高貴なドロドロ?
一話目は短編と同じです。
一回やってみたかったのよね! 扇子片手に高笑い。そして、明らかにどこぞのヒロインって感じの子をいびってみたかったのよ! 昼ドラはわたくしの友ですわ。
「おーっほっほっほっ! 春日さん、床がふけてなくてよ?」
美少女春日さんが、わたくしにぶつかって零れた定食のスープを雑巾で拭いている。
あぁ! 春日さん、素晴らしくってよ! その跪いた姿勢、とってもいいわ。そうね、膝のズボンが薄汚れたところも高得点よ。さぁて、わたくしも頑張らないといけませんわね。このままでは昼ドラの序の口ですもの。
「あら、ごめんなさい。手が滑りましたわ」
わたくしが飲んでいた紅茶を、春日さんの手の甲に零す。さぁ春日さん、目を見開いて驚愕するといいわ。ハンカチ片手に涙を拭いながら、『酷い!』と言うのよ。春日さんの反応を期待して、思わずウフフと笑みが浮かぶ。その様子を、春日さんは仕方ないなというように、微笑んで見上げた。
「伊集院さん、紅茶ぬるいんだけど」
あら……? 予想とは違ってたわね。
「もう、やるなら徹底的にやらないと。こういう時は、高温の飲み物。それで、『熱……!』と手を竦めた私に伊集院さんが侮蔑した目で見下ろして、『あら、ごめんなさい』だよ」
「そうね! わたくしとしたことが、失敗ですわ! 春日さん、もう一回初めからやりましょう!」
「それは登校のシーンから?」
「もちろんよ! 昼ドラの道は険しいのよ。春日さん、昼ドラヒロインの道を極めましょう! わたくしは悪役の道を極めますわ!」
「伊集院さん、可愛いよね」
「も、もう……! 春日さんったら、その、貴方のほうが可愛いですわよ」
急に春日さんは何を言うのかしら。制服は身体が弱いから、男子生徒の制服を着ていると聞いたけれど、それでもあなたの昼ドラヒロインとしての適正、儚さは消えてなくってよ。肩までの、今まで髪を染めたことのない黒髪も綺麗だと思うし、白い肌もヒロインらしいと思うわ。わたくしより、十分かわいいのよね。そのわりに、重い物を代わりに持ってくれる凛々しさも素敵なのよ。
端から見て、いじめているはずの伊集院を優しく見つめる春日がいた。その様子に、静観していた女生徒が呟く。
「あの二人仲いいよね」
「だよね」
「というか伊集院さんって、いつ春日“くん”だって気づくのかな」
「ちゃんと、男子生徒の制服着てるのにね」
「伊集院さんって純粋だから。春日くんが、伊集院さんに嘘吹き込んでるの聞いたことあるよ」
「あぁ……」