星の名は滅びと始まりを告げる 壱
北英国ラストスパート。そして新章開幕。
[星の名は滅びと始まりを告げる]壱
叔玄と陵たちの身に起きていたことは、付けさせていた膚鬼から分かっていたとはいえ、星游は固く口を結んだ。
陵がとっさに本能に目覚めていなかったら、弟たちは取り返しがつかないことになるところだった。
叔玄も、また、戦乱を引き起こした魔物を部下にする、謎の人物の話に先刻の主だろうと確信がある。
「兄上ーー何ものでしょう……顔が兄上に似ていることや、僕らが兄弟なのも、兄上の名前までも向こうは承知のようでした」
「能力も同じのようだな……俺は此処にくるまで龍星とかいうやつに気が付かなかった。もしかすると向こうのが上かもしれん」
「そもそも、双眸異色でない鬼子などいるのでしょうか。まさか本当に神魔とかいうものが存在するのか……」
「それはわからん、何しろ神に等しい魔と云うんだからな、存在するのかも怪しいが」
魔物の格とは、人間が分けた七つの位で判別される。
妖蟲は、虫に限らず名前も持たない一番下の魔。
妖魔は、ほとんどの魔物の総称とも云っていい。普段里などに出て人間がなんとか倒せる程度までを呼ぶ。
妖獣とは、獣化したものをいい、妖魔と呼ぶには獰猛で害のあるものが多い。窮忌や暗黒猿などは妖獣に当たる。
人妖は、人の形をする妖しものの総称であり、人語を理解したり特殊な能力を持つ魔を呼ぶ。癒与も人妖である。
幽魔は、出現率が少なく、人に不老不死の力を与えたり、百騎当千の無双の力を貸したりすると云う伝承の多い魔だ。
仙魔に至っては、仙人が魔に変じたものだとか、幽魔を生み出すものだと云われ、此れもまた謎が多い。朱雀、玄武、青獅子、白虎が一番著名であろう。
そして最上級にいるのが神魔。神でありその姿は人とも竜とも云われる伝説の魔の頂上。
星游の育ての親の薛太老などは、星游は幽魔と人の子ではないかと思っていたが、何の確証もない。
大体星游の名は、太老が付けたものではない、拾った際にくるんであった布にその名が書かれていたのだった。
つまり太老にもらったのは名字、名前は捨てた魔か人の親、字は士學によるものだ。
神魔とやらの顔が星游に似ていて、名前も近い、能力が同じかそれ以上ならば、星游の血縁者である可能性が限りなく高かった。
「つまり、俺の血縁者が、士學の血縁者の国を滅ぼそうとして、俺の兄弟を殺そうとしたと……?そんな馬鹿な」
「推量を重ねるのはやめましょう、今は出来ることだけやるしかありません。公子が探そうと云うならこの先も出くわすはずです」
「龍星とやらが、何かしゃべってくれるかもしれんか、期待せず待つとしよう」
風鷲が北英の城の上につくと、星游は叔玄を抱いて飛び降りた。
それを迎い入れたのは紅い眼の美しい容貌の少年だった、只その背中に翼があること以外は。
「星游様、けが人の容態の順番に並ばせましたゆえ」
「ああ、すまん。告死天使も人の姿で話すのは久しぶりだろう」
「此れが告死天使の人型なんですか……」
幼少のころ、星游が良く腕に止まらせて会話していたのは見ていたが、人の姿で見るのは叔玄も初めてだ。
「人の姿を取れるものは、食料を集めている壺中宙以外かり出してるからな。城の中は動けない人間だらけで人の手が足りない」
「雷鹿は陵と雪燕殿を乗せて移動していますよね、そんなに動かして大丈夫なんですか?」
叔玄の不安は、星游の体力や妖力を心配しているだけではない。
冬花より差別の厳しい国で、妖魔を従えた人物に戦争を起こされた国である。星游が似たような能力を使えば余計に畏怖と嫌悪をされていないか、考えるのは当然だった。
「士學が凄い説教した。死にたくなければ何の力でも借りろとか、助けた人間が殺すわけないんだからおとなしく助けられろ、とか無茶なことを云いまくって、最後には俺が信じられないなら勝手に死んでもいいが無理にでも助けてやるとか、理屈にならないことを怒鳴ってたな」
星游が苦笑いを浮かべる。叔玄も微笑んでその後をついていく。
あの青祥までもが士學と一緒になって北英の王族に叱咤するのは、まさに見ものだった。叔玄や陵に見せられないのが残念なほどだ。
「公子の理屈の上では正しいのでしょう。あの方は僕らの考えからは及ばない思考で進みますからね」
「まったくだ。その癖に手は人より働いている。正直、飢えたひとに関する知識は士學が一番よく識っている」
「それがまた、実体験だというところが、公子の凄まじいところですよね」
士學が只安穏と育ち、皇太子から天子へなれなかった理由が、士學の政道理念を作り、今の士學へと育てた。
追われて、飢えて、隠れて、民の底辺を体験したからこその、帝として何が必要なのかを体得して、そして差別のない世界へ邁進する。そんな士學だからこそ付いてきたのである。
「おまけに、さらりと身分も最初に明かしてしまった。妖魔の国に間諜はいないと判断して」
「それはまた、豪快なことを……公子といると退屈しないのは確かですね」
噂の主が、星游と叔玄を大声で呼んでいる。
告死天使は死者に埋もれた生者を見つけると、其れを引っ張り出して翼を広げて広間へ連れていく作業に戻った。
叔玄は、士學のもとへ駆け寄る前に、己が兄の顔を仰ぎ見る。
「告死天使にも、龍星とやらのことを聞いてみたのですか?」
「ああ、無駄だった。元々魔性のものは秘密を持つが、やはり奴の方が格上なのかもしれん」
苦々しい顔をしてから、お前もきちんと食べろと云って義兄は揚げた饅頭を叔玄に放った。
***
「なんだか面白いことになってきたじゃないか。北英に人妖まで使って王族と民を助けるか」
刺繍の入った袍の襟を緩めながら、大蛇に似た魔物の上でくつろぐのは金に青の髪、水晶の輝きの双眸の青年、龍星だった。
手には酒盃を優雅に持ち、周囲には名だたる妖魔を侍らせている。
「しかし、神魔と人の子が、冬花の皇太子と手を組むか……星游、俺の兄弟としては随分と甘い理想を往くものよ」
「腹違いのご兄弟といえど、気に為さりますか」
「ああ、つまんないよね。せっかくの力をもっと有意義に使えばいいものをさ」
龍星に問うたのは、翼を持つ紅い眼の華やかな少女、告死天使である。
「俺がせっかく妖魔の国に仕上げてやったものを、これで人間だ鬼子だと諍うこともなくなっただろうと思ったのに」
「では、どうなされます」
「もう一度潰してやるのも一興、ほうっておいてまた様子を見るのも、また一興。おもしろい方に賭けるだけさ」
酒盃を傾けて、透き通った玻璃の盃にまた酒を満たす。
「そうだ、慧斗のやつを呼ぶか。あれと出会ったらどうなるか、楽しそうじゃないか」
妖艶に笑んで、龍星が手を鳴らすと全身が炎を纏うような大きな鳥が出現した。
龍星が触れても、其の白い腕が燃えることはない。
仙魔の一角である朱雀を無造作に呼びつけて、龍星がその嘴を撫でた。
「慧斗を呼び出してきておくれ。星游を殺すか、戦うか、見逃すか。それは任せるからさ」
『承知』
朱雀は紅い閃光ひとつを残光として、その場から消える。
「殺させないので?」
「慧斗に殺されるようなら、其れまでだよ。なに、二百年ばかり年下の、可愛い弟を苛めて楽しむのも兄の努めだろう」
龍星は身じろぎすると、己の下にしている大蛇の頭に肘を乗せた。
「なに、全ては戯れさ。それにしても、勝手に義兄弟とかで兄弟面している下級の半魔と、偉そうな人間は、俺は嫌いだなぁ。そいつらの首をもいでやったら、星游はどんな顔するだろう」
そう云うと、うっとりと龍星は眼を閉じる。
龍星たちの足元は雲ーーーー空の彼方の上であった。
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限界突破LV振り切れてて頭も振り切れてる龍星が締めっていう。北英入ってから女子率あがったんです(死なせといて?




