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美和子は誘導されて別の部屋の前に連れていかれた。大きな階段を上り、踊り場には王様だろうか、偉い人だとすぐに分かる肖像画が飾ってあった。
テレビや映画で見たものと同じような景色で見るもの全てが感動になる。3階まで上り左の渡り廊下を歩いていくと中から女性の声が聞こえてきた。
「さぁ、どうぞ中へ」
執事は縁に繊細な彫刻が施されているドアを開けると美和子を中へ入れた。
パンパンパンパン
手をたたく音が響いている。
「ルイ!回転が遅い!マリー!もっとしなやかに!」
「もうこれ以上反れないわよ!」
「マリー、あなたそんなことで婚約者を捕まえられるとでも思っているの?ダンスは綺麗に魅せるものよ!もっとちゃんと最後までやり遂げなさい!」
「オーデルト先生、すみません、やっと捕まえてきました」
先生がこちらの方を見るとハイヒールの音をコツコツと鳴らして近付き美和子の前に立ち止まると両手で美和子の両頬をパチンと叩き挟んだ。
「痛いっ!」
「先生!姫に乱暴な事をしないで下さいませんか」
執事がオーデルトと美和子の間に割って入った。
「ロア、あなたが姫を甘やかすからいけないんです、何でも許されるとお思いだわ。あとあなた、扉を開ける前にはノックをすると親から学ばなかったの?」
「す、すみません」
美和子は何だかわからないが自分が悪いのだいう事だけはわかった。
「ノックをしなかったのは私です、申し訳ありません」
「とにかく、明日の舞踏会のメインは姫です、そこのとこきちんとわかっていただかないと、王からの信頼に欠けますよ、さぁ、さっきの続きをします。姫は中に入ってロアは姫がまた逃げ出したらすぐに捕まえられるように見張りをお願い」
「おおせの通りに」
執事はオーデルトに軽く会釈をした。
「姫、くれぐれも先生のいう事に反発しないように」
にっこり笑って軽く会釈をし、部屋から出て扉を閉めた。
執事が出ていくのを見て扉が閉まるとオーデルトの方へ向き直り、不安そうな表情で見つめた。
「あの、どんな事をするのでしょうか」
美和子の顔からは不安しか感じ取れないので、それを見たマリーは大笑いをした。
「ミワ、あんた何その顔は!いつものふてぶてしい態度はどうしたの!」
「マリー!人の事じゃなく自分の動きを見なさい!」
美和子が何も言えずにいると、「あー、おっかしい。で もあんたのそんな顔が見れるとはね、今日は得した気分よ」
マリーは美和子の一つ年下の幼馴染、らしい。
しばらくマリーの会話を聞いていてそう解釈した。
そしてもう一人ダンスのレッスンを受けているのはルイ・ウィリス。
ルイはマリーの兄、美和子よりも3つ年上だ。
「さっ三人揃ったからチームプレイでのダンスの練習を始めるわよ」
オーデルトが意気揚々と言い出した。
「えっ?三人で踊るの?」
「そうよ、前もしていたじゃない、明日の舞踏会は社交界のお偉いさんもいっぱいくるの、社交ダンスばかりではなく、少し遊びも入れたダンスなんかしてもいいんじゃない?」
マリーが一人でくるくると回ってキメポーズをとって美和子にそう教える。
「へぇ、お城でやるのには何かイメージが違うような気がするけど」
「あら。そう言っていたのは、あなたよ、ミワ」
「へ?」
「忘れたの?」
呆れたように腰の横に両手をついた。




