星の名は滅びと始まりを告げる 肆
[星の名は滅びと始まりを告げる]肆
趙陵は息切れをしていた。
来た時は冬花国の最北の里から半日、洞窟まではたかが数刻もなかったのに、義兄の召喚魔の雷鹿の力を借りているとはいえ、冬花が見えるまで二日もかかってしまっている。
仲間を守れず目の前で死なれた雪燕には、なんとか食べ物を食べさせると緊張の糸が切れたのか、雷鹿の背で半分寝てしまった。
無理もない。永く洞窟に逃げ込み、次々と同胞が息絶えていく中、必死に戦って守ろうとしたのだ。
雷鹿に騎乗したまま、魔物を跳んで蹴って殴って撲殺してきたが、今になって仲間と義兄弟の力に如何に頼っていたかを思い知らされる。
剣を教えてくれようとした老子や士學に対して、自分には素手で十分だと言い張ってきてしまったことを今更ながら悔やんだ。
叔玄が云った、「公子や青祥がいることに慣れてしまったよう」とはこういうことなのだと気づく。
星游を除いて、全員が足りないところを互いにかばい合って、水北地方ではそれが通用してきたが今は陵と、星游の使い魔の雷鹿だけなのだ。
炎を吐くと一挙に疲労がくるので連発はできない。
いつの間にか獣耳まで生えてきてしまっているのは体力のすり減りのせい。
『嗚呼、主君が』
雷鹿の声で、話すことが出来たのを思い出す始末。
陵が見上げるとちょうど雪燕も目が覚めたようで、上空をつられたように仰ぎ見た。
「すごい……」
雪燕が絶句する。
星游の能力については簡単な説明しかする暇がなかった為に、雪燕は未だ把握しきれていないが、義兄弟の陵でさえその姿に刹那見とれた。
星游は火鳥の上に立ったまま両手に違う能力を憑依させて、走る雷鹿の前に妖狐と雪虎が現れて魔物をなぎ倒す。
二人のすぐ傍で不自然に攻撃がずれるのは、何かしら守護の結界を張ってくれてあるのだろう。
陵でさえ此れほどの義兄の卓絶した力を見たのは初めてだった。
北英に入ったときでさえ度肝を抜かれたのに、今はそれすら凌ぐ。
星游の手で、死の旋律が守護された二人以外を鮮血で奏でて舞った。
思わず手を振ったのは、星游があまりに孤高に見えて何故だか悲しくなったのだ。
北英にきてから助けてもらってばかりいる、そんな自分でも彼の義兄弟なのだと、仲間であるのだと伝えたかった。
そしてその思いは視線と微笑で応じられる。
今は生き残った雪燕をこのまま助けきってみせること、それが彼から託されたものだから。叔玄や士學、青祥も同じ気持ちであるはずだ。
各自でやれることを後悔のないように全力で。
北英から冬花国への入り口は、もうすぐそこだった。
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え、短い?次回は星游VSNEWキャラのバトルなので区切ってしまいました。
キャラ一覧を見ている人は、あああいつか・・・と思ってください。士學・青祥・叔玄のところにやっと星游が合流してきます。ほんとバラけるなよ君ら!
レギュラーのなかでは誰が死亡フラグたってるの?と知人に聞かれてためらいもなく、え、叔玄だよ。と云ったら怒られました。(何のフラグでもありません!多分)




