005
2人が公園に戻ると、圭吾と一志はジャングルジムの一番上に座って話をしていた。
「おけぇりー」
「たーいまー」
圭吾が2人に声をかけると、将也が同じ言い方で応えた。
その後もガムの紙の事は特に話題には出なかったけど、秀人はポケットに入れたその紙が気になっていた。
「じゃ、あとで」
ジャングルジムの一番高いところには一志が、一段降りて端のほうには圭吾と将也が、秀人は一番下のとこに腰をかけている。4人の配置はいつもこんな感じになっている。
10分程、他愛のない話をして4人は、一旦家に帰り、いつもの様にまた公園に集合する事にした。
秀人の家は公園から歩いて10分しない所にあり、他の3人の家も公園から同じ様な距離だった。途中まで同じ道を通る圭吾と今日の学校での出来事などを話しながら歩いて行く。
「じゃ、あとでな」
「うん、後で」
分かれ道で圭吾と離れ、秀人は自分の家を目指して走って行った。
秀人は自分の部屋に入ると、ランドセルをベッドの上に投げるように置いてズボンのポケットに無造作に入れたガムの紙を取り出して、机の上に置いた。
「これじゃお母さんに捨てられちゃうかな。ゴミに見えるもんな」
無造作にポケットに入れた紙は丸められている。秀人はある程度開いて伸ばし、引き出しを開けて中から20円と引き換えに紙をしまった。
「遊びに行ってくる!」
「宿題は??」
「帰ったらするから!」
秀人はバタバタと階段を駆け降りて家から出た。
もしかしたら圭吾とばったり会うかも、と思っていたがさっき分かれた場所を過ぎたが、前にも後ろにも圭吾の姿は見えなかった。
(まさかもう公園にいるとかじゃないよな~?)
そんな事を考えながら走っているとすぐに公園が見えてきた、待ち合わせの場所はジャングルジム。
さっき歩いて通った砂場・ブランコの横を全力で走った、息が切れるし鼓動が全身に伝わってくる。それなのにジャングルジムにいた1番のりは・・・一志だった。
「今日は1番!」
一志は自慢げにピースサインして秀人の方を見てニカッと笑って言った。
「僕・・・っにばっ・・ん?」
乱れた呼吸のままその場にへたりと座り込んだ。
「そう、2番」
「あ~、よかった!!」
そう言いながら秀人は尻を地面につけて、足を伸ばし後ろ手にして呼吸を整える。
呼吸も落ち着き一志と話していると、将也が後ろからゆっくりと近づいてきた。
「ビリ誰だー!?」
「鹿島―――!!!」
将也は思わずガッツポーズをした。
「あー、走ってよかったー」
そんな事を言う将也に「歩いてたじゃん」と2人で突っ込む。
「ばぁか。公園の前まで走ってたんだよ。ここみたら2人だけなのが見えたからあとは歩いたけど。疲れてたし」
「僕はここまで走った」
真顔で言う秀人に「何の自慢だよ」と呆れながらも笑って将也は答えた。
3人はしばらく圭吾を待っていたが、なかなか来ない。それから30分の時間が過ぎてからようやく遠くの方から圭吾の声が聞こえた。
「おーい!ごめーん!」
走ってくる圭吾の声がだんだん近づいてくる。
「ごめんごめん、家帰ったら母さんいなくて、妹がドアの前で泣いててさぁ。母さん帰ってくるまで妹と待ってたんだ」
しゃがみこんで息を切らした圭吾は地面に座り込んでため息をついた。
「あ~あ、明日は俺のおごりかぁ~、1番誰?」
「落川」
「落川」
「おれ」
3人同時に答えた。
「あい、わかった」
この4人のおやつルール、集合に1番乗りは次の日のおやつをビリにおごってもらえる。
昨日は将也が1番、一志がビリだった、だから今日の10円ガムを一志が将也の分も払うというものだ。おやつの金額はその日によって変わるが、全員で統一するようにしている。ちなみに昨日のおやつは30円。
なので、圭吾は自分の分を一志の分の60円を支払う。
最後を確信していたので60円きっかり持ってきた圭吾はおしりについた砂をはらって立ち上がり、駄菓子屋に行こうと先導を切って歩き出した。