003
「美和子、どうしたの?」
佐和は美和子の様子がいつもと違う事に、気が付いて覗き込むようにして声をかけた。
「ううん、なんでもないよ、行こ」
一瞬だけ見せた、曇った様な顔は佐和の声によって、いつもの笑顔に戻った。
佐和は(う~ん?)と片頬を膨らませて、その顔に違和感があったものの、いつもの顔を見せる美和子に何も詮索をしなかった。そのままいつも通り、横に並んで他愛のない会話をしながら階段を降りて行った。
真由美たちは通学路である、決められた道を通って帰っていると途中にある駄菓子屋に今にも入ろうとしている同じクラスの男子達を見かけた。
学校が終わってからの下校時間は、まさに空腹になる時間であることから、小学生が家に帰ってから訪れる憩いの場とも言えるこの駄菓子屋。
もうすでに、授業数の少ない下級生の子供達が家に帰ってから小銭を持って買いに来たのであろう、今日はどれを買おうかと品定めをしている。
そんな子供達がいる駄菓子屋にランドセルを背負ったままの男子達が入って行くとなればお店の人も学校側に言うであろう。
そうならないようにと正義感の強い真由美は学級委員なだけあって注意しようと近づいて行く。
「ちょっと!男子!学校帰りに道草はいけないのよ!明日先生にいうからね!」
急に知った声が聞こえて、1人の男子が肩をぎくっと跳ねる様に動かせてからゆっくりと振り向いた。
諏訪将也。ルックスも頭も良くてスポーツ万能、どれを取ってもどの男子より勝る。その上、女子に優しくて他のクラスの女子からも人気がある。男子との交流も上手い為、男子からも人気が高い。
「日野~、お願い、見逃して?」
肩を竦ませて拝むように手を合わせて言う。
「げっ!日野!?」
将也の言葉に驚いて近くにいた男子が言った。
落川一志。太っていて食べる事が好きで、料理も得意。こう見えて50m走らせると将也といい勝負をする。リレーの選手にも毎年選抜されるも毎度1位は取れず仕舞い。周りから「もっと痩せれば」と言われるが、本人にその気はなし。
「げっ!て、何よ、げって」
真由美が冷ややかな目線を向けて嫌そうに言う。
「先生には黙っといて!なっ!」
一志は言うが、真由美はため息をついて呆れ顔になった。
「今日は10円ガム」
男子たちはそれぞれ10円ガムを選んだ。
「おじさん、あとで払いにくるからまたつけといて!」
そう言い放つ者は鹿島圭吾。お調子者で勉強はてんでダメ、いつも先生に叱られているけど、周りに優しくて友達を大事にするのでクラスメイトからの信用は堅い。
残る一人は岡安秀人。運動も勉強もルックスも十人並み、いわばごくごく普通の小学5年生。
「つけ!?」佐和が驚いた様に言った。
「いいんだ、後から絶対払うから」
「いつもの事だしな」
その言葉に聞き捨てならないと真由美が聞き返す。
「いつも?いつもこんな事しているの?これは先生に言った方が良さそうね」
4人が顔を見合わせて、真由美に口止め料として何か買ってやると言ってみたがやはりそんなものに飛びつくわけがなかった、4人が様々にお願いしてみたものの、「ぎゃーぎゃーとうるさい!」と逆に怒られ、だがしかし先生には言わないでいるように約束をしてくれた。
真由美たちにお礼を言ってから圭吾たちはその駄菓子屋から出ると、すぐ近くにある公園へ入って行った。