恋するドロドロ?
#お宅のお子さんが世界一長くキスを続ける大会に出たら というTwitterのタグを見かけて、伊集院さんと春日くんの場合を考えました。春日くん視点の話です。
僕の元に封筒が届いた。差出人は不明だったので、疑問に思いながら開けると納得せざるを得なかった。中には世界一長くキスを続ける大会のお知らせが入っていた。僕が出るなら相手はもちろん麗華さんだ。しかし、彼女はキスやスキンシップを恥ずかしがる傾向にあり、彼女に送るよりは僕に送ったほうがいいと考えたのだろう。参加賞は昼ドラ歴史展のチケットだそうで、優勝すれば昔の昼ドラ作品が見放題らしい。彼女のことをよく分かっているなと思わずにはいられなかった。ただ、大会の傾向から彼女が素直に出るとは思えなかった。そこで一計を案じる。
「雅さん、ここが会場ですのね。流石、世界規模の大会なだけありますわ。でも、わたくしワクワクしてますの。世界悪役大会だなんて、腕がなりますわ!」
麗華さんは僕がついた世界悪役大会という嘘を信じている。和装の上に割烹着スタイル、お団子ヘアで彼女は会場に来ていた。やる気満々のようだが、彼女は周囲から浮いている。周りのペアはお互い手をつないで微笑ましく視線を交わしているのに、彼女は昼ドラ原作の本を読んでいた。できればその調子で、開始まで気がつかないでほしいものだ。
大会開始の笛が鳴った。周りのペアが一斉にキスをし始める。そこでようやく、何かがおかしいと気づいた彼女の唇を塞いで黙らせた。最初は彼女の唇の柔らかさを味わうように、唇を重ねる。彼女はびっくりしていたものの、今は大人しく目を閉じている。しかし、周囲の漏れる声や衣服の擦れる音に、彼女は顔を真っ赤にして目を見開いた。人目を思い出したらしい。声を出して抵抗しようとした彼女の唇に忍び込み、逃げようとした舌を絡めとる。その刺激に彼女は頭を振って、これ以上はダメだと目で訴えてくる。
麗華さんは馬鹿だなぁ。そんな顔をしても、僕を煽るだけなのに。彼女の頬が桃色に色づいて、目が潤んでいるのが分かった。その様子は理性を溶かすには十分で。あぁ、やばい。麗華さんしか目に入らない。
呼吸が、彼女に煽られて劣情で荒くなっていく。キスを続けながら、思わず彼女の腰をなぞり、胸をなでた。その刺激に、彼女は顔を茹でタコのように赤く染めて、手を思い切り振りかぶる。乾いた音が会場に響いた。
「世界悪役大会って言ってたのに! 嘘つき!」
ジンジンと頬がしびれて熱をもつ。彼女を追おうとした時、鏡が目に入る。頬にはくっきりと紅葉模様が出来ていた。思わずクスリと笑って、頬に手を添える。
「僕のヒロインを迎えに行こうか」
彼女はすぐに見つかった。階段の下で、壁に張り付いていた。頭を抱えている様子から、相当恥ずかしかったらしい。
「ごめん。嘘ついた」
「本当ですわ。それに、あ、あんな大勢の前でキキキキスするなんて!」
「麗華さんしか目に入らなかったよ」
「わっ、わたくしはそういうことを言っているのではなくてっ!」
振り返った彼女は赤面した上に、羞恥で涙ぐんでいる。麗華さんは、自分の涙目の威力が分かってない。思わず、衝動のままに抱きしめた。ビクリと震えた彼女の耳元で、心に湧き出た言葉を囁く。
「僕のヒロインは麗華さんだけだから、麗華さんとしかそういうことは考えられない。好きだよ」
彼女はギュッと背に手を回してきた。小さな声で、「ずるいですわ」と呟いたのが聞こえる。そして、キッと強い眼差しで見上げてきた。
「次はありませんわよ!」
「もちろん。参加賞だけ受け取って帰ろうか」
「参加賞って何ですの!?」
「あぁ。参加賞は昼ドラ歴史展のチケットなんだ」
「素敵! 行きましょう、早く行きましょう!」
参加賞を手にした彼女はホクホクと笑っていた。そんな彼女の笑顔が愛しくて仕方がない。昼ドラをキラキラした瞳で語る彼女は純粋で、キラキラして眩しい。彼女を見守りながら、好きが積もっていくのを感じた。
近日中にもう一話、番外編を更新します。