華麗なるドロドロ? (バレンタインデー編)
クラスの雰囲気がそわそわと落ち着かないものになりましたわね。今日は何かあったかしら? 抜き打ちテストがあるのかと考えたけれど、今日はテストがよくある古文の授業はないし、変ね。
「そういえば、伊集院さんは今年誰にあげるの?」
「何をですの?」
「チョコレートだよ。ほら、バレンタインデー」
それだわ! それなら、理由も分かるわね。なら、チョコレートで昼ドラ展開ができそう。視線を感じると、春日さんが何やら祈るように見ていた。どうしたのかしらね。あぁ、そうだわ。春日さんの質問に答えなきゃいけないわね。
「そうね、お父様と婚約者よ」
「あのさ! 今友チョコが流行ってるんだって!」
「あら、そうですの。それでは、春日さんに友チョコを用意しますわね」
「ウン、アリガトウ」
春日さんったら、なんだか微妙な顔してどうしたのかしら。家に帰ったら、チョコレートを買いに行かなきゃいけないわね。
『あいつ……、肉を絶ち骨で受ける作戦か……!』
『男中の男だぜ……! 俺には真似できない』
バレンタインデー当日。きたわ、ついにこの日が! 絶好の昼ドラ日和じゃない! さっそく、廊下でふらりと歩いている婚約者を見つける。行くわよ! 婚約者に春日さんをおしつけて、蔑んだ目で見る。
「この、泥棒猫!」
「伊集院さん、誤解です!」
「口でならなんとでも言えるわ!」
あぁ、これよ、この展開! やってみたかったのよね! すがるように触れてくる春日さんの手を払うと、春日さんは苦しそうな顔をする。名女優だわ、わたくし達! 西聖学園昼ドラ枠はこの二人がもらったも同然よ!
「あのー、俺置いてきぼりなんだけど」
「忘れてましたわ。それと、いつもの。毎年お世話になってます」
「あー、うん。こちらも毎年ありがとうございます」
婚約者にもちゃんとチョコレートを渡したし、本命の昼ドラ展開もできたし、今日はばっちりね。今日は食堂で何を食べようかしら。
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「春日、苦労するな」
「別に、そこが可愛いですから。あと婚約破棄してください」
「高校卒業までって約束なんだわー。すまんな」
チッという舌打ちが聞こえた。春日さんの、先ほどまでのヒロインぶりはどこか遠くへ消え去っている。
「お前、伊集院いないと性格変わるよな」
「伊集院さんがいないのに、何をつくろえと? あっ、伊集院さんとのランチの時間が減っちゃう。それじゃ」
ため息をつく婚約者がいた。
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食堂にて、可愛らしく赤で包装された箱を渡される図があった。しかし、それはバレンタインデ―特有の、頬を染めて渡すようなものではなかった。
「春日さん、こちらどうぞ」
まるでお歳暮を渡されるかのようなそれに、春日くんは一瞬固まったものの、瞬時に平静を装って受け取る。
「アリガトウ、伊集院さん。こちらは私のだよ」
「まぁ、これ手作り!? すごいわ。わたくしは市販のものなのに」
「そんなことないよ。ちょうど作りたかったんだ」
内心テーブルに突っ伏してしまいたいだろうに、恋した彼女の前だからと笑顔でい続ける春日くんの姿があった。その背中に、周囲の者達の反応は様々だった。
『あいつ、男だぜ……』
『報われない……』
『というか、あれケーキじゃねぇか。本命じゃん』
その日、その場にいた有志により、春日くんを応援する会が発足された。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。この話は本当は一話で終わりでした。ですが、書きたいという欲が出てきて、拍手にて感想もいただいて、ますます書きたくなったので書きました。
続きはもう少し練り込んでから、書きたいと思います。完結と思って読まれた方に申し訳ないので、表示を連載中に変えました。完結表示にしていた理由は、練り込んで書きたいためと、すぐに更新できず「◯ヶ月更新してません」表示が出ることが不安だったためです。戸惑われた方々、すいませんでした。