冒険の始まりのようです!
少し長いですが、ゆっくりとお読みください
「朝だよ!起きてお兄ちゃん!」
朝、閉まったカーテンの隙間から光が漏れ、狭い部屋の一部を照らす。
俺、茅野斗真は今日も動かなければならない。
そして目を閉じたまま考える
(なぜ動かなければならないのだろう、なぜ起きなければならないのだろう、義務だから?当たり前だから?……否。生きるためだ………ではなぜ生きるのだ?….それは必要なことだからだな……もっと寝ていたい、いや寝るべきなのではないだろうか?ここはあえて自分の思うがままに寝てしまった方が良いのではないんじゃあないか……)
と目覚めて早々意味不明な思考を繰り広げる自身の脳内をリセットし。重い体をゆっくりと動かす
「このお兄ちゃんめ!起きやがれ〜!こうなったらお兄ちゃんが怖がる犬の真似してやる!ニャオーン!にゃんにゃん!」
寝起きというものはどうも気分が悪い、体が重く感じ、上手く思考が回らない。
自身の睡眠欲の強さには驚くばかりである
そしてまるでホラー映画に出てくるゾンビのようにドアを叩きながら吠えている妹に一言を告げる
「起きたよ、それと犬はそんな鳴き方しない」
その声を聞いた妹は続けて明るい声で言った
「あ!起きた!」
そして今度は別の人物に向けたであろう大きな声で
「お母さん!お兄ちゃん起きたよー!今日は雨が降るよー!」
「なぜそうなる…」
斗真は呆れた声で言った。
「あらそう!じゃあ洗濯物を入れなきゃね!」
母は冗談交じりの声でそう言った
最近はずっとこれだ、アラームが鳴る前になぜか妹に起こされる。
まるで妹がアラームの唯一の仕事を奪っているようだ
体をゆっくりと起こしてベッドに腰をかける、さっと、机の上にあるスマホを手に取り、アラームを切る。スマホの画面の上部を見ると6:03とあった。
(まだ充分余裕があるじゃないか)
軽く寝とくか
そう言って、茅野斗真は再度眠りに着いた。
『今回は今年発売されたFDVRMMORPG 、
「Magic of Fantasy」の開発者!科学者の"蓼山由伸"さんに来ていただきました!』
ーー蓼山由伸ってホントすげーよな
ー噂じゃ蓼山が研究チームに入った途端一気に研究の速度が上がったらしい
ー天才すぎる
天才科学者、蓼山由伸
…VR技術は昔から研究され続けていた、その何十年もの時間をかけても実現できなかったことを彼は実現したのだ。
ーー2153年、ある技術大国が国家資金の約5%を投資し、5年の時を費やして作り上げた、「フルダイブ型VR技術」
これまでになかった新ジャンル、
Full dive Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game
略してFDVRMMORPG
「Magic of Fantasy 」
噂では、フルダイブ型VR技術は2150年にもう完成しており、残りの3年間はこのゲームの作成にかかった時間だと言われている、もしそうだとしたらこの速度はまさに"異常"であるが
だがそれも、これまで人類が培ってきた技術からすれば、それほと異常などではないのかもしれない
2036年、四つの技術先進国が合同で本格的に研究を開始した。
その研究対象は「脳」である。
2053年には脳の約15%が解明され、それに合わせ様々な技術も発展していった。
そしてそれからと言うもの、その研究は恐ろしい速度で進みはじめる
2072年、既に60%が解明された事により、その数年後には殆どの身体障がいは治療可能となった
そして2107年、脳の100%が遂に解明され、それを始めとして脳科学は驚くほどの速度で発展していく
研究が開始された2036年当時、脳の解明は100年以上もの時がかかるとされていたが、それを人類は71年で成し遂げるという快挙を遂げた
2110年には脳に埋め込む小型チップが発明され、その22年後の2132年には、人工知能の発展、日常ロボットの導入など、人類の日常はより便利なものとなった
同時に医学も発展して行き、身体障がい者の日常生活への復帰、病気の8割は治療可能
宇宙開発も同様に発展しており、現代では全人類人口の5割が火星に住んでいる(※斗真は地球に住んでいます)
まあ簡潔に言うと、今の時代はとても便利ということだ
カレンダーの今日の予定にはとても目立つ色で"発売日!!見逃すな!"と書かれていた。
そう、今日はそのゲームの発売日、斗真は今日、学校からの帰りにゲームショップへ行き、そのゲームを購入する。
案の定、物凄い量の人が並んでいた。
いや、人は少なかったと言うべきか。確かに何人かは人間が並んでいるが、殆どはLSだ
※LS=生活支援人型ロボット(Life support humanoid robot)の略 通称ルフとも呼ばれている
発売当初は一般市民が手を出せるような代物ではなく一部の富豪のみが所有していたが、宇宙技術の発展による物価の下降や作業の効率化によって、その値段は一般人でも手軽に買える程となった
それにしてもLSは補助がないと全然わからないな、まあさすがの技術というところか…まあ確かに並ぶなんて疲れるだけだし、当たり前か……でもコスプレさせるって所に面白味を感じる
LAE=|生活補助機器《Life auxiliary equipment》 の略
一般的に使われているものはアイコンタクト型のものであり、視界補助や機械と人間の識別など、とても生活に役立つ物である
勿論これも、今では日常の必需品だ
(更に、専用ソフトをダウンロードすると面白い事が出来る)
「全部合わせて20万以上するはずなんだけどなぁ……」
(頑張って働いて貯めたこのお金、VRゲームが正式発表される前から相当高くなると踏んで頑張った甲斐があったゼ!)
そう胸を躍らせつつも、自分の番、そのソフトとVRダイブに必要な『VRDMマキ』を手に取る
(はぁ、相変わらず名前のセンスがなぁ…)
なぜこの名前に至ったのかは予想がついている
国としては国産が故、国独自の名前を付けたかったのだろう、そして親しみやすさを込めて愛らしい名前にしたかった、堅苦しいこの国のイメージを払拭するための戦略の一つとも言える。
だが流石にこれは酷いのでは…
と、なんとも曖昧な感情を抱きつつ、我が家へ帰宅した。
「早速やりますか!」
そう言ってそれを手に取る
付けるものは二つ、一つは首につけるものらしい、輪っかのような形をしており、後頸部が当たるところだけ面積が広かった。
そしてもう一つは被り物のようだ、ヘルメットに似ているが、厚さはそれよりも薄い、内側には回路のような光る線が無数にあり、見た目とは違って軽いのが特徴だ
そして後ろにある起動ボタンを押すと
「VRDMマキ、起動を確認、開始と言ってください」
うわっ!
いきなり音声が流れたことにより斗真は驚き、今日一番の大きな声を出してしまった
すると隣の部屋からバタバタと騒がしい音が鳴り、何かが此方へ近づく予感がした
それと同時に嫌な予感を感じ斗真はサッとベッドの下へVRDMマキを隠す
「お兄ちゃん!どうかしたの!?!?」
隣の部屋から妹が来たのである
イチゴが描かれたピンクの子供っぽいパジャマ姿、腰元まであるとても長い髪
心配して来たにしてはとても嬉しそうな明るい表情をしている
「だ、大丈夫だよ…てかなんで人の部屋の扉を普通に開けるの…鍵掛かってたはずだよ…」
「いやぁお兄ちゃんに何かあったらと思ってピッキング勉強してるんだ」
そう言った妹の手には明らかにそれらしき機材があった
現代の鍵は一度施錠すると所有者、又は許可を持っている者の許可なしでは開かないが
斗真の家の鍵は昔ながらのディスクシリンダー錠である
「いやどんな早業だよ、もう勉強通り越してプロレベルじゃ」
「まあまぁ〜、何かあったの?何か恐いものでも見たの?」
「い、いや別に…?てかなんでこんな時間帯にパジャマなのさ…?」
「いやだなぁ〜、小さい頃はいつも恐いもの見たら一緒に寝てたじゃん!」
「いつの話だよ…今俺は16歳、そして千尋は14歳だろ?高1と中2、わかるね?今更怖いものなんてn」
目の前に大きなクモが降ってくる
「ギャァァァ!くもっ!クもクギャァァァァっ」
斗真は滅茶苦茶な言葉を発し、そして後ろへ高く跳ね尻もちをつく
「ハハハ!おもちゃだよお兄ちゃん?」
千尋は満面な笑みを浮かべながら言うとクモの玩具を拾い上げる
「本当心臓に悪いのでやめて下さい…」
「ヒッヒッヒッ!もしもの時はいつでも呼んでね!」
「う、ウンワカッタヨー」
斗真はそう返し、妹が部屋に戻ったのを確認すると、続きを始める。
「えーと、開始!だっけ…」
「開始を確認、これから仮想空間へのダイブを開始します、安全の為に指示に正しく従ってください」
とても機械の声とは思えない大人っぽい感じの声
どうやら答えないと話を続けてくれないようだ
「はい」
「まず、頭に合うようにVRDMマキを装着してください、サイズは自動で調整されます」
「これで良いのか?」
言われた通りに付けると、とても乾いた機械音と空気の抜けるような音と同時に自身の頭に機械が見事に合うのがわかった
「良好です」
(相槌まで打ってくれるのか、やっぱりAIは凄いな…)
「LAEを検知しました、マイクロチップを検知しました、機器への接続を開始します……成功しました。」
すると目の前に文字が現れた、恐らくLAEに接続したからだろう。
「ダイブの際は安全の為、布団等に仰向けで寝転がるようにしてください。」
斗真は言われた通りベッドで仰向けの状態になる
「では接続を開始します、"コードLAQXZ-3ダイブ"と言ってください」
長いな…
「コードLAQXZ-3…ダイブ!」
目覚めると、そこはまるで別の世界だった
斗真は自身の手を見、そして体を触る。
「うおお!これが仮想空間か!」
斗真は透明な円盤の上に立っていた、空の上のようだ、見るからに広大な景色、そこはまさに、ファンタジーの世界。
周りにはたくさんのプレイヤーらしきものががいた、どうやら他のプレイヤーもさっきインしたばかりのようだ
そして目の前に美しい女性が現れる
白く、腰まで掛かった長い髪、青く透き通った瞳、飾りの一つも施されていない白色のワンピースをその美しく、妖艶な体に纏い、そっと微笑む。
そして其の女性は艶やかな唇を動かし喋りだした
「ここは魔法と冒険の世界、エヴィルドルグです。私は貴方様の案内役NPC、まずは貴方のプロフィールを設定します。名前や性別、種族や容姿等を設定してください。職業はランダムで選ばれ、作成後に通知されます。職業は始まりの街の共有ギルドのカウンターにて一度のみ変更可能です。最初はまだ設定が完了していないので、現在あなたの姿は貴方様の記憶から取得したデータに基づいて作られています。ですが、他のプレイヤーとあなたはそれぞれ黒い人として表示されています。」
そういうと目の前に薄く半透明な青い板のようなものが現れる、そこでは様々な設定がずらりと書かれていた。
「うわぁ……設定細かすぎて地獄………」
「名前はどうしようかなぁ…」
と名前を考えつつ、着々と容姿などを設定して行く。
「クイナ」名前はそれにした、性別は男、種族は人間、黒髪に黒色の瞳、職業は魔剣士と有った。
「設定が完了しました!では次に、私の名前を設定してください。」
すると名前を設定するための項目が現れた、その項目の右斜め上に小さく10文字以内と書かれている。
「ううん…どうしようか……」
そして、斗真はある疑問を抱いた
(そういえば、18禁に触れるような名前にしたらどうなるのだろうか)
斗真はその疑問の答えを追うかのようにそっと手を動かす
(クイナ様の×××っと)
するとピーという甲高い音が鳴ったと同時に打ち込んだ名前が一瞬で消え、NPCが続けて言った
「クイナ様、そのような名前は許されませんよ」
そのAIは微笑んでいた、だがその微笑みは明らかに善意のものではなかったことを瞬時に感じ取る
「ハイ今すぐ変えます許してください…」
斗真は明らかな棒読みと早口で言う
(こ、こんなことまでわかるのか……NPCでも侮れないな………)
そして即座に名前を設定した
「エリス…ですか、良い名前ですね、ありがとうございます」
そう言って案内役NPC、エリスはまた美しい笑みを浮かべた
(へえ、褒めてくれるのか、なかなかサービス溢れるなぁ)
「では次です!」
(まだあるのか…)
「次の項目は任意です、共に冒険をする仲間を作りましょう、冒険の仲間は永遠のパートナーです、しっかりと考えて作ってくださいね!」
「な、仲間?味方NPCか?」
「はい、そうです!」
(ほほう、仲間まで作れるのか)
感心しながらも手を動かす
「どんな子にしよっかなぁ…男だと…暑苦しそうだな。じゃあ女にするか、折角だから可愛い子が良いよな…」
試行錯誤すること約10分
「よし、できた!」
そう言って完了ボタンを押すと、左の地面に丸い光の円が現れる、すると円は次第に小さくなり、そしてその光は円が小さくなると共に消えた。
ロードかな?
するとエリスは笑顔で言った
「貴方の特化属性は雷と???です!」
表記なし?バグか?
「では、冒険をお楽しみください!」
すると急に目の前が明るくなり、美しい光が身を包む。そしてまた目の前が晴れ周りを見ると、そこは大きな建造物の前だった
「教会か?」
そして視線の上部に【大聖堂】という文字が現れる
ここの名前かな…?
次々と他のプレイヤーもそこに現れ始めた
「どうやら結構早く来たみたいだな」
他のプレイヤーもはしゃいでいるようだった、新たに始まる冒険、斗真もまるで子供の頃のように心が躍っていた
「クイナさん!クイナさーん!」
すると、後ろから自分の名を呼ぶ声が聞こえる
「ん?はい?」
振り向くとそこには金色の髪の小さな少女が立っていた
「だ、誰?」
そう聞くと少女は微笑みこう答えた。
「私ですよ!クイナさん!魔法使い(ウィッチ)のユリスですよ!」
「ユリス?あぁ…、はいいぃ!?!?」
「何を驚いているんですか!あ、もしかして…私が想像以上に可愛かったからですか?」
少女は顔を赤くし、その白く細い手でクイナの服を軽くつかみ、その可憐な瞳でこちらを見つめる。肩までかかった金色の髪は緩やかに風になびいていた。とがった耳がその髪の間から覗かせる
背中に長い杖を背負い、あまり飾りのつけられていない白色の上着に黒のスカートと脚にはサイハイソックスを着用しており、スカートとニーソックスの間から綺麗な脚が小さく覗いている。小さな髪飾りは彼女の可愛らしさを表現している様だ。
その愛らしい顔と金色の瞳が作る上目遣いはクイナの心を揺さぶった。
そう、ユリスとはクイナが作った冒険仲間の名前なのだ
(確かに作った通りだ…種族はエルフにしたけど…耳からして本当にエルフだな……スゲェ………でも性格はランダムなのか……)
「クイナさん?そんなに私の顔を見つめて…私の顔に何か付いていますか…?」
ユリスはその人形のような綺麗な顔で頬を染めながら不思議そうにこちらを見ていた
「あ、あぁ、大丈夫、まあ、これから一緒に、よろしくね」
クイナは冷静さを装うのに力を注いでいた
(本当にNPCかプレイヤーか見間違うレベルだ……当分は慣れるまでこれに全力を注がないとダメだな……)
「はい!よろしくです!」
彼女はとても元気な声で返事をした。
「んじゃあ、早速行きますか!」
と始まりを一歩を、クイナは踏み出した
あまり引き伸ばしすぎるとタイトル詐欺になっちゃうね!やったねクマちゃん!
クマ「…………」