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009

秀人は熱くて苦しくて意識がなくなりそうになった。


「うぅっ」


もう限界だとうずくまった状態で横に倒れた。


いっそ意識を手放せばラックになれるのに・・・そう思っても簡単に意識はなくならず、ただ苦しみに耐えなければならなかった。


何分くらい経っただろうか。熱さも次第に和らいでいき呼吸も整えられてきて、意識もはっきりとするようになった。


一体自分に何が起こったのかと思い、くらくらする頭を片手で支えてようやく立ち上がった時に、いつもと違う景色に目を見開いた。


床が遠い、天井が近い、窓にうっすら映った自分を見ると顔も少し違い、顎を触るとちくちくと髭の感触があった。


窓に映ったものでははっきりと分からない。そう思って秀人は鏡を探した。


(鏡、鏡。この部屋にある鏡といったら・・・僕、鏡なんて歯磨きの時に見るくらいだからないんだった!)


でもどこかにあるのではないかと、秀人は部屋を見渡すと見慣れないワードローブが部屋の角に置いてあることに気がついた。


これならありそうだと、ワードローブを開けると、少し大きめの鏡が秀人を映した。


今の自分の顔を上下左右に動かしてじっくりと見てみる。触った時にちくちくとしていた髭はそんなに濃く生えているわけではなく、顎に少しだけ生えている程度だった。


 髪も少し伸びて軽くパーマがかかっているのか、お洒落な大人の男って感じになっている。

 

「僕・・・大人になってる。そういえばどんな世界に行きたいかなんて聞かれて、そんなの考えてもわからないから大人になりたいって思ったのがこうなったのかもしれないな」   


秀人は部屋の中を見渡す。


勉強机はパソコンデスクに、漫画や教科書の置いてあった本棚にはいつも読んでいる漫画が同じく置いてあり、隣には秀人がまだ発売されていない新刊が何冊か並べてある。


「これ、これから出るやつじゃん!」


驚いて手に取りぱらぱら中を見てみると思いっきりインクで滲んでいて何が描いてあるのか分からない程だった。試しに読んだことのある漫画をめくってみたら、


「ちゃんと読める」


「なんだよー、続き読めるかと思った」


がっかりしながら他には何があるのかと本棚を見ると教科書の変わりに小説が何冊か仕舞われていた。

秀人はベッドに腰をかけて天井を見る。


「こうして見ると何も変わってないのにな・・・」


おもむろに、ベッドの下の引き出しを開けた。ここには秀人が幼少期より大事とされるいろんなものを入れる用と決めてある、見るとやはり中には様々なものが入っていてそこをガサガサ漁るといろんな物があった。今日の放課後にみんなで遊んだ野球のボールも中に入っていた。何か落書きがあったので読むと、みんなの名前と「友情」と書かれていた。卒業の記念に書いたものだろうか。


ボールを自分の隣に置いて、他に何があるのかと探ってみる。すると中に見た事のないノートが1冊。ぺらぺらとめくって少し読んでみると、どうやらこれは高校からつけている自分の日記のようだ。


毎日ではないが、どこかに行ったり、何か特別な事をした時などに書いているらしい。秀人は最近の事を知りたくて、最初の方のページは飛ばして、後ろのページを開いた。


するといろんな事がわかってきた、今が2028年7月であること、Y大学卒業して社会人2年目である事、彼女がいる事、サックスを吹いている事、それを使って仲間達とジャズバンドを組んで路上ライブの活動をしている事、ギターを使って作曲をしている事。


「2028年てことはー、僕は12年後にいるのか!なんか夢みたいだなー、それに彼女にサックスも吹けてギターにライブまで?僕ってすごいじゃん!」


秀人は信じられない気持ちでいっぱいになって座っていたベッドに両手を広げて仰向けのまま倒れこむ。


今まで使った事のある楽器なんて学校で使っているリコーダーや鍵盤ハーモニカ、音楽の授業で渡されたトライアングルくらいだ。



「・・・・・あ・・・これは夢だっけ・・・・」


よく考えたら自分は夢の中にいるのだと思えば、ふっと笑いがこぼれる。


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