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月の刻印は暁に二度咲く  作者: 相木ナナ
新たなる始まりは幾つもの歴史を刻みて

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密かなる同盟 参

待機していた陵と雪燕。

 

[密かなる同盟] さん





 りょう雪燕せつえんは野営を続けていた。


 冬花とうかの無人の里から、足りないものを借りての生活だったが、今までの生活と比較すれば雪燕など穏やかすぎる日々だった。


 陵が義兄や士學しがくたちの身を心配していないのは、北英を抜ける間際に見た星游せいゆうの姿を見ていたからだ。


 まさか龍星りゅうせいが部下を送り込んで危険に晒したことなど知るよしもない。



 星游の使い魔の雷鹿らいしも、必要最小限のことしか語らないので、最初はあれこれ詮索していたのだが二人は諦めている。


 雷鹿に下された命令は二人を護って脱出させることだけだったので、星游と契約を果たしている雷鹿は星游の身に起きたことを語らない。


 使い魔となって喋ることは出来るようになっても元は妖獣、格の下にある魔物は自我に薄いのだ。



 北英ほくえいを出てから雪燕せつえんはあまり過去を語りたがらない、りょうも強いて聞けなかった。あの洞窟の中を見て、雪燕の最後の仲間の死を看取り、埋葬まで付き添ったのだ。


 その為に陵が主に色々と塾の話、義兄弟の話、士學と青祥せいしょうの話などを語り、雪燕はそれを聞き返したり頷いたりと夢中で聞く。


 陵も話が過ぎてうっかりと士學の本当の正体などを語ってしまい、それは雪燕を大いに驚かせると同時に納得させたのだ。



 北英の王族に代わって謝罪するというあの時の言葉の意味と、庶子とは思えない威厳。


 そして、鬼子とて人の子、何の罪もないと断言した士學のあの言葉。


 だからこれだけの力を持つ鬼子たちが、随従ずいじゅうとして従っているのだろう。



「そういえば、雪燕せつえんはこれからどうするんだ?」



 薪を集めてきた陵に問われて、雪燕は今更ながら自身の中が空虚なことに気がついた。


 最初は北英の王族を殺してやろうと思っていたが、緋聯ひれんの遺言によってそれは断念せざるを得なかった。


 たまたま生き残り、陵と一緒に冬花の端に逃げ延びたはいいが、陵は仲間を待っているから此処に留まらざるを得ない状況なだけで雪燕も此処にいる必要はない。



「行く当てがないなら、俺らとくるか?公子のこともあるから、安全じゃねーけど。一人ぼっちなんだろ?」


「いても、いいんだろうか……」



 今の雪燕には生きる理由がない。必死に守る仲間を失って初めて、生き残る以外の選択肢を持っていないことに気づく。


 星游たちは命の恩人だ。叔玄しゅくげんと陵にも随分助けてもらった。


 彼らほどに戦えるかどうか自信もない。士學の言葉には救われたが、それだけで一緒についていくには彼らの忠誠は厚すぎる。



「嫌になったら春斎国しゅんさいこくとかで働いたりしてもいいし、多分兄者も駄目とはいわねーと思うけど」


「そうかな……」


「一人旅は危ないから止めといたほーがいいぞ。冬花だって北英ほどじゃないけど、差別はひでーもん」



 陵が息を吸い込んだので、雪燕は大きく後方へ下がった。


 業火狼ごうかろうの能力を使いこなそうとして、陵は避難してきてからは火付け石を使わずに業火を吐くのだが、如何せん制御が甘く二度ほど雪燕まで焼かれそうになったほどだ。


 陵の炎の吐息が薪を燃やす。



「くっそぉ、どうやったら丁度よく止められんだよ!!」



 雪燕の方まで飛ばず薪だけに火がついたものの、木片は木炭と化した。



「いきなりは無理なんじゃ……もう一回、薪を探してくる」


「いいんだよ、俺がやらかしたんだからさ!それに雪燕ってガリガリなんだよなぁ、早く肉つけろよ。もっと喰っていいんだからな。塾でそんな棒みたいな腕したら夫人と少春しょうしゅんがご飯山盛りにしてるぜ」



 二日は絶食していることも珍しくなかった日々で、すっかり雪燕の体はやせ細っている。


 いきなりたくさん食べろと云われても、胃がまだ沢山の食べ物を受け付けないのだが、陵は何かと嘆いて食事を作るとおかわりをするように促すのだ。


 薪を拾いにいこうとした陵の前に、雷鹿らいしが遮るように立った。



主君あるじから伝言が。あと半日で洞窟の前に付くから、移動せよと』


「え、また北英に戻るのか?」



 陵の疑問に雷鹿は無言で腰を下げる。


 早く乗れという意味なのだろう。陵は困惑して雪燕を見た。



「どうする?雪燕は辛いようだったら、此処に……でもそーすると一人になるよなぁ」


「いや、行く。一緒にいくかどうか、未だわからないけどけじめになるかもしれない」


「……そっか、でも、無理すんなよな」



 何故洞窟の前にいくのか、真意はわからなかったが、たとえ痛い思いをしても雪燕にもあの場所へ行くことは最後の別れを云う機会にもなる。


 もう北英にだけは残らない。残りたくない。


 遺品の入った箱を抱えて雪燕も雷鹿に飛び乗った。



「これが、北英ーーー」



 数日ぶりの祖国は、土地は黒いままとはいえ井戸には透き通った水が張り、水田のようなものも見える。


 北英を出る時は妖魔の間を疾走していた雷鹿らいしも、今はゆったりと並足でそれらを通過していく。


 そして、見渡す限りの広い国土は魔物の痕跡の欠片も存在していなかった。



「すっげぇ、兄者!ほんとに国中の妖魔を倒したのかよ!!」


「これが星游一人で……」



 空恐ろしいほどの力なのはずなのに、あの琥珀と銀糸の双眸を思い出すと不思議ともう妬みも憧憬も浮かばなかった。


 それは毎日陵から星游の話を聞いたせいかもしれぬ。


 忌まれても里の人間を守り、老子の息子として恥じないように、義兄弟の兄たる為に、その膨大な力を彼は守るということに使っていた。そしてそれは誰より生き残ってしまった雪燕には理解出来る。



 雷鹿の意思なのか、星游の意思なのか、雷鹿は緩やかな足取りで雪燕に生まれ変わった北英の姿を見せていく。


 それは未だ生まれて十八年しか経っていないのにほとんど戦乱しか見てこなかった雪燕の双眸異色に、静かに沁み込んでいくようだった。



「辛くないか?」


「いや……北英は嫌いだったのに、少し嬉しい。自分でもこんな気持になると思っていなかったけど」



 今でも北英の王族や将軍は嫌いだ。それでもこの国は再生して変化していったーーそれは雪燕の、北英の鬼子たちの切なる願いだったから。


 きっと、緋聯ひれん桂花けいかも喜ぶだろう、何よりも心根が優しい彼女たちならばきっと。


 遺品の箱を雪燕は切なく優しく振る。仲間たちにも見えるだろうか、彼方へと魂が飛んだその心へ届くだろうか。



「ーーーありがとう」



 呟いた雪燕の言葉は、透明な水たまりの中に溶けて消えた。




 .

変な人のあとなので(龍星ファンがいたらすみません)のびのびとショタ(成長なう)を書きました。陵は書きやすい・・・と思ったら合流まで書ききれず。なかなか雪燕についてかけないww

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