011
「どれも同じに見えるな」
数枚あるシャツも大きな違いがなく、白地に青のピンストライプと、ダブルストライプ、ピンクのストライプに青のストライプのクレリック等がある。当たり前だが秀人には着た事ない柄な為、どれにどれが合うだとかが全く分からない。
(もう、なんでもいいや。とりあえず、このシャツを着よう)
シャツに腕を通し、鏡を見ておかしくないかとチェックした。
「うん、まぁ、大丈夫かな」
選んだものは青のピンストライプのシャツだった(一番よく見る柄だし・・・変ではないだろう)と思ったからこのシャツを選んだ。ネクタイも適当に青系のものを選んで手に取った。
首に掛けた途端に秀人の手の動きが止まる。
「あ~・・・父さんがネクタイ締めるとこ見てないもんなぁ、さすがにわかんないや・・・」
ネクタイを締めるのは諦めて手にネクタイを握ったまま、階段を降りてリビングに入った。
すると母親に、締めてない事を指摘され返事を濁していたらため息混じりにネクタイと取られ、手早く締められた。
こういう所は変わらず頼りになる母親だと思う。
とりあえずこれで会社に行く準備はできた。
会社は最寄り駅から特急電車に乗って20分の距離のところにあると日記に書いてあってなんとかわかった。会社の名前も日記に書いてあったから大丈夫だ。
電車に乗る事はよくしているからどの駅で降りるなどは簡単だった。
ただ、駅からの会社までの行き方が問題だ。どっちの方角に進めばいいのか少し躊躇う。
(とりあえずは・・・みんなが歩いていく方へ行った方が確実だな・・・)
電車を降りるとスーツを着た男性やOL達が改札口へ向かって歩いていく。その中に秀人も混じり歩いていると、後ろから50歳そこそこの男性の肩が秀人の肩にぶつかってきて秀人は大きく身体を揺らした。
「わっ」
その声に男性は振り向くが、遅いからだろ、と言わんばかりに睨みそのまま改札口へと消えていった。
秀人は周りの歩くスピードに合わせないといけないと思い、足早に改札へと向かう。