014
(え~と確か僕は、企画営業部とかなんとかだったよな、何階かなぁ~)
秀人と圭吾がエレベーターに乗った。
「鹿島、僕って何階で降りるんだったっけ?」
聞かないと分からないっていうものは結構厄介だ。何かを問いかけると必ず驚かれる。
中身が小学生の秀人にとっては分からないことだらけでどうしようもなかった。
一瞬目をまん丸にした圭吾に秀人も丸くなる。
(そんなにおかしなこと言ったのかな?)
「はぁ?お前マジでどっか打った?13階だろぉ?13階!おっ、7階だ、じゃあな、またあとで~」
圭吾はどうやら7階の広告事業部にいるみたいだ、エレベーターのドアが開いたときに正面にそう書かれていた。
圭吾は慣れたようにエレベーターを降りて右へ曲がって行った。
秀人は圭吾と違う階と知り、まただんだん不安になっていった。それが顔に出ている事も知らずにエレベーター内でカバンの持ち手を強く握りその手は汗ばんでいた。
秀人の降りる階が近づいてくる。数人まだエレベーターに乗っていてみんな各階で降りていく為13階まではもう少し時間がある。誰も知らない不安、何をすればいいのか分からない不安。小学生の秀人にはとても重い事だった。
(会社になんて来るんじゃなかった。日記読んだだけじゃ仕事内容まではわかんないよ、どうしよう)
夢だというのに焦りは止まらない。エレベーターの中で秀人はもうこのまま帰ってしまおうかと思っていた。
(下手にやってもう一人の僕に迷惑かけるのも・・・ダメだもんな・・・うん。何もしないでこのまま帰るのがいい)
秀人の決意と同時に、13階に着いてエレベーターのドアが開くと、目の前には企画営業部と書かれていた。他の誰も降りない事を確認してから開いたエレベーターの扉を早く閉めようと、秀人は閉めるボタンを押す。
扉が閉まりかけて安心していると、また扉が開いていった。
(なんで・・・)
「おーかやーすくーん」
開いた扉から顔を出したのは、見た事もない男。身長は秀人より少し低いくらいで年も同じくらいだ。
「ねぇ、どこ行くの?君、今から仕事たんまり溜まっているんだよー、先週君が上げた企画案が通っちゃってね、俺今ちょー、忙しいの。君のおかげで、ちょーやる事増えたの。なんであんな良い企画上げたのかなぁー」
扉を手で押さえて閉じない様にしている。
秀人が何にも言えずにいるとその男の頭を後ろから丸めた紙で叩く男がもう1人現れた。秀人が目をぱちぱちとしていると後ろの男が「岡安、すまん。こいつ、後輩のお前の企画が通って自分のが通らなかった事が相当悔しいみたいなんだよ。許してやって、なっ。すぐにいつも通りになると思うから。他の方もこいつのせいで足止めしてしまってすまんな。遅れたら部長課長どもに猪瀬が悪いと言えば許してもらえるから言えよ、はっはっはっは!」そう言ってエレベーターの扉から引き剥がした。その男の大きな笑い声がフロア内に響いていた。
「岡安も、早く来い!」
「あっ!は、はいっ!」
勢いにつられて秀人が足を踏み出すと、先ほどの猪瀬が肩に腕を回してきて絞め技の真似をしてきた。急に絞められた事に驚いた事と痛さで思わず「やめてください!」と言い掛けたその時、突然パッ、と会社の中から外になり、見える景色が変わった。