証となるギルドカードを見せた。
「確認しました。依頼を受けていただきありがとうございます。そのまま入り口に入っていただき、直ぐ左の建物が馬車と馬小屋となっていますので、そこにいる男にお声をお掛け下さい。ではよろしくお願いします」
ヘイズの書類を確認し終えた男性は、笑顔になり、感謝を述べお辞儀をした。その後中に入っての説明を受け、勇夜達は中へと入っていった。馬車を説明の受けた建物へ持っていき、俺達は馬車を降りた。ヘイズが建物にいた男性と話していると、勇夜達に近付いてくる小さい影があった。
「「こんにちはー!」」
その元気な声に勇夜達は振りかえると、4~5?歳位の男の子と白い動物のぬいぐるみを抱えた女の子が満面の笑みを浮かべて挨拶していた。トール以外はその子達に挨拶を返す。
「ねぇねぇおねぇちゃんたちは、どこからきたの?」
女の子が直ぐ近くにいたアリサに聞いてきた。
「私達はカルディーク皇国のギルドから来たんだよ」
アリサは笑顔で女の子の目線に合わせ腰を落とし、そう伝える。
「かるでぃーく?ぎるど?」
女の子が首をかしげると男の子が変わりに話し始めた。
「ぎるどは、わるいまものをやっつけてくれるとこだって、そんちょうがいってたよ!」
「それじゃあおねぇちゃんたちは、わるいおおかみさんやっつけてくれるんだね!」
男の子は女の子に自分が聞いたことを話し、女の子は納得し笑顔になった、
「おう!そうだぜ、俺達が悪い狼達をやっつけるからな!」
ヴィルはニカッと笑いながら元気に話す。その言葉に子供達は益々元気にはしゃぎ出す。
「サチー!、サトルー!」
そんな中、此方に近付きながら声を上げる女性がいた。
「あ! おかあさんだ」
「もうダメでしょ、勝手で出て、困ってるでしょ。もう……皆さんごめんなさい」
この子達の母親と呼ばれる女性が謝罪をした。どうやら女の子がサチ、男の子がサトルと言うようだ。
「そんな事無いですよ! それに私、子供好きですから全然問題ないです」
その言葉に反応したのはセリエであった。一度ヴィルをチラ見しているように見えていたが、気のせいではないだろう。
「ありがとうございます。ほら行くよ」
「えぇー、もっとおにいちゃんおねぇちゃんたちとおはなししたい~」
子供達がだだをこねているようだ。女性はそれを注意するが
「任務の情報を聞いたりとかは俺達でするから、セリとアリサは行ってもいいぞ。 な?」
ヴィルはセリエとアリサにそう伝え、確認の為に勇夜に聞いてきたので、頷き肯定していた。
「ほんと?! じゃあいっぱいお話しよ! ね、行こアリサ」
セリエはアリサの手を引き、子供達と移動を始めた。子供達の母親は立ち去る前に此方にお辞儀し、セリエ達に付いていった。
「そういうことなら、俺も抜けさせてもらう。君達と一緒の行動なんて興味ないからね。情報は後で教えてくれればいい」
トールには言いたいことを言うと足早にセリエ達とは別の方へ歩き出した。
「まったく、自由なこったな」
「はははっ すみません勝手なことして」
いつの間にか後ろにいたヘイズに謝る。ヘイズは気にするなと言い、とりあえず勇夜とヴィルだけでも村長に会いに行こうと促した。勇夜達は同意し、近くにいた案内役の男性に付いていく。
初の任務、初の国外への進出、初めてのことが多く重なる中、新たな出会いが待つのは一体なんだろうか……




