高貴なるドロドロへの道は険しく厳しいのです!
それから――
春日くんと女生徒が親しそうに話していますわ! わたくしというものがありながら! ……そうだわ! これは昼ドラのチャンスではなくって!?
「わたくしの春日さんに手を出すなんて、いい度胸ですわね!」
「麗華さん、誤解だ!」
「きゃあ! 生の伊集院様! 今日も素敵です。握手してください!」
睨みつけるわたくしの眼光にすくむことなく、春日くんと話していた彼女は握手を求めてきたではありませんか。あっけにとられたまま握手をして、気づいたら春日くんしかいませんでした。なんてことですの!? ここからがいいところではありませんか!
「ヒロインがいませんわね。どうしましょう」
「僕がヒロインをやってもいいよ」
「春日くんがやると、また姑に迫るではありませんか! それでは意味がありませんわ!」
「よく分かったね」
「それはもう」
何回もそういう目にあえば、人は学ぶというものです。ええ。
「麗華さんがヒロインでいいじゃないか。ねぇ、いつになったら名前で呼んでくれるの?」
「わたくしは悪役がやりたいのですわ。それに、その……、あなたが私をヒロインと思ってくれているのなら、それで十分ですもの……」
「可愛いこと言ってもだめ。ねぇ、呼んで?」
「は、離してくださいまし!」
抱きしめる力が強くなり、無駄だと分かります。ため息をついて、彼の腕の中、見上げました。
「雅さん」
「うん、何? 麗華さん」
「あ、明日は昼ドラを頑張りましょうね」
「そうだね」
頬にキスが落とされました。こんな彼の笑顔を見られるなら、恥ずかしい名前呼びもいいかもしれませんわね。
伊集院さんだけ、知らないことがある。伊集院劇場はこの学園の娯楽となっており、今やヒロインが順番待ちになっている。その順番は春日くんを応援する会により、管理されていた。
「春日くん、明日は隣のクラスの子だから」
「あぁ、わかったよ」
「雅さん、気がついたことがありますわ!」
ある日、隣に座っている彼女は言った。思い悩む様子から、どうも深刻な話らしい。彼はそう判断して、彼女のDVD『昼ドラコレクション』の再生を止めた。彼女の自室には、昼ドラの参考書がDVDや本という形で山積みになっている。
「姑になるには、子どもがいなければ無理ですわ! あぁ、なんてことでしょう」
「え、今頃気づいたの?」
「残念ですわ……」
「大丈夫だよ」
視界が彼でいっぱいになったことに気づき、彼女は頭をひねった。
「あら? どうしてわたくし転がっているのかしら?」
「姑になるために、必要なことがあるからだよ」
「そうでしたの。わたくし、まだまだ知らないことばかりですわ」
「僕が教えてあげるから」
後日、なぜか彼女は姑になりたいと口に出さなくなった。代わりに悪役になりたいと言うようになった。そう言うと決まって彼がクスクスと笑う。そして、彼が「姑になりたいんじゃないの?」と聞いた時には赤面していた。何があったのか、二人だけが知っている。
感想欄や拍手にて言葉をいただき、続きを書きたくなった話でした。
ありがとうございました。