密かなる同盟 伍
[密かなる同盟] 伍
雪燕を新たに仲間に加えて、一行は再び北英を雪虎に乗って横断しながら春斎国の方角へ進む。
長い黙祷のあとで、無言になりがちだったが、努めて叔玄が陵と雪燕に、二人がいなかった間のことを説明した。
龍星という存在の正体。そして襲ってきた慧斗という女、星游が仙魔を召喚してなんとか防いだものの今は弱っていること。
「くっそぉ、俺がいない間にそんなことに!」
「神魔なんて、そんな……架空の存在かと思ってたのに」
陵も雪燕も唖然とする。
龍星とは洞窟で一度襲われたものの、まさか星游を脅かすほどだとは思っていなかったのだ。
一方士學は無言でいる星游に、華燐から貰った布地を当てて星游の為の袍を縫っていた。短刀と針で仮縫いをしているのだが、人数が増えた為に雪虎の後ろに寄ったせいで振動がおこり、布地を持った青祥が度々士學に刺されて悲鳴をあげている。
叔玄は星游の治癒をしながらその手当をすることに追われて、話しながら忙しないことこの上ない。
「これが終わったら、雪燕にも新しい着物を誂えてやらねばならんな」
「むしろ全員ですよ、どこかで新しい着物とどこかで体を洗いたいもんです」
「青祥……貴様というやつは、男としてどこまで矜持がないのだ。雪燕は女子ぞ。優先すべきだろうが」
は?という驚きの声は二人分。陵と青祥のものだ。
嘆息をしたのは叔玄。
「だから、二人きりで失礼がないかどうか心配だったんですよ。やはりというかなんというか」
「見ればわかるであろうに、どうしようもないやつだな。星游も当然分かっておるぞ」
星游が僅かに頷く。
叔玄を洞窟から連れ出すときに、その線の細さは飢えのせいかと思ったが涙を流す雪燕を抱きよせた時に、疑念が確信に至ったのだ。
「でも、俺ずっと一緒だったのに、気が付かなかったぞ。なんつーか、どの辺に胸が……」
雪燕が目一杯陵を押したので、陵はあやうく雪虎から転がり落ちるところだった。
そんな最年少を、士學と叔玄が憐れみの目を向ける。
「すみません、うちの愚弟は、本当に無神経で」
「青祥が無礼ですまぬな。昔から頭が弱いやつだったが、このところ余計に悪化しているようだ」
「別にいい。女らしくもないし、男物きてるし、色々、女っぽさに欠けてるし?」
じっとりした雪燕の目線は主に陵に注がれた。
青祥と陵がそんな雪燕に、急いで謝る。
「ちなみに、齢は十八だ。公子と同じだけど」
これには星游も言葉がない。せいぜい陵と同じくらいだと思っていた。
飢餓で細い体と埃まみれの格好とはいえ、年上だとは思っていなかったのだ。
「ふむ、年頃でこんな男世帯だが、旅をするには男装のほうがよかろう。雪燕も今しばしは男の身なりで我慢してもらうしかないな」
「別にずっとこのままでもいい。普通の人間ならとっくに嫁にいってる齢だけど、鬼子の時点で女として生きていけると思ってない」
「何故だ?」
士學が本心から不思議そうな顔をする。
雪燕が真っ向から見つめられて言葉に詰まり、青祥はまたしても狙いが外れた針に刺されて大声を出した。
「だって、鬼子だぞ?当たり前の幸せなんて」
「鬼子が幸せになっては何故いけないのだ」
陵から聞いていたとはいえ、士學には全く差別意識がない。雪燕は困って叔玄に助けを求めた。
「ですから、このままの方なんです、公子という人は。一緒にいると、鬼子であることを悲観しているのが馬鹿馬鹿しくなりますよ」
「そう、だな……」
雪燕には未だくすぐったくて慣れない感覚。ずっと忌まれてきた。罵られてきた。
それがこんなにも簡単に屈託をほぐしてくれる存在は、雪燕には眩しい。
「士學様、お願いですから縫うのに集中してください!俺の手といわずあちこちズタズタなんですが!」
「たかが針で泣き言を云うな、情けない。あまり五月蝿いとついでに口まで縫い付けるぞ」
「それは虐待です!!叔玄がいるからって最近本当に俺の扱いが雑すぎますよ!」
「何を寝ぼけておる。貴様の扱いは昔から同じだろうが」
陵が笑いこけ、叔玄も苦笑しているが二人のやり取りには口を挟まない。
星游が腕を少し重たそうに持ち上げて、雪燕の頭を撫でた。
いつぶりに笑ったのだろうか。笑えているのだろうか。
こわばった顔が長いこと張り付いてしまったその面で、雪燕は自分の頬を引っ張りながら、静かに笑った。
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最初からあった雪燕は女子という設定がやーーっと出ましたね。北英では女子ばかり書いているというのは、もうマジでそうでした。桂花と緋聯は死んでしまったのですが、華燐、慧斗、雪燕、と新キャラは主に女子でしたん。慧斗は最初男子設定だったんですが、美少年はもうお腹いっぱいだろうと。たまには妖艶なおねーさんでもいいんじゃん?龍星が甘いのはその辺だろーと。名前は決まっていたので、女子は花とか可愛い音を選んでいたのでその決まりをやぶってしまったのですが。しかし、星游、青祥、雪燕、薛老子・・・主人公サイドにせから始まる名前が多すぎる・・・書き手が馬鹿ですいません。もう、せから始まる異世界ファンタジーみたいなタイトルのほうが(略




