007
「ただいまー」
キッチンでは母親が夕飯の支度をしている音が聞こえてきた。その匂いでなんとなく今日のおかずは焼き魚だと分かる。
秀人は脱いだ靴を並べずにそのまま二階の自室へ向かう。
その音に気がついた母親が、キッチンから階段の下まで来て二階に向けて声をかけた。
「おかえり、宿題ちゃんとするのよー」
「わかってる!今からするよ!」
「あと先に、手洗い!うがい!」
「・・・・」
いつまでたっても子供扱いで少し嫌だ・・・と思うが、確かに自分の手の平を見るとさっきまで遊んでいたせいで泥だらけだ。
「はぁい」
絶対に母親の耳には届かない程の大きさで答える。
秀人は母親に言われたとおり、手洗い・うがいと食事を済ませ、自分の部屋のベッドに置いたランドセルから宿題を出した。
鉛筆を取るため引き出しを開けると黄色い紙が目に入ったが鉛筆だけを取って引き出しを閉めた。
時間も夜10時になり秀人はリビングからまだ乾ききっていない髪をそのままに自分の部屋へ戻ってきた。
ベッドに座って明日の学校の準備をしないと、と思ったと同時に、あの紙のことを思い出し、引き出しを開けてその紙を手に取った。
持ったままベッドへゆっくり倒れるように仰向けになって紙を見つめる。
「こんな紙見た事ないよな、駄菓子屋のおじさんは知ってるっぽかったな。言ってた事もなーんかよく分からない事ばっかだったしなぁ」
部屋の蛍光灯が紙を透かす。
「ん?何か書いてある?」
紙に縁取りしているような形でぐるりと一周した小さい字が見える。(何か書いてある?)そう思って、秀人は目の近くに持ってきてなんて書いてあるのか、読むと#一、このチケットを枕の下に置いて寝ること。二、番人にこのチケットを見せること。三、このチケットは1回しか使えない。四、他人に言わない。#と、書いてあった。
「なにこれ?枕の下に置く、かぁ。何か怖いな・・・」
試しに枕の下に置いてみる、何も起きなくても書いてあるからにはやってみようと思って、それに駄菓子屋のおじさんの言った言葉もひっかかる。
「いつもより時間早いけど」
目覚ましをセットして机の上に置き、秀人はベッドに入った。
そんなすぐに寝付く事は出来ないと思っていたのに、瞬きをした一瞬のうちに眠りにつき夢の中へ吸い込まれていった。次に目を開けた時にはすでに夢の中で、今までに絵本の中でしか見た事のないような、大きく、重そうな扉の前に立っていた。