表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ 如月珈琲堂へ  作者: 花宮 翠
5/10

鏡なるものは?

ん・・・・

まぶしい・・・。


ぼーーーっと 薄目を開けて見ると、自宅ではない・・・というのがぼんやりわかってくる。

んー。

ん?

この頬にあたるふさふさしたものは、・・・んー、、玉ちゃん?


それに手をあてて、もさもさといじれば、ブン!と一振り。 あぶないなー。


「ぬー・・・かなめー?」

「玉ちゃん?」

「ぬー。」


玉ちゃんだ。

という事は、マスターの店だ。

昨日戻ってからそのまま寝ちゃったんだな。

誰が布団まで運んでくれたのだろう・・・。


玉ちゃんじゃない方に寝返りを打つと、こちらにも白いふさふさしたものが。

あれ?

玉ちゃん、でかいなー。

でも毛並みが違う?

触って確かめていると、


「……くえやせんぜ~」


は?


ガバリと起きてそこを見てみると

「白尾っ。」

なんと白尾がそのものの姿で寝ているではないか。 でかいなー。 

本当は大きいんだね。

布団は掛かっていないようなもんだよ。大きくて。


僕を挟んで、左右に白いもふもふしたものが、2体。

半獣のような姿で、気持ち良さそうに寝ている。

部屋が、白いものでいっぱいになっている。


なんとまあ、なかなかお目にかかったことが無い朝かもしれない。



誰かが部屋の前に来た音がする。

誰かといっても、ここの主しかいないだろうけど。


「要。起きているか?」


扉越しにマスターの声がする。


「はい、さっき起きました。」

「なら、起きておいで。 お向かいの叔母ちゃんがいなり寿司をたくさんくださったんだ。 朝ごはんにしよう。」

「はい、わかりました。直ぐ行きます。」

「ああ。」


マスターがそこから離れていく感じがして、静かに、だけど慌てて身支度を整えた。

玉ちゃんと白尾はまだ寝ている。

二人で並んでいると、

「ふふ、似てるのかなー。」

丸くなっているのと大の字のように寝ているのと。

何となく微笑ましい。


階段を下りて、洗面所へ行き顔を洗って店舗へいくと、美味しそうな香りがした。


「要、おいで。」

「はい。」


マスターはこちらを一度も見ていないのに、僕が来た事がわかっていたようだ。


「美味しそうだよー。たくさんお食べ。」

「はい。いただきます。」


お向かいの叔母ちゃんは時々こうしていなり寿司をたくさん作ってくださる。

なんでもマスターがいなり寿司を好きなのがわかってから、作ってくれるのだという。

それがなかなか旨い。


香りの良い日本茶と、いただきもののお吸い物だと言ってそれも入れてくれた。


「んー。今日も美味しいですねー。」

「それは良かったね。 はい、お茶もどうぞ。」

「あ、すみません。」


ふ~~ おいしいなあー。

夢見心地でいなり寿司と、美味しいお茶を頂いていると、

「要、昨日の事なのだけどね。」

「はい。」

「社の白に何かを持たされなかったかい?」

「いえ、なにも。 あ、刀!」

「あー刀はもうちゃんと返してもらったよ。よく使えたね。」

「なんでしょうねー。使わせていただけました。使ったのではないです。」

「なるほど。して、鏡は?」

「鏡?」

「そう、鏡。」

「鏡・・・は、ないです。」

「ないと?」

「はあ、すみません。 猫のお母さんを抱いて戻っただけですね。」

「ふむ・・・」

「そうでしたね。鏡を探して来いと言われていました。すみません。うっかりしていました。」

「いや、いいんだよ。白尾もいたのにねー。 どうしたもんかなー。」


うーん・・・と腕を組んで悩み出したマスター。

僕も釣られて、うーん・・・。


どどどどどどどどどどどどど。


「かーなーめー!!! なぜ妾を起さぬのじゃ!! 横になにやら大きな白き獣も寝て居るし、なんとしたことぞ!!」

「へ??」


玉ちゃん?

物凄い地響きみたいな音を立てて、階段を下りてきたんだね。


「玉。女の子がそのようなはしたない言葉で話してはいけませんよ。」

「よいのじゃ。要なのだから。」


う・・・。

僕はいいのか。


起きて来て早々ぷりぷりしながら弾丸のように2階から降りてきた玉ちゃんは、「お、うまそうじゃのぅ」と僕のまだ食べていなかった最後のいなり寿司をひとつ取りパクっと食べてしまった。


「あ! 最後の一個・・・」

「妾を起さぬ罰じゃ。」

「はいはい。 あれ?白尾は起きていないんですか?」

「あの白きものか。まだ寝ておるぞ。ぶつぶつ言いよったがの。おもしろきやつじゃ。」

「玉の眷属だよ。面倒見てあげなよ。」

「なに! あやつが眷属とな。いやじゃ。あのような大きなものは妾は好かぬ。」


ふん、と顔を逸らして今度は僕のお茶を飲んでいる玉ちゃんは、なんで白尾が嫌なのか少し不思議だ


「おはようごぜぇやす~~~。」


うわさをすればの白尾が起きて来た。

起きて来たらもうモデルさんのような姿になって来たけど、ぼさぼさの髪と胸元がはだけたワイシャツで変に色気があるじゃないか。

個人的にはあちらの本来の姿もいいんだけどな。


「誰じゃ? あの者か。 随分と美しきなりをしておるのぅ。」


ついさっきまで随分な事を言っていたのに人型の白尾を見たら、お目目キラキラさせている玉ちゃんを見てたら可笑しくなってきた。

もしかしたら玉ちゃんはイケメンが好きなのかな?

しかしなー。

白尾のあのしゃべりはやっぱり直したい。


「なにをニマニマしてるんで? 若旦那。」

「若旦那?」


白尾の若旦那発言に玉ちゃんが食いついてきた。

なんか言われそうだなー。


「誰が若旦那じゃ、そこの白いの。」

「嫌ですぜ、玉姫様。白いのはやめておくんなせぇ。 あっしのこと知っているのに知らぬもんのように言わないくださいよー。」

「い・や・じゃ。この間土産に田崎の団子を持ってまいると言っておったのに忘れたであろう? 妾はものすごく楽しみにしておったのに、おまえは忘れて駄菓子屋でアイスを買ってきてしまったではないか。」

「玉姫様、アイスうまいって食ってたじゃないですかい?」

「う、、、うまかったがの? 妾は団子をいただきたかったのじゃ。」

「へいへい、それじゃこれから買いに行きやしょうか?」

「なんと!?」

「これから行けば開店した時間ですし、作りたての美味しいのが出てるんですぜ。」

「なななんとー、まことか?」

「へい。」


にこにこ返事をしている白尾と、興奮気味の玉ちゃんはなかなかのお似合いだ。

さしずめ兄ちゃんと幼き妹って感じかな?


「要? 玉の方がずーーーーっと年上だよ?」


なんで僕が考えていた事がわかったのか、マスターは僕の耳元でこそっと教えてくれた。


うそ!

と思い、がばっと振り返ってマスターに目で話をする。


「いや、本当さ。 神様だし700歳は行ってるはずだしね。」


700??


「白尾は神様じゃなくて神使だからね、格も違うし年も若くてまだ300歳くらいだろうね。」


それでも300歳??

なんだかめまいがしてきた。

という事は・・・マスターは?

と思ってマスターをじーーーっと見ると


「ん? あー白尾に何か言われちゃったんだね。 んー。 俺はそうだねー。玉をちょいちょいっと使える立場かな??」

「それって凄くないですか?」

「んー、どうだろうねー。そうでもないと思うけどな?」


・・・・・絶対嘘だ。

ニコニコしているマスターが一番怖いと思うのは、僕だけじゃないと思いたい。

なにやら算段していた二人がにこやかにしていると、白尾がおもむろに話しかけてきた。


「若旦那も行きやしょ? 田崎の和菓子屋。行った事ありやすか?」

「ううん。行った事無いんだ。 開店まで時間もあるし、マスター行って来ていいですか?」


マスターに了承を得ようと思ってみると、

「そうだね。帰りに猫たちの様子も見てきて欲しいな。 それで行って来てよ。」


にこやかに、でもなにか考えている風に答えてくれた。


そうだ。

鏡。


鏡の事も考えなきゃ。

あの神社の白に聞いたらわかるだろうか。

その前に白尾に聞かなきゃならないのだろうな。


目の前で、あの団子がいい、それともあれがいいか?と仲良く話している玉ちゃんと白尾を見ながら考えていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ