混乱するドロドロ?
本日2回目の投稿です。
【配役上、GLのような描写がありますが男と女です】
決めましたわ! わたくし、通常運転でまいります! 悪役は常に気高くあるべきですわ! それに、春日さ――くんがヒロインのように美しいのはいつものことですもの。ですから、今までのように昼ドラをやりたいと思うのです。
そう決心した矢先、春日くんが女性と話してるのを見て、なぜか落ち着かない気持ちになります。視線を変えたいのに、その女性の前ではどんな顔をするのか気になって目を離せません。ふいに、春日くんと目が合ってしまいました。彼は話していた女性と分かれて、こちらに来ます。すごく胸がモヤモヤして、変な感じですわ……。
「あれ、伊集院さんどうしたの?」
「なんでもありません。先ほどの方と、もっとお話すればいいじゃありませんの」
「どうして、そんなに怒ってるの?」
「それは……分かりませんわ」
本当に分からないから、モヤモヤして、イライラするのです。そんなわたくしの気を引くように、春日くんはわたくしの手を握ります。彼は今までにないくらい、真剣な顔をしていました。
「僕は伊集院さんが好きだよ」
「わたくしもす」
「それ以上は言っちゃ駄目。もっと、僕が言った好きの意味が分かるようになってからね。伊集院さんは僕をヒロインだなんて言うけれど、僕からすれば君がヒロインだよ」
恋とはなんでしょう? 姑のいびりにも負けない夫婦愛。そういうものに憧れていましたけれど、分かりませんわ。けれど、私は春日くんからすればヒロイン……だそうですわ。特別という意味かしら? とすると、おかしいですわ。私が春日くんをヒロインと思った理由って、何かしら。ヒロインはいつも耐えていて、健気で、輝いていて。だから、転校してきた春日くんを見て、そう思い――。あぁ、もう頭が混乱しますわ! 考えるのはこりごりです!
「春日くん、昼ドラをやりますわよ!」
「配役は?」
「わたくしが姑。春日くんがヒロイン。いつも通りですわ!」
「ハハハ、いいよ。やるならとことんやろう」
春日くんが何か呟いていましたが、わたくしには聞こえませんでした。
『やっとここまできたのに、いつも通りですませるわけがないよね?』
「ちょっ……、お待ちになって!」
「どうしたの? “お義母様”」
何故か壁に囲われたお義母様、ことわたくし。これは非常事態ですわ!
「どうして、ヒロインが迫ってくるんですの!? 昼ドラですのよ!?」
「この方がドロドロするよ。三角関係って盛り上がるよね」
「さん……かく関係」
「そう。昔、ヒロインとお義母様はただならぬ関係だったんだ。けれど転校で離れ離れになった。ヒロインが結婚して、偶然姑と嫁という形で再会したんだ」
伊集院さんによる昼ドラの鑑賞者たちは、同時に思った。『そんなわけあるか』と。しかし、昼ドラの探求者たる伊集院さんは違った。
「なんですって!? それでどうなりましたの!?」
「そこからを一緒にやろうか」
「分かりましたわ! って、そのっ、あの、顔が近くて」
「お義母様は今も照れ屋なんだね」
「か、春日くん……!」
伊集院さんが弱々しく顔をそむけるが、見下ろす彼からは真っ赤な耳が無防備に見える。身をかがめて、耳にキスをした。
「伊集院さん」
吹き込まれる声は恋情をたっぷり含んだ男の声で。思わず彼の顔を仰ぎ見て、悟る。そう、無理だったんですわ。もうヒロインに見えないのに、今回もヒロインの配役だなんて。唇の触れそうなギリギリの距離で、春日くんがとまった。
「震えて、可愛いね」
至近距離で話す春日くんの吐息が、伊集院さんの唇をくすぐる。
「そ、そうさせているのはあなたでしょう!」
「だから、すごく嬉しい。ずっと女だと思い込まれてたから」
春日くんの笑顔は綺麗で、凛々しいものでした。
「春日“くん”は殿方ですわ。今思えば、春日くんは言葉で男子生徒の制服を着る理由をつくつろっておきながら、態度で隠そうとしなかったもの。どうして、気が付かなかったのかしら」
「うん、すっごく鈍いよね」
自分の今までしてきたとんでもない勘違いに、伊集院さんは顔をくしゃりと歪めて笑いました。それでも、春日くんにとって伊集院さんは一番可愛い人だったのです。