016
ドラマでは何回もこんなシーンを見た事がある。家まで送っていくシーン。
まさか自分がこの歳でそれを経験しようとは、思ってもみなかった。しかしそんな事を言われてしまっては送らざるを得ない。
(きっと大人の僕は当たり前の様に送るだろうし気の利いた言葉もたくさん言えるんだろうな。本当にごめんね、大人の僕!これで振られたら過去に来て僕を殴ってください!)
真央を家まで送る途中、公園を歩いていろんな話をしていると真央が急に抱きついてきた。
「えっどうしたの?急に?」
「だって今日の秀ちゃん私に触ってこないから。私から触るの」
「それは、どういう・・・・」
「しっ、ご近所さんに気づかれちゃう」
真央の柔らかい指が岡安の唇に優しく触れてその手は頬に触れる。両頬を真央に包まれてそこだけぬくもりが生まれる。
真央のやさしい力で引かれると岡安の顔は真央の顔に近づく、柔く温かいものが唇に触れる。ファーストキス。
秀人は突然の事に何もできなくて、目を開けたままびっくりして固まってしまった。
そんな秀人を見て真央は優しく静かに笑った。
「かわいい秀ちゃん、初めて見た。ここでいいよ、送ってくれてありがとう。おやすみ」
「・・・うん、おやすみ」
その言葉が精一杯の言葉だった。
真央はゆっくり背を向けて家へ帰って行った。
玄関のドアを閉める前にもう一度秀人のほうを見て手を振り真央は家に入って行く、2階の部屋の灯りがつくのをぼーっと見ていると体が大きく揺れ出した。
「なんだなんだ?」
両腕で自分を抱きしめその揺れを抑えようとしても自分の意思では止められない。すると遠くからかすかに声が聞こえた。
「と、ひでと。秀人!秀人!」ぱっちりと目を開けると、母親が秀人の体を大きく揺さぶっていた。
「秀人!やっと起きたのね、よかったわ~何回呼んでも起きないから。もう8時半よ!?学校遅刻!先生には電話するから、早くご飯食べて行きなさい!」
心配していたのだろう涙こそは流れてはいないが母親の顔が泣いているようにも見える。安堵からか怒る顔も見せてくる。
「・・・あれ、学校?子供に戻った?」
寝ぼけながら秀人は言うと、母親は呆れ顔で、「秀人、どんな夢見てたの。さっさと学校行きなさい!」
時計を見た秀人は正気に戻って学校へと急いだ。
通学路を走っている間、夢の中の出来事を思い返していた。
(夢?アレが夢?いつもの夢の感じじゃないんだよな、はっきり覚えているし、真央の感触だって、)
夢の最後を思い出して赤面した。
「とにかく僕は小学生!学校に急がなくちゃ!!」
頭をぶんぶん横に振って前を見た。大急ぎでクラスに着いたときはもう1時間目が始まっていた。