023
ガーデンを抜けて行った先、着いた場所はお城の大きな扉、今までいたガーデンと、美和子が落ちてきた場所はこのお城の敷地内だったらしい。
入ってすぐに右へ曲がると左手にまたドアがある。男はそこにノックを2回だけして答えが返ってくる前にガチャリと空けて中へ美和子を連れて行った。
正面には大きな窓があり少しだけ窓が開いている為、気持ちのいい風がそよいでくる。その風にカーテンも楽しそうに踊る。
誰もいないその部屋へ執事は声をかけた。
「セレンさん、セレンさーん!」
何も返ってこないがもう一度呼びかける。「セーレンさん!出てきてくださーい!姫のお身体を診て頂けないでしょうか!」
そう言うとすぐに、どこに身を隠していたのかひょっこりと白衣を羽織った女性が現れた。その女性は色の白い肌をして髪も色素が他の人より薄いのか、白に近いグレーでその髪色に合わせて大きな瞳も同じグレーだった。吸い込まれるくらい綺麗な瞳に美和子は思わず息を呑んだ。
女性に見惚れる事なんて今までなかったから声がかかるまでそのままだった。
「姫様、どこかお怪我でも?」
セレンという女医は美和子に近づき全身をぐるりと一周して見て回る。
美和子はどうしたらいいか分からず緊張しながらその場に姿勢良く立ち尽くす。
「ここかしら?」
そう言って容赦なくドレスの裾をまくって美和子の足を見た。
「え!」
「失礼。そのまま動かないで」
スカートの中に上半身を入れて手持ちの消毒液でふくらはぎと膝が軽く濡れた。
「っいたっ・・・」
濡れた箇所をやさしく拭いてその上をガーゼで覆う。
処置が終わってセレンがスカートの中から出て来るや否や美和子に大きな声で注意を煽ぐ。
「何度言ったら分かるんですか!あれほど傷は作らないようにと!!姫様、明日の舞踏会をお忘れでは?まったく・・・ヨハン、あなたがついていながら・・・」
セレンは執事を見て呆れてため息をついた。
「この事は陛下に言いますからね、姫様の体に明日までには消えない傷がついてしまったと・・・」
「はい・・・それは本当のことですので・・・」
「あのっ・・・これは私がっ・・・」
(怪我したのは穴に吸い込まれたからで、空中に放り出されたからで、執事さんは何にも悪くなくて、むしろ全然痛くなんてないし・・・)そう思っていても言葉が出せなくなってしまったのは執事が美和子の口に白いグローブをはめたまま人差し指を優しく置いて言葉を制したからだった。
「ヨハン。姫様に触らないでちょうだい」
セレンの鋭い目が執事を刺す。書類が綺麗に整理されている机に向かってセレンは手を動かしている。
きっとこの事を報告書にまとめているんだろう。
数分でその報告書は仕上がり、セレンがそれを執事に渡した。
「これをジュエルに・・・」
「かしこまりました。さぁ、姫、行きましょう。オーデルト先生がお待ちですよ」
にっこりと向けられた笑顔がとても気味が悪いくらい爽やかだった。




