神様って恋するの?
小説祭り純愛編参加作品一覧
作者:靉靆
作品:白への思い出(http://ncode.syosetu.com/n1608bl/)
作者:立花詩歌
作品:彼と彼女の有限時間(http://ncode.syosetu.com/n1556bl/)
作者:射川弓紀
作品:僕と私の片思い(http://ncode.syosetu.com/n1365bl/)
作者:なめこ(かかし)
作品:ちいさな花火(http://ncode.syosetu.com/n1285bl/)
作者:一葉楓
作品:わたしときみと、芝生のふかふか(http://ncode.syosetu.com/n0273bl/)
作者:失格人間
作品:僕と幼馴染(http://ncode.syosetu.com/n1374bl/)
作者:三河 悟
作品:天国の扉~とある少年の話~(http://ncode.syosetu.com/n1488bl/)
作品:天国の扉~とある少女の話~(http://ncode.syosetu.com/n1490bl/ )
作者:葉二
作品:ハンバーグに砂糖を入れてはいけません!(http://ncode.syosetu.com/n1534bl/)
作者:コンフェクト
作品:ぼくとむらかみさん(http://ncode.syosetu.com/n1571bl/)
作者:えいきゅうの変人
作品:魔王を勇者は救えるか(http://ncode.syosetu.com/n1580bl/)
作品:恋の始まりの物語…?(http://ncode.syosetu.com/n1579bl/)
ある初夏の日。普通の場所とは違う場所の、普通の朝の日。
「愛ー! おきろー!」
ここは色々な神様が住まう街『天界』
神、仏、キリスト、はたまたヒンディー教など、今日には様々な宗教があるが、そのすべての神様が集まる場所。それがここ天界だ。
まぁ全ての神様って言っても例外はいるわけだけど……。
そんな俺も一応例外の一人。名前は坂町……じゃなかった火産霊陽佳。16歳、高校2年生やってる“人間”だ。
「やっばい! 遅刻遅刻っ!!」
階段をドタドタ駆け下りてきた赤毛の女の子は火産霊愛宕。キレイというより可愛いといった表現が似合う俺の嫁さんだ。
……とち狂ったとかそういうんじゃないぞ? 俺の結婚相手って意味での本物奥さんだ。
「愛ー? ご飯はー?『じゃあパンだけ!』言うと思ったよ」
俺は苦笑しながらフライパンの上に乗った目玉焼きとベーコンをパンの上に乗っける。愛がそれをがじっと一口食べながら『流石だね』とニカッと笑う。
とそのとき、下からズボンをちょいちょいと引っ張られた。
「ん? どうした秋葉?」
下を向くと、うちで一番小さい娘で、愛宕の妹の火産霊秋葉が立っていた。こんなに小さい子なのに中々のしっかりもので……、
「すーぷ。ふいてるよ?」
「うわッ! 温めなおしてたのすっかり忘れてた! ありがと秋葉! って熱ぅ!?」
「どういたしまして」
「ほらー! いくよ秋葉ー!!」
愛に呼ばれてとてとて愛の方へ走っていく秋葉。愛が家を出るときは一緒に秋葉を幼稚園へ連れてっているのだ。
神の国にだって幼稚園はあるし車もあるんですよ。
「じゃあ行ってくるね~!」
「おう! 気をつけてなー! ……って忘れ物!」
そう言って愛に弁当を渡す『てへへ、忘れてた忘れてた♪』と舌を出しながら笑って受け取る。
相変わらずそそかっしいやつだよまったく……。
「お母さん……車のキーは?」
「あ」
秋葉に言われて、ダダっと急いで家の中に取りに行った。
愛、意外かもしれないけど、これでも“神様”の一員なんだよなぁ……。しかも火産霊っていう結構由緒正しい家柄なんだよな。これでも。
「じゃ、じゃあ今度こそ行ってきます!」
「ホントに気をつけてな愛……?『わ、わかってるって!』大丈夫かなぁ……?」
「そ、それよりほら! 行ってきますのちゅー! んッ……!」
「んッ……。はい。行ってらっしゃい!」
『はぁ……』と露骨にため息をつく秋葉六歳児。毎朝の光景なので流石に見飽きたが、遅刻しそうな時にまでやるのはやめて欲しい。とでも言いそうな目でこっちを見ていた。
「いってきまーすっ!!」
大人びた六歳と年相応の?歳を送り出す。さてここからまた一仕事だ。
「さて……っと」
エプロンを外してパンとスープの乗ったお盆を持ちながら、二階にある秋葉と愛宕の兄の“火産霊野々宮”いる部屋に上がる。
「野々宮ー? 入るぞー?」
一応ノックする。すると中から「はいはい。どうぞー……」と野々宮の声がしたのでガチャっとドアを開ける。
机の椅子に座っていたのは愛宕と同じ赤い髪をした長髪イケメン。野々宮だ。コイツは中学3年生。つまりは受験生だ。
神の国だって受験はあるんだよ。
「おーっす……のの。一応持ってきてやったご飯」
「あーありがと兄さん。そこ置いといて?」
俺は野々村のことを「のの」とののは俺のことを「兄さん」と呼ぶ。これは俺と野々宮の年はさほど変わらないため、口調は二人共こういうタメ口調なのだ。
それでも俺はこの子達を実の妹弟……いや。実とか実じゃないとか関係なく愛している。
「今日はどう? 行けそう?「無理」んな即問かよ……」
「行けるわけないだろ。恥ずかしくて無理だわ」
野々村は今不登校状態だった。
理由は簡単。女の子にフラれたのだ。
二日前。ののは前から好きだったクラスの女子に告白したところ、あえなく撃沈したそうだ。
「俺はもう学校には行かねぇ……」
プイッとベットに潜りふて寝を始めようとする野々宮。
「はぁ……お前なぁ……一回フラれただけで諦めるのかお前?」
「ふんっ……いつも愛宕とラブラブな兄さんとは違うんだよ。このリア充」
「いやぁ……」
「否定しろよ!?」
本気で憤るののを「まぁまぁ」とたしなめる。ん? 一回フラれる……?
「そういえば……」
「なんだよ」
「俺も愛に告白したとき一回目は失敗だったよ?」
「嘘!?」
「俺が愛と会ったのは冬の日だったなぁ……」
今から一年前と四ヶ月前。俺がお前と同じ中学三年生と時なー。
天界ではない普通の人間が暮らす世界。もう一つの世界の地上界にその頃の俺は住んでた。
―――――――――――――――――――――――――――
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「はぁ……受験かぁ……」
誰もいない寂れた神社で俺は一人で黄昏ていた。
昔はこの神社も有名だったらしいが、今となってはもう見る影もない。
瓦は剥がれ、雑草は生えまくり、壁には穴があき、柱はシロアリに食われている。ボロッボロの神社だった。
そんな時、
「おい……早くしろよ」
「大丈夫……誰も見てないよ……!」
「早く早く!!」
などという小学生の声が聞こえてきた。何をしてるんだかっと思って見てみると、悪戯をしようとしてるみたいだった。
よし。ここは年長者として怒っといてやるか。
「「コラァーーーーーッ!!!」」
一瞬ビクッと体を震わしてから一目散に逃げ出す三人組。これにこりてもう二度とやらないといいんだけどなぁ……。
……って今さ……。
「後ろから声がしたような……?」
そう感じて、恐る恐る後ろを振り向くとそこには、
「え、あ? ど、どうも~…………」
おそらく年下であろう、白色のワンピースと麦わら帽をかぶって、曖昧に笑っている赤毛の少女が立っていた。
―――――
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――――――――――――――――――
「それが愛宕?」
「おう。その時からめちゃくちゃ可愛かったんだぜ? なんだって花火大会の時……」
「いいから話続けろ」
はいはい。分かりましたよーだ。
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―――――――
「あ、あんた誰!? いつからそこにいた?」
俺が驚いて尋ねると、赤毛の女の子は「え~っと……」と苦笑してから、
「こ、こんにちは……?」
と挨拶してきた。
「あ、どうもはじめまして……ってそうじゃないよ!?」
今「はじめまして」と言った瞬間、少女の体がビクッと震えた気がした。
「だ、大丈夫……?」
「大丈夫……だよ……。こっちこそはじめまして……だったね」
少女は少し悲しそうな顔をしたけれど、すぐに笑顔になった。
そんでもって俺がこの笑顔にドキっとしたことは言うまでもないな。
「俺、坂町陽佳。君は?」
「私は愛宕、火産霊愛宕! よろしくね!」
それが俺と愛の出会いだった。
★★★★★
それからというのも、俺はほぼ毎日この神社に遊びに行った。家の場所は頑なに教えてくれなかったが、ここに来れば絶対いた。なんでか知らんけど。
そして毎日通っているうちにどんどん楽しくなっていった。
そんな日から一ヶ月くらい経ったある日。
「ねぇ愛」
この頃から愛宕のことを愛って呼んでいた。最初に愛宕って呼んだ時に「愛でいいよ。みんなそう呼んでくれてるから」と言われたのでそう呼び始めたが、女の子相手に愛って呼ぶのは、まだ子供だった俺は少し小恥ずかしかった。
「なに陽佳?」
「愛ってこの神社好きなの? 待ち合わせいつもここの神社だし」
なんとなくで聞いた一言だったが、その質問をされたとたん明らかにに表情が変わった。
「……好きじゃないよ。こんなボロボロの神社」
「そう? 俺は好きだけど……」
愛はうつむいたまま。
「…………好きなわけないじゃんこんな神社。そこらじゅうの雑草、壊れた壁、屋根、歩道。全く来ない参拝者。こんなダメな神社のどこに好きになる要素なんてあるのさ」
「そ、そこまで言うことなくない? ここの神様だって悲しむよ……?」
「…………………」
「…………………」
「…………………そんなこと」
二人の短いようで長い沈黙を破ったのは、愛がぼそっとしゃべった、誰に言うでもなく放った一言だった。
「……そんなこと、ここの神様だってわかってるでしょ…………」
しかしのそ一言は、自分に向けていたもののようにも聞こえた――――――――――――
「母さん……あの時あんなに思いつめてたんだ……」
「その頃は愛が神様だって知らなかったからなぁ……知ってたらあんなことは言わなかったのに…………」
「いや、それはしょうがないでしょ」
「で、話戻すけど。それからも俺らは普通に楽しく仲良く過ごしてたんだ。そんで俺がだんだん愛のことを好きになっていったんだ。けど――――――――――――――――」
「ふぇ!? 花火大会!?」
「この近くで毎年やるの、よかったら一緒に行かねーかなぁ……って、やっぱだめ……だったかな……?」
「だ、ダメじゃないよ!? もしろ全然OKだよ!!」
愛は自分でそう言ったあと「ち、ちちち違くて! そうじゃなくて……え~っと……あうあう……!」と赤くなっている愛を見て、とりあえず断られなかったのが嬉しかった。
「じゃあ木曜日。待ち合わせ場所はここでいいよね?」
「うん。…………あ、あとさ陽佳……ううん。やっぱなんでもないよ。気にしないで」
「え? ああ、うんわかったよ……? あ! やばいもうこんな時間だ! 母さんに怒られる! あ、今日もいいの愛?」
「うん今日も少し残ってくから」
暗いから送ってくといってもいつも「まだここに残っていたい」と言って断ってしまうのだった。それは今日も変わりなかいようだ。
「そう。じゃあね愛!」
「うん。じゃあね陽佳」
そして俺は階段を駆け降りていった。
「…………また、言えなかったな……」
その呟きは既に階段を下りていた俺には届かなかった。
★★★★★★
そして花火大会当日。
母親から「さ! これ着て彼女落としてきな! 今日は遅くなっても全然大丈夫だから!」と強引に浴衣を着せられ豪快に送り出されてきた。
神社に着くと案の定すでに愛は来ていた―――――――――
―――――――綺麗なピンク色の着物を着て。
「あ、陽佳! 浴衣とか初めてだったんだけど……ど、どう……? ちゃんと着れてるかな?」
それはもうちゃんと着れてるとか、そういう次元の話じゃなかった。まるで「村一番の可愛い娘決めまーす」って言ってんのにアイドル連れてくるみたいな……もうよくわかんないけど、愛の浴衣姿はめちゃくちゃ似合いすぎてた。
「へ!? あ、うん! ものっっすごく綺麗だよ!」
「えへへへ……嬉しいなぁ……!」と照れくさそうにはにかむ愛は本当に可愛かった。
★★★★★★
「うわ~! すごいすごい! 屋台とかいっぱい出てるんだねー!!」
「? 愛はお祭りいくの初めて?」
「うん……あっちの方じゃ何回も行ったことあるけど……じゃない! なんでもないよ!」
「?? とりあえず何から行くか。あと迷子になったら危ないから……ってどこに行った!?」
急いであたりをキョロキョロ見回すと、少し離れた人ごみにこっちに向かって手を振っている人影が見えた。
「……まったく……これだから人ごみは危ないんだ。わかったな?」
「うぅ……ごめんなさい……」
俺は少しだけ考えたあと、愛に向かって手を差し出した。
「…………だせ」
「はい?」
「手ぇ出せって言ってるの! 握ってればはぐれないでしょっ!!」
「ふぇ!? ………………うん……!」
と言って強引に手を握る。
それから一緒にたこ焼き食べたり、射的やったり、わたあめ買ったり、風船空に飛ばしちゃったり。一回愛がナンパされそうになって全力で逃げたもした。
そして訪れた花火の時間。俺たちは空がよく見える小高い丘に来ていた。
「いよいよだね!」
「そうだねぇ! 楽しみだねっ!」
「あ! 始まったよ!!」
そんなことを言いあっていたら一発目の花火が打ち上げられた。
花火のドーーーーンという音が耳に響くが、心地よい感じだった。
「キレイだねぇ……!」
ひときわ大きい花火が打ち上がったとき愛はうっとりした声でそう呟いた。その花火に輝らされた愛の笑顔を見た時、
俺の頭の中はその笑顔で埋まった。
「……本当に……キレイだね……」
それはもう花火の感想ではなく純粋な愛への気持ちになっていた。
その時決めた。この気持ちを伝えようと。
「「ねぇ」」
告白しようとした瞬間、愛とタイミングがかぶってしまった。
「あ、ごめんね。なに陽佳?」
「愛はいいの?」
「いいよ後で。それより陽佳は何の用?」
俺は一回深呼吸をして覚悟を決めた。
そして口に出す。その一言を
「好き」
「君のことが好きだ」
――――――
――――――――――――
―――――――――――――――――
「で、どうなったの?」
「……フラれたんだよ。その時はな」
「………………」
――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――
「ごめんなさいっ…………!」
そう言って走っていった愛の背中は、今でも脳裏にくっきり残っている。その時の花火の音は俺の背中でとってもうるさかった。
それから一ヶ月。神社に行っても愛に会えることはなかった。
八月。神社に様子を見に行かなくなって一週間くらい経ったある日。俺はリビングで母親と一緒にせんべいを食っていた。
「そういえばハル彼女どうなったのよ?」
「……それ聞いてくるか? フラれたよフラれた」
「それは残念ねー」
せんべいかじりながら言うことかそれ?
「そういえば彼女の名前ってなんなの? 聞いたっけ私?」
「言ってないよ。聞いたところでなんなのさ?」
「いいじゃん。教えなさいよ」
「……愛宕」
「愛宕? ふぅ~ん、珍しい名前ね。あ、そういえばさ」
「?」
と一瞬もったいぶってから。
「あんたのよく行くあの神社の名前も愛宕じゃなかった?」
「え? そうなの?」
「あんた知らなかったの……?」
うん。完全に初耳だった。
「案外今回の火事も神様の癇癪かもね?」
「……火事? ドユコト?」
「知らないの? あそこの神社いま大火事よ? さっき消防車のサイレン鳴ってたの知らなかった?」
「知らなかった」
「はぁ……呆れた」と行ってお茶をすする母さん。
「あそこの神様は“火産霊”っていって火の神様なの。で最近は人が出入りしてなかったじゃない? それで怒って燃やしたった。みたいな?」
はっはっはーと笑う母さん。だけど俺の頭の中に浮かんでいたのはあるひとつの単語だった
「火産霊……どこかで…………ッ!!」
『私は愛宕、火産霊愛宕。よろしくね!』
なぜ家の場所を教えてくれなかったのか。なぜ待ち合わせ場所はいつもあの神社だったのか。今、すべてのピースが繋がった気がした。
『……そんなこと、ここの神様だってわかってるでしょ…………』
つまりはそういうこと。
愛。
彼女が愛宕神社の神様だったのだ。
普通に考えれば、それはおかしいと思うはずだろうが、この時の俺はそう確信していた。いや、分かっていた。
――――――――――――――――――
―――――――――――――
――――――――
「で、兄さんそのあとどうしたの?」
「ん? 燃え盛る神社の中からさっそうと愛を助け出して。プロポーズしたんだよ」
「え? それでおしまい?」
「うんおしまい。さぁ学校行く気になったか?」
「なるか」
だよなー……だって肝心な部分伝えてないもん。
その日の夜。ののは愛宕を自分の部屋に呼び出していた。
「どしたの兄貴。兄貴から声かけてくるなんて珍しい」
「うん。ちょっとお前に聞きたいことがあってな。」
「何聞きたいことって?」
「愛宕。お前が兄さんにプロポーズされたときのこと聞きたい」
「!!?? ……え~っと……ハルから聞いたのそれ?」
「ああ。最後の部分をあやふやに誤魔化されたもんで、お前に聞けばいいかなってさ」
「う~ん……じゃあいいけどさ……」
―――――――――――――
――――――――
―――――
そもそもの始まりはあの人と会う一年も前の話だった。
私は人が来ないながらもこの神社を見守っていた。けれどその日初めてあの人がここに来た。目的はどうも『好きな人と結ばれますように』っていう普通の恋愛成就だった。
こんな寂れた神社まで足を運んでくれて嬉しかったけど、信仰が全くなかった私に願いを叶える力はなかった。
それが原因ではなかったにしろ、やっぱり振られちゃったようだった。そう報告してきたあの人に私は謝ろうとした「ごめんね。私に力がなくって」そう言おうとしたら、
「謝らなくていいっすよ!」
って言ってきたの「彼女言ってきました『私、他に好きな人がいるのって』それなら神様もどうしようもできませんよね。そのかわりこれからもよろしくお願いしますよ!」って。
あの人にこっちは見えないはずなのに、逆に気遣うような言葉が素直に嬉しかった。
それからはあの人が来るたびに嬉しい気分になった。あぁこれが恋なんだなって思うと、もっと嬉しくて。でも同時にすごく悲しくて。叶わない恋ってこんなに悲しいんだって。
でもあの日神社に入ってきた悪ガキを叱った時に、なぜかあの人が私のことを“見えた”悪ガキが神棚の位置をいじったことが原因だったんだけどそんなのはどうでもよかった。
あの人に触れれる。しゃべれる。そしてあの人が私のことを見える。それからの一ヶ月は本当に楽しかった。
花火大会の日あの人に告白されたのは死ぬほど嬉しかった。けど私は神様であの人は人間。そんな許されない恋はあの人には酷すぎる。そう思って私は逃げた。けど本当に逃げたかったのは、私があの人の悲しそうな顔を見たくなかったかもしれない。
神棚の配置を戻すと、案の定あの人にはまた私が見えなくなった。一ヶ月くらいは毎日のように来てくれてたけどついにそれも来なくなった。
自分に言い訳して、自分を騙して。結果あの人を傷つけて。もう生きてることが辛くなった。
そしてあの日私はここを燃やして神様をやめようと思った。
でも――――――――――
「愛!! 愛ーーーッ!! いたら返事しろーーーーッ!!
燃え盛る神社の中にあの人は入ってきた。体中やけどを負っていて額から血も出ていた。
「陽佳っ!!? だめ! 入ってきちゃ!!」
そう叫んだけど届かないのは分かっていた。けど叫ばずにはいられなかった。
けど、
「愛!? そこにいるのか!!?」
「陽佳……!? 聞こえるの……!?」
「愛! いた愛!!」
彼はそう言いながら、見えていないはずの私の体を抱きしめようとした。けれど私に触れずにそのまま倒れてしまう。私の今の状態ではやはり触れないのだ。どうも神棚が中途半端に燃えて私の体が曖昧な状態になっているようだった。
「陽佳!! ダメ! 死んじゃダメ!!」
そう叫んだが、ハルの心臓はだんだん働くのをやめていった。そしてハルが「……最後に……愛に会えてよかった……」と言って動かなくなった。
「いやッ!! 陽佳!! やだよ……死んじゃやだよッ!!!
触ろうとする、抱きしめようとする、キスをしようとする。けれども全部できなかった。
「陽佳っ! 陽佳っ!! はるよしっ!!!!」
泣こうが、
喚こうが、
暴れようが、
全て無駄だった。
無駄にしかならなかった。
そんな中一つのことが頭に浮かんだ。
「……神様の信仰力……!」
信仰力とは、本来願いを叶えさたい人物に、手助けの意味で使うものである。それだけでは今の状況では役に立たない。
しかしそれを願いを叶える人物と叶えたい人物とが一緒だった場合。どうなるか……?
「やってみる価値はある……!」
私は自分の胸に手を当て、魂を具現化させた光る玉を取り出す。
「私、火産霊愛宕は汝、坂町陽佳が好きです。あの花火大会の日以来、あなたの気持ちが変わっていないのならば、私の力の半分をあなたに捧げます」
そして燃え残っている鈴を鳴らして二拍一礼。光る玉を陽佳の胸に置いた
「……陽佳…………」
―――――
――――――――――
――――――――――――――
「って話なんだけど……あれ? 兄貴泣いてるの?」
「……泣いてねぇよ……。それでどうなったんだ」
「そのあと?そのあとはねぇ―――――――――
「……い。……い。愛ッ!!!」
「ん、んにゅ……? ゲフッ!!?」
森の中で起きると陽佳にいきなり抱きつかれた。
「愛……生きてて良かったぁ……!」
「……こっちのセリフよ、バカッ……!」
そのあと数秒私たちは見つめ合ってからキスをした。
「……陽佳。私は神様なんだよ?」
「それは……知ってる。けどさ
そんなのどうだっていいよ……!」
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―――――――
―――――
「え、おしまい!!?」
「うん。で、ハルにに私の力を分けてあげたおかげで、ハルがこっちの来れたからじゃあ「結婚しよう!」って。まぁさすがに向こうの両親に行った時はびっくりされたけどねー!」
「そりゃ息子が神様と、しかもあっちじゃまだ結婚できる年じゃないんでしょ? そりゃびっくりされるって」
「まあね。おっとこんな時間だ! 私はもう寝るね兄貴」
「……おー。おやすみ」
★★★★★
「起きてるののー? っののその服!?」
俺が昨日より早めに朝食を置きに行ったら、制服を着ているののがいた。
「……なんだよ。俺は早く学校行くんだから置くなら置いてってくれ」
俺はその言葉に二ヤっとして
「男のツンデレは流行らないぞ?」
「うっせーな!! 兄さんも今日はあっちの世界で学校だろ!! 早く支度しなくていいのかよ!!」
「おおそうだった。じゃあなのの! 頑張れよ!!」
そう言って扉を閉めようとするとののが「あーちょっとまって……」と止めてきた。
「その……昨日は参考になった……その……ありがと……」
恥ずかしそうに目をそらす仕草は愛そっくりだった。流石兄妹だな。
「おう。じゃな!」
バタンと扉を閉めると目の前に愛が立っていた。
「何!? びっくりした。どうしたの愛?」
「いやぁ~? ハルもすっかりいいお兄さんだなって思ってたとこ♪」
「茶化すなよ。てかまた遅刻するぞ?」
「ああ!!? 忘れてた! 秋葉行くよー!!!」
そう叫ぶと下の階から「したくできてるよー。あとはおねえちゃんだけー」っと言ってきた。ホントよくできた子だよ。
「じゃあ行ってくるねハル!」
「あ、愛。ちょっと待って……。んっ…………」
今日は自分のほうから唇を重ねる。甘いシャンプーの香りが広がる。
「んっ……! えへへ……! 珍しいね、ハルのほうからしてくるなんて。けど……うれしいよ……じゃあ行ってきまーす!!」
「行ってらっしゃい! 気をつけてね!!」
~END~