愚かなるドロドロ?
わたくしの見つけたヒロイン、春日さんとの出会いは最近ですわ。季節外れの転校生として、わたくしのクラスの仲間になりましたの。
転校生、春日 雅さん。一目見た時から、胸が高鳴って仕方ありません。肩までのツヤツヤとした髪、プルンとした唇、白く透き通った肌、キラキラとしたオーラ。そう、わたくしの夢見た、昼ドラのヒロインにピッタリですわ!
「はじめまして。わたくし伊集院 麗華ですわ。もし何かお困りでしたら、ご相談くださいね」
お嬢様スマイルを意識して、きらびやかに微笑みます。あら? 春日さんが頬を染めて、ぼんやりしてますわね。熱かしら?
『惚れたな』
『うん、惚れたな』
そんな周囲の心の声など、二人は知らない。
「はじめまして。伊集院さん、よろしくね」
そう照れたように笑う春日さんが可愛くて、わたくし彼女の手を握って、言ってしまいましたの。
「ヒロインになりませんこと!?」
「え、えぇ!?」
「まぁ、快く引き受けて頂いて嬉しいですわ。いつまでその仮の姿でいらっしゃるの? さぁ、この女生徒の制服を着てみてくださいな」
すぐさま女生徒の制服を差し出します。春日さんは戸惑っているようですわね。でも、この制服は今の男子生徒の制服より、お似合いだと思いますの。
「いや、あの」
「春日さんならお似合いだと思いますの」
「こんな“僕”だけど、それでもヒロインに?」
「ええ、もちろん!」
そうやって、わたくしはヒロインである春日さんを見つけたのですわ。
変ね。次は体育の授業があるのに、春日さんは女子更衣室に入らず、廊下の片隅で小さくなったままだわ。
「春日さん、服着替えないの? 体育始まりますわよ?」
「あの、ちょっと……」
「春日さん安心なさって! 貧乳なんて気にすることないわ! 殿方の視線なんて気にしないで。そのままの貴方でいいのよ!」
慰めるように春日さんの手を握り、胸元でぎゅっと握りしめます。それが何故か、春日さんはめまいをおこして倒れました。
「春日さん!? 春日さん!! 春日さん、目を開けて!」
後日彼は語る。あの頃の僕は純粋だったと。
そうですわ! ヒロインも見つかったのですから、早速昼ドラ展開をしなくては! 春日さんの上履きにガビョウを仕込むことにしましたの。ヒロインは苦難を乗り越えてこそ、ですわ! 春日さんが登校してきましたわね。あぁ、ドキドキしますわ。ですが、春日さんは普通に履こうとしていましたの。わたくし、どうしても我慢できませんでした。
「ダメですわ!」
思わず上履きをひったくって、止めてしまいましたの。
「これを履いてしまったら、あなたが怪我しますわ!」
「いや、そういうものでしょ? それにやるなら徹底的にやらなきゃ。上履きの裏にガビョウ刺してもチクチクする程度だよ。どうせなら上履きの中に入れなきゃ」
「で、でもそうしたら……」
「それで履いた瞬間『痛っ』と呟いた時に、伊集院さんが『あら? 何かありまして?』と高笑いするんだよ。どう?」
まぁ! なんて理解の深い方なのでしょう! 理解者を得て、思わず目が輝きます。
「素敵ですわ! 早速やりましょう! でも、そうすると春日さんが……」
春日さんはわたくしの手を取り、手の甲をなぞりました。妖艶に春日さんが微笑んでいます。
「そうなったら、伊集院さんが手当をしてくれるでしょう?」
「え、ええ……」
な、何ですの、この色気は! け、けしから……、ハッ!? これがヒロイン適正ですのね!? わたくし、耐えてみせますわ!
「春日さん、一緒に昼ドラの星を目指しましょう!」
「そうだね、伊集院さん」
「あの……、春日さん? 距離が近くありませんこと?」
「『同性なら』普通じゃないかな」
「そ、そうですの!? ご、ごめんなさいね、オホホホホ。そういえば、春日さんはいつまでその男子生徒の制服を着てますの?」
「ああ、身体が虚弱でね。こちらの方が都合がいいんだ」
都合がいい。それが彼の本音に違いないと、周囲にいた者は察した。
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