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ようこそ 如月珈琲堂へ  作者: 花宮 翠
7/10

鏡よ鏡・・壱

何事もなくごく普通な日が三日続いたある日。

珈琲堂も一段落着く夜の11時半。

勝手口から何か気配がするなとマスターを見ると、少しだけ険しい顔をして「黒かな?」とそちらへ向かっていった。


何事もないのなら気にもせずにいるのに、その時は何故か変な胸騒ぎがして、お客様がたまたま居なかったのでマスターの後を着いていった。


勝手口を静かに開けたその先には黒さんがうつむき加減で佇んでいたのだけど

「黒、いかがした。」とのマスターの声掛けに、黒さんはカッと目を見開きその鋭い爪先をマスターに振りかざした。


「マスター!」

言うが早いか、体は既にマスターの前に滑り込んで壁のように立ちはだかる。

必然的に僕がその爪先に切られて当たり前なのだが、その刹那僕の胸元から白い眩しい光が黒さんへ向けて光出した。


「うわああぁぁぁぁ!」



なにが起きたかわからなかった。

自分から発光するものと、気難しくも頼れる黒さんのわけわからない変貌と、それから向けられる爪先と後ろにいるはずであるマスターと、一切合切合わせて自分自身でパニックになって、そのまま真っ白な世界になった。






ピチャ…


ぴちゃん…




何だろう。水の音かな。



「要、目が覚めたか。」


「……玉ちゃん。」


「いかがじゃ。大事ないか?」


訪ねながら手拭いを洗面器で濡らし、ぎゅーっと絞りながらこちらを覗いてくる玉ちゃん。


あー、溢れてないかなぁ、水。



「ん、わかんないけど。僕どうしたんですか?」


「なに、如月を庇いて倒れたのじゃ。」


庇って…


「あ、黒さん。黒さんは? マスターは大丈夫だったんですか?」


思い出した途端にガバリと起き上がれば、目の前がクラクラチカチカする。


「うー…。」


「あぁ、だめじゃ、だめじゃ。 その様にいきなり起きては体に障ろうものよ。まだ寝ておるのじゃ。」


クラクラしてしまった僕を、玉ちゃんは慌てて支えようとして、ベチャ…


「あ!」


絞りきれていなかった手拭いを、僕の顔にべっちゃりと付けてくれた。



「すまぬ、すまぬ。」


ちっともすまなさそうに、肩を揺らしてケラケラ笑う玉ちゃんには怒れない。

何しろやったこともない看病をしてくれているのだから。


「あー、如月は大事ない。あれは刺しても死なぬ。黒はあれ、黒ではないぞ。」


「黒さんではないの?」


「うむ。あやつは黒に化けしものよ。」


化けし。

何かが黒さんの姿を真似たのか。


「でも、当人の黒さんはどうしたんですか。」


「やつなら如月の使いで飛んでおるじゃろ。」


ほら、飲め。

と、ほんのり湯気の上がるお茶を入れてくれた。


「お茶、入れられたんだ、玉ちゃん。」


「そのくらい妾かて出来るに決まっておる。」


珈琲とやらはいれられぬが茶くらいはいれることなど容易いものじゃ…と、ほんのり頬を赤くしてぶすっとぶつぶつ呟く顔は、どうみても神様には見えない。

幼稚園児か良く見積もっても小学一年生だ。

きっと白尾はこの童顔極まりない玉ちゃんの事が愛しいのだろうなと思えば、つい顔もほころんでしまう。


「お茶、美味しいよ。ありがとう。」


と言えば、「左様か?」と嬉しそうに自分のお茶を飲む玉ちゃん。


ほんわかした、ほんの一時。

それを打ち破るかのように


「姫!玉姫様!玉ちゃん!たまー!!」


「なにようじゃ。臥せっておる者がおるのに、ぶしつけなるは白じゃな。」


バタン!と部屋のドアを勢い任せに開け放ち、ゼーゼー息を乱して乱入してきたのは白尾だ。


「あー!玉姫様!無事だ、無事。あーよかったぁ。」


白尾はその勢いのままガバリと玉ちゃんを抱きすくめて、ぎゅーぎゅーするは、頬を玉ちゃんの髪にすりすりするは、もう後に何が起きるのか想像しなくてもわかりそうな事を「あーよかったぁ。」と言いながら暫く続けていた。



「……白いの。痛いのじゃが。」

「あ、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、つい…」


白尾は玉ちゃんの声で弾かれたようにガバッとぎゅーぎゅーしていた体を離した。

その顔は真っ赤で焦りも露に、こいつは神使じゃなかったっけ?と疑問に思うくらいの狼狽ぶりだ。



「何故妾を気に掛けたのじゃ?」


玉ちゃんは離れていく白尾を見上げながら、不思議そうに覗き込んで聞く。


「え、だって。黒の所にちょっと行っていたら、黒が突然店に帰れって言うんだ。焦ったみたいに。なら、要は倒れてるし、店は閉めてるし、如月様はいないし…」


「白尾。言葉が普通だね。」


「あ、…あれ、…」


何やら慌てる白尾はいつもの~でやんすよ、みたいな言葉にならない。

それくらい焦ったのだろうな。


「妾は社にいたのじゃ。ならば如月に呼ばれての。参った次第じゃ。ならばほれ、要が寝ておるから、看病いたせと。妾がこのような振る舞いをしたのは初のことじゃからの、ありがたく額を冷やすのじゃ、要。」


「…うん。」


にんまりしながら偉そうに恥ずかしそうに言う玉ちゃん。

可愛いなぁ…なんて思いながら白尾を見ると、白尾は玉ちゃんを見ながらその頬を赤く染めていた。











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