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010

 するとパタパタ足早に階段を上る音が聞こえた。その音がドアの前で止まる。


 (この足音、聞いた。それも今日の朝に。)


 コンコン、ドアがやさしく響く。今日の朝はコンコンとなったらすぐに開けられていたが今は、音が部屋に響くだけでドアは閉まったままだ。


 「秀人、会社遅刻するわよ、起きているんなら早くしなさい」


 ドアの外から聞き慣れた母親の声。今日秀人が聞いた、澄んだ声よりも少し低く掠れた様な声だった。それでもこの声には安心できる。


 「母さんだ」


 秀人は孤独な思いを抱えていたが、ここにも母親が生きて存在しているのだと思うと、これまで心細かったが急に心が軽くなって、嬉しくなりドアを勢いよくバンッと開けた。


 「あらっ、まだ着替えてなかったの??早く着替えなさい、もう出る時間でしょ」


 「え?あぁ、会社ね、うん、わかった」


 こんなに勢いよく開ける事がなかったからか母親はびっくりした顔をしていたが、秀人には今はそんな事よりも目の前の母親に甘えたかった。しかし目の前にいた母親は自分より身長も低くて、意外にも細く頼りないように見えた。いつもの母親なら大きくて強く、頼りがいのある人だったから余計に・・・甘えるなんてできなかった。


 何せ今の自分は大の大人だと、今再認識できたような気がした。 


 「でもこれ・・・どこで買って来たの?」


 母親の問いに何の事かと頭を傾げる。


 「これよ、パジャマ。秀人、もう何年もこんなの着てなかったじゃない?それにこの柄、小学生の頃を思い出すわー。どこで見つけてきたの?こんな柄」


 母親は秀人の来ているパジャマの柄を見て懐かしく言うものだから、秀人は動揺をしてしまう。このパジャマは先程、秀人が身体が大きくなっている時に同じようにサイズも大きくなっていたから傍から見れば、大人用だ。


 「まぁ、いいわ。早く着替えなさいね」


 「わかったよ、準備する」


 朝ごはんの準備をしていた事を思い出してそう言うと、1階に降りていった。残された秀人はゆっくりとドアを閉めた。


 (母さんの方が小さかったな・・・あれっそういえば一体何を着ればいいんだろう?)秀人はまたドアを開けて、叫ぶように大きな声を出した。


 「母さん!何を着ればいいんだっけ?」


 「えぇ!?あんた大丈夫??スーツに決まってるでしょ?会社に行くんだから」


 「あぁ、だよね。はい」


 (スーツか・・・)


 そういえばさっき鏡を見た時にそんなものを見た気がする。


 ドアを静かに閉めてクローゼットを開けると中には3着のスーツがかかっている。秀人は腕を組んでそのスーツ達を睨んだ。


 「うーん、どれを着ればいいんだろう」


 なかなか決められない秀人は、ハンガーにかけられたシャツを一枚ずつずらしてデザインを見る。シャツに合わせてスーツを決めようと、どのシャツにしようか選ぶ事にした。


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