004
砂場、ブランコ、脇にはバスケットゴールがある。それを通り過ぎると、いつもたまり場としているジャングルジムに辿り着く。この時間にもなると公園内には小さな子が遊んでいる姿は少なく、高校生がバスケをしていたり、中学生のカップルがベンチに座っていたりという感じだ。
砂場を通り過ぎた辺りで4人はガムの包み紙を開けると、将也が叫んだ。
「あっ!あたり!!」
一志が羨ましそうに見て「俺はずれー」とガムを口に放りこんだ。
「あっ僕もあたり」
秀人が一志に見せびらかすように黄色い紙をひらひらと振った。
「えー、いーなー。岡安もかよー、てか黄色とか初めて見た」
一志に続いて3人が「俺も」と声を揃えて言った。
「じゃ、俺らはもう1個もらってくるー。行こうぜ岡安」
「うん」
「いいなぁ~」
一志は駄菓子屋に戻って行く2人の背中を見て嘆くように言った。
「お前は食いすぎなんだから当たらないくらいがいいんだよっ」
圭吾はふざけて一志の腹の肉をぎゅっと掴んだ。
「やぁめーろーよー」
2人はふざけながらジャングルジムの方へ歩き進んで、秀人と将也が戻ってくるのを待った。
駄菓子屋に着くと、レジカウンターの中で椅子に腰掛けて本を読んでいた店のおじさんが2人に気が付くと、おや?という顔で2人の顔を見た。
つい先ほどまで店内にいたからであろう。さすがにつけてまでお菓子を買う子供はいないのでおじさんも2人の顔を覚えているのだ。
「おじさん、当たり出た。も1個もらっていくね」
将也はガムを1つ選んで当たり紙をおじさんに渡す、その横で秀人も選んでガムを一つ手に持った。
「僕もひとつね」
「2人とも当たりが出たのか、運が良かったね」
秀人は黄色い紙をおじさんに手渡した。将也のものとは違う色の包み紙。
おじさんは無言で、はて?という顔をして黄色い紙を店の蛍光灯にかざすと、今度はなるほど、といった顔をしてカウンターに身を乗り出して秀人に声をかけた。
「君」
「えっ?」
すでにガムを選んでいた秀人はおじさんの方へ振り向いた。
「これはね、当たり紙と違うんだよ」
「えっ?じゃこれ何?」
「それはおじさんの口からは言えないんだ、ごめんね。君が自分で見つけないといけないものなんだ」
「どういうこと?」
話を聞いていた将也が問いかけたが、おじさんから返ってくる言葉はなくただにっこり笑い返すだけだった。そしてこう言葉を続けた。
「見つければ分かるさ、でも、気をつけるんだよ。この前も女の子がこの紙を求めてお菓子をたくさん買い占めていったもんだから。・・・夢中になると、危険だからね。おじさんが言えるのはここまでだ・・・気をつけて帰るんだよ」
「?」
秀人と将也は顔を見合わせ、頭をぺこりと軽く下げてから駄菓子屋を出た。
2人ともおじさんの言っている事の意味が理解できないままでなんだか胸にもやもやしたものを感じていた。
「どういう事だろうね?」
おじさんから返された黄色い紙を見ながら秀人が将也に解答に期待をせず話しかけてみる。
「な」
特に興味もない様で、簡単にこの会話は終了してしまった。気にしているのは秀人だけだった。
「あっ、ガム持ってきちゃった」
おじさんの話に気をとられていて忘れていたが、秀人は気がつくとさっき選んだガムをぎゅっと左手で握りしめていた。手の平に乗せてどうしようかと思ったが、後からまたお金を払いに行くし、と思いこの場では戻る事をしなかった。
「お前それいいのかよ、その紙渡してない上に当たり紙じゃないとか言ってたのに」
手の中のガムを見つけて将也が声をかける。
「後からつけの分とでお金払うよ」
「あ~・・・だな」
少し考えたが、それもそうだと思いながらそのまま2人は駄菓子屋をあとにした。