……ドロドロですのよ?
本日4回目の投稿です
春日くんが視界に入ると心拍数がおかしなことになると分かりましたの。つまり、春日くんを視界に入れなければいいのですわ! そう思っていますのに、また春日くんを見てしまいました。これでは意味がありませんわ。先程も、春日くんと目が合いそうになりましたし……。
その挙動不審な様子を観察していた春日くんは、今だ、と笑みを深める。
「伊集院さん、もしかして僕のこと好き?」
「な、な、何を言ってますの!? たいした自信ですこと」
「どうなの?」
「そんなこと、わたくしが言うと思って?」
「伊集院さん、僕のヒロインになってよ。好きなんだ」
春日くんがわたくしの手をとって、懇願するように手の甲に口づけます。それはまるでお姫様のような扱いで。ヒロインのような気分になりました。その幸福感は甘くわたくしを包みます。そして、自分は何に憧れたかを思い出しました。我に返って、ファー付きの革製手袋を投げつけます。春日くんは驚いたように目を大きくして、とっさに受け取りました。わたくしは悪役に憧れています。もちろん、今もですわ。ですから、それらしい方法にさせていただきます。
「決闘ですわ!」
「うん、それでどういう勝負にするの」
いきなりでも動揺しないなんて、さすが春日くんですわ。むしろ笑みを深めていますわね。敵にとって不足なし、です!
「それでは好きと十回言ってくださいませ」
春日くんはそれくらいなんてことないよ、と快諾しました。わたくしの手をとって、わたくしの目を強く見つめながら、一つずつ丁寧に言っていきます。
「伊集院さんの夢見がちなところが好き、いつも一生懸命なところが好き、純粋なところが好き、素直なところが好き、昼ドラを話している時のキラキラと輝く目が好き、僕のことを呼ぶ声が好き、優しいところが好き、鈍感なところも可愛くて好き、抱きしめたいくらい好き、全部好き」
なななななな、なんですの!? これは、なんですの!? 少し意地悪するつもりでしたのに、とんでもないカウンターですわよ!? 優しく細められた目が雄弁に好きをダダ漏れにしていますし、甘い声がまとわりついてきて、逃げたいくらいですわ。逃げたい気持ちを察したのか、彼に掴まれた手に力がこめられます。それでも、わたくしは悪役志望なのです! 逃げたりしませんわ!
「わたくしのことは」
「大好き」
まったく、完敗ですわ。こんなに胸いっぱいになるのですから。自然と顔が緩んでいきます。その表情の変化を、彼は宝のように見つめていて。
「そんなに見つめられると恥ずかしいですわ。おやめになって」
照れて顔をそむけるわたくしに、次は春日くんのお題が出されます。
「伊集院さんも好きって十回言って」
ふふふ、わたくしは春日くんのようにはいかなくってよ! 好戦的な悪役の仮面をかぶりながらも、内心では心臓がうるさいほど高鳴ります。深呼吸をして、彼を見つめました。
「一回で十分でしょう。春日くん、好きです」
息が苦しいと思っていたら、強く彼に抱きしめられていました。彼の温もりに包まれて、とても幸せだと感じます。
「ね、これって結局どっちが勝ち?」
「どちらでもいいでしょう」
彼と出会った時はこうなるだなんて、思いもしませんでしたわ。きっと、春日くんもそうなのでしょうね。
「名前、読んでいい?」
「彼氏なのですから、好きに呼んでくださいませ」
「じゃあ、麗華さん」
「はい」
「好きだよ」
軽く唇が触れ合います。その感触が離れた後も、甘い余韻となって残りました。
「なっ! か、勝手に!」
「許可とればいいの? もっと、キスしたいんだけど」
「お、お、お好きにどうぞ」
春日くんは震えながら目を閉じた彼女に、軽く触れるキスを繰り返します。唇を離すと、至近距離で視線が重なりました。
「麗華さんも名前呼んで」
至近距離で、彼女の目が困ったように潤みます。その姿に、彼は思わず息をのみました。
「呼ばないともう一回キスするよ」
「べ、別に……わたくしもキス、したいですし……」
とうとう、春日くんがフラリと揺れました。
「ど、どうしましたの!?」
「今のは麗華さんが悪い。絶対」
「だから何がで――、きゃっ」
突然きつく抱きすくめられた伊集院さんは、びっくりして彼を見上げます。そんな彼は彼女に喰らいつくようにキスをしました。彼女は彼の胸をトントンと叩いていますが、そんな弱さでは彼を煽るだけでしょう。プハッとようやく息をした伊集院さんは、息ができなかったのか顔が赤いです。涙目で彼を睨みつけました。
「な、な、な、な……!? 何するんですの!?」
「キスだよ」
伊集院さんの唇をなぞりながら、彼は言いました。彼女は口が開いたまま、ふさがりません。
「麗華さん可愛い」
こんな肉食系な春日くんをヒロイン扱いしてたなんて、わたくし間違ってましたわ!!