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 「で、お前ここ初めてなんだろ?カルテが新規だからな」


 「そのカルテってなんなの?なんで私の名前を知っているの?」


 「カルテに載ってるからだよ」


 「カルテ、カルテってお医者さんが書いてるあれでしょ?」


 「まぁ、そうだな、似たようなもんだよ、ここに来た時点で自動的にそいつの名前やら生年月日やらスリーサイズまでなんでも載ってくる。要するにお前の今までのいろんな履歴が書いてあるんだよ。ここでの出来事も事細かに書かれていくぜ。たとえば・・・ほらさっき俺をかっこいいと言った事ももう書いてある」


 そう言われて見せられたカルテには確かに先ほどの事が書いてあった。


 「へぇ~」


 美和子が感心しているとひゅうまは、にやっと笑いカルテを開いた。


 「お前のスリーサイズは~」


 「ちょっと!!」


 「うそ、そんなもん載ってねぇしお前まだガキだろ、出るとこ出てねぇから興味わかん」


 「ちょっ!失礼、、」


 げらげら笑い出すひゅうまに美和子は「あなただってガキでしょ、成瀬エイジが16歳だからあなたもそんなもんじゃないの?」と、少し怒った口調で言ってみた。


 「俺こう見えてけっこういってんだよねぇ、詳しくは言えないけどまぁ、お前より500は上と思っていて」


 「うそっ!」


 ピヨピヨ


 鳥の声がどこからともなく聞こえてきた。


 「あっやべ、、まーた話し過ぎた。俺。早く始めろってボスの使いがやってきちまった」


 ピヨピヨ


 美和子は声がどこから聞こえてきているのかと、きょろきょろ見える範囲を見渡して見るがそれらしきものはどこにもない。


 しつこく鳴るそれにひゅうまは苛立ってポケットに手を突っ込んだ。


 「わかってるよ!俺だって楽しく仕事がしたいんだよ」


 ポケットから取り出したものはこの声主。声の通り鳥だ。しかもセキセイインコのようだ。


 「何その鳥、かわいー。ってかポッケから出てきたよね」


 見た目はセキセイインコだが設けられた時間を大幅に過ぎてしまうと、それはそれ見た目に反して案内人に容赦なく罰を下す。


 「・・・かわいい?・・・全然かわいくねぇ、むしろおぞましい」


 これから罰が下されるのか、顔を青ざめさせて言うひゅうまだが、この一連の会話で美和子の不安感がすっかり取り除かれていた。


 これも案内人の仕事、何も知らずにやって来た子どもが恐怖や不信感を抱くこともなくドリームワールドに行けるように、とボスの言いつけだ。


 「さて、これからが本番だ、美和子」


 「はいっ」


 これまでの態度と一変してしゃんとさせる言い方をした。


 (初めて名前で呼ばれた)


 学校でも名前で呼ばれることなんてそうない美和子は男性から名前を呼ばれて、こんな状況なのにも関わらず少し照れてしまった。


 「チケット、持ってるか?渡せ」


 右手を美和子の方に寄越せと差し出す。


 「チケット?どこにあるかな、持ってないと思うけど」


 「ポッケ、見てみ」


 美和子はパジャマの胸ポケットに緑の紙が入っているのに驚き、それをひゅうまに渡した。


 「毎度」


 ひゅうまは指を揃えて手を広げ、手を刀に見立てて上から斜め下に向けて二回切るような仕草をすると切った上の鋭角の空間がピラっとめくれた。


 ひゅうまはめくれたそれを親指と人差し指で挟んで下方向に引っ張った。


 すると空間は裂けて中にはまた別の空間が広がっていた。


 美和子は中を覗くと緑一色の何にもない空間が広がっていた。


 「さっ、中にお入りください、姫」


 ひゅうまは美和子を中へ誘導する。


 「ひ、姫?」


 「お前の願望だろ、ここん中をまっすぐ歩け、わかったな」


 「う、うん」


 「カルテにはもうお前の世界は決まっていると書いてある、強い願望を持っているからな、今回はそれに従い俺もこの姿になった、じゃ、絶対後ろは振り向くなよ」


 美和子は異空間の中に足を一歩踏み入れた。


 「どこまで行けばいいの?」


 不安な気持ちでいっぱいになった美和子は振り向かない様にしてひゅうまに問いかける。


 「何かが見えるまでだ、そうとう先になると思う、頑張っていけよー」


 「うん!」


 美和子は恐る恐る中に入り、進んで行った。追い風が吹いているのか進む方向に体が流されるような気がする。自然と足取りも軽くなっていった。


 しかし単一色の空間だとどれくらい歩いたのか、全く分からない。


 「どれだけ歩いたかな、せめて時計でもあれば」


 時計で時間を知る事も出来なければ景色も変わる事がない為、美和子はだんだんと嫌気がさしてきて歩く速さも最初に比べればだいぶゆっくりとなっていた。 


 何度か帰ろうかとも思ったが、ひゅうまに途中で振り向いたらいけないと言われた事が頭を過る。帰る為には後ろを振り向かないといけない、それは最初に伝えられたルールに反することだ。


 「ダメダメ、ちゃんと守らないと」


 頭の中でそれを思うたびに何度もそういって、ひゅうまが言っていた“何か”があるまで歩き続けた。


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