密かなる同盟 弐
[密かなる同盟]弐
冬花国の主幹といえば誰しもが呂元帥を思い浮かべる。
三公もそれぞれ癖があるとはいえ、羅大公のようにおもねるものが多い。その中、宰相はごく影の薄い人物だった。
その宰相、孫守孝は窓辺から入ってくる人影を恍惚として出迎えている。頭を低くし、伏しているといっても良い。
冬花宮城は屈強なる守護で固められているのに、その人物はいとも簡単に城上層の宰相房室に足を踏み入れた。
華やかで毒を秘めた金髪に蒼い光、銀糸の目は誰であろう神魔の龍星である。
艶やかなその靴は、宰相の下げた頭の上に乗せられた。
「やあ、元気みたいだね、守孝」
「勿論でございます、龍星兄様」
白髪になりかけた宰相の返答も異様であった。
龍星は二十歳そこそこにしか見えないのに、老人がその青年をうっとりと兄と呼ぶ。
「で、例の恣尤は捕まえたんだろうね?俺はさぁ、わざわざお前を送り込んでおいて無駄なことは知りたくないんだけど」
「呂忠国に予言をして去ったのち、中々足取りが掴めず……申し訳も…」
孫宰相の頭を踏みつける龍星の足に力が入る。
「お前さぁ、それでも幽魔なの?同じ腹違いでも星游は人間の母親から生まれたってのに玄武を召喚したんだよ。お前は俺と同じ仙魔の母から生まれておいて仙魔にもなりきれない半端ものでさ、鬼子の星游より劣ってて恥ずかしくないのかい」
「あの鬼子が、そんな……兄様と同じ召喚の能力を」
「そうだよ、神魔だけが持つこの力をあいつは五感憑依まで手にして、仙魔も召喚してみせたから、その余興に一回は見逃してやることにしたけど。守孝、おまえときたら予言の幽魔一人も探せないわけ?弟でなかったらもう殺してるよ」
龍星の夢幻的な顔に、殺意が宿った。
踏まれる宰相は、無抵抗のままその首を晒している。
「人間どもは幽魔は第五格というけど、力にひれ伏す第六格の仙魔より、意地の張ってる幽魔のほうが手下にするのは厄介なんだよ。人間のいう、性格ってやつ?それで最高位の神魔を推し量ろうなんておこがましいやつらだから、お前に探させたのに。何のために宰相にしてやったんだよ。呂忠国の心を操ってお前を宰相にさせたのを無駄にさせるな」
「はっ……」
「俺は、俺の予言を知りたいわけじゃない。予言という力で未来を楽しめないことが嫌いなんだよ。いいか、恣尤を見つけ出して殺せ」
「必ずやーー!」
「間違っても星游に召喚されるようにするなよ、予言した恣尤だけじゃない、他の恣尤も万一見つけたら殺せ。一度手下になる契約をしたら最後、神魔同士でも同じ個体は所有できないんだからな」
言い捨てて、龍星はまるで階段に足をかけるように窓からたゆたってきた雲へ、しなやかに移った。
龍星が去ったあとも宰相は、その余韻に浸るような表情を浮かべていた。
「ええ、兄様の云う通りに……いつでも忠実なのは私だけなのですから」
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龍星、説明乙!やっとこ隠れ設定の一部が出ました。因みに、孫宰相は龍星の弟ではありますが、星游とは血のつながりはありません。龍星と宰相は母が同じ。星游と龍星は同じ父(神魔)です。ドSが爆発していますね。宰相はドMだと思います。一番やべーひとを書いた達成感があります




