019
目を開けるとそこは真っ暗な場所に横たわっていた。
自分の手すら見えないほどの暗闇だ。
どこに何があるのか分からないまま美和子は横になっていた身体を起こしてゆっくりと立ちあがった。
「なに?真っ暗」
どこかに灯りをつける物がないか手で空中を探りながらグルリとその場で回転をしたものの手に何かが当たる感じがしない。
「ほんとに何もない、どうしよう。これじゃ動きようがないじゃない」
意外と冷静でいる美和子に対してこっそりと上から見ていた何者かがいた。
「へぇ、今回の子どもは泣かないんだな」
小さな声だったけどこんなに静まり返った場所で発する物音はどんなに小さな音でも響いてよく聞こえた。
「誰?誰かいるの?」
美和子が真っ暗な辺りを見回して言った。
「お前、怖くないのか?」
「誰?どこにいるのよ?」
「答えになってねぇな、怖くねぇのかって聞いてんだけどっ」
何かが地面に落ちたようなトンっという音がしてそっちの方を見ると、ずっと暗かった闇に二つの目が光ってこちらを見ていた。
美和子は気持ち悪くて「ひっ!」とびっくりして身体が飛び上がった。
その目は美和子にゆっくりと顔の近くまで近づいてきてじっくりと観察された。
「き、きもちわるい」
美和子が泣きそうな顔で訴えるとその光った目は一旦閉じてまた開けるとポロリと光の球が落ちた。
「ごめんごめん、俺で怖がらせるつもりなんてないよ、てか気持ち悪いとかひどくねぇ?」
その男が球を拾うと光の球は煌々と光り2メートルほど浮かんで直径3メートルほどの範囲を照らした。
「見えた」
「当たり前だろ、光をあげてんだからな」
ようやく声の主が見える、美和子はその人を見ると「ぎゃっ!」と悲鳴をあげた。
「なんだよ、うるせぇな、びっくりしたじゃんか」
「な、成瀬エイジ!」
美和子は指を指してあわあわしながら言った。
「あ?成瀬?誰それ?」
「えっ!違うの?だってそっくり!」
「だから、誰、成瀬ナントカ、俺しらねぇ」
「最近デビューしたアイドルグループの一人だよ!すっごいかっこよくて一番人気なんだよ?」
「へぇ、じゃそいつに似てるってことは俺もすっごいかっこいいんだな」
「へ?」
いじわるな顔して言うと美和子の顔がみるみる赤くなっていった。
「マジにすんなよ、こっちが恥ずかしくなってくるだろ」
照れたのか後頭部をガシガシ掻いて斜め下にうつむいた。
「あっ、お前、王子美和子だろ、カルテが来てる、俺が今回のお前の担当になった案内人のひゅうま、最後までよろしく」
ひゅうまが握手を求めてきたので美和子はそれに返すべく手を差し出した。