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月の刻印は暁に二度咲く  作者: 相木ナナ
宿敵と、絶望と

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星の名は滅びと始まりを告げる 参

 

[星の名は滅びと始まりを告げる]参




 北英ほくえいの里、むらを見下ろす星游せいゆうの眼には悲しみがたゆたっていた。


 見渡す限りの焦土、人の死骸がないのは魔物に跡形もなく食べられてしまっているからだ。


 容赦なくその妖魔を焼き払う星游の元に、いくつかの魔物たちが下僕しもべとすることを契約してきたが、今までは何も考えずに是としてきたものの、苦い感情が浮かぶのは召喚魔ごしに視た龍星という存在のせい。


 此の力と同じものが生み出したこの惨状、何の為に此れほどの悲劇を好んで招いたのか。


 既に州二つが魔物の影は消し飛んだ。



水魁すいかい


『此処に』



 水魁もまた先程使い魔になったばかりだが、その大蛇のような妖獣は星游の影からすぐさま滑り出る。



「井戸に水を、あと周辺に幾つか小さな水田を」


『承知』



 家屋や生活の場所は焼かれないように、狛賦戌こまはいが小さく守護結界を張っている。

 そこに水魁が滝のように水を放流した。


 視点は告死天使、右手には業火狼ごうかろう、左手には風鷲ふうしを憑依させ、火鳥かちょうに騎乗したまま、他のものを操るのは星游とて気力を根こそぎもっていかれる。


 其れを耐え抜くのは、怒りと悲しみ、そしてこの禍々しいまでの召喚能力を使い込んで役に立つが為。


 城で動く人妖じんようや、国を突破していく雷鹿らいしも同時に稼働している。

 星游の額に汗が滲んだ。



『星游様、あちらに』



 云われて見やった先には、雷鹿らいしで疾走するりょう雪燕せつえんの後ろ姿があった。


 冬花国までもう半刻もかからないであろう場所まで移動してきたのだ。


 陵には尻尾と獣耳が生えている。



狛賦戌こまはい、結界を」


『心得ております』



 気配を察したのか、陵の双眸異色が星游を捉えた。


 手を振る陵の笑顔と、驚いた顔で星游を見上げる雪燕の姿が、また星游の集中力を再燃させた。



 二人以外のものを駆逐するーー二人の行き先まで。



 地面に降り立った妖狐が巨大な九つの尾を振って妖蟲ようちゅうを蹴散らす。


 雪虎せっこが氷柱を吐いて四方から群がる妖獣を刺殺しながら、周辺を撃沈させていく。


 その死骸は片端から業火狼ごうかろう火鳥かちょうが焼き払って、妖魔が増殖するのと呼び寄せるのを防いでいった。




『三州目もほぼ鎮圧しました』


「そうか……北英の城を出て、何日経っている?」


『二日と半日ほど』


「そんなにか」


主君あるじ、少し休まれませんと。妖気が薄くなってきております』



 休んでいる場合ではない。


 それでも使い魔に云われれば自身の限界を認めるしかなかった。

 五感憑依を告死天使以外、一度外して、城の人妖と城の結界をはる狛賦戌こまはい雷鹿らいしに力を留める。


 辺り一面何もない場所で、星游は下げていた小さな荷袋から少春しょうしゅんお手製の杏の甘露煮を出して、口に放り込む。


 目は閉じずに、体だけは少しずつ気力を削いで、もう一度貯められるように備えた。



 何故こんなに他国のことを助けようと思うのだろう。


 士學しがくの身内がいるとはいえ、差別の多いこの場所を。


 自身と同じ力の主が発端を引き起こしたせいなのか。



 ーー否、そうじゃない。


 士學は助けることに理屈は必要としない。鬼子だろうと農民の子であろうと王族だろうと。



 かつては認めて貰いたい、鬼子だからと嫌われるのが怖くて、薛太老せつたいろうに褒めてほしくて、自己満足だけの妖魔狩りをしていたけれど。



 今は士學に恥じないようありたいのだろう。

 頼りになると云われた忠誠の相手は、冬花とうかの皇太子だから忠誠を誓ったわけではないのと同じだ。


 生まれの謎も、わからない相手への疑念も、今は意味がない。



 口に入れた杏は、馴染んだよく知る味。


 郷愁もまた力として、星游せいゆうは疲労が抜けるように地面に寝転がった。



 この濁った空はいつ晴れるのか。


 その雲の彼方に龍星りゅうせいが居ることを、星游は未だ知らない。



 .

星游が無双している回ですね、次回は雪燕と陵のターンです。星游の士學への忠誠心が上がっているのが伝わるといいのですが。

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