鏡よ鏡・・弐
白尾の染められた頬を見ながら、ふ~んとニヤリとしていると、そのことに白尾が気が付いたようで軽く睨まれる。
そんな赤い頬して睨んできても、威力はないんだけどな。
「要、腹は空かぬか。」
「あー、少し空きましたね。」
「ならば屋敷が作ってくれておるスープとやらをいただこうではないか。」
「スープですか?」
「さようじゃ。じゃがのう。妾は人なる火を扱こうたらいかんのじゃ。そこでじゃ、白いの。」
「ん?」
思いっきり玉ちゃんに見惚れてたなー。
「ん?ではないぞ。 白いの、スープとやらを所望じゃ。 妾たち三人でいただこうぞ。」
「いいでやんすよ。あ、あっしが温めるんでやんすね。」
「うむ。頼まれてもらえるかのう。」
「承知。」
答えるが早いか、たたたたっと階下へ急ぐ白尾の背に「良く使えるやつじゃ。」とにこやかにいう玉ちゃん。
まあ神使なのだし、言われたらやるしかないよね。
「ほれ、要。下へ参ろう。」
可愛く笑う玉ちゃんの頭の中にスープの事しかないのだろうな。
白尾、かわいそー。
白尾が温めてくれたスープは野菜いっぱい具沢山のポトフだった。
はふはふしながら食べる玉ちゃんは、本当に園児のようで、横で嬉しそうに見ている白尾は綺麗なお兄さん。
絵になるなー。
その時、ちりんちりん・・・と店の玄関が開く音がした。
「なにゆえじゃ?」
玉ちゃんの少し低い声がする。
それに応じたように、少々眉間にはしわが寄り、まるでさっきまで嬉しそうにスープを飲んでいた園児のようには見えない顔つきになっている。
「ですので、稲荷山のお上のお申し出でと申しました。」
「だから、なにゆえじゃと聞いておる。お上の申し出と申すが、いつもであるならば先に式が参るものを、そちがわざわざ来るとなるのであれば、どのような用件なのじゃと聞きたくもなろうものを。」
玉ちゃんは腰に手を当てて、些か憤慨している姿を醸し出している。
実際いつもなら可愛らしい白いふさふさした尻尾が逆毛を立てて膨らんでいる。
かなりご立腹だ。
「妾に申さずとも神使であるこやつにも申しておらなんだとは、いささか無礼であろう。そのようなこと、お上のお申し出とはいえ、お受け出来ますまい。即刻戻られよ。」
思いの外憤慨している玉ちゃんの少し後ろから白尾がオロオロしながら話を見ている。
口出しをしたくても、立場上出来ないのだろうな…と、横目でチラチラ見ていた時だった。
「お上のお申し出とは、些か甚だしいかもしれませんね。春日の山のお大臣。」
「屋敷! 戻ったのか。」
そこにはにこやかに。それでも静かに怒りを醸し出しているマスターがいた。
「うん。ついさっきね。黒も一緒だよ。」
マスターは玉ちゃんの逆立った心をほぐすように優しげに頭を撫でてあげている。
「妾はこの者の申すことが解せぬのじゃ。稲荷山のお上が妾にいきなり何やらを申されるとは思えぬ。のう、屋敷。そなたもそう思わぬか? 話の中身もわからぬのに、今すぐに参れとは些かおかしいではないか。妾は解せぬのじゃ。」
「さようでございますとも。稲荷山のお上様があっしにも使いを寄越さず、玉姫様に参れとは…」
「そうだね。で、これは稲荷山のお上の使いではないよ。」
「なんと?」
「…っち、」
「そうだろ?春日の山のお大臣、と私はもう暴露してしまったのだから、観念したらどうだろうね?」
静かに睨みあうマスターと使いの者らしいやつ。
「くくく…仕方ないねぇ、わかっちまったんなら仕方がないってもんだ。」
そう言った途端に一陣の風を起こして、そいつは一瞬にして消えてしまった。
「え?! なんなんだ?」
慌てて玉姫を抱きすくめてその体を死守せんと、その風に背を向けて玉姫を守る白尾。
いきなりの事で目を白黒させてびっくりしている玉姫だが、気にしている事は白尾に抱きすくめられている事ではなく、その一陣の風を起して消えた者だ。
「屋敷。今の者は存じておるのか?」
「いや、そんなには知らないよ。でもアレはね、稲荷山のお上を敵対視しているものの使いだね。」
「敵対視・・・」
「白。いつまで守らずとも、もう邪なものは消えうせたが、如何様にいたすのじゃ、これは。」
どさくさにまぎれて、ぎゅうぎゅうと抱きしめている白尾に、もう止めろと目で訴えている。
「まだ、守ってなきゃですぜ。」
「もういいんじゃないかな?」
「いえいえ、まだまだ。」
「たまちゃん、ココア入れましたよ。」
「おお。嬉しいのう。 これ白。 ココアじゃと。いただこうではないか。」
「・・・若旦那のバカ・・・」




